園田桜の話
本作品は歴史物語ですが、度々横文字が使われています。物語の内容自体も歴史にそぐわないものではありますが、語感やストーリーを優先させてそのようにしました。あらかじめご了承ください。
桜少女は伊勢生まれだった。桜の家庭は碌でもなかった。父親は輪をかけて碌でもなかった。博打と酒に明け暮れ、家の金を使い果たした。当時も今も、何故母親はそんな男と結婚したのか気がしれない。そして、桜が七歳の時、父親が遊郭の女と懇ろになった。その事実が発覚した翌日、母親は姿をくらました。今思うと、あの時桜も一緒に連れて行ってくれたらと恨めしく思う。それからはお決まりの展開しかなかった。金もない、人望もない、一家離散の三拍子が揃った先には、誰にでも想像できるような結末しかなかった。
その日、父親は不機嫌だった。博打で負けたのだろう。勝った時は、家に帰ってこないからだ。桜は父親の機嫌を取ろうと、あれこれ話しかけた。父親は始終無言だったが、突如に平手打ちをくらわした。あの時の痛みは忘れまい。以来、育ち盛りの桜の身体は綺麗になるどころか、痣と傷が増えるばかりになった。何か言えば殴られる。何も言わなくても殴られる。家族の団欒などというものは欠片もなかった。ある時など、首を限界まで絞められ、嘔吐すると殴られ、また首を絞められるということを繰り返されるということもあったのだ。だが、ある時運命が変わった。変えてくれたのはあの時――
「お嬢さん」
桜は振り返った。声の主を見た瞬間、桜は目を疑った。
これは、デジャブか?
凛々しい顔に柔らかな微笑みをたたえている。
彼女の名はそう、黒田栄。
* * *
「何で、ここにいるの!?」
眩しそうに笑った顔は昔とあまり変わっていなかった。
桜は戸惑っていた。だって、何故彼女がここにいる?
栄は悪戯っぽく笑う。
「私がここにいたら駄目なのお?」
「そ、そういうつもりじゃ……」
「聞いたわよ〜。 お父様亡くなったんですってね」
後から思い出したら顔から火が出そうになったのだが、死体を見た後、桜はたまらず山の奥まで走って行って吐いた。単に殺し方が残酷だからだとか身内だからというだけではない。なんていったってかつて桜が――
戻ると役人が同情したように桜を見ていた。彼も同様に吐いたのだろうか。天間佐吉は相変わらず死体を眺めていたが、桜を見ると表情を緩めて、目顔で帰っていいことを示した。桜はその帰り道の土手で座り込んでいたのである。
桜は栄を凝視した。
「なんで知ってるの?」
栄は肩をすくめた。
「噂は思っている以上に早く伝わるものなのよ」
急に栄の瞳がガラリと変わった。目の奥が暗くなる。
「よかったわね。 彼が死んでくれて」
桜は言葉が出なかった。
何を言っているんだ?
