契約解除 〜運命の日〜
亜沙美たちが東京を立った日から、会社の発表に従って10日間の休みに入った蒼空 メルル。ようやく復帰の日を迎えたのだが…
【1月14日】
「こんばんは〜。蒼空から舞い降りたみんなの天使〜メルルだよぉ〜♪10日も休んじゃってごめんなさいっ!」
✱「おかえり〜」
✱「待ってたよ。大丈夫?」
✱「元気になって良かった」
✱「おかえりなさい」
✱「もう大丈夫ですか?」
✱「無理とかしないでくださいね」
「寂しい思いさせちゃったよね?今日は…あまり長くならないようにするつもりだけど…久しぶりの配信で、長くなっちゃうかもね?(笑)」
ようやく配信ができるようになったメルルは、元気そうな声を視聴者に届けるように笑顔で笑っていた
【竹取家23時】
「ふぅん…元気そうに話してるわね…」
「蒼空先輩 元気そうで良かったぁ♪」
21時からオフコラボ配信を90分した亜沙美とロミータ。その後で素早くシャワーを済ませた2人は、久しぶりとなるメルルの配信を見守っていた
「はい、ロミータちゃん。コーヒーどうぞ♪」
「ありがとう亜沙美。ゴキュゴキュ…ふぅ。あの日からオリビア先輩の様子もおかしいから気になっていたんだけど…」
「普通…だよねぇ?大丈夫じゃない?」
亜沙美も決して楽観視していた訳ではないのだが…メルルはロミータのライバル(勝手にライバル視されてただけだが…それでも同期が突然の休暇に入ったのだから、彼女も気にしてるだろう。という配慮なのだが…)
「そうね…声もハリがあるし、無理して言いたくない事を言っているようには聞こえないわ…」
ロミータは別にメルルをライバルとかに観たことは無いのだが、彼女に関しての話をする時のオリビアの態度に不信感を感じていたロミータは、メルルの休暇には何か別の理由が有るのでは?と勘ぐっていた
「今日は中々終われそうにないかも〜?僕はね〜、久しぶりに仲良い人とお話しすると、自分から電話を切るのは苦手なんだ〜♪」
「……普段のメルル節が出てきたわ…これは今夜は朝まで続きそうね…」
メルルの同期であるロミータは知っている。予定していた配信時間を大幅にオーバーしそうな時に、彼女の口から出てくる特徴的なキーワードを
「そうなのぉ?…ふあぁぁ…私たちはそろそろ寝るぅ?」
一緒の家に住んでいる亜沙美とロミータは、基本的に土曜日の夜にオフコラボをしているので、明日は日曜日である。メルルの復帰配信に最後まで付き合っても良いのだが…
「そうね。メルルは区切りが悪いと言うか…諦めきれないとこがあるから、付き合ってたら朝日が登るかも知れないわ。ロミー達は先に寝ちゃいましょうか?」
「あともう少しだけ…」
というメルルの言葉を信じて、今までに何度も痛い目にあった事があるロミータは、愛する亜沙美をそんな目にあわせる気は無い
「あん!…んもぅ、ロミータちゃんったらぁ、イキナリそんなとこ掴んじゃ駄目だよぉ❤︎」
「亜沙美のスメルがロミーの頭脳を麻痺させるのよ。早く味わえ、早く楽しめってね!…だから、これは仕方ないのよ〜♬」
今夜もキングサイズのベッドで一緒に寝る2人は…ベッド・インした瞬間からお互いの身体を楽しみあっていた
そして、適度な疲労感に襲われるまで互いの身体とトークを楽しんだ後に、まどろみの中に身を委ね眠りに付く。というのが今の2人の最&高な楽しみだった
【蒼空チャンネル】
「…もっとみんなと一緒に居た〜い。とか思ったら、なかなか配信終われなくなっちゃうんだよね…話も今日は、何か広がっちゃうし〜」
年始挨拶と復帰を合わせたメルルの雑談配信は5時間を超えていて、日付けも既に15日になっている。にも関わらず、彼女はまだ配信を切ろうとしていない
「もう丑三つ時か〜、そろそろ寝ないとみんなもツライよね?じゃあ寝るか〜…「今日は寝るか」って何回言った?」
✱「5回くらいか?」
✱「久しぶりだから楽しいしな」
✱「うんうん。俺らは平気」
✱「終わる終わる詐欺じゃん(笑)」
✱「流石にねみい」
「ごめんごめん。本当に本当のファイナルラストね。うん…コレが…最後。んっ…じゃあ今日は、この辺に…グスッ…えっ、えっ、エヘヘ……しまーす!終わりにしまーす!」
✱「どうした?」
✱「また夜楽しみにしてるから」
✱「寝付けないのかな?」
✱「また来るで」
「あぁ…まだ終わりたくないなぁ…上手くお話し出来なかったなぁ……終わろうかぁ。本当だよ…それじゃ…うぅ…おやすぅーみ…」
✱「何やろ?」
✱「変なメルルじゃなかった?」
✱「そんな日もあるんちゃう」
✱「また今日も会えるさ」
彼女の配信終了際の言葉に何やら違和感を感じていた蒼空視聴者達だったが、今夜の配信枠で彼女の様子を再確認すれば良いだろうと、長くなり過ぎた配信枠を切ると共に眠りにつく視聴者たち
【米田コーヒー】
時計の針は「10:40」を示していた
「モーニングツゥ!ホットツゥ、トーストツゥ、ゆでツゥ、ヨーグルトツゥ…ミックスサンドワンッ!以上よっ♬」
「…か、かしこまりました。復唱致しますね…モーニングのホットセットを御2人ともトーストとゆで卵で、ヨーグルト2つとミックスを1つですね…お待ちください…」
