隠しボス『スケルトンロード』との戦い
導きの教会の裏手にある墓地には、チュートリアルが終わると同時に、スケルトンが一匹現れる。
このスケルトンが曲者であり、チュートリアルを終えただけのプレイヤーでは到底倒せないほどレベルが高い。
一応確認しようとしたが、UIがないので分からない。
自分のレベルや敵のレベルはゲーム中では頭上に表示されていたが、そういった表示は一切ないようだ。
どうしたものか。この手のゲーム世界に転生する話はアニメやラノベで見てきたので思い返すと、思いつく単語があった。
「ステータスオープン」
口にすると、目の前に半透明なボードが現れる。流石にこれくらいは転生したからにはつきものなのか、今の自分のステータスが表示された。
目を通しながら、中でも重要な『ステータスポイント』を確認する。
レベルアップの際に手に入る『ステータスポイント』は、一つレベルが上がるごとに一ポイント貰える。これを筋力や魔力などに振り分けていく事で、装備できる武器の条件を満たしたり、使用できる魔術が増えたりする。
とりあえず『持たざる者』の初期ステータスと、今のステータスポイントを確認した。
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【メネス】
レベル1
体力10
スタミナ10
筋力10
技量10
魔力10
敏捷10
ステータスポイント1
加護無し
ジョブ『持たざる者』
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表示されている体力はHPの最大値、スタミナは走ることのできる時間などに影響する。この二つはレベルが上がれば勝手に上がってくれるので、ポイントを振り分ける必要性は低い。
あとは簡単で、筋力は上げるだけ重たい武器を持つことができ、技量は使用に技術を要する弓矢などの装備条件に関係する。
魔力は高いほど魔術の威力と使用回数が増え、覚えられる魔術も増える。敏捷はダッシュ時のスピードや回避する際の無敵時間の長さに関係する。
ステータスポイントはいつでも振り分けることが出来るようにストックされ、手に入れた武器等に応じて振り分けるのが定石だ。
まだこの世界でまともな武器を持った感覚を知らないのでステータスポイントを振るのは保留にしつつ、目的の墓地へ到着した。
入り口では、早速高レベルのスケルトンが一体現れ、襲い掛かってくるのだが……
「よいしょっと」
教会で手に入れたメイスで軽く殴ると、その身がひるんだ。
だが、ひるむだけで大したダメージは与えていない。
ひるみが解けると、スケルトンはすぐさま手にしている剣で斬りかかろうとしてくる。
レベル1にして初期装備のまま攻撃を喰らえば即死だが、俺は剣が降られる前にもう一発メイスの攻撃を入れた。
スケルトンはひるみ、それが解けると攻撃モーションに移る。しかし、またしても一撃与える。
「てい、てい、てい」
そうして微量なダメージを与え続けていくと、スケルトンはやがてHPが底を尽きて倒れた。
「弱点は同じなんだな」
作業ゲーのようにスケルトンを倒すと、初期のステータスでも持てる『欠けたメイス』を手に呟く。
スケルトンは確かに初期に向かえるエリアの中では高レベルの敵だ。
とてもではないがボスの一体も倒していない状態では倒せない。
しかし、ダステラには必ずどんな敵にも弱点がある。
水の精霊に雷の攻撃が抜群の相性だったり、炎を操る敵に水系統の魔術が適していたりするように、スケルトンのような硬い骨で形作られた相手には『打撃属性』が有効なのだ。
これはスケルトンに限った話ではなく、全身に鎧を身に纏った騎士には剣で斬るよりハンマーなどでぶっ叩いた方が衝撃が強く、ダメージも多い等があったりする。
と、まぁスケルトンを倒すと、俺は急いで墓地へ入り、黒いオーラが漂う墓標を見つけた。
作中通りあったことに感謝しつつ、この墓標に打撃属性の攻撃を一撃与える。
すると、黒いオーラは荒れ狂うように墓地の中を舞い、やがて入り口で倒したスケルトンへ憑依した。
そしてスケルトンは骨の身体を再構築すると、再び剣を手にする。更に、空虚だった瞳は赤く発光し、その身にローブを羽織り、打撃属性への耐性を高める。
更に更に剣を掲げると、墓地中からスケルトンが這い出てくる。
最序盤の隠しボスにして、高レベルに達していても苦戦する『スケルトンロード』と『従属のスケルトン』たちだ。
スケルトンロードは打撃属性への耐性と魔法攻撃力をエンチャントした剣を持ち、従属のスケルトンたちは数えきれないほどに多い。
加えてどちらも『不死属性』を持ち、倒した後に一定時間が経過すると復活する。
倒すには一体残らず時間が経過する前に倒し切る必要があるのだが、とてもではないが、今の俺のステータスと装備では囲まれて倒されるのがオチだろう。
しかしだ、
「これぞダステラなんだよ……! 流石は転生しても容赦ない!」
死の恐怖より、転生して初めて相対した高レベルのボスへの高揚感で胸がいっぱいだった。
