第二十二葉:プロムのために(1)
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池のほとり。ガゼボのベンチに座って、メアさんとお話ししていた。ワタシが首に巻いた白百合のスカーフを鬱陶しがるのを、メアさんは微笑ましく眺めている。
『櫂凪ちゃん。せっかく授与されたスカーフなのに、もう皺だらけなのね』
『う……、すみません』
『謝ることはないわ。くしゃくしゃだから白百合じゃないけれど……。ほら、こうすれば夕顔の花みたい。でも、どうしてこんな扱いをしているの?』
身を乗り出し、スカーフ結び目の余り布を撫ぜたり引っ張ったりして、見た目を整え。メアさんの手にかかれば、ただの皺スカーフも夕顔の花を思わせるオシャレアイテムに早変わり。……とまではいかないが、だいぶ普通っぽく見える。
他の生徒なら卒倒しかねないこと。なのにワタシは不機嫌のまま。
『だって、コレがあると悪目立ちして、「調子にのってる」とか変な因縁つけられるんですもん。煩わしいだけです、こんなの』
これは中学二年生の半ばの出来事。成績優秀として校内表彰され、記念品に白百合のスカーフを貰ったのだけど、そもそも求めてなかった上に面倒ばかりで(付ければ自慢、付けなければ嫌味だとやっかみもたれ)うんざりしていた。
そんな気持ちなだけに手入れは適当。結果、スカーフは皺くちゃ。ある時、憂鬱な気分で帰路についていたら偶然メアさんと出会い、ガゼボへの散歩に付き合わされた。そこで、皺だらけなのを指摘されたのだ。
たらたらと文句を垂れるワタシに、メアさんは小さく笑った。
『ふふ。煩わしいほどではないけれど、つまらないと思う気持ちはわたくしにもあるわ』
『つまらない?』
『ええ。だってこれは、自分の行いが優れている証。わたくし何をやっても上手くいってしまうから、これを見ると退屈さを思い出してしまうの』
『勲章なんて飽き飽きってことですか。贅沢な悩みですね』
いっそう不機嫌になるワタシ。
メアさんは、花でも愛でるような顔。
『そうね。贅沢な悩みだわ。必死に生きてようやく得られる勲章を、服を重くするありふれた飾りの一つとしか感じられない、って話だもの』
それから苦笑いして、お茶目に舌を出した。
『元気づけようと思ったのに、失敗しちゃった。なんでもできるって言ったそばから、これじゃあ格好がつかないわね』
住む世界が違う人なのに、ワタシのために行動したらしく。完璧超人のメアさんが困っている(?)のが可笑しくて、不機嫌さと憂鬱さは頭から出ていった。
『あはは。元気づけるつもりだったんですか? 煽りかと思いましたよ』
『煽りだなんて! でもそうね。わたくしの立場で言うとそうにしかならないわ。反省』
視線を落としてしょんぼり、したのも束の間。メアさんは自身のスカーフを外して握り、くしゃくしゃにした。
『何をやってるんです?』
『お揃いにしようと思って。ほら、こんな使い方はどうかしら?』
皺にしたスカーフを細めに折り、頭の後ろで長い金髪をまとめる。スカーフが髪ゴム代わりとなって、ロングヘアはポニーテールにアレンジされた。リボンみたいな結び目には存在感があり、白い花みたいで可憐。
こんな風に見せられたら、もうスカーフを鬱陶しく思えない。
『評判に傷がつきますよ、ワタシとお揃いなんて』
ワタシは顔を背けていた。素敵が過ぎて、直視できなかったから。
『まあ。今度こそ元気づけられると思ったのに。また失敗してしまったのね』
メアさんはそうとは気づかず悔しがっていて──。
──やっと理解した。どうして今日の夢が、この記憶を再生したのか。ガゼボの思い出であるし、メアさんとの思い出でもある。しかしそれ以上に、この後のメアさんの言葉を思い出したかったんだろう。
