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那須 こより①

 さっちゃんから、こより様について小説やら哲学やらとアドバイスを貰ったが、使うかどうかは実際に話してから決める。ま、選択肢が多すぎても使いこなすの難しいからね。取り敢えず、こより様がいつもいらっしゃる図書館に向かうことにする。


 ここの図書館は、そこまで規模が大きくはない。蔵書数はまあまあだが、特徴的なのはその内容である。言語学に関する本をここまで置いているのは珍しいし、『言霊』に関する資料については間違いなく世界一だ。


 図書館に入ると、司書さんと目があった。長い黒髪に、司書の制服。本を傷つけないためか、手袋を着けている。

 これは……エロい。

 俺の目は誤魔化せない。貧乳ですね?


 本当は必要はないが、ここで司書さんとも関わりを持っておくとしよう。今後の布石ですよっと。


「すみません、少しよろしいでしょうか」


「ええ。望月魁くんでしょう? 私に何か?」


 俺って有名人……?

 ま、実際のところは父さんと爺さんが超有名人なだけだろうけど。


「クラスメイトの那須こよりさんを探しているのでが、ここにいるか分かりますか?」


「ああ、こよりさんなら2階にいるはずですよ」


「そうですか。ありがとうございます」


 付けていた名札を見てしっかり名前は把握しておいた。南なぎささん。

 てか……『語り部』だな、なぎささん。立ち振舞いとか、俺に対する態度とか、かなり堂々としてるし。望月のこと知ってるしな。


 だが、今はそんなことより、こより様です。2階に上がると、本を並べて勉強しているこより様を発見。

 ゆっくり近づいて話しかけに行きます。話題は色々あるけど、まあ共通の話題として高崎クン辺りが丸いかな。役に立つじゃねーか高崎!


「那須さん、少しいいかな?」


 少し驚いてこちらを向くこより様。お姫様だなこれは。


「はい。どうぞ?」


 そう言って微笑む。高嶺の花だなこれは。


「高崎圭吾のことで……心配というか、少し気になってだな」


「一悶着あった……もんね。でも、望月くん以外には喧嘩を売ることはないみたいだよ?」


 癒される声だね。ずっと話していてくれ。ささやきASMRはまだですか?


 というわけで、ここからは俺の音声はカットしてお送りします。


「私はなんともないよ。心配してくれてありがとね」


「それよりも、私は高崎くんが心配かな……。望月くんと何があったのか知らないから偉そうなことは言えないけどさ……」


「え? それって私に言ってだいじょうぶなの?」


「そっか、望月くんも心配してるってことだね」


「分かったよ。何かあったら絶対言うから。私のことは心配いらないって」


「ん? おすすめを聞かれたときはね、いつもこれを薦めてるんだよ」


「すっごく気に入ってるからさ、肌身離さず持ってるんだよ」


「貸してあげるよ、何冊もあるからだいじょぶ」


「いつでもいいよ。その代わり、感想教えてよ?」


「そうだね、連絡くださいな。都度都度で感想教えてくれてもいいからね?」


 というわけで、以上「クラスの高嶺の花である文学少女と仲良くなっちゃう音声」でした。

 勢い余って警察のこととかも教えちゃったよ。ま、秘密にしてるわけじゃないしいいか。使える手札はなんでも使ってよいのだ。

 そして、小説ってのは効果覿面だったみたいだ。というか、こより様、この小説の強火のファンじゃない? 俺に興味があるとかじゃなくて、単にすごい熱量で布教されたんだけど……。

 ま、読んでから考えていきますか。もちろん、都度都度で感想送りますよ。


ーーー


 貸して貰った小説は、SFのダークな世界観の群像劇だった。地球以外にも色んな星やコロニーで生活する人たちが居る。そこで暮らす人たちの生活を描いていた。戦争とか、災害とか、結構重い話のようなんだけど、案外みんな普通に生きていて、その描写が中々に良い。単純な残酷な話ってわけじゃないのに、ふとしたときに、「そっか、もう故郷は……」みたいになる。

 つまり、普通に面白かった。

 俺の感想を聞いてこより様も楽しそうだった。

 哲学が好きってのも、なんとなく分かる気がした。一回読んだだけじゃ気付かないような比喩とか、考えさせられる台詞とか、とにかくじっくり読むべき小説だった。


 さて、本題はここからだ。この小説のお陰で良いスタートを切れたので、ここから確実に目標に進んでいこう。教室でも話すようになってきた。これで、もうクラスに馴染めたんじゃないかな?


「何の変哲もない青春なのに、戦争の中というのが、特別な意味を持たせてたな」


「そう! 戦争で可哀想って思っちゃうけど、彼らが感じてる悲しみってそんな大したものじゃなくってさ。今日は戦いが激しいから直接会えないとか、故郷がとっても遠いとか、現実の私たちも感じるような素朴なことなんだよ」


 止まらなくなるこより様。声が可愛いのもあって内容が入ってこないです。

 さっちゃんが、グッジョブ!って目線を俺に送っている。世良みたいなことすんな。


 最近は、凛ちゃんと一緒に帰る頻度も減ってきた。というのも、凛ちゃんが自分で色々分かるようになってきたからだ。それに、いつまでも凛ちゃんに構っているわけにもいかない。放課後に図書館に行くやらなんやらで用事を作ってその習慣を自然消滅させた。


 今日は、こより様と一緒に帰っている。女とばっか一緒に帰ってんなコイツと思われそうだが、そもそも寮生活をしているクラスメイトは俺と凛ちゃん、そしてこより様しかいない。つまり必然!


 さーて、ASMRのコーナーです。


 帰り道、2人の歩く音が聞こえる。


「こんなに深く話し合える人って、ほとんどいないから嬉しい」


「私さ、3章が一番好きなんだ」


「戦争でお父さんが死んじゃったのに、あんまり悲しくない。でも、お母さんは泣いてるし、周りもみんな心配してくれてる。じゃあ、悲しんでない自分はとっても薄情なんじゃないかって思って。自分がそんな薄情者だとしたら、とっても悲しい。それでまた、自分のことでしか悲しめないんじゃないかって悲しくなる……」


「すごく単純なんだけどさ、私もお父さんがいないんだ」


「あ、死んでないよ? 高校に入ってすぐくらいかな。両親が離婚したんだ。」


「苗字が変わった私にみんな遠慮しちゃってさ。離婚よりも、その距離感が悲しかったんだ」


 その情報、デカすぎる。今思い出したけど、俺も両親いないわ。正直両親のこと覚えてないから悲しさとかないけど。だが、俺の境遇を利用して親近感を演出できるぜ!


「え? 望月くんも……?」


「そっか、そうなんだね」


「あははっ、やっぱりそういう経験って大きいよね」


 え、笑い声かわいっ。

 あ、ごめんなさい。思わず心の声が。


「常識は18歳までの偏見のコレクションって言うしさ。生まれた境遇って好きなものも決めちゃうのかもね」


 小説のせいで一気に距離が縮まったわけだけど、これどうやって惚れたか判定するの? すでに勘違いしちゃいそうな距離感ですけど。

 告白を阻止するのはいくらでもやりそうありそうだな。結構深い話もしてるし、割りと直接的に恋愛は意味分からんって主旨のことを言ってもいいな。


 楽しみになってきた~。

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