こういう序盤から容赦ないボスが現れるのが本当に魅力的なのだ。
何も知らずにオーラを纏った墓標を攻撃してしまえば、強制的にスケルトンロードとのボス戦に突入してしまう。
多くの人は初見の時に「不条理だ」と言ったが、俺は「それでこそ噂に聞く高難易度だ!」と興奮したものだ。
まぁ、それだけではマゾなゲーマーしか付いて来られそうにないゲームなのだが、ダステラには必ず攻略法がある。
スケルトンロードたちに目を奪われていると見逃してしまうが、たった今攻撃した墓標が打撃属性の攻撃により砕け、そこから地下へと階段が続いている。
追ってくるスケルトンたちをしり目に、俺は一目散に階段を駆け下りた。
ここが、教会裏の墓地の地下に広がる隠しダンジョン『地下墓地』だ。
本来攻略する必要はない分、難易度は非常に高く設定されている。
暗闇に包まれ、遥か地下へと続く階段は脆く、欠けている場所もある。
万が一踏み外して落ちたら、奈落へ真っ逆さま。ゲームではリスタート地点が階段を下った時点で上書きされ、スケルトンロードを倒すか奥に進むかしか選択肢はない。
多くのプレイヤーがここで詰み、ダステラを最初からやり直していた。
だが俺はRTAにおいて『地下墓地ルート』を何度も試みたことがある。スピードが優先されるRTAにおいて、一歩一歩階段を確かめながら降りるなど愚の骨頂だ。
早い話、俺はいかにして速く階段を下るかを完全に記憶しているので、
「っと! よいしょっと!」
欠けていない部分、脆くない部分へ飛び移りながら駆け下りて行けるのだ。
同時に追ってくるスケルトンたちだが、俺のように足場を知り尽くしているわけではない。
多くのスケルトンが追ってきたが、その殆どが階段から奈落へと落ちていく。
そして奈落に落ちれば強制的に死亡扱いとなる。所謂『落下死』だ。どれだけレベルを上げたキャラクターでも、奈落に落ちたら絶対に死ぬ。それはスケルトンも変わらない。
不死属性のスケルトンでも、ゲームの仕様である落下死には抗えないのだ。
階段を駆け下りながら次々にスケルトンが落ちていき、その度に落下死したことで撃破した扱いとなり、俺に経験値が入っていく。
これぞまさに、スケルトンロードを利用した『スケルトンレベリング』だ。
RTAにおいて、いかにして効率的にレベルを上げられるかは何よりも大事だ。
そして、この方法なら大量にして高レベルのスケルトンを最序盤から一気に倒すことができ、レベルは爆上がりする。
オマケにスケルトンロードいうボスもいるので、さらに多くの経験値と、スケルトンロードが手にする魔力を纏った剣も入手することが出来る。
スケルトンロードは流石にボスだけあって奈落の底に落ちないように調整されているが、階段を下った先に続く『王の眠りし間』というエリアに付く頃には他のスケルトンたちは全て奈落の底へ落ちており、囲まれる心配もなく、不死属性の強みも生かせない。
何度も駆け下りた階段を下り終え、王の眠りし間にたどり着くと、そこは松明に火が灯され、墓地から伸びた木の根っこや、それに支えられた見上げるような墓標が立ち並ぶ開けたエリアだった。
ここなら落下死の危険性はなく、追いついてきたスケルトンロードと一対一で戦える。
しかし、いくらスケルトンの経験値を得てレベルが上がっているとはいえ、まだ正面から戦って倒せる相手ではない。
唯一の武器であるメイスも壊れかけであり、俺の装備は他に『石ころ』だけだ。
スケルトンロードも俺の様子を察してか、髑髏の顔だというのに笑った気がした。
そうして距離を詰めてくるが、笑ってやりたいのはこっちだった。
「残念ながら、お前の攻略は完了している」
俺は石ころを手にすると、スケルトンロードが攻撃モーションに映る前に、その横にある見上げるような墓標を目にする。倒れかかっており、支えているのは木の根っこだけだ。
それに向けて石ころを投げると、木の根っこというオブジェクトは石ころによって破壊された。支えていた木の根っこを失った巨大な墓標は音を立てると、土煙と共に倒れる――スケルトンロードの元へ。
「!」
「今更気づいても遅いな」
スケルトンロードは逃げようとしたが、当然間に合わないよう、距離から何まで計算して石を投げた。そうして巨大な墓標に押しつぶされたスケルトンロードは粉々になり、晴れて撃破となった。
これまた大量の経験値と『スケルトンロードの剣』が手に入ったが、俺の目的は別にあった。
本来ならスケルトンロードは墓地で倒すべきボスだったのだ。地下へと続く階段は、いわば落下死エリアへ入ってしまう初見殺しだ。
訪れる際はスケルトンロードを倒した後に、しっかり松明や炎系統の魔術で明かりを確保して進む必要がある。
だが、ある程度ゲームを進めてからこの『王の眠りし間』へ訪れても何もない。
意味深なフレーバーテキストがあるだけなのだが『持たざる者を選びゲーム開始から一定時間以内に辿り付き、一定のレベルに達する』という条件をクリアすると、この場で起こるイベントがある。
