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第四話「ないしょの手紙」21

 ヒカリはあかりをランチに誘って、警視庁での一幕をこれこれこうと伝えた。

 あかりは横溝捜査官と面識がないが、もしかしたら意外といい人なのかもよ、と機嫌が良い。

「でもすぐに警視庁にいくなんて、ヒカリじゃないとできないわね」

 青ざめて泣いていた菜奈の顔を思い出して、それを救ったヒカリはやはり格上だと改めて思うあかりだ。

「菜奈さんにもトラブルの相が見えたのは、しゅうくんとの関わりを絶つことを主導したからだったのね」

 あかりの専門であるタロット占術は、因果に遡れない。

「そうよ。でもね、まだトラブルの相はふたりから消えきらないの。そこが気になるのよ」

 ヒカリは、これから問題が起こるなら、クラスメイトとの関係や、保護者たちの噂だろうと推測する。

「そこを学校ではなく、警察に指導させるのはナイスアイデアじゃない。学校には強制力もないし、先生たちも保護者と変わらない口の持ち主と考えていいわけだから」

 要は瑠璃が元のように教室で学べ、友だちとともに過ごせるようになるのに、学校の力は信頼しないということだ。

 まず学校に任せてみて、力不足だった場合が状況の回復にもっとも時間と労力がかかる。それならはじめから学校をこちらに従わせる立場においたほうが正解だと、ヒカリは考えたのである。

「あかり。二次会でいい人いた?」

 不意にヒカリは話を変えてみる。唾をつけた男性がいたのか、気になるのだ。

「まあね。みんないいところに勤めているから、暮らしとしてはどの人でも悪くはないわ」

 そんなあかりらしからぬことを口にする。

「相性の良さそうなのはいなかったのね」

 あかりのことだから、自己顕示をしつこく繰り返したのだろう。この性格は良い意味での印象には残らない。

 押野勇気のように、それをふんわり受け止められる男性も世にいるのだが、二次会では出会えなかったのだろう。

 だが高い美貌の持ち主のあかりである。容姿に惹かれて親しくなろうと話しかけてきた男性は何人もいただろうと思う。

 男性経験の豊富なあかりがどんな選択をするのか、あるいは誰も選ばないのか、ヒカリはまるで母親の気持ちで見守る自分に気づいてしまうのである。


「今日はもうひとり呼んでいるのよ」

 ヒカリが指を一本たてると、遅れてすみません、と早足で近づいてくる男性──塚原望である。

 塚原は軽く頭を下げると、あかりの隣に座る。

「あら、こっちでいいの?」

 あかりは意外な顔をする。

「お嬢さまの隣では、おそれ多くて」

「すっかり(しもべ)じゃないの」

 呆れ顔のあかりに、ヒカリも苦笑いを隠せない。

「お嬢さま、ご報告します」

 塚原はまた頭を下げると、工藤巡査を尾行してからのことを伝えはじめる。

「お嬢さまの見込みどおり、工藤巡査は警視庁にいきました。エレベーターに一緒に乗るか迷いましたが、まだ顔を知られないほうが良いかと思い、降りた階だけ確認しています」

「総務部の階ではなかったですか?」

 そうヒカリは先回りする。警視庁で碧泉院流親占教会と事務的に関わりがあるのは、総務部になる。逆にいえば、総務部以外とはなんのつながりもない。工藤巡査は総務部長に会っていたのだ。

「その通りです」

 塚原はつづけて、工藤巡査の足どりを伝える。

「警視庁を出たあと、霞ヶ関の地下喫茶に入り、男性と会っています。これが誰なのかわかりませんでしたので、自分は男性を尾行することに切り替えました」

 さすが圭吾の父の仕込みだけある。状況判断が的確だ。

「どなたでしたか」

「おどろきました。前の公安部長の神林さんです。今は定年退職されていますが、何か天下りのような職についているのかまではわかりません」

「警察を離れたにも関わらず、警視庁の外渉と会うのですから、今も警察への影響力を保っている。そういうことになりますね」

 警視庁の総務部長と、元公安部長がつながっているなら、結びつけるものは何か。公安の案件を総務部が手伝うことはあるまい。総務部の問題に公安が手を貸しているとみるべきだ。

 そして現職ではなく、かつての公安部長が噛んでいるとなると、問題のはじまりは神林公安部長時代に起こったと考えられる。

 そして、ヒカリの両親の殺害事件は、まさにその期間のできごとだ。

「ねえ、ヒカリ。総務部長さんと面識があるんでしょ。総務部の問題とやら、なにか心当たりはないの?」

 そうあかりに問われずとも、総本山たる親占教会と警視庁総務部との関係が、ヒカリの母である睦美の総本山からの独立によって脅かされる、という構図が思い浮かぶ。

 だが、そもそも両者にどんな関係があったのか、それがわからなければ、何をどう調べるかの道筋すら描けない。


 ヒカリはふと思い出す。先日あかりのもとに、既婚男性との事実婚を鑑定にきた美歌の苗字は神林だったではないか。

「偶然の同姓かもしれないけど、神林公安部長さんの家族を調べておくから、美歌さんが娘さんか近い親戚だったら、もう一度会ってみたいの。そのとき、一緒にいてくれるかしら」

 もし美歌が神林元公安部長との縁者であれば、近づく糸口にしたいとヒカリは考えたのだ。

「いいけど、その部長さんと関係がない人でも、もう一度会ってみたいわねぇ。無事に側室さんになれたのか、気になるわ」

 これだという男性があらわれるまで、結婚に妥協しない。法律婚にもとらわれない。あかりは美歌のそんな心意気に共感を抱いているのだ。

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