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第二話「死と変容」2

 覆面パトカーが忽然と消えてから八時間ほどたった午前十時。

 吉川巡査部長の姿は、占術鑑定所『光の路』にあった。

 Nシステムや、街中に防犯カメラや監視カメラがあるにもかかわらず、盗難車輌捜査は行き詰まり、覆面パトカーの行方は(よう)として知れなかった。

 今、吉川巡査部長の頼るところは、占術士ヒカリの占いである。


 殺人事件の被害者遺族としてヒカリを見知った吉川巡査部長だが、先頃発生したデリバリーヘルス従業員刺傷事件において調書裏付けの協力を依頼した際、容疑者が別件の犯人でもあることを観相占術で示唆された。

 捜査し直したところ、同様の二件の事件が、当該容疑者の犯行と判明したのである。

 署長から報奨を受けた吉川巡査部長は、オカルトとは異にするロジックをそなえているヒカリの占術に、信頼を寄せているのだった。


「状況からして、車はリレーアタックという方法で盗まれたと思われるのです」

 吉川巡査部長が強盗被害の宅に到着し、玄関に入ったとき、スマートキーからの微弱な電波が外にも届いており、犯人は何らかの機器で電波を受けて、それを増幅し、エンジンをかけたと思われる。

 盗んだ手法はともかく、走り出してからすぐ近くの防犯カメラには走行がとらえられていたが、次のカメラは数百メートル離れている。そのカメラにも、その先のカメラにも、その後まったく覆面パトカーの姿が、どの方角にも映ってないのだ。

 深夜の時間帯である。盗難車どころか、一般通行の車輌すらないのだ。

 近所の空き家や、車庫を持つ家に隠されている可能性もあたったが、徒労に終わった。

 自動車修理工場も一件あるが、住宅兼用の個人事業で、発生時間は閉められており、朝に覆面パトカーが入庫していないことも確認している。

「ですが、事件発生場所の近くから、パトが走った形跡がない以上、我々が見落としているどこかに隠されているに違いないと思うのですよ」

 ヒカリは少し考え込んで、まあ車が消えるわけありませんからね、と引き出しからカードを取り出すと、裏返しに十枚、テーブルに並べた。

「お好きなカードをとってください」

 ヒカリの得意な方位占術で占ってもらえると考えていた吉川巡査部長は、少し意外な感に打たれつつ、一枚を引き寄せた。

 手にしたカードを裏返すと、紺色に染められた無地色カードである。

「車はこの色か、これに非常に近い色に塗り直されています」

「なんですって!」

 深夜に塗装されたなど考えもつかなかった吉川巡査部長である。修理工場からの依頼で自動車の塗装を手掛ける会社は、早くても朝八時くらいからの営業だ。

 車体の全面塗り直しを朝一番で依頼されても、今ごろはまだ作業中だろう。

 それがヒカリは、もう塗り終えているという。

 深夜の時間で塗り変えられるとすれば、修理工場しかない。一件だけある工場が俄然怪しくなる。しかも個人経営だ。

「もうだいぶ時間がたってますから、乾燥も済んで、車は工場にはないでしょう。実際行ってみて、なかったのでしょう? 車通りのある朝の時間帯になってから、紛れるよう出されてしまってるでしょうね」

「であっても、工場を捜索して塗装の痕跡を探します」

 吉川巡査部長は、急ぎ帰署しようとする。ヒカリは、待ってください、といったん引きとめた。

「吉川さん、まずは車をもう一度捜すことです。塗り変えられた色の同じ車種をシステムから抽出して、行き先を割り出してください。この種の盗難は、すぐに海外への輸出ルートにのりますよ。工場はあとでなんとでもなりますから」

 先日のデリバリーヘルス従業員刺傷事件に続き、警察の、それも年季者のような判断を見せるヒカリに、その素性を知りたく思うが、今はそれどころではない。

「ではまた」

 慌ただしく『光の路』を飛び出していく吉川巡査部長だが、扉の前ですれ違った四十代くらいと見える女性の顔を目の端にとめて、はてと立ち止まった。

 ──どこかで会った顔だが。

 刑事の勘が訴えるも、まずは車輌の捜索だ。

 女性が『光の路』に入っていくのを見届けて、車がNシステムでの照合にかかってくれることを祈りながら、帰路を急ぐのであった。

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