『悔しいから、わたくし約束するわ。いつか絶対、櫂凪ちゃんがスカーフを良い思い出だと思えるようにしてみせるわね』
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……あさだ。かねの音が聞こえる。昨晩は鳴子から、『悪夢解決は何日かお休み』と言われて、互いの夢に入らず眠ったんだっけ。
鳴子はお互いの睡眠の質を気にして(多分ワタシにしか関係ない)、週に一~三日ほど、悪夢解決活動にお休みを作る。なのに今回は、珍しく数日間連続。『難しい悪夢が出たら呼ぶね』と言われたけど、普段に無いことなので落ち着かない。
理由はざっくり『夢の中で集中して体を動かしたいから』、と聞いた。ガゼボから帰る時も『用事ができた』とすぐにいなくなったし、なんだか様子がおかしい。もしかしたら、メアさんが鳴子にした【お願い】の影響かもしれない。
部屋の端に積まれた段ボール数箱。中身は化粧品、スキンケア用品、ふわふわのタオル、ナイトキャップ、ドライヤーなどなど。『プロム準備に役立てて』とメアさんが贈ってくれた物で、ガゼボから部屋に戻ったら届いていた。
大量に高級品を送りつけられたのに、それらを見た鳴子は冷静で。わけを尋ねたら、メアさんのお願いの一つに【伊欲櫂凪の美容のお世話】があるらしく。『自由に使って良いから、ついでに面倒見てあげて』とか、そんな感じだそう。
ひょっとしたら他にも頼まれごとがあって、夢の中でのイメージトレーニングで忙しいのかな。
美容用品はお風呂前後と就寝前に使わされたけど、普段の三倍以上時間がかかり、とにかく疲れた。髪と肌へのあらゆる刺激を回避し、徹底的に保湿する。意味はわかるけど、タオルは擦っちゃダメとか、顔だけじゃなく全身保湿するだとか、爪にも何か塗るだとか、手間がかかり過ぎる。
……あ、そっか。
「今朝もやるんだ、アレ……」
体を起こした瞬間、朝には朝の美容作業があることを思い出して、思わず言葉が漏れた。ワタシの声で目が覚めたのか、横で寝転ぶ鳴子が身動ぎする。
「……おはよう、かいなちゃん」
「おはよう、鳴子。今朝は眠そうだね」
「そうかな……。そうかも……?」
体を起こした鳴子の瞼はほとんど閉じていて、見るからに眠たそう。声もしおしおしていた。だけど十秒も経った頃にはいつもの元気が戻ってきたので、単純に疲れていただけっぽい。
大きく両手で伸びをして、鳴子は勢い良く布団から飛び出た。
「よし、起きた! 櫂凪ちゃん、洗顔に行こう! いっぱいやることあるから!!」
「うへぇ……」
「夕霞プロムまで二ヵ月もないんだよ! 美肌の道は一日にして成らずなの!」
目覚めはワタシの方が良かったのに、テキパキ動いてタオルやら美容用品を準備。ワタシの腕を取って洗面所へと連れ出す。
夕霞プロムに向けた、慌ただしい日々が始まった。
~~
お昼休みの教室。三つくっつけた席の凸で、真理華が言う。
「若い肌は刺激に弱くて代謝が良いから、メイクとそもそも相性が微妙なんだよ。塗るって刺激だし代謝の邪魔だから。若くて良い肌は、まずその素材を活かすべきで~~」
聞いているのは化粧の話。今までは食事が早く済む惣菜パンを食べていたから、昼休みに人と話す暇はなかった。のだけど、鳴子の栄養指導(プロムへの体作り)で食事量が増え、時間がかかるようになったため、どうせなら真理華と話すことにした。
なお、当の鳴子は『用事がある』と昼食を急ぎで済ませ、どこかへ行ってしまっている。
「~~じゃあ真理華は肌に悪いってわかってて、毎日化粧してんの?」
「まぁね。でも、良い物使ってポイントをおさえれば、負担を減らすことはできんだよ。高いし手間だから、今からそれに肌を慣れさすのは、伊欲にはオススメしないけど」
