若宮 さつき⑦
お昼ご飯を食べた後、何をしようか考えていると、さっちゃんの携帯が鳴る。
「あ、妹から電話」
出たな。さっちゃんの妹とやら。貧乳であれ貧乳であれ。祈りを捧げる他ない。
「もしもし?」
「いや、デートじゃないし」
「ん~、今考え中なんだよねえ」
「え? 来るの?」
「モッチーが良いって言ったらね」
え? 急展開じゃないすか。
「あのさ、モッチー。妹が来たいって言ってるんだけど、いい? 嫌なら全然断っていいからさ」
「いいよ」
「いいの!? モッチーって妹という存在に甘いのかな……」
そんなことは……あるかも。妹って、俺の性癖と合致してるイメージがあるし。
待ち合わせの場所や時間を決めて、電話を切る。
「なんでいいのさ、モッチー……」
「さっちゃんの妹とも仲良くなっておきたいしな」
「モッチーって女好きなの? いや、でも三上さん振ってるな……」
「単純に友達の妹が気になるだけだって……」
単純に下心です。
女好きってのは強ち間違いじゃないな。
よーし、楽しみだなあ。
胸は小さくあれ!小さく!頼む!!
ーーー
待ち合わせ場所の駅前で、さっちゃんと2人で待つ。
と、どうやら来たみたいだな。
「お待たせ、お姉ちゃん。それと、望月お義兄さん。妹の、みつきです」
「みつき、おにいさんはやめなさい」
「ええ~、ダメですか? お義兄さん」
「いいよ」
「いいってさ、お姉ちゃん」
「なんなの……モッチー……。モッチーがいいならいいんだけどさ……」
さっちゃんが結構本気で困惑してる。
面白いなあ。
俺は兄認定に弱いんだよ。
そして……みつきちゃん、最高だ。
やはり、貧乳は世界を救う。
「何も予定ないならさ、あたしの行きたいとこ巡りでいい?」
「ウチはオッケー。モッチーは?」
「いいよ」
いいよbotになっている俺。
なんでも許しちゃう。
そこから、みつきちゃんの行きたいところに片っ端から行きまくった。
カフェとか、服屋とか、コスメショップとか。
なんだかんだで晩御飯の時間になったので、和食のファミレスに入った。みつきちゃんはイタリアンが良いって言ってたけど、さっちゃんに却下されてた。そりゃ、昼もイタリアンだったしな。当然だと思うけど、みつきちゃんは文句言ってた。仲の良い姉妹だな。
ハッ……シマイドン……?
「モッチーは何にする?」
「えーと、どんぶりにしようかな」
俺としたことが。意識飛んでたぜ。
だが、姉妹丼を本格的に視野に入れるなら色々と準備が必要だ。みつきちゃんについての情報が足りなすぎる。
それに、姉妹丼は普通の状況じゃない。こういうのは、勢いや流れが大事だ。そういう雰囲気に持っていくには段取りが必須だ。
晩御飯を食べながら、みつきちゃんについて情報収集だ!
若宮みつき、高校2年生。彼氏は居ない。音楽鑑賞が趣味。音楽とは……遺伝なの? さっちゃんも音韻系の『言霊』の適性ありそうなんだよな。
「そういえば、モッチー。講習中、どの先生になるか発表されたじゃん? そのときは雰囲気的に言えなかったんだけどさ……」
確か、鷹見先生が個別にプリント配ってたな。あの日は、高崎クンがぶちのめされてたからな……。その後も、世良が俺にべったりだったし。休み時間の度に来るんだもん。
そういや、音韻系は星野って人だって世良が言ってたな。世良がさっちゃんの適性知らないから、講習の話のときに名前出なかったけど。
「ウチの先生の名前、望月賢って書いてあったんだけど……」
「父さんやんけ」
鷹見先生は、今の通信機の『言霊』を伸ばすつもりみたいだな。確かに、離れた場所でもちゃんと機能するとか召喚っぽさはあるけど。てか、前の試験で色々と上手いこと手を回したんだなあ。
「やっぱり?」
「うーむ。みつきちゃん、どう思う?」
「何の話かも分かりません、お義兄さん」
わざわざ父さんにさっちゃんをあてるのは何かあるなあ。近々ある戦いで、さっちゃんの『言霊』が鍵になるのかな。それとも、父さんとの顔合わせが目的なのかな。あるいは、音韻の先生を出せない理由があるのかな。
いずれにせよ、戦いは近そうだな。講習が終わったらすぐかなあ。
今はそれよりも、みつきちゃんだ。
みつきちゃんのことが知りたい!!
ーーー
ウチは、これまで恋をしたことがなかった。でも、これは恋かもしれないと思っていた。
でも、そうじゃない。今、はっきり分かった。
恋かも、じゃない。
恋だ。
ウチは、モッチーのことが異性として好きなんだ。
世良っちのことを、ウチに相談してくれたことが嬉しかった。
三上さんと付き合わない理由を教えてくれたことが、なぜか嬉しかった。
ウチとの関係が一番と言ってくれたことが、すごく嬉しかった。
恋愛に興味がないんだって改めて分かって、悲しかった。
みつきと仲良くしてることが、なぜか悲しかった。
今もみつきと一生懸命距離を縮めようとしているのが、すごく悲しい。
嫉妬してるんだ。
友達に嫉妬なんてしたことないのに。
だとしたら、この感情の名前は……恋なんだろう。
でも、心のどこかで分かっている自分もいる。モッチーは、ウチに靡くことはないって。
みつきを初めて見たモッチーは嬉しそうだった。
みつきにお義兄さんと呼ばれて、なぜか嬉しそうだった。
今も、みつきのことを知っていくのが、すごく嬉しそうだ。
モッチー……。
知らない感情を教えてくれて、ありがと。
ーーー
それから、ウチらとモッチーは帰路についた。モッチーと別れるのが、こんなに名残惜しいとは思わなかったなあ。
みつきと2人の帰り道。こんなに寂しいものだったっけ。
「お姉ちゃん、やっぱり望月さんのこと好きじゃん」
「ええ? いや……そういうんじゃないっていうか……。えっと……」
「いや、焦りすぎ笑。お姉ちゃんがそんなに焦るの初めて見た。初恋じゃーん」
「……」
「大丈夫、望月さんと遊ぶときはお姉ちゃんも呼ぶし。あれだったら、メッセの履歴も見る?」
「別に良いって…………。それに……モッチー、重いの嫌いって言ってたし…………」
「うわ~、ぞっこんじゃんか。」
「普通でしょ…………好きなんだし…………」
「遂にお姉ちゃんにも春が来たか~。でも、ボケッとしてると取られちゃうよ? あんな良い人。あたしも狙っちゃおうかなあ」
「は!? みつきには負けないし」
「ええ~? 恋愛1年生のくせに生意気~」
どうしたらいいかも分からないけど、じっとしてられない。
彼女じゃなくても良いから、モッチーの特別になりたい。