那須 こより④
勉強会を何度か繰り返し、ついに迎えたテスト本番。基本的には予想通りの問題が出たのだが……なんでフーリエ変換が出てんだ!!
鷹見先生も悪ふざけがすぎる。出さないから安心してねーみたいな顔しておいてこれか。凛ちゃんはいけるとして、坂道君もいけそうかな。
ちなみに、成績の付け方は特別クラスも同じだ。なので、テストの内容も同じはず。そう考えると、多分高崎クンも解けるかな。世良は解けないだろうな。世良は強さにストイックだから、こういう強さに直接繋がらないことに時間を無駄にかけない。
世良は地頭はめちゃめちゃ良いから、自分で答え出せちゃうからね。頭が切れすぎて困ってるんだけどね。あんなにエロいのに……!!
ーーー
若干ざわつく教室。今日は、遂にテスト返しだ。
「勉強会の成果が出てるといいんだけど……」
不安そうなこより様。不安そうな声もイイ。
「まー、赤点はないっしょ。大丈夫だって」
余裕そうなさっちゃん。気を使えるとこもイイ。
「基本、勉強はやるだけ結果が出る。心配いらない」
偉そうな坂道君。できる側の意見なのがダメ。
「じゃ、テスト返すから番号順に並んでー」
番号順とは、入試時点での成績順のようだ。最初に鷹見先生と戦ったときの順番が、番号順になっていた。
次々とテストを受け取り、一喜一憂する生徒たち。
「こよりん、どうだった?」
「ふふーん、見てみなよ~」
自慢げなこより様。自信満々な声もイイ。
「え、すご。最後のやつもいけてんじゃん」
びっくりするさっちゃん。感情豊かな……え? 最後の問題いけてんの?
「実は、高崎くんに教えてもらったんだよ」
「へえ、タカさん頭いいんだねえ」
確かに高崎クンなら分かってもおかしくないけど……。俺に訊いても良くない? なんか悲しい……。
「どうしてわざわざ訊きに行ったんだ?」
「モッチー、嫉妬してんの?笑」
「俺だけのこよりんなのに……」
「ええ!? なにそれ、恥ずかしいからやめて?」
まじで逸材だな。満更でもなさそうだぞ。この調子でいけばろう絡できるかなあ。
「高崎くんはさ、望月くんのことを誤解してたから、ちゃんと話しておかないとダメだって思ったんだ」
「あー、そゆこと。なんて話したの?」
「もちろん、ホントのことを包み隠さず言ったよ」
え? まじ?
人殺しは望月じゃなくてお前の父親だよって言ったの?
喧嘩にならん?
「え? 大丈夫だったの?」
困惑を隠せないさっちゃん。俺も同じ気持ちだよ……。坂道君はなんの話か知らないせいで置いてけぼりだし。微妙な空気になってるよ……。こより様、人の気持ちが分からない天然とは……。
「大丈夫って何が?」
「いや、大丈夫ならいいんだけどさ……」
さっちゃんがこっちに目線を向けてくる。なんか言いたげだけど……俺も何がなんだか……。高崎クン、大丈夫かなあ。より一層、会いたくなくなったんだけど……。
話をテストに戻すと……鷹見先生は、テストの解説をわざわざしないらしい。じゃあ、これから何するんだよって空気が教室を満たしていますけども。
「テストも終わったことだし、これからの話をしようと思う。みんなにしておきたい話は2つ」
「まず1つ目。ここに留学生が来まーす。2人来るんだけど、2人ともちゃんと日本語分かるから安心してね」
鷹見先生の安心してね、は微妙に不安だけどな。
「もう1つは、夏休み中の夏期講習的なやつね。おれがみんな一人一人に合わせて先生を選んだので、2週間みっちりマンツーマンで指導してもらいます」
教室から戸惑いの声が上がる。
夏期講習なんてあんのかい。
それはつまり……大きな戦いが相当近いってことでもある。凛ちゃんや世良あたりは分かってるだろうな。
夏期講習の狙いは、普通の『語り部』にはいる師匠を、コイツらにもつけてやろってとこだろう。『言霊』は基本、継承されていく。もちろん、少しづつ形を変えてはいくが。その過程で蓄積してきたノウハウや、特定の『言霊』に特化した環境は間違いなくプラスに働く。
しかし、そう考えると俺には夏期講習を受ける理由がない。鷹見先生が無駄なことをするとは考えにくい。俺には俺で、なんか用意してんだろうな。
ーーー
放課後、俺はさっちゃんに呼び出されていた。2人きりで話をしたいとか。えっちな展開ですか?
