若宮 さつき②
「さっちゃん、ナイス~」
「モッチー、ナイス~」
「はい、凛ちゃんもナイス~」
「リンリン、ナイス~」
「は、はあ」
しかし、思った以上に凛ちゃんもさっちゃんも活躍したな。凛ちゃんの対策の練り方とか、考え方はもちろんだけど、何よりさっちゃんの瞬発力が大活躍だったな。
やっぱり、深く考えるのは苦手でも、頭の回転は速いな。さっちゃん、いいよ~。
しかし、さっちゃんの告白を阻止するにはどうしたらいいんだろうなあ。これが一番の課題である。
「全勝を祝って、カンパーイ」
「完勝だけどカンパーイ」
「か、かんぱーい」
ここは、学校に併設されている寮の一室である。寮に住んでいる生徒や先生も何人かいる。
「いやあ、ドリンクバー3つ頼んどいて良かったねえ~」
「さすがにこんなにとるのはマナー違反だと思うけどな」
「ルール違反じゃないしセーフでしょ」
「『言霊』だしどうでもいいよ……もう」
机の上には、10以上のコップが並んでいる。もちろん、全部を混ぜたヤツもありますよ。あ、福豆もあるよ。
「では、明日に向けた作戦会議を行いまーす」
「ああ、作戦ね、はいはい、あれだな。あれ。」
凛ちゃんと目が合う。
「…………基本的には、…望月くんが答えればいいと思う。一番知識があるし。ただ、そう一筋縄ではいかないはず。とりあえず、揉めたときの決定権は望月くんにあることだけは決めておくべき」
「なんで急に凛ちゃんが作戦言ったの?」
「ッ!?」
「リンリン……かわいすぎ……ふふっ笑」
マジで可愛すぎるな。くそ、こんなエロい女と一緒に入られるか!俺は部屋に戻るぞ!
「そういや、モッチーは寮なんだね。実家遠いの?」
「いや、実家は割りと近いかな」
「じゃあ、なんで寮にしたの?」
そりゃあ、えっちしたいからですよ。
「一人暮らしに憧れてたんだよね」
「へぇ、ちゃんとしてんねえ~」
「……」
凛ちゃん、なにその顔……。
そそるな。
ーーー
「今日もガンバろ~」
「おー」
「んで、筆記試験っていっても基本はモッチーにお任せでいいんでしょ?」
「いやいや、話し合うやつとかあると思うぞ。さっちゃんも考えなさいな」
「はーい、さっちゃんも考えますよっと」
「さっちゃん呼びへの順応速すぎでしょ……」
なんだか凛ちゃんも打ち解けてきた感じがあるな。このまま俺に殺されない自信を付けてくれよ。まあ、それに関しては多分時間が勝手に解決するって分かってるからちょっとテキトーになっちゃうよねえ。
テストは、3グループそれぞれ離れた教室でやるようだ。何枚かの紙が束ねられたテスト用紙を持って決められた教室に行く。他のグループが離れた場所なら、カンニングはできないように思える。
そして、時間がとにかく長い。今はまだ午前中だが、午後5時までとなっている。そんなにかかるかな?
