兄と弟と二人の寝言
昔々あるところに、二人の兄弟が住んでいました。
兄は勇敢な一之助。
弟は怖がり屋のニ之助。
性格は違う二人でしたが、いつも一緒でした。
ある冬の日。
二人は家の側を流れる川で遊んでいました。
すると風で倒れたのか、一本の木が川の向こう岸へ渡れる橋となっていました。
一之助は喜んでその木を渡ろうとしました。
するとニ之助が言いました。
「兄ちゃん、駄目だよ。危ないよ」
「心配するなって。大丈夫だから」
ですが、渡橋に駆け寄ろうとする一之助の袖をニ之助は掴みました。
「兄ちゃん、お願いだよ」
泣きそうな弟を見た一之助は、言いました。
「ごめんな。怖がらせるつもりはなかったんだ。ほら、泣くなよ。もう帰ろう」
ニ之助は鼻を啜ると、俯きながら頷きました。
二人は手を繋いで、家へ帰りました。
その夜。
二人は並んだ布団の中で眠っていました。
そして、二人して寝言を言っていました。
「にいちゃん……あぶないよ……」
「だいじょぶだよ……はなせったら……」
二人は同じ夢を見ていたのです。
そして夢の中で、またあの木の前にいたのです。
夢の中で一之助は木を渡り始めていました。
ニ之助は寝言で呼び続けました。
「にいちゃん……にいちゃん……」
すると、夢の中で一之助が足を踏み外し、川に落ちてしまったのです。
川は凍える程冷たく、水の流れも速いのです。
一之助は水の中でもがきながら、叫びました。
「たすっ……けてぇっ……!」
ニ之助も兄から目を離さないよう、川岸を走りました。
「兄ちゃん! 兄ちゃん!」
兄が危ない。でも自分は怖くて、助けられない。
ですがやはり怖いのは、兄に何かあることです。
ニ之助は息を切らして一之助の少し先に行き着きました。
そして川の真ん中辺りまで伸びている木の枝によじ登り、兄に向けて手を伸ばしました。
「兄ちゃん!」
声を上げることすらできなかった一之助は、弟の手を掴みました。
そしてニ之助は、兄を川岸へ引っ張って行きました。
岸へ上がった一之助は言いました。
「怖かったぁ……!」
ニ之助は目を丸くしました。
「兄ちゃんも怖くなったりするの?」
「もちろん! でもこれが今までで一番怖かった」
暫く黙っていたニ之助は、やがて言いました。
「そっかぁ」
二人は笑い合い、また手を繋ぎました。
自分も怖いと言えた兄。
怖さを少し克服できた弟。
布団の中でも手を繋いだ二人は、これからの夢を見ました。
さぁ、冒険にでかけよう。
二人で行こう。
沢山の仲間と出会おう。
楽しみ、楽しみ。
実はこのお話、2024年の童話祭の短編「みかんと猿と男の子」と同じ世界なんです!
宜しければ、そちらも是非!
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