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悲劇の国のシイラ
シイラが目覚めると、そこは悲劇の国でした。箪笥の中にはセーラー服が入っていました。シイラはその着慣れた服に袖を通して、いつもの学校へ向かいました。
シイラには茂雄という、少し歳上の憧れの人がいました。茂雄は絵を描くことが好きで、度々シイラを題材にしていました。浴衣だったり、お洋服だったり、時には茂雄の服を着てポーズをとることもありました。
茂雄は予定よりも早く大学を卒業しました。兵士として戦争に加わるためです。壮行会を控えたある日、茂雄はシイラに言いました。
「みんなは勇ましいことを言うけれど、僕は必ず帰ってくるよ。まだ描きたい君の絵が残っているんだからね」
それから七十年が経ちました。シイラは誰とも結婚しないことで、今も茂雄との約束を守ろうとしています。茂雄が帰ってこないことは、シイラにもとっくの昔に知らされています。それでも、おばあちゃんになったシイラは若い日の自分が描かれたキャンバスと共に、想い人を待っているのです。