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第二十八葉:特別な人

 櫂凪ちゃんのことが好き。友達とは違う、特別な人として。そんな気持ちを自覚した時には、もう何もかも遅かった。

 今、櫂凪ちゃんの隣に立っているのは、夕霞せきか女子学院の誰もが憧れる、お嬢様の中のお嬢様。家柄も能力も容姿も性格も、全てを兼ね備えた完璧な人。平々凡々なわたしじゃ勝負にもならない。……あんな風に、幸せにしてあげられない。

 せめて、もっと早く気持ちに気づいてれば──。

「──さん、舟渡さん。大丈夫か? これを使いなさい。ポケットチーフ用で未使用だ」

「えっ?」

 理事長から白いハンカチを差し出されて、困惑。

 わたし、泣いてた。

「大丈夫です、汚しちゃいます。友達、が、とっても綺麗で、びっくり……」

「手でぬぐうのは止めなさい。メイクが崩れる。汚れなら気にしなくていい、ハンカチはそのためのものだ。そのまま、顔を動かさないで」

 頬を伝った涙をグローブでこうとして、止められる。折ったハンカチの先端を目頭近くに当てて吸水、その次は面にして頬を軽く。丁寧に涙を拭いてもらった。わたしのことを考えた、とても優しい対応。グローブで触れてたら汚して大変だったろうし、メイクも崩れてたと思う。

 理事長は一度ハンカチを見て、ジャケットのポケットにしまった。

「片付ける時間はないか。これは私が預かっておく。踊り終えたら渡すから、洗って再利用するも捨てるも、好きに処分なさい」

「処分……? どうしてですか??」

「涙を拭いた物を中年の男に渡すのは気が引けるだろう? 嫌味に聞こえるかもしれないが、これくらいなら差し上げて構わない。扱いは貴女に任せる」

 使ったハンカチの扱いにまで、配慮があった。嫌味な雰囲気だってない。……下心みたいな感じもしない。

「ありがとう、ございます」

「そろそろ始まるな。休まなくて本当に平気か?」

「だ、大丈夫ですっ。本当に!」

「そうか。問題があればすぐ言ってくれ。では、楽しもう」

 楽しもう、そう言ってもらって、ちょっと気持ちが軽くなる。わたし、慌ててた。

 まだ、自分の気持ちがわかっただけ。メアお姉様が櫂凪ちゃんを《《夕霞プロムナードの》》特別なペアに指名しただけ。櫂凪ちゃんはそれを受けただけ。女子が女子を好きになるって、そうそうないことだもん。後で一緒に踊る約束だってしてる。何もかもこれから。

 ……そう、これから。だから今は、今しかできないことをしなきゃ。ここまで理事長に接近できるチャンスは、きっと他にない。真理華さんを苦しめた原因を突き止めるんだ。


 騒めきがおさまって、ステージから音楽が聞こえてきた。繊細なピアノの音に、他の楽器が続く。緩やかな曲調に合わせ、そっと踊り始めた。スローワルツと表現される、ウィンナ・ワルツに比べてゆっくりなステップと、たゆたう動きで。

「友人が気になるのか?」

「……はい」

「わかった」

「?」

 答えて数歩のうちに、歩幅やステップ、ターンの流れが変わる。最初わからなかった意図は、動くうちに理解できた。視界の中に、櫂凪ちゃんが何度も入ってきたから。見えやすくしてくれたみたい。

 櫂凪ちゃん、覚えるのに苦労したステップも、バランスを崩しがちだったターンも、しっかりできてる。ドレスの裾も適度に広がって華やか。表情は……わからない。……また、わからない。……まただ。どうして? 