「あの時、せっかく私があなたを鍛えてあげたのに、あなたは結局父親を殺せなかった」
「……そんなこと聞いてない」
「でも、よかったじゃない。 代わりに殺してくれた人がいて」
桜は混乱した。いくら過去を見返したって答えは見つからない。
高速で思考していると、ある考えに辿り着いた。
心臓がせりあがった。
「もしかして……あなたが殺したの?」
途端に栄は笑い飛ばした。
「決めつけは良くないわ。 それだけで犯人と決めるのはあまりに尚早なんじゃない?」
桜は安堵した。
よかった。気のせいか。
しかし、それは次の瞬間粉砕された。
「あなたは最近、その犯人を見つけようとしているのよね?」
一瞬、言葉に詰まった。
「なんでそれを知ってるのよ?」
動揺して、思わず声がつっけんどんになった。思わず腰を浮かせる。
栄は問いかけには答えない。
「あなたたちには無理よ」
「なんでよ」
桜は立ち上がった。
「なんでそんなこと言われなきゃなんないのよ?」
「あなたたちを巻きこみたくないからよ」
栄は静かに言う。
「あなたたちに危険な目に遭わせたくないからよ。 だから、余計なことはしないで」
「そっちこそ余計なお世話よ」
桜は怒鳴りそうなのをなんとか堪える。擦れた声になってしまうのは、奥歯を噛み締めているからだ。
「やっぱり、あんたが犯人なのね」
「あなたには捕まえられない。 現に今、あなたは私を捕まえられない。 なんにも証拠がないからよ。 大体、あなたは何のために犯人を捕まえようとするの?」
不覚にも桜はことばに詰まってしまった。
確かに私、何で犯人探しなんてしてるんだろう?明確な理由なんてない……。
駄目だ。今揺らいだら敵の思う壺だ。
「そんなの関係ないでしょ!」
栄は未練がましく桜を眺めると、背を向けてしまった。栄は去って行く。
「絶対捕まえてやるから! あんたのこと、絶対牢屋にぶち込んでやる!」
後には、桜の声の残響だけが残った。
* * *
桜少女は、父親が例の如く帰らない日の夕方、家の前にぼんやりと座り込んでいた。それ以外やる事がないからだ。
「お嬢さん」
ふと誰かの陽気な声に呼ばれた。びくりとした。
私、何かしたっけ。怒られる事したっけ――
見るとそこには女がいた。凛々しく、男勝りな顔だ。眩しそうに微笑って桜を見ていた。
「お嬢さん、何してるの?」
桜は答えなかった。
「お嬢さん、首には跡がついてるわね」
女は目ざとく気づいた。
父親に絞められた跡である。痣になっていたのだ。慌てて首を縮めた。
「お嬢さん、暴力振るわれてるんでしょう」
どうしようもないので、桜は俯いた。
「自分の身は自分で守るのよ」
桜は黙っていた。
「そのための方法教えてあげる」
思わず顔を上げた。
何なんだこの女は。
どうしていいか分からず、座ったままでいると、いきなり襟首を掴まれて投げ飛ばされた。桜は地面にどてんと転がった。恐怖で足が震えた。しかし、目の前に立つ女は何故か特別な安心感があった。
桜は立ち上がった。
「あんたを傷つける人間の撃退方法を教えてあげる。 立ち向かうのよ。 暴力を振るう奴なんて獣と一緒なんだから、ちょっと脅せば逃げていくの。 立ち向かわなければ、奴らはいつまでも追ってくるし、場所を変えても違う獣に狙われる。 だからね、一回でもいいから殴っちゃいなさいよ。 恐怖を克服するには自分が恐怖になってしまえばいいのだから」
女は両腕を広げた。
「どんと来い!」
そう言うので、躊躇いながらよろよろと突進した。が、逆に桜が跳ね飛ばされた。相手にダメージを与えるどころか、自分がダメージを負っただけだった。
女はくっくっと笑う。
「あんたみたいなちっちゃいのがぶつかったって倒せないわよ。 拳でぶつかるの」
殴ってみたが、なにせ自分が暴力を振るうことには慣れてない。
女の人は呆れたように言った。
「本当に弱いのね」
するとニカっと笑って、
「私の名前は黒田栄。 あんたを地獄から救ってあげる」
と言った。
「いい? 人間ってのは身体の中心に急所が多いの」
栄は桜の頭から順に指差していく。
「眉間、鼻、人中、顎、喉仏、心臓、鳩尾……」
最後に桜の股を指した。