真理華はピカピカかつツヤツヤの爪で、巻き髪を回した。
「若い時分のメイクで注意することは、要らないものは使わない、厚塗りしない、使ったらしっかり落とす、くらいかな。なんならメイクよりまず、日焼け止めとスキンケアをちゃんとやれって話で~~」
講義のように次から次へと、真理華は化粧について教えてくれた。終始楽しそうだったので、本当に化粧が好きなんだと思う。
「~~こんな感じ。わかった?」
「なんとなく」
「あとは流行とか見つつ実践。普段のメイク以外にも、状況で使い分けるメイクもあるから」
明るく話していた真理華が、急に声の調子と視線を落とした。
「……まだまだ話すことあっけど、また今度にするわ。アタシ明日からしばらく、学校休むことにしてて」
「……っ、そっか」
元気そうに見えていたので驚いてしまう。攻撃的だった時期からずっと、心の傷を見せないよう無理しているのかもしれない。
「出席日数稼ぎに登校しても、別室にすると思う。気持ちの整理つけたくてさ」
「じゃあまた休み明け、話聞けるの楽しみにしてる」
「あぁ。またな」
真理華は話しの通り翌日から休み、友人の小野里さんも時々休むようになった。
二人には必要な療養と休養だろう。
──
─
鳴子が忙しくしていた理由は、数日も経たず判明した。
ある日の夜の自由時間。鳴子からダンスの練習に誘われた。メアさんから動画つき教本をいただいて座学は進めていたけど、実技は初めてで。素人二人、どうやって練習するのか疑問だった。
「お待たせ櫂凪ちゃん! 遅くなっちゃった!」
「最近忙しそうだね」
「ふふふ、色々と準備が必要だったから。じゃ、さっそく始めよう!」
寄宿舎の中庭。一つだけの外灯の下。小型の動画プレーヤーをベンチ上に置き、鳴子が練習動画のセッティングを始める。お金持ちの子達はちゃんとしたスタジオでプロに習っているから、薄暗い中庭にはワタシ達の他に人はいない。
「ワルツにするねー」
ワタシと鳴子は素人も素人なので、ひとまずの目標は、ワルツを最低限踊れるようにすること。
夕霞プロムのダンスパーティは、自由に踊る海外の卒業ダンスパーティと違い、基本的に社交ダンスを踊る。種目は、ボールルームあるいはスタンダードと呼ばれる五種(ワルツ、タンゴ、クイックステップ、ウィンナ・ワルツ、スロー・フォックストロット)。加えて、フリー種目として流行曲をかけ自由に踊る時間があるそう。
全て踊れる必要はなく、踊りたい曲(種目)を、踊りたい人と、ペアを決めていればペア相手と重点的に踊るらしい。ダンスそのものが好きな人やメアさんみたいな人気者は、短い時間で相手を交代しながら、たくさんの人と踊るんだとか。
「再生するよー。……3、2、1」
鳴子の操作で動画プレーヤーにお手本の人が映り、基本のステップ『クローズドチェンジ』を踏み始めた。ボックスを描くように、左足前進、右足前進から右横、左足揃え。右足後退、左足後退左横、右足揃え……。
見様見真似でやってみたけど、足は絡まるし体重移動は上手くいかないしで、足さばきも姿勢もぐちゃぐちゃになった。きっと鳴子も同じ──。
「──飲み込み早っ?!」
「涼香ちゃんに教えてもらって練習したからね! 夢の中で自主練もしたし!」
「それでここ数日……。ちょっとズルくない?!」
「まぁまぁ。わたしも覚えながらだと、櫂凪ちゃんのフォローできないから」
これが、ここ数日鳴子が忙しくしていた理由。涼香にダンスを習い、夢の中でもコッソリ練習していた、と。練習効率については鳴子の言う通りでも、横並びで初心者スタートだと思っていた相手にコソ練で差をつけられていたのは、ちょっと不服。
基本のステップをマスターしている鳴子は、ワタシの前に立って背中を向け、動きながら解説してくれた。