 どうしてずっと、タイミングが合わないの──。

「──ひとつ、尋ねても良いか? 差支えあれば、答えてくれなくていい」

「っ!」

 質問されて驚く。でも良かった。真理華さんのことに集中するって決めたばっかりなのに、櫂凪ちゃんに気を取られてた。

「な、なんでしょうか?」

「なぜ、男性である私と踊ろうと思ったんだ? 苦手なんだろう?」

 真っ当な質問。ダンスを申し込んでおいて全然集中してないのが、伝わったんだと思う。本当の目的は言えないので、用意してきたことを答える。これもある意味、嘘じゃない。

「慣れたいと思ったから、です。男の人に。理事長だったら、身元がはっきりしていて、他の人より安心できるので……。失礼な理由でごめんなさい」

「そういうことか。役に立ったのなら良かった」

 嫌な顔一つせず納得された。本当の本当に、この人が──ううん。揺さぶったら絶対、怪しい部分が見えてくる、はず。

「あの、わたしも質問、よろしいでしょうか? 失礼なことだとは思うのですが……」

「構わない。私に答えられることであれば」

「理事長は……、世間一般の男性は、わたしくらいの女子に魅力を感じますか?」

「魅力とは、どういう──」

「──男女の関係を持ちたいと思うような、性的な魅力です」

「……」

 理事長が黙った。返ってくるのは当たり障りのない答えだろうけど、それでいい。わずかでも動揺して、後で真理華さんについて聞いた時に記憶が繋がってくれれば、それで。

 そんな思惑で尋ねた『答えにくい質問』から、理事長は目を逸らさなかった。

「私の考えを話そう。理性で言えば、私は関係を持ちたいとは思わない。そもそも対象ですらない。既に一生を誓ったパートナーがおり、不貞関係を是としていないからだ。それを抜きにしても、未熟な貴女達との間に真なる信頼・同意形成は期待できず、法に反し、関係が世間に知られれば社会的地位・評価・愛する家族を失う。私にとって貴女達は、魅力を感じずリスクばかりがある存在だ」

 きっぱりとした、大人として模範的な答え。

 しかし理事長は、あえて打ち消す内容を続けた。

「だが本能としては、性的に成熟した相手であれば、魅力を感じる場合もあるかもしれない。乱暴な言い方になるが、相手を支配し、自らの遺伝子を無責任に拡散しようという衝動は、私の内に存在している。その本能を理性で制御することは現状、できているつもりだが……。と、私の考えはこんなものだ」

 理事長はそう言って、申し訳なさそうに頭を下げた。

「すまない。生徒と関係を持とうなどとは思っていないつもりだが、異性への性的な眼差しを完全には消し去れてはいないのかもしれない。肉体的にも社会的にも差があるから、威圧感や嫌悪感を与えていることだろう」

「いえ、そんな。苦手には思いますけど、ものすごく嫌ってほどじゃありません」

 それが、素直な感想。理事長は、わたしを傷つけないよう言葉を選んだ上で、自分が嫌われてしまいそうなことを噓偽りなく話してくれた。威圧感や嫌悪感はゼロじゃないけど、理事長の体格で、ダンスの距離にいて、男女について話しているにしては、嫌な気分は大きくない。なんなら、家族を除いた男性相手では今までにないくらい平気に近い。

 わたしの返事を聞いて、理事長は難しい顔をする。

「む……。半人前扱いした表現になるため言いたくないが、あまり簡単に他人を信頼しない方が良い。そう思わせる手練手管(てれんてくだ)に長けた者はいるし、本能を優先しあらゆる手段を講じる者も、リスクをリスクと感じない者だっている。年齢をこえて信頼のおけるパートナーとなる場合もあるにはあるが……。前提として分別がある大人はみだりに子どもと接近しようとは~~」