「金的ね」
栄はしゃがんで桜の肩を持った。
「急所を抑えられないんじゃ、相手を攻撃することも自分を守ることもできないんだから」
すると突然栄が桜の股間から後ろに手を差し入れて太ももの付け根辺りを抱え上げた。
桜は後ろにひっくり返り背中を強打した。地球が反転した。声を上げる間もなかった。
「こんなふうにね」
栄はさも面白げに笑った。
「あんたもやってみな」
栄は体育座りで地面に座った。
「片方の手で私の手首を押さえて、もう片方の手を私の腕の下から回して、自分の手首を掴んで」
おずおずと言う通りにすると、なんとなく様になってきた。
「私の手首を掴んでいる方を下げて、自分の手首を掴んでいる方を上げるの」
やってみたが上手く出来ているような感じがしない。全くダメージを与えられていない。
「あのねえ、こうやるのよ」
すると栄は素早く体勢を変えると今説明したことをそのまま桜に行った。だが、桜とは比べ物にならないほど強かった。子供相手だと言うのに、万力ほどの力でぎゅうぎゅうに締め上げるので、腕が折れるかと思った。
「こういうのは思いっきりやらないと駄目よ。 わかった?」
桜が頷くと、栄は怪しいものを見るように薄目で桜を見た。
「本当に分かったのかなあ」
栄は屈託なく笑った。
「明日もまた来るね」
それから毎日、栄は桜のもとに訪れ、武術を教えた。桜にとって、暴力を振るう実父より、栄の方がはるかに信頼できる存在になった。そして、その成果はすぐに現れたのである。
いつものように博打で負けた父親が帰ってきて、例の如く殴られそうになった時だった。桜はそれをかわしたのだ。無意識に身体が動いたのである。父親は驚いたように桜を見ていたが、一番驚いていたのは桜だった。
どうしちゃったんだろう?
しかし、それが父親の更なる怒りを買い、いつもの倍ほどの力の拳で殴られた。だが、構わなかった。一度でも父親の攻撃を避けられたことが嬉しかった。また、そのことを栄に報告すると褒めてくれた。よくやったねと、あんたは凄いことをしたんだと、繰り返し言ってくれた。
しかし、それからしばらくしないうちに事態は変わったのである。
ある夜、夜中に用を足しに起きたことがあった。その日は昼間に大雨が降り、夜には止んでいた。父親はぐうぐう寝ていた。便所から自分の寝床に戻ろうとした時である。偶然、父親の寝顔が目に映った。その日も父親から暴力を振るわれていた。
栄に鍛えてもらったおかげで、勝とうと思えば今なら父親に勝てるだろう。
とりわけ相手が寝ている今は。
相手が寝ているなら簡単に殺せるに違いない。
今まで父親に逆らったことはなかった。勝てると分かっていても殴られるままになっていた。恐ろしかったのだ。今まで暴力に支配され続けてきた。従属するしかなかった。それが今になってどう反撃すればいい?だが、今なら確実に殺せる。奴は太平楽に眠っている。今までずっと我慢してきた。耐えてきた。もういいだろう。もう終わらせよう。悪意がむくりと頭を擡げた。
私は正しい。
手を父親の首にかけた。
ほんの一瞬、桜の理性がサイレンを鳴らした。
本当にこんなことしていいのだろうか。
しかし、それはほんの一瞬に過ぎなかった。桜の生存本能はそれを許さなかった。
過去に一度だって桜を大事にしなかった父親。
過去に一度だって桜の身を案じなかった父親。
緊張と恐怖しか存在しないこの牢獄から抜け出すんだ。私の魂を守るためだ。これは正当防衛であり、生きるためなんだ。
その時、ふと目をやった先に雨漏りした水溜まりがあった。ある顔が映っていた。暗闇で何も見えるわけないのに見えた。桜は目を見開いた。
そこに映っていたのは自分の顔だった。園田桜がそこにいた。水溜まりに映る桜は実際の桜を覗き込んでいた。そして、彼女は手を伸ばしていた。桜の喉ぼとけに指を当て、首を絞めようとしていた。
桜は逃げ出した。
走っても走ってもあの水溜まりから繋がっている糸が切れない気がして、何回も背中を振り払った。
それでも逃げなければならない。実父を殺そうとした自分から。悪意に憑りつかれた自分から。殺そうと思うほどのことをされてきた自分から。今まで生きてきた自分の影から。