「一緒にやってみよっ! 体重移動を感じて! 1、2、3、1、2、3!」
動画だけでは不明だったところも、目の前に人がいると理解できる。そうでなくとも、鳴子の動きを真似して動けば良いのでだいぶやりやすい。
「足を揃えて踏みかえたり後ろ歩きしたりは普通しない動作だから、だんだん慣れていこうね。最初のステップの次は逆の、右足スタートの前進。その次は後退をスタート足ごとにやってみよっ! がんばっていこー!」
ステップそのものは、鳴子もお手本と比べるとぎこちなさがある。けれど姿勢の美しさや流れる体重移動、次の動作に繋げる意識なんかは、同じ初心者とは思えない仕上がり。元々の筋力や体幹の強さ、バランス感覚なんかが伺えた。
しばらく練習し次の段階へ。ペアの動きを体験するため、向かい合ってお互いの肘を支え合う。
「わたしが男性役をやるから、櫂凪ちゃんは女性役ね。始めたばかりだからやんないけど、男性役が動きのきっかけを作るから、女性役はそれを受けて動いていくんだよ」
「わ、わかった。……はぁ。素人のワタシにできるのかな」
「たくさん練習すれば大丈夫だよ! メアお姉様は隔年で男女役を交互にされてるそうだから、女性役の気持ちを汲んで上手にリードしてくださるはず! じゃあ、いくよ! 1、2、3……」
明るく言う鳴子に導かれ、さっきやったステップを二人で行った。本当は男性役の鳴子が動けばワタシも動く、という風にするものだろうけど、今はわかってないワタシが動きの中心。ワタシが左足を前進させれば、鳴子は右足を後退。上半身はつかず離れず、足も同じく距離を保つ。
しばらく動いてタイミングが合ってくると、息も重なる一体感と気持ち良さがあった。
「楽しいね、櫂凪ちゃん!」
「う、うん……!」
顔はずっと正面を向いているから、向かい合う鳴子とは目が合ったまま。ニッコリ笑顔の直撃を受け続け、なんか照れてきた。1、2、3、1……、あれ、次なんだっけ──。
「──きゃっ」
「わわっ」
後退した途端、残した足にぶつかる感じがして後ろに転げた。ワタシが逆の足を下げてしまったから、鳴子の足と当たっちゃったんだろう。……痛てて。
……ん?
「櫂凪ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だけど、なんで鳴子が下に──受け止めたの?! 鳴子こそ大丈夫??!!」
「つい、体が動いちゃった。でも全然平気! 芝生だから!」
背中から転んだはずなのに、鳴子が下になっていた。とっさに回転して受け止めたみたい。見る限り怪我はなさそうだけど、背中に土と草がついてしまっている。
「ごめん鳴子。ワタシが運動苦手だから……」
「気にしないで。わたしこそ自信満々だったのに、櫂凪ちゃんの動きを見てから避けられなかったもん。以心伝心みたいで楽しくなって、頭空っぽで動いちゃった」
下敷きにされたのに、楽しそうにする鳴子。と、いつまでも上に乗っていては悪いので、先に立ち上がり、手を引いて起こした。
「ありがとう!」
「ホントごめん。……ダメだ、また不安になってきた」
憂鬱な気分のワタシに、鳴子は笑って言う。
「失敗なんか気にしない、気にしない。わたし達なら絶対踊れるようになるよ!」
「絶対なんて、根拠もなしに……」
「根拠ある! だってわたし達は、人の二倍くらい練習できるからね!」
「二倍? ……なるほど。夢でもやればいいんだ」
「ご名答! さぁ、夢でイメトレするためにも、もうちょっと体を動かしておこう!」
その後も一緒にワルツのステップを繰り返して、現実での練習はお終いにした。鳴子は別の種目の練習を、ワタシは勉強をするために。ダンス練習の続きは、夢の中でみっちりやった。
普段の勉強に加えてダンスまで練習するのは大変なのに、その忙しさは不思議と嫌じゃなくて。上手くできれば気持ちが良く、できなくても楽しかった。