 高速で伝えられる内容は、会話というより指導。

 言葉を挟む隙なく、どんどん続いた。


「~~『レ・ミゼラブル』という作品を知って~~モデルとなった時代ほどではないが~~やはり女性にはリスクが~~。~~。……しまった」

 あっけにとられるわたしに気づいて、指導は中断。

 理事長は再び頭を下げた。

「申し訳ない。せっかくのパーティにこんな話を。プロムの度、ダンスを申し込んでくれた生徒に指導しているクセが出てしまった」

「そんなことをされていたんですか?」

「あぁ。元々、指導のためダンスの相手をしている。私に声をかける生徒は、その必要がある場合が多くてな」

「たしかに、本気っぽい子が多い気がします」

 和やかな空気すら感じる会話。ここまで話して、理事長の態度におかしなところはない。そうこうしてるうちに、じっくり踊るにしても相手を代えなきゃいけない時間。

 手段を選んでいられない。

 覚悟を決めて、直接尋ねる。

「……もう一つ、教えてください。その、指導っていうのは」

「ん?」

「したんですか。一昨年のプロムでも。ごん真理華まりかさんに」

「……」

 空気が変わったことはわかった。でも、理事長の表情を見る余裕はない。目をつぶって息を一つ。意志に反して眠らなくなっただけで、意志が伴えばわたしは眠る。人混みの中でもこれだけ近くにいれば、夢の行先は間違いなく理事長の──。


☆☆☆☆☆


 ──意識。入れたけど、ここは……。……夕方の、理事長室? 


 デスクを挟んだ向こう側に、黒髪の頃の真理華さんが立ってる。ということは、沙耶ちゃんが言ってた、理事長が真理華さんを呼び出した時?

『さっき伝えた通りだ。もう、関わらないでほしい。公言も禁止だ。それで納得してくれれば、貴女のお父様の事業に協力しよう』

 理事長が言って。

『できません……! 関わらないでいるなんて、とても!! 忘れられないから!!!』

 真理華さんはうつむいて、ぐちゃぐちゃに泣いた。

『残念ながら、人の気持ちは移ろう。若く未熟なうちは、特に』

 冷たい言葉が、理事長から飛んだ。……移ろう? 人の心を弄んでそんな、許せない! 真理華さんの気持ちは変わってないし、未熟でも──。


☆☆ ☆


「──大丈夫かっ? しっかりしなさい!」

 うっ……。かおの、ちかくで、りじちょうの声。眠ったわたしの体を支えて、呼びかけてる。起きそう。でも今、理事長の意識を離れるわけには……!

「すいま、せん。急にねむたく、なって……」

「……! 声に反応し覚醒している。意識障害ではない、か……? ならば──」

 体が一度下がったと思ったら、改めて膝の裏と背中から抱えられた。腕で支えられて首は反らず、体勢は安定して揺れも少ない。慎重かつ静かに運ばれてる。

「──よろしいですか、Sr(シスター)ジョアンナ。この子が突発的に眠ってしまったので、このまま保健室に運びます。念のため同行してください。それと、騒ぎにしては悪いので、パーティが滞りなく進行するようフォローを~~」

 迅速な指示に、Srジョアンナや他のシスター、先生達が協力。たぶん大きな騒ぎにならず、わたしは会場を抜け──。


  ☆ ☆


 ──た。……抜けたんだと思う。憑依する目線になって、ドレスを着たわたしを抱える視点に変わったから。

 言葉に出してない、理事長の心の声がする。

「(対応を整理しよう。意識障害の有無を再確認し、問題があれば救急搬送を手配。体質による突発睡眠であれば、主治医の提供情報に従い処置し、念のため保護者に連絡を~~)」

 頭の中で音読するタイプっぽい。考えた対応は養護教諭の先生と協力して実行され、時々起こされた。その都度、『眠い』と主張して抵抗。最終的には、保健室のベッドで眠らせてもらうことになった。

 アクセサリはSrジョアンナが外してくれたけど、ドレスは着たままだから皺になっちゃいそうで心配。早く済ませて、プロムが終わる前に起きなきゃ。


~~


「Srジョアンナ、後のことはよろしくお願いします。彼女が目を覚ますまで理事長室におりますから、何かあればすぐ連絡してください」

「ええ、承知しましたわ。でも無理はなさらないでね、雨夜あまよ理事長。こちらは交代で対応するから、任せてくれていいのよ」

「それはできません。目の前にいながら、異常に気づけなかった責任があります」

 理事長とSrジョアンナが話してる。わたしが自然に起きるまで、シスター達が交代で見守る対応になったんだ。とっても申し訳ない。理事長も、学校の責任者として理事長室に残るそうだし。