それからは、長い時間をかけて朝香村に辿り着き、しばらくは昼夜を村で過ごした。盗みを働いて食い繋いでいた。
握り飯を盗んで逃げていた時である。建物の影に潜んでいると、見知らぬ男がやってきた。親しげな笑みを浮かべている。
「俺は敵じゃないよ」
男は桜の頭を撫でた。
桜は黙ったまま睨んだ。
男の愛想のよい笑みは消えない。
「お金がないなら俺が助けあげるよ。 僕は君の味方なんだから」
そうして連れて行かれた先が遊郭だった。綺麗な化粧をしたのも、綺麗な服を着たのも、食べ物をたらふく食べたのも、あの時が生まれて初めてだった。その後、幼い桜にとっては更に衝撃的な体験をすることになるのだが。
とある部屋に連れて行かれた。楽器や食べ物が溢れかえり、可愛いお姉さんが沢山いて、酒とたばこの忌々しい臭いのするじじいが真ん中に座っていた。桜はそのじじいの隣に座らされた。その夜、そのじじいと同じ布団に潜り込んで一夜を過ごした。その時わずか十一歳である。初めてその場所が犯された時は、驚きと恥ずかしさで頭がいっぱいになった。しかし、子供ゴコロにそれが他人に言いふらすべき行為ではないことは理解していた。
それからは水商売の道を歩むこととなった。じじいに媚を売るのは難しいことではなかった。なにせ今までずっと父親の顔色を伺って過ごしていたから。
しばらくはお金を貯めて、暮らせるくらいになったらさっさとこの仕事なんか辞めてやろうと思っていた。だが、そのころはまだ子供だったので給料はほとんどなかった。そのおかげで何度悔しい思いをしたことか。自分の身体はこれくらいの価値しかないのだと何回も思わされた。プライドが崩れ落ちる音を何回も聞いた。いくらこの身体を犠牲にすれば報われるのか。それでも、桜はあの時栄から教えてもらった事を一つとして忘れたことはなかった。ずっと身体は鍛え続けてきた。一人でずっと練習してきた。そうでもしないと気が狂いそうだった。
それから人生が変わったのが数年後である。
桜も成長し、お得意様もできた。中にはストーカーまがいのことをされて襲われることもあったが、なんとかこの命だけは守って来た。
とある夜である。夜の朝香村を歩いていた時だった。たまたま人気の少ない通りを歩いていると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには桜のお得意様の一人である男がいた。だが、こいつはやけに粘着質で、いつ桜の身に危険が及ぶか分からず、しばらく遠ざけようと思っていた男だった。名は白水という。
もしかしたら、とてつもなく厄介なことになるかもしれない。よくいるのだ、こういう勘違い男が。
毒づく気持ちを押し殺して、桜は白水に笑顔を見せた。
「あら、お久しぶりね」
白水は近づくと、桜の腕をとった。
「今から酒でも飲みに行こうや」
「でも、私これから仕事があるのよ」
白水の目が暗闇にぎらりと光った。
「どうせ暇だろう」
桜はため息をつきそうになった。またこれだ。
「暇じゃないわよ」
「うるせえ、誰もお前なんか必要としてないんだからいいだろう」
白水は桜の手を物凄い力でぐいっと引っ張った。
「ちょっとやめてよ」
抗おうとしたが、更に引っ張られて前につんのめった。
「ちょっと……!」
白水を押し返そうとした時である。
「おいおい、兄ちゃんその辺でやめときなよ」
妙に陽気な声が聞こえたかと思うと、何者かが桜と白水の間に割って入った。小柄な男であった。ひどく痩せていて、がさがさの髪を一つに結んでいる。顔はよく見えなかった。
「ああん? 誰だよお前は?」
白水は男の胸ぐらを掴んだ。
「おっと兄ちゃん、暴力はいけないよ」
男は余裕そうに白水の肩を押し戻した。そして突然笑い出すとこう言った。
「兄ちゃんこれでこのお姉ちゃんを脅そうとしてたの?」
そうやって白水の目の前に小さな刃物をぶら下げた。白水は思わず手を離した。
「お前! どうやってそれを」
白水が奪い返すよりも先に男が手を引っ込めた。
「これをその袂に隠してたわけだ」
桜も驚いていた。
どうやって取り出したんだ?
