那須 こより②
さて、こより様とそれなりに仲良くなれたわけだけど、大きな問題が1つ。
何をもって俺に惚れたと判断するのか、だ。
往々にして、これは最大の難関である。例えば、さっちゃんについても判断基準はまだいまいち分かっていない。まあ、それは今度ご飯奢るときに考えるとして……。
こより様が惚れたかのサインを確立するために、恋愛について話してみることにする。小説の第1章が、ちょうど恋愛をテーマにしている。他の章にも全く恋愛要素ないってわけじゃないけどね。
今日は休日だが、こより様と一緒に教室に来ている。鷹見先生に確認したら、イイヨーって言ってた。
「前の話じゃないけど、1章は俺に恋愛経験がないからか正直ピンと来てないとこはあるな」
「ええ!? 恋愛経験ない人ってほんとにいるんだ」
「そっちはあるってことか?」
「ぅえ……。そうなっちゃうか……そうなるよね……」
なんだか恥ずかしそうに目を反らす。か、かわいい。
「えっと、前言ったじゃん? 高校のとき、ちょっと孤立してたって」
「でもさ、私と仲良くしてくれる子はいてさ」
「そのとき、仲良かった男の子のこと……好きだったんだと思う」
「その……小説の話もできたし、親のこともタブーにしないでくれたし……」
恥ずかしそうな顔をなんとか整えようとしながら、少し時間が過ぎる。その顔に、若干の悲しさを見いだせる気がした。
「……実はさ、その子に告白されたんだよね」
ぅえ!?
待てよ……。
お前……まさか……。
「でもさ、そのときはお断りしちゃったんだよね。」
「友達としては好きだったんだけど……異性として好きなのか分かんなくって」
「でもさ、その後、その子は私のことはきっぱり諦めて、他の女の子と付き合いはじめたんだ」
「そのとき気付いたよ。好きだったんだ、ってさ」
待って!!
こより様、逸材すぎる……。
告白は怖くて断ったけど、やっぱり好き……。
~妄想開始~
付き合うのは……ダメだよ?
友達のままでも楽しいじゃんか
え~、そんなに私のこと好きなの?
あははっ、沢山言いすぎて信用できないよ
まあ、それぐらいならしてあげてもいい……よ?
言っとくけど、友達としてだからね
嘘でもいいの? 好きって言えばいい?
えっと……すっ、好きだよ……?
あははっ、喜びすぎだよ、嘘なのに
どう? もう一回言ってほしい?
んふっ、なんかかわいいね……
なんだ……これは……。ここは……天国? 俺は……死んだのか……?
~妄想終了~
ハッ……!!
「そっから彼女のことを相談とかされちゃってさ。もう、大変だったよ」
てかさ、こより様、これ、今も好きじゃね?
こんなに顔赤いよ?
「あの、那須。絶対そいつのこと今も好きだよね」
すこし逡巡した後に、コクリと頷く。
か、かわいい……。
これは……緊急ミッションだな。
惚れたかのサイン探しはひとまず置いておこう。
こより様の気持ちを俺に向けるっ!!
今のこの話を聞いたお陰で、俺が告白される可能性は著しく下がった。むしろ、ある程度強引に行くべきだ。
そうと決まれば作戦会議だ!
ーーー
こより様に惚れてもらう作戦と言っても、大したことをするわけではない。一般的なことをするだけでいい。
そもそも、好きだという恋の気持ちは、相手を知りたいという感情から生まれる。俺はそのために自分の立場を制御してきた。なぜか『言霊』の扱いに長けている不思議な優等生?。あとは、関わりを持つだけでいい。
もちろん、人によって色々差がある。凛ちゃんなんかはとても極端で、興味がないと判断した人にはとことん靡かない。
だが、こより様は自分で言っていたように、仲の良い男の子を気付いたら好きになっていたのだ。つまり、難しい条件はいらない。シンプルなアプローチを続けていけばいい。
というわけで、おすすめの小説を訊いて読みまくる作戦……開始!
結局、単純な方法が一番なんだよね。
命を助けるとか、生まれて初めての何かを与えるとか、いくらでもスーパープレイはあるけど、そんなのに頼らないといけない状況ってのはそもそも駄目だ。順当にやれば目標を達成できる実力をしっかりつけることが大事なんだよね。
大丈夫だよ。順当に行けばミスらないから。
ーーー
というわけで、こより様から色々と小説を借りたり、教えてもらった小説を買ったりしているわけだけど……
彼女のおすすめ、ハズレないな……。
別に有名な作品ってわけじゃないけど、隠れたファンが多い名作のプロだ。
こより様のろう絡のために読んでる側面もあるけど、普通に面白くて読んじゃうね。小説も案外面白いな……。
今日も今日とて、休み時間に教室で話しするヨーン。
「どう? 小説の面白さに目覚めてきたんじゃない?」
「那須のおすすめの良さに目覚めたな」
「え? 私の? まー、小説全部が面白いわけじゃないけどさ」
「他におすすめはないのか? 読みたくてウズウズしているっ」
「いやー、もうネタ切れかな。小説読み始めたのって、高校入ってからだからさ」
本を読まないということは、その人が孤独ではないということの証拠である。太宰治の言葉らしいが、的を射ているな。
「仕方ない。また読み直すか……」
割りと悲しいな。いいの見つけたらまた教えてね。
とか思っていたら、教室に鷹見先生が入ってくる。それと同時にチャイムが鳴る。
「みんな居るな。それじゃ、そろそろ期末テストの話をしようか」
なんだかんだ、もうそんな時期か。ま、今回は普通の試験だろうけどな。
「今回は筆記試験をするだけだ。実技とかは、それぞれの授業で見て点数が付く」
そう言って、ホワイトボードに詳細を書いていく鷹見先生。
言語学と『言霊』について筆記試験をなんの捻りもなくやるらしい。一安心だな。前の試験のときは、『もののけ』が来たってことで動揺も多少あったけど。
あ、世良がぶっ壊した教室は最近直りました。臨時の教室をついこの間卒業した。
「テストは大丈夫そうか?」
「うーーん。音声学は自信ないかな」
音声学は、クラス中が阿鼻叫喚になってたからな。高速フーリエ変換まで付いてこられたのは何人いるのか……。多分、凛ちゃんだけじゃないかなあ。
まあ、実際そんなにテストには出ないだろうし、『言霊』を使う上でそんなに大事なことではないからね。
でも、ここはチャンス!
「それなら、テストに向けて勉強会でもするか」
「いいの? お願いします!望月先生!」
よしきた!
今日からテストまで仲を深めていきますよ。