──
櫂凪は、鳴子が【忙しくしていた】理由は理解したが、【涼香にダンスを習うに至った】理由は気に留めておらず、考えてもいなかった。
メアから放課後のガゼボに呼び出された日の昼休み。鳴子は一人、理事長室の近くにいた。
『(真理華さんの悪夢で通れなくなっていたのは、この先……)』
鳴子がそこを訪れたのは、真理華の悪夢の原因を調べたかったから。櫂凪を誘わず一人なのは、確証のない調査で昼休みの邪魔をしたくなかったから。この時はまだ、何か情報を掴めれば櫂凪に相談するつもりでいた。
『(この並びにあるのは、理事長室と楽器練習室(?)くらい? ……そうなると、やっぱり理事長が怪しい)』
悪夢で通れなかった廊下の並びには理事長室があり、真理華が成績と恋に悩んでいたため、鳴子は校内では数少ない男性である理事長を怪しんだ。あてもなく扉の無い給湯室に身を潜め、斜め向かいの理事長室の様子を伺う。
『(さすがに何にも聞こえないか。こうなったら、ここで眠って心に……は、ダメ。真理華さんのことを意識させなきゃ意味がない。どうしよう──)』
「──こんなところで何をしてるんだい? 鳴子さん」
「ひゃあ?!」
後方から突然話しかけられ、飛び跳ねて驚く鳴子。声の主は同級生の小清水涼香。涼香は理事長室の様子を伺う鳴子を見て、不思議に思って声をかけたのだった。
夢のことは明かせず目的も言えないため、鳴子は答えに窮してしまう。
「えっと、その、何と言うか……」
「うん……?」
しどろもどろの態度を怪訝そうに見ていた涼香だったが、持ち前の自己完結がちな性格で勝手に推測。ポンと手を打って自信満々に話した。
「そっかそっか。言わなくていいよ、鳴子さん」
「え?」
「理事長のことが好……、気になるんだよね? だったら私に良い考えがある。良かった、恩返しする機会ができて」
「???」
涼香は鳴子が話を理解していないことに気づかず、説明になってない説明をする。
「私、全中の成績が良かったから表彰されるんだ。理事長は褒めてくれるだろうし、そこでならお願いできるはず。表彰の打ち合わせついでに、ちょっと聞いてみるよ」
「聞くって、どういう──」
「──待ってて! すぐに済むから!!」
鳴子の言葉を待たずに、涼香は理事長室へと駆けて行った。仕方なく鳴子は、引き続き給湯室で涼香の帰りを待つことに。数分で涼香は戻り、親指を立てて鳴子に報告した。
「上手くいったよ。『友達と踊ってほしい』と頼んだら、理事長、快諾してくれて。ペアダンス、ぜひ楽しんでね」
「踊る? ペアダンス?? それって何の──」
「──何の種目かまでは話してないから、いくつか練習しておいて! 不安だったら私が一通り教えてあげるよ! じゃあまたね、鳴子さん!」
「あっ、ちょっと! ……行っちゃった」
ダンスそのものへの質問だったが、得られた答えはズレたもの。涼香は慌ただしく去っていってしまう。昼休みも終わり頃だったので、鳴子は疑問を『ペアダンスってなんのこと?』と、携帯電話から涼香宛にメッセージを送るまでに止めて、放課後を迎えた。
その後鳴子は、メアとの一件で、ダンスが夕霞プロムナードで行われるものであると知る。そして、一対一のペアダンスの時間であれば、理事長に真理華のことを直接尋ねられると考えついた。しかしそこで知ったために、理事長を怪しんでいると櫂凪に伝えず、自分一人で解決すると決めた。
大切な櫂凪の、大切なメアとの時間に、水を差したくなかったから。
だが、鳴子は疑問を持つべきだった。なぜ、男性が怖いはずなのに、そう遠くない距離にいる理事長を恐ろしく思わなかったのか。本当に男性が怖いなら、ペアダンスを利用しようなどと、考えにもあがらなかったはずである。