見たところ怪しい動きは何もなかった。袂からこんな小さな刃物を抜き出す隙があったようには思えない。
何者だ、こいつは?
一方で男は、こっちの気持ちを知ってか知らずか、器用なことに刃物を手でくるくる回して余裕の笑みを浮かべている。
そして手に刃物を握り返すと、しばらくその刃物を眺めてから、兄ちゃん暴力はいけないよともう一回呟くと、白水の眉間めがけて刃物の柄を突き出した。それは的確に急所を捉え、白水は悶絶した。眉間から血を流していた。
「お前これ以上痛い目みたくなかったら帰んな」
相変わらず陽気な声だったが、何故か桜は身震いした。それは白水も同じだったようで、転がるように走り去って行った。
「大丈夫?」
男が振り返った。イケメンではないが意外と愛嬌のある顔である。
「ああ……ありがとうございます」
男はふふんと笑うと、いいからいいからと手を振った。そして、唐突に真剣な顔をして桜の身体を眺め回した。あまり長い間見ているものだから、とうとう我慢が切れた。
「あの……」
すると男は顔をあげた。だが、目が合わなかった。桜の顔を見るというよりは確認するようにしている。
「姉ちゃんいい身体してるねえ」
桜はげんなりした。助けてくれたと思ったらまたこれだ。男というのは何故こんなにも下半身にしか脳味噌がないのだろう。去ろうと背を向けた時である。
「お前、俺が助けなくても大丈夫だっただろう」
桜は動きを止めた。振り返った。男はまた桜の身体を観察していた。
「……は?」
そこでやっと男は桜の顔を見た。目が合った。
「姉ちゃん鍛えてるだろ。 いい体格してるっていうか、いい筋肉のつき方してるよ。 いいなあ」
男は感心したようにいう。
「女でこれだけの身体持ってるやつなんてそういないよ。 どうしたらそうなるんだよ? なんで鍛えてる?」
驚きとともに、桜の心にぽんと温かな明かりが灯った。今までこんなことを言われたのは初めてだ。筋肉がしっかりとつきすぎていて、男と布団に入って時に嫌われたこともあったのに。貶されることはあっても褒められたのは初めてだ。
桜は改めて男をよく見ようとした。
「なんで分かったの?」
男は笑った。
「そりゃわかるよ」
男は桜の頭から地面に向かって垂直に指を下ろした。
「強い奴ってのは身体に軸が通ってるもんんだ。 姉ちゃんにはその軸がしっかり通ってる。 まるで水面を滑る水鳥のようにな。 そんな奴は男でもそういるもんじゃない。 軸が通っている奴に間違いはないんだよ」
桜はこの男に興味が湧いてきていた。しかし、男は満足げに頷くと、背を向けてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
男は振り返った。
「この後暇?」
男は怪訝そうに言った。
「暇だけど」
「一緒にご飯食べに行こうよ」
途端に男は顔を顰めた。
「俺、お前みたいな女はタイプじゃないんだ」
そういうことじゃないっての。
「助けてくれたお礼よ。 奢ってあげる」
ホウ、と男は嬉しそうな顔をした。
「お酒もいいわよ」
男はうっとりと天を見上げた。
「酒かあ。 久しぶりだなあ」
男は桜に向き直るとにやりと笑った。
「ちょうど腹が減ってたところだ」
その男の名を長谷川勇介という。
本作品はフィクションであり、登場人物や作中で起こる出来事は全て創作です。