それを狙い、俺はここへと来たのだ。
やがて条件をクリアしたことから、俺はこのエリアの真の主である『隠しボス』の操る闇が辺りを漂い始める。
女神の扱う光とは真逆な闇の力に臆することなく立ち尽くしていると、闇は収縮し、次の瞬間には黒いローブに赤い瞳をした人型の魔物が現れた。
とうとう現れたことに緊張と興奮を覚えつつ、女神の時のように振る舞いを間違えないよう気を付ける。
そして、赤い瞳の主は目を細めると、恐ろしく低い声を出した。
「外の地より来た者だな……魔王を倒すため、あの女神に呼ばれたのだろう?」
女神の存在を知り、魔王を倒すという目的まで知っているのは、ダステラの世界における魔王よりも強大な魔力を持つ『死霊王ヘル』だ。
大鎌を背負った死霊王は、ダステラの裏ボスだ。戯れで魔王へ魔力を渡し、この地を混沌に陥れている最強のボスにして、本来ならクリア後に戦うことになる相手。
しかし条件を満たす事でこうして序盤に出会うことができ、敵対することなく話せるのだ。
だが、下手に喋っては機嫌を損ねて殺される。黙っていると、やがてヘルは俺を見据えて口を開いた。
「どうした? 女神に呼ばれたのではないのか?」
ここで返答を間違ってはならない。女神に呼ばれたと答えてしまっては、自分の戯れの邪魔になるからと瞬殺されるのだ。
なので、俺はしっかりと前世知識通りの返答をした。
「俺は女神に呼ばれたわけじゃない。力を求めてこの地に来た」
「ほう……確かに下っ端とはいえ我が従属であるスケルトンをそのような弱き身で倒したのだ。力はともかく、知恵はあるようだな」
ククク、と死霊王が笑うと、俺へ問いかけてきた。
「力を求めし知恵ある者よ、あの女神に従うことなく、そんな身で魔王に挑むというのか?」
返答なのだが、選択肢などはない。
どうやらしっかり声に出して返さなければならないらしく、裏ボス相手に相応しいセリフをそれっぽく口にした。
「ああ、魔王より強くなるのが目的だからな」
「なぜそうまでして力を求める?」
「たのしむ……いや、力によって更なる混沌を世界にもたらす為だ」
選択肢を選ぶのと自分で口にするのでこうも臨場感が違うとは……。こう言わなくては殺されてしまうのだが、俺は体験できたことに心から感謝していた。
だが高ぶる心を抑えていると、死霊王は俺を見てニヤリと笑い、手を差し出してきた。
「混沌こそこの世の常。それを求めし欲深き人間よ、どうだ? 我に仕えてみないか? 我の力も与えてやるぞ?」
「やった……!」
「なんだと?」
「ああいや……女神なんてクソ食らえだ。しかしあなたは力に満ちている。どうかあなたに仕え、その力を私めにお与えください」
内心ガッツポーズしながら返すと、死霊王は「では契約を結ぼうか」と、目の前に一振りの歪な装飾の施された大剣と、黒く短い杖。それと真っ黒なスクロールを出現させた。
「我が従属になるというのなら、女神の物とは比べ物にならない力を秘めた剣と魔術のスクロールをくれてやろう。だが、未熟な身では使えないがな。それでも我に従うというのなら、剣と杖を手に取れ」
迷うことなく目の前に現れた剣と杖――『死霊王の剣』と『従属の杖』、それから『死霊王の魔術一式』が記されたスクロールを手にする。
その瞬間、目の前にステータス画面が現れ、加護とジョブの欄が書き換えられた。
『死霊王の加護』と『死霊王の従属』というジョブが新たに記されると、ヘルはクククと笑いながら続けた。
「従属となったが、好きに生きるがよい。我の望むものは混沌だ。その力を好きに使い、この地と、やがては世界を荒らすのだぞ」
そう言い終えると、俺の身体は再び闇に包まれる。気づくと先ほどの墓地におり、手には死霊王の剣と杖、あとスクロールがある。
ジョブも変わっていることを確認すると、俺はこの世界において、最強とも呼べるジョブを手にしたことへ、今度は身体でガッツポーズをする。
「隠れジョブとレア武器ゲット!!!」
女神の誘いを断り、チュートリアルの時間帯にスケルトンロードを倒し、王の眠りし間へ到達できた者だけが手に出来る死霊王の剣と従属の杖に歓喜していたが、身体が一気に重たくなった。
「グエッ」と声を漏らした理由は、装備条件の厳しい死霊王の剣を背中に背負っているからだろう。
あれだけのスケルトンやスケルトンロードを倒しても尚、まだ装備条件を満たしていないので使えないのだ。
厳しい装備条件と、そもそもこのジョブを手にする難易度の高さがあるが、代わりに女神の加護には『魔王を倒せ』という行動への制約があるのだが、死霊王の加護はそういったものが一切ない。
つまりは、何をしてもいいのだ。
自由に身の振り方を決められるので、死霊王の剣を使えるようにレベルを上げる算段はついている。
重たい身体で夜が明けつつある墓地にて、ダステラの世界での新たな一歩を踏み出したのだと、しばらく余韻に浸っていた。
【作者からのお願い】
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