しかし、教室に3人だけなんだよな。ムラムラ、じゃなくてモヤモヤするよね。試験監督すらいないってのは。そりゃ、カンニングできるような試験じゃないけども。
「『言霊』は、それを使用する『語り部』との距離とどのような関係にあるか述べよ、とのことですモッチー先生」
「これは高崎クンが言ってたでしょ、さっちゃんもなるほどって反応してた」
「良く見てるねえ、ちょっとキモいよ」
その感想は全く正しいんでしょうね。そういう動機で聞き耳たててたし。
「ただ並列処理が得意なだけだと思うけど」
凛ちゃんの意見も間違いではないけどね。あんなことやこんなことばっかり考えながら普通に会話するのって結構難しいからさ。鍛えられてはいるよね。といっても聞いてないことも多いけど。並列処理のコツは、いかに並列にしないかってことだからね。
「タカさんが言うには、『言霊』は『語り部』に近いほど強力になるとか」
「そうだな。鷹見先生の"ここ"が一番強くて、"あそこ"が一番脆いのはそれが理由だ」
「ああ~、そんなこと言ってたねえ、正直あんま付いてけてなかったよ~」
「そういえばさ、モッチーの龍ってモッチーから離れても別に弱くなってる感ないよね?」
中々良いところに気付くじゃないですか。まあ、凛ちゃんは訊かずとも分かってたっぽいことだけど。
「実際、別に弱くなってはない。俺の黄昏は言ってみれば『もののけ』の一種なんだ」
「え? やばいじゃんそれ。『もののけ』って悪いヤツでしょ」
「大抵は、な」
「それは……一体どういう意味なの?」
凛ちゃんも堪らず乱入。ちょっと脱線するけど、『もののけ』の話をしてやりますか。
「『もののけ』がどうやって生まれるのかは覚えてるか?」
「人々のある言葉に対する思いが積み重なって、生きた形をとったものが『もののけ』だと習ったわね」
「『もののけ』が邪悪である、ってのは色んな理由が考えられている。人の感情のうち、負の感情がもっとも蓄積しやすいとか、『もののけ』って名前がマイナスにはたらいてるとか、『もののけ』の置かれている状況が悪を是としているとかな」
「ふーん。でもさ、結局良く分かってないんでしょ? 大抵はって言えるなら良いヤツがいるんじゃないの?」
「その良いヤツの例のひとつが黄昏だ」
「普通の『もののけ』は、『語り部』でない人が大人数で"召喚"していると言い換えられる」
「じゃあ、黄昏は『語り部』が一人で召喚する『もののけ』ってことだね」
「そういうこと」
「『もののけ』は自分の考えがあるし、言葉も分かる。一人の人間と変わらないんだ」
「あ~、じゃあトワイライトも『語り部』みたいなもんなのか」
「そういうことよ!」
さっちゃんは納得って顔だな。凛ちゃんはとっくに分かってたことだろうけどな。鷹見先生との対決のとき、読まれてるなら龍に攻撃任せるって選択肢があるって言ってたからね。それって意志があるって分かってないと採れない方法だからさ。
でも、凛ちゃんはまだ腑に落ちてないな? いやあ、やっぱり勘がいいな。黄昏にも意思あるけど、話したことないからね。だって発声器官ないし。本当はすごく邪悪かも知れん。何を考えているのかは神のみぞ知るってとこだな。
「なんか、変な問題があるんだけど何これ」
「変な問題ってなんだよ」
「タカミン特製問題って書いてあるよ。生産者表示されてる」
「問題にトレーサビリティいらないでしょ」
凛ちゃんツッコミが板についてきたかな?
しかし、鷹見先生がねえ。あの先生はテキトーに見えて無駄なことはしない人だ。
「今のチームで将来大きな戦いに挑むならどのようにするか。戦略や心持ち、準備や意気込みなど自由に述べよ、ということだけれど……」
「もう一問あるよ、タカミン問題」
「ええと、なぜこの時期にここまで大掛かりにテストを行ったのか、これに関して考えを述べよ、ってさ」
やっぱり、随分急ぐな……。
しかし……ということは……。
「とにかく、まず最初の問題から考えてみるか」
「将来大きな戦いに挑むならって言われてもねえ~、モッチーはともかくウチは想像つかんね」
「若宮さんの『言霊』は、情報戦においてとても役立つ。実際、昨日の実戦でも役に立った。それと、土壇場の対応力は素晴らしかったわ」
「えーそうかな!?リンリンにそう言われると嬉しいねえ~」
現場における指揮官にちょうどいいね。明確に将来像が見えるよ~。
「そういうリンリンは、参謀って感じだよねえ?」
さあ、凛ちゃんは自分自身をどう思ってるのかな?




