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宣戦布告

 ここは、『もののけ』たちの集うアジト。『言霊』によって巧妙に隠されたこの場所を知る人間は、1人を除いて存在しない。


「まさか、"地獄"たちが全滅するとはね」


 そう言うのは、数多くの『もののけ』たちの頂点に立つ、一条徹という男だ。黒いスーツを羽織り、髪型を整え、丁寧に磨かれた靴を履くその姿は、この退廃的な雰囲気の隠れ家とは噛み合わない。しかし彼は、見た目とは裏腹に、『もののけ』を支配し自らの野望を叶えるというこの場所に相応しい思いを抱いているのだ。


「しかし、未来の継承者は分かりました」


 そう答えるのは、大男を思わせる姿形の『もののけ』だ。言葉を解すヒト型の『もののけ』。かなり上位であることを示している。


「そうだね"崩壊"。でも、どうやら我々の知らない力を持っているみたいだ」


 他の『もののけ』たちも、口々に話し始める。


「既に召喚の事件からは15年、"欺瞞"の事件からは40年近くが経とうとしていますから」


「しかし、問題はありません。このまま計画を進めていきましょう」


「戦力の底を見せたときこそ、反撃の好機です」


 『もののけ』たちの士気は高い。人類に対する侵略を、反逆を、目論んでいるのだ。


「ああ、それに私たちには"死"も居る。決行日に変更はない。新月の夜。三日月には本気を出されては困るからね」


「そういえば、"支配"についてはどうなった。"死"が居るとなれば戻ってくることもあり得ると思うが」


「それが、聞く耳を持たず……。夫の方が強いとか……」


「そうか。彼女は面白いね」


 そう言うと、一条蓮は身支度を済ませ、この場所を後にする。


「それじゃあ、少し挨拶と行こうか」


ーーー


 鷹見先生に連れられて、付いた場所は大学の広場だ。会わせたい人ってのは誰なんだろうか。


 そう考えていると、広場の真ん中に、渦巻きのようなものが浮かび上がる。その渦巻きは広がり、空間に空いた穴となった。

 その穴から、男が出てくる。40歳くらいだろうか。スーツ姿が馴染んでいる。


「これはこれは。お出迎えとは有り難い」


「どーも、初めまして。名前を訊いても?」


「私は一条徹と申します。端的に言えば、あなた方の敵です」


「へえ、そんで、敵さんが何の用かな?」


「宣戦布告ですよ。どうせ勘付いているのでしょうから、こちらから言おうということです。言葉にするというのは、特別な意味がありますからね」


「アンタ、人間だろ? なんで『もののけ』の味方してるのかな」


「私には、どうしても叶えなければいけない夢があります。命よりも、何よりも大切なことです。例え馬鹿げていると笑われてもね。その夢については誰にも言わないと決めているので、質問は遠慮していただけると有り難い」


 その言葉を聞いて、俺は確信した。


「講習が終わり次第、またこちらから伺いますよ。次は挨拶などではすまないがね」


「ちなみに、そこの君は……召喚だろうか。なるほど。では、挨拶はこの辺で。また会おう」


 そう言うと、その男は渦の中へ消えていった。


 ああ、分かるぞ。

 一条さん、貴方の夢を俺は理解する。

 馬鹿げているような夢でも、本人にとっては何よりも尊いものなんだ。


 そう、俺と、貴方はきっと仲間なんだ。

 貴方の理想の相手は、シチュエーションはどういうものなのか、いつか教えてくれ。そして、存分に語り会おうじゃないか。


「あれ、もう帰っちゃったな」


 困ったような顔を見せる鷹見先生。


「結局、魁を連れてきた方がいいって勘はよく分かんなかったなあ。これからなのかなあ」


 何言ってるんですか、鷹見先生。

 これは、俺ら仲間の邂逅ですよ。


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