 言動も対応も、きちんとしてる。なのに、どうして……。

「責任なら、担任の私にだってありますよ。でもあまり仰々しいと、鳴子さんが気にしてしまうわ。最近ずっとプロムの練習で忙しくしていたから、きっと疲れたのよ」

「……そうですね。では、また。ごきげんよう」

 そこまで話して、理事長は保健室を出た。理事長室の前で立ち止まり、同じ並びの楽器練習室をチラリ。扉の隙間を気にする。

「(……暗い。メアはいないか。良かった)」

 安堵の気持ち(?)が伝わった。メアお姉様が部屋にいなくて何が良いのかわからないけど、なぜだかわたしもホッとする。視点が理事長室内に進み、黒い椅子に腰かけ、暗くなった。

 わたしの声が聞こえてくる。

『~~もう一つ、教えてください。その、指導っていうのは──』

 ついさっき問いかけた言葉を、理事長が思い出してる。わたしの姿が浮かび上がって、キツい睨みつけ。そんな目つきをした覚えはないから、これは理事長にはそう見えていた、ということ。

『──したんですか。一昨年のプロムでも。権真理華さんに』

 少し経って理事長は答えた。心の声で。

「(……指導していない。すべき相手にできなかったんだ。私は)」

 瞬間、視界が暗転。場面が変わった。


~~


『残念ながら、人の気持ちは移ろうものだ。若く未熟なうちは、特に』

 真理華さんに関する、記憶の続き。わたしの知りたい真相がこの先に……。

 ……。

 ……あ。

 ……あ、あ、あ、あああああああ。なんで、わたし、気づいちゃった。


 もしかして──普通ないことなのに──お願い、ありえないで!


 理事長の目の前で、真理華さんが泣きじゃくってる。ずっと、ずっとうつむいたまま。理事長の顔なんか全く見てない。……つまり、違う。理事長は大人で、真理華さんの心が変わっていないのだから、若くて未熟だと言われているのは別の人。

 過去の自分の行いを、理事長が振り返る。

「(私は大罪を犯した。教育に携わる者として、恥ずべき行いを)」

 わたしは、あの人の名前が出ないことだけを祈ってた。

「(あろうことか私は、心を傷つけられた子どもではなく、傷つけた我が子(メア)を守った。傷つけられた子どもに、気持ちを捨てさせて)」


 信じられない。信じたくない。

 また、記憶の場面が変わる。


~~


 日中の理事長室で話す、昔のメアお姉様と理事長。

 メアお姉様はあっさりと、困りごとくらいの口調で言った。

『ねぇお父様。お願いがあるの。話してほしい子がいて』

『内容は? 私に頼む理由はなんだ?』

『別れ話です。わたくしが伝えても、聞き入れてもらえなかったので。色恋とは、こんなにこじれるものなのですね』

『交際している相手がいたのか。、ということは年下か?』

『はい。中等部一年A組の、権真理華さんです』

『一年生……。付き合いを始めたのは、いつからだ? どちらから声をかけた?』

 理事長の表情が険しくなる。

 メアお姉様の表情は変わらない。

『今年の夕霞プロムからで、交際期間は一週間ほど。アプローチはわたくしがいたしました』

『離れる原因は?』

『ときめかなくなって』

『っ……。それをそのまま伝えたのか?』

『ええ。そしたら、「見捨てないで」と泣かれてしまいました』

『……よく聞きなさい。メアの心変わりは仕方なくても、いきなり伝えられた相手がそれを受け入れることは、簡単じゃない。まだ中学生になったばかりの子なら、なおさら。だから──』

