第一話「運命の力」6
所轄の警察署に戻った浜田巡査部長は、捜査課の通路の自動販売機で缶コーヒーを買おうとした。帰署の際の日課のようなものである。
販売機の前で先に飲み物を買っているのは、同期の吉川巡査部長だ。長く捜査一課で強行犯を扱っている。
警察学校時代に仲の良かった二人は、浜田巡査部長がこちらに異動してきてからというもの、署の内外で旧交をあたためているのだ。
浜田巡査部長は、先ほどの、おかしな顛末となった劇場型窃盗事件のことを話した。
そして、そこで出会った占い少女のことを、これこれこうと話してみた。なんといっても、チンピラと自分、大の男二人を居すくませた目力の強さが忘れられない。
「その占いの子はヒカリちゃんだろう」
まず間違いなかろう、と吉川巡査部長は頷いた。
「知っている子か、吉川。お前、もしや占ってもらってるのか?」
「いやいや」
苦笑いをしながら、吉川巡査部長は続ける。
「彼女はかわいそうな子でね。二月に旦那さんが殺されている」
「な、なに……」
「四年前には両親も殺されている」
「……!」
想像もしていなかった少女の境遇──。浜田巡査部長も絶句するほかなかった。
あの強い意志を宿した双眸は、大切な家族を次々と奪われ耐えているゆえなのだろうか。そう思うと、浜田巡査部長は途端にいたたまれなくなる。
「犯人は捕まってるのか」
「どちらも未解決だ。何より、殺害の動機が見えてこない。発生当初は課をあげて捜査にあたったが、だめでな。俺も旦那さんの件のときにヒカリちゃんに聴取したんだが、糸口もないので捜査規模も縮小されている」
「……まて? 彼女、結婚していたのか。まだ高校生くらいに見えたが」
「いや、その通りだ。彼女は十六歳で、進学していれば今は高校生だからな。結婚の事情は知らんが、そんな歳で、悲劇の次に悲劇──特に旦那さんは惨殺体だったからな」
「惨殺か……」
あの強さの内側にどれだけの深い悲しみを湛えているのだろうと思うと、ヒカリのことが不憫でならない。
これまで、加害者、被害者、どちらの側でも、気の毒な事情や生育環境にいた少年少女を多く知っている。
少年課の自分が関われる事件ではないが、旦那さんの事件と両親の事件の捜査資料に目を通してみよう、どのような形でも力になれるのならなろう、と心に決めた浜田巡査部長である。
日本の婚姻年齢が男女とも18歳となったのは令和4年4月1日の改正民法施行後です。
この作品はそれ以前の、女性の婚姻可能年齢が16歳の時代の設定となっております。