「何とか滑り込みセーフだったわね♬」
10過ぎに目を覚ましたロミータは、突然米田のモーニングを食べたい衝動に駆られたので、同じベッドですやすや眠る(ロミータに身体を触られ過ぎてクタクタなw)亜沙美を無理やり起こすと、洗顔と基礎化粧だけしてジャージ姿のまま自転車に乗り込んだのだ
「( ̄▽ ̄;)もぉ、ビックリしたよぉ…起こされるなりモーニング食べ行こっ!って起こされて着替えもしないで来るなんて…」
わりと田舎な三重県なので、女子高生の2人がジャージ姿で喫茶店に居ても、周りの客からは変に目立ってはいなかった。それどころか…
「まーまー。ほら、畑仕事を終えてから直接来て井戸端会議してるおじいちゃん、おばあちゃんも結構いるから…ね?」
農作業を済ませて来店した年配の人達は、作業着に長靴というファッションで全国チェーンの喫茶店に来ている。それと比べたらジャージ姿くらい、とロミータは言うのである
「でもぉ…オシャレして来てる人たちも居るんだしぃ…」
亜沙美の言う通り、店内は年寄りと若者が適度に入り乱れている。「適度に都会で適度に田舎」と称される三重県らしい日常の景色だった
✱「…今朝のヤホーニュース見た?」
✱「あ、アレか?」
✱「突然だったよなぁ…」
モーニングを食し始めたロミータの背後の席に座った大学生らしい2人の男が、スマホを見ながら何やら話し始めた
✱「契約解除らしいぜ」
✱「何かしたんかね?」
✱「機密情報漏洩したらしいぞ」
✱「マジかよ!?…俺の最推しがぁぁぁ…」
「ねぇ。誰かユーチューバーが引退したのかなぁ?」
「う〜ん…特にそんな噂とか聞いてないけど…Twitterのトレンド見たら載ってるかしら?えーと…突然の契約解除発表をされた…蒼空メルルさん……ええっ!?」
「Σ( ꒪□꒪)ふぇぇっ!?ど、ど、ど、ど、どいうい事ぉ〜???」
喫茶店内の学生らから聞こえてきた会話内容から調べてみて、まさか同じ事務所に所属しているハズの【蒼空メルル】がクビになった事を知り、驚愕するロミータと亜沙美
【コンサート・プリンセス事務所】
「失礼しますっ!!」
「よく来たね…コーヒーしか無いのだが、熱いのと冷たいのドッチが…」
「要りませんっ!そんなことよりもっ!!私にも内緒で…メルルの契約解除とはどういう事なのですかっ!?」
自宅でスマホを何気なく操作していた時に、偶然発見した蒼空メルルの引退発表に驚愕したオリビアは、まるでカチコミする様な勢いで事務所に居る社長を訪ねた
「彼女もチャンネル登録者35万に到達した人気ライバーだ。どのような言い回しをしても、女性ライバーがファンにも内緒で異性と交際していて、あまつさえ最初の報告が【妊娠】では彼女の未来に大きな傷痕が付くのは分かるだろう?」
「…た、確かにそうですが…しかし、それでは昨夜の復帰配信がまるで…彼女の遺書配信みたいに残ってしまうんじゃないですかね?」
「…ふむ。だとしてもだよ「重大過ぎる機密漏洩があったので、初犯であっても解雇せざるを得なかった」とすれば、彼女の傷も浅く済むんじゃないか?」
事情説明を受けに飛び込んできたオリビアに対して、社長は椅子に反り返るように座り回答していた
(何かおかしいわね…10日の休養後の復帰配信から翌日、事態は反転して解雇発表。用意周到に、メルルのダメージを軽減する為に用意されたような解雇理由。何か変だわ…)
「その処理のされ方で、メルルは納得したのですか?」
「あぁ。彼女とはシッカリ向き合い話し合ったうえでの答えだ。他に何かあるかね?」
「……分かりました。失礼します…バタン」
オリビアは全然納得していない。出来るハズがなかった
(メルルは不器用でも配信が大好きな子。リアルで上手く友達を作れない彼女にとって「配信で得たリスナーはかけがえの無い宝物だ」って聞いた事があるわ。なのにっ!)
腸が煮えくり返り、とても冷静になれないオリビアだったが…タヌキ寝入りな態度をとる社長と、これ以上会話しても何も引き出せそうに思えなかったので、愛車に乗り帰宅した
【オリビアのマンション】
「ふぅ……納得イカないわね…冷えたビールでも飲まないとやってられないわっ!」
「ガチャ」
オリビアは冷蔵庫から、ドイツビールとタコワサを取り出しテーブルに乗せると、そのままソファーに身体を沈めた
「んっ!?」
ビールの栓を開けようとした時、その横に置いといたスマホ画面に着信とメール通知が表示されていた
(スノウやロミーからのメールだわ……そうよね、機密漏洩の契約解除なんて納得できる訳ないわよね…それにしても、いつの間にメルルが男なんて作ったのかしら?…あれ!?何か気になる、引っかかる、アレはいつの事だったかしら?…)
……………………………………………
「私は蒼空の相談に乗るから、キミには竹取さんの面接をお願いしたい。頼めるかね?」
「そうだわっ!ロミーがアミを連れて事務所に来た去年、ちょうどメルルからの相談を珍しく社長が直接指導していたわね…」
ロミータが亜沙美を自分と同じ、企業系ライバーにさせたいと上京してきた日に偶然、バッティングした人気低迷に悩むメルルの相談
「あの日