 目元を手で押さえ、苦し気に話す理事長。

 気に留めず、言葉をかぶせるメアお姉様。

『──受け入れてもらえるよう、お父様からも伝えてもらおうと思ったの』

『待ちなさい、メア!』

 制止も聞かず、メアお姉様は背を向け扉へ。

 ドアノブに手をかけ、つけ加えた。

『今日の放課後、呼び出しがあると伝えています。無事に和解(おわかれ)できたらいいけど……。プロム前にお誕生日を迎えてらっしゃったから、大きなトラブルにはならないと思いますわ』

 メアお姉様が部屋を出て行き、扉が閉じる。視界が歪んだ。当時の理事長が激しく動揺していたのがわかる。メアお姉様の言った、誕生日の話を気にして……?

 理由は今の理事長の声が教えてくれた。

「(私は間違った。息子達には『衝動を律しろ』と教えていたのに、娘には『身を守れ』としか教えていなかった。無意識のうちに、男女の間でしか起こり得ないと考えていたんだろう。まさか娘が、衝動に駆られて関係を持つなんて──)」


 ──歪む。わたしの視界も。

 胸騒ぎが止まらない。ヤダ! ヤダ!! ヤダ!!!


 普通ないことがありえた。メアお姉様は、櫂凪ちゃんのことが好きなのかもしれない。二年前そうだったように、今日にも告白を……! ……。……そうだ!! 行けばいいんだ!!!

 幽体離脱みたいに、理事長から意識を離す。半透明になって、ふわふわ浮遊するわたしの体。横髪のヘアピンに触れる。舟を出して櫂凪ちゃんの意識に──なにこれ?

「鎖……?」

 目の前に突然現れた、鎖の先端。壁をすり抜け伸びていて、どこに繋がっているかわから──わかった。感覚的に。これはきっと、櫂凪ちゃんの意識に繋がってる。

 理解した時にはもう、わたしは鎖を辿って壁の中に飛び込んでた。


──


 物音一つしていないにも関わらず、雨夜理事長は思考を止めて頭上を見上げた。

「(今、何か……)」

 気配を感じたものの、視界の中に異常はない。気にしながら椅子の背もたれに体を預け、思考を再開。そして疑問が湧いた。なぜ、転入生の鳴子が真理華のことを尋ねてきたのか。

 結論を導くまでに時間は要さなかった。

「(相談したのだろう。あの子が心変わりして。……そうか、相談したか)」

 現実は相談していないが、理事長には知る由もないことである。しかし知った手段は予想外でも、誰かに知られること自体は想定済みだった。

 罪が明るみになれば、隠すか向き合うかの二択。夕霞女子学院から、舟渡鳴子や権真理華を排除するくらい、理事長には造作もない。

「(あの子は長らく休んでいる。いじめ行為の謹慎と、精神不安の療養で。無理もない。苦しみのきっかけとなった、夕霞プロムナードの時期だ。……素行不良として高等部への進級停止処置くらいは下せるか。健康面を理由に転出をすすめることだってできる)」

 スーツの内ポケットから携帯電話を取り出し、テキストメッセージを入力。

『今日は帰宅せず夕霞に残る。メアは残らなくて良いから、気にせず帰りなさい。それと明日、時間を取って話したいことがある。スケジュールの調整が済んだら、また連絡する』

 そして、送信。携帯電話をデスク上に伏せ置いた。


 先ほど感じた気配に、ある日の記憶を思い出しながら。


──


 ブラインドの隙間から差し込む月光だけが灯りの、薄暗い部屋。デスクの上で無音のまま光る携帯電話の画面に、持ち主(メア)の目が向かうことはない。

 メアの興味も眼差しも全て、たった一人の少女へと注がれているからだ。


「好きよ、櫂凪ちゃん。後輩でも妹役(いもうと)でも友人でもなく、ただ一人の、特別な人として」

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