比良坂 凛③
将来、大きな戦いに挑むとして、どうするか。凛ちゃん自身は、凛ちゃんのことをどう分析しているんでしょうか。
「自分で色々考える方だとは思うけど……」
うんうん、やっぱり凛ちゃんはいいね。
「それだけじゃ、鷹見先生の熱心なスカウトの説明がつかないか?」
「……!」
凛ちゃんが驚く。やっぱそうだったか。
「え? リンリン、スカウトされたの?」
「うん。鷹見先生にどうしても来てくれって言われて……奨学金とか色々と条件つけられて」
「へえ~、特待生じゃん。それで説得されて来たってこと?」
「いや、私は『言霊』が面白そうだったから……。そういうのは両親向けだったよ」
「なるほどねえ~。で、何が説明つかないんだっけ?」
「こんなに色々と策を弄して、ただの参謀は割に合わないと思う。別に私より考えられる人だっているし、『言霊』のことをもっと知ってる人もいる」
「ん~。でも、リンリンならではの何かが刺さったんじゃないの?」
「それが何かが分からないのよ……」
違和感は覚えてるみたいだね。
「あれ~? モッチー、何か分かってる風じゃん?」
さっちゃん、良く見てるな。しかし、どうしようかな。どう誘導したらいいのかな。
「凛ちゃん、鷹見先生はなんでこんな問題を出したと思う?」
「これを考えさせるため……いや……なぜ今この形で……?」
黙りこくって考える凛ちゃん。
凛ちゃん、自分の世界入っちゃったよ。でも、思考の方向は良い感じかな。
「ん? どゆこと?」
さっちゃん訳分かんなくなってるじゃん。放置しても面白いけど……。どうしよっかな~。
「望月家って……言霊協会と対立してるの?」
凛ちゃん……お前って奴は……。素晴らしいぞ。
「え?」
「正解だ、その結論に至った理由を訊こうか」
「まず前提として、鷹見先生は未来が分かる。だから、無駄なことはしない。つまり、今まで起きたことの全てに意味があると考えるべき」
「これまでを振り替えると……不自然に早い時期なこと、泊まり込みなこと、試験監督がいないことがポイントだと思う」
「え? この試験変なの?」
「まず、早いってことはなにか急ぐ理由があるってこと。それは恐らく、大きな戦いが近いってことを意味している。わざわざこんな問題で考えさせてくるのも、これを示唆していると考えられる」
「次に、わざわざ泊まるのは、生徒をそこに固定したいってこと。生徒の中で固定する価値があるのは、望月くん、白石さん、高崎くんの3人。結論から言えば、この内望月くんと、もしかしたら白石さんも、テストで足止めしたいんだと思う」
「あと、試験監督が不在なのは、そこに割ける人員がいないから。鷹見先生自身はもちろん、他の先生もやることがある……いや、先生がいない方が都合がいい……?」
考えを整理していると、新しい発見があることもあるよね。凛ちゃん、自分で届くかな~?がんばれ~。
「先生がいない方がいいことなんてあるの? 何かあったらヤバイじゃん」
「何かある方がいい……。2つある、同時に2つ……。チーム戦なのはそういう……」
「ちょちょ、リンリン頭良すぎて付いてけないんだけど」
凛ちゃん~!!
「今、同時に2つの戦いが起きている。1つは、望月家と言霊協会の間での戦い。望月くんと白石さんを引き離して、言霊協会の人員をそこに割いている……」
「え? 試験やってる場合じゃないじゃん」
「いや、俺も世良も分かった上で問題ないと思っている。父親も知ってるしな」
ーテスト中のカンニングに注意
その伝言の意味の1つは、望月家への攻撃があると示唆するため。
そして、もう1つは……
「もう1つの戦いはここで起きる。チームで分けたのは、戦えるようにするため、そして経験を積ませるため」
「え? なんでわざわざここで戦いに? てか、誰と戦うの?」
混乱しているさっちゃん、おもろい。まあ、対応力はあるしなんとかするでしょ。オモロ。
「『もののけ』と戦うわ。戦う理由は……私にある」
「『もののけ』はずっと探していたんだよ、人類に反旗を翻すきっかけを……」
「ん~と、つまり……?」
「大きな規模で考えたときに、最も強力な『言霊』は"未来"だから」
「その"未来"の後継者が、この私なんだよ」
「え? マジ?」
その瞬間、教室の壁を突き破って押し入る『もののけ』が一体。全身真っ黒のヒト型で、光沢を放つ2本の角が特徴的だ。
その話詳しく!ってな感じで現れましたけども。実際、何かの『言霊』で監視してたんだろうね。"未来"の後継者が出てきたら教えてって具合に仕掛けておいたんじゃないかな。
「学生が3人か……これは誘い込まれたのか」
当たり前のように話せるタイプの『もののけ』、しかも結構思考力もある。上位の『もののけ』であるほど、言葉を解したり社会に暮らしたり、人間に近くなるのだが……これは最上位だねえ。
「『もののけ』さん、申し訳ないが俺らは今テスト中なんだ。カンニングは勘弁してくれよ」
会話で気を反らして、その間に黄昏で攻撃するのが狙いだ。いつものやつね。
黄昏の召喚は、実は声を出さずに行える。普段は声出すようにしているけど、それはいざってときに不意打ちができるようにだ。できるって公になると有事のときに困る……かも。
ん? あれ? よく考えたら、俺高崎クンに耳ぶっ壊されそうになったとき声なしで召喚しちゃったね。凛ちゃんにはがっつりバレてるな。ま、いっか。
「お前も中々の胆力だ。ついでにここで芽を摘んでおくか」
「あら、狙いは私でしょ? よそ見している余裕があるの?」
初めて『もののけ』を前にしてこれである。凛ちゃん、君おかしいよ。もっとビビれよ。やっぱ特待生だね。
それに、俺の狙いに気付いて会話を持とうとしてくれている。
「少々厄介だが、今の時点で排除することに難しさはない」
はい、今!!
龍となって現れた黄昏が、黒い『もののけ』を体当たりで吹き飛ばす。
まあまあいいの入ったかな。これで終わったら楽だけど、無理だろうね。
それと校舎壊れちゃうけど、仕方ないよね。鷹見先生が悪い!!
「2人とも、実戦訓練と同じように支援に回って」
「りょ、了解!」
さっちゃんはアドリブ力高いし、なんとかなるでしょ。
黒い『もののけ』が瓦礫を退かしながら起き上がる。うっすら体にひびが入っているのが、光の反射で分かる。
やはりダメージはそこそこだな。今度は警戒されるし、今回は倒すのは無理かな。こっちは誰もやられないで、相手に撤退させるのを目標に頑張ろうか。
「貴様、召喚か。まだあれから15年だと少々油断していた。致し方ない。全力で相手をしてやろう」
さっちゃんの告白を阻止する方法考えないとなあ……。