「こよりん、びっくりなんだけど」
「高崎クンとの軋轢がなくなった……のか?」
「うーん、どうなんだろうね。でも、こよりんならできちゃうような気もするよね」
「そういう『言霊』だしな」
こより様は、歌声で人を眠らせることができる。しかし、それは最も効果が顕著に出る使い方というだけで、他にも『言霊』には効果がある。その1つが、単純に声を聴くとリラックスするというものだ。もしかしたら、落ち着いて話ができたのかも知れない。もしそうなら、説得するときとかに使えそうだな。
「てかさ、モッチー。まさかとは思うけど……このためにこよりんと仲良くなった?」
え? 違うけど。
あ、でも凄い事情や偉大な理由がありそうな感じで仲良くなる必要があるって言ったんだっけか。それっぽいこと言って誤魔化しとこ。
「いいや、主な目的は他にあるんだ……」
もちろん、下心です。
「うーん、モッチーってやっぱり何考えてるか分かんないときあるんだよねえ」
さっちゃんの洞察力が優れすぎていて怖いです。そりゃ分からんだろうな。まさかこんなエロいことばかり考えているとは思うまい。
「そういえば、飯奢る話だけど、いつにしようか」
「あー、別にいいのに。テスト終わったし次の週末で」
そこから、なんだかんだと行き先やらなんやらを相談した結果、お昼ご飯を食べてから行き当たりばったりということになった。
ーーー
寮の自室に戻ると、何故か鍵が開いていた。閉め忘れたのかもしれないと思ったが、部屋に入ってそれが間違いだと分かった。
「魁にぃ、おかえり」
俺を出迎えてくれる世良。実は世良も寮生活であり、そしてたまに俺の部屋に平然と居る。勝手に合鍵作るのは犯罪じゃないかな。
で、どうして下着姿なんですか? そういうスポーティな下着は世良に似合いすぎんだよ。正に鬼に金棒である。しかも、こいつ分かってやってるだろ……。理性よ、理性よ、理性さん。世界で一番エロいのはだーれ?
「世良、ただいま。で、どうした?」
俺の顔をニコニコしながら覗き込むような上目遣いで見てくる世良。なにか言いたいことがあるらしい。日焼け跡がエロすぎて理性が飛びそう。
「先生から伝言。魁にぃには夏期講習なくて、世良たちと一緒に居るって」
やっぱり俺には夏期講習なしか。世良たちと、ってことは、特別クラスも夏期講習なしなのか。まあ、それもそうか。
「世良たちが何するのかは知らないけど、魁にぃ、ガンバろ?」
かわいい。
「そういえば、高崎が魁にぃに申し訳ないとか言ってた。滑稽。世良にも謝ろうとしてきたし。時間の無駄だから無視したけど」
こより様、完璧に説得に成功してるやん……。えぐいな。
そして、世良は相変わらずだなあ。
高崎クンに真実を教えなかっただけ世良も成長したと思ってたけど、教えるのがめんどくさかっただけだな。世良じゃ説得は無理だろうしな。殺すのはいけるけど。殺す価値もないとか思ってたんだろうなあ。
「そんなことよりさ、今日も泊まっていいよね?」
世良……。お前の部屋はすぐ近くだろ!!
静まれ、おれの理性!、じゃなかった、煩悩!




