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第一話「運命の力」16

 二人の警察官が署に戻っていったあとも、ヒカリは気持ちが落ち着かない。

 託宣が絡んだ事件も占術士として気が重いものだが、それゆえではない。ホナミのことが、どうにも気になって仕方がないのだ。

 占術士と被験者の関係は、託宣を与えるときのみの一期一会である。だがホナミに限っては、鑑定所で対面する前に関わり、鑑定のあとにも別件で関係者としてヒカリの知るところとなっている。

 鑑定した占術士として、ホナミの運命を変えることができるのは、結局ホナミ自身ではなく他者の力であろうと、ヒカリは考える。

 刺傷事件の被害者である百合と、ヒカリの被験者のホナミが同僚であるのは偶然だろうが、その偶然も運命の流れであるなら、百合に動いてもらえるかを打診しようと思った。

 写真で観た百合には、性風俗への身を置きかたゆえか、受難の相が長いこと居座りつづけていたように見えた。

 今回の被害も、それがにわかに勢いを強めたのだろう。

 半面、それを圧するような強い庇護の相も見える。これは自らを守り、他者をも守る相である。

 受難が長期に抑え込まれていたのも、庇護の力。一時的に受難に負けたが、相の強い力で、百合はまもなく意識を取り戻すだろうとヒカリは確信している。

 百合が言動をとれるなら、ホナミに対しても庇護を恵むことができ、ホナミを死相から逸らせられるのではないか。

 吉川巡査部長に自分と百合とを会わせてもらうよう頼んだのも、そう考えたからだ。

 だが、時間がたつに連れ、落ち着かなさが増してくる。ホナミの相の遷移の速さが気になるのだ。自分の時間の流れ方とホナミの時間の流れようは違うのではないか。自分の一日は、ホナミにとって十日にも匹敵するのでは、と思えてくる。


 意見書を書くために鑑定所を開けるのが遅れたが、並んでいた被験者たちの鑑定も終えた。

 すっかり日が暮れてからヒカリは、焦りを抑えるくらいなら動いてみようと決めた。

 百合の回復を待つのでは、遅すぎるかもしれない。

 吉川巡査部長に連絡を取り、百合やホナミのデリバリーヘルスの社長の所在を聞き出した。

 門前払いも想定して、吉川巡査部長には警察からの紹介の形をとってもらうことも怠らないヒカリだ。


 社長が営むデリバリーヘルスは、非店舗型で、会社の所在地も社長の住まいた。

「あんたがヒカリさんかい」

 社長は訪れてきた人物が、まだ十代半ばの少女だったことに驚いている。

 それにもかかわらず、社長はヒカリの顔立ちと体型を、デリへル嬢として目利きしているのがありありと読み取れ、ヒカリはきつい視線を社長に向けた。

 ヒカリの厳しい目つきには社長もさすがにたじろぎ、

「あいにく、ホナミは接客に出てましてね、どのくらいでもどってくるのか」

 用件にあわせることで誤魔化してくる。

「久しぶりの指名なんで、張り切ってたらしいですよ」

 そんなことを本当らしく言ってくるあたり、世渡りは巧みらしい。

「今夜のうちにでも会いたいので、どちらに行かれたのか教えてもらえませんか。お話はお仕事のあとでかまいませんから」

 うんと言わせるために、さらにきつい目を送るのだが、

「いや、ヒカリさん。顧客の住所は守秘義務があるんですよ。刑事さんから協力要請は受けてますが、事件でもないことに個人情報は教えられませんな」

 正論で返されると、ヒカリもこれ以上は強いられない。

 だが、ホナミに指名がついたのは、彼女にとって悪いことではないだろう、とヒカリは思い直す。もう一度ホナミの相を見てから、百合への依頼を考えても良いのではないか、と。

 そんなヒカリの思案をよそに、社長はころっと話を変えてくる。

「ヒカリさん、あんたまだ十五、六くらいのようだが、男を知ってるね」

 風俗の業界で自前の店を営むだけあって、目利きは鋭い。ヒカリの目力に釘を刺されたように見えて、しっかり品定めをしている。たがその目はいやらしいものではなく、商品的な値踏みそのもののようだ。

「主人がおりましたから」

 職業柄とは理解しても、半ばヒカリは不愉快な思いだ。平気な装いはできるが、こんな見られ方をされ続けるなら、この男と一緒には居たくない。

「結婚してるんですか。こりゃ驚いた」

 過去形でヒカリが話したことは、気に留めてないようだ。

 そのとき、社長の携帯電話が鳴った。

「どうぞ出られてください」

 嫌な会話が中断さることに、ヒカリも少しホッとする。

 社長は少し頭を下げて、着信をとる。

 社長は、そうですか、そりゃどうも、よろしくお願いします、と言葉を続けて、電話を切った。

 そして、ヒカリをまじまじと見て、病院からだと口にした。

「ゆーりんの奴、意識が戻ったそうですよ。あんたの占いどおりだ、すごいもんだねえ」

 携帯電話を充電ケーブルにつなぎながら、社長は続けて聞いてくる。

「どうします? 女の子たちは車の中で売り上げを渡すんで、こっちにくるわけじゃなく直帰なんですが、呼び出すことはできますよ」

 それまでこの男と二人で待つことになる。いくらヒカリでも苦痛を伴うことだ。

「また出直します。明日、百合さんが会話できそうなら、そちらを先にさせていただきますので」

 言い終わらないうちに、椅子から腰を上げているヒカリである。

 大人の一面を多く垣間見てきたヒカリでも、もうこの場から早々に離れたい。

 百合が意識を取り戻し、早ければ明日にもホナミへの間接的接触が可能になりそうなのも、今夜の引き上げを後押しした。

 そして、この判断がヒカリの大きな悔恨として残ることになる──。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次回の17が、第一話の最終回の予定です。

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