第一話「運命の力」1
舞台は令和元年。稀代の少女占術士ヒカリと、年上の妹弟子あかり(第2話より登場)による、連作ヒューマンドラマです。テーマは「女性の生きざまと死にざま」。十代から四十代までの、さまざまの女性の生き死にと、愛と性への希求を書きます。
全6話と、二人の四年後を描いた完結編で構成されます。
プロットはすべて出来上がっており、執筆時間確保との闘い中。
駅からまっすぐ東西に延びた、商業施設や雑居ビルが並ぶ目抜き通りの歩道。ここに、数十本の桜の樹が移植されたのはもう三十年以上も前だという。
当時はバブル景気と呼ばれた、投機によって株式や不動産に、実態以上の価値をもたせられた時代。瞬きをするたびにお金の流れが変わるほどに、お金がお金を産み、人々は蓄財の喜び以上に殺気を育む空気すらあった。
生き馬の目を抜く殺伐とした街の経済の中心区域こそ、人を慰め心を和ませる存在が必要だと、地域の要人たちが唱えて実現したのが桜並木である。
バブル景気は経済実態の現実に負け急速にしぼんだが、景気の盛衰にかかわりなく、この街の桜は毎年花をつけては、人々の心を保養し、足早に散り尽くしていく。
今年も開花から半月、見頃を過ぎて、ビルの谷間風がサッと樹々を吹きなでれば、無数の花びらがハラハラと舞い散りながら、ゆっくりと地に落ち着いてゆく。
季節の頃は四月の半ばである。
毎年この時期に、警察署は署員に対し、少年事件にかかわる訓示を与える。
内容は毎年同じで、
春爛漫といえる気候の良さに心浮く人たちが多い中、浮かれすぎて悪い心が芽生える輩も少なくない。
特に理性のブレーキが効かない少年少女が、初めて犯罪に手を染めがちなのもこの季節。犯罪までいかなくとも、なにかしらの揉め事を起こしやすい。
という文言からはじまる。
訓示を受けて、事件が起こっても迅速に対処できるよう、警察官は制服私服それぞれに、街を巡回する。
浜田巡査部長もその一人。目抜き通りから脇に入る小道、その一本一本に警戒の目を配りながら歩いている。
──なにか起こるならこのあたり。
交番勤務から少年課に配属され二十年。異動でいくつかの署を渡ったが、少年事件一筋に勤めているベテランのカンが訴えているのだ。
私服巡回ではあるが、浜田巡査部長のいでたちは、昔の刑事ドラマのような所轄刑事の素性丸出しのくたびれたスーツに、すり減る寸前の革靴、身だしなみも最低限に届くかどうかである。
一般のサラリーマンとは、まず思えない。そんな人物が、未成年と思しき若者を選んで観察眼を向けていれば、警察が警戒中と自ら発信しているようなものである。
だが、本人は無頓着なのか、一向に見た目を改める様子はない。
そんな浜田巡査部長の後ろで、あっちで喧嘩らしいぞ、と噂を広める声が幾度か聞こえてきた。