喜劇の国のシイラ
シイラが目覚めると、そこは喜劇の国でした。シイラは今日から旅館でアルバイトを始めるのですが、初日から寝坊で遅刻してしまいました。できる限り早く来た証拠を見せたくてガラス窓を蹴破って出勤すると、女将さんから余計に怒られました。
予約は三部屋ありました。部屋の名前はそれぞれ『はざ間』『つかの間』『あら間』です。変な名前ではありますが、他にも階段が滑り台になったり、壁から斧が飛び出したりする旅館なので誰も気にしませんでした。ただ、四つあるはずの壁がひとつ足りないことをシイラが言おうとしたときだけ、女将さんが「それは気にしたらあかん」と耳打ちしました。
『はざ間』を予約しているお客は付き合い始めたばかりの恋人同士でした。
「いらっしゃいませ。……って茂雄くん!」
「シイラさん!」
なんという運命の悪戯でしょう。お客はシイラが先月別れた元カレでした。誰もが重たい空気を感じる中、茂雄だけはなぜか大笑いしていました。人の心がないのでしょうか。
なんやかんやしていると『つかの間』に借金取りが現れたり、『あら間』のお客が指名手配犯と入れ替わったり、若女将の結婚相手を巡る争いが巻き起こったりしました。わけのわからなくなったシイラは叫びました。
「もうメチャクチャよ!」
メチャクチャなまま、幕は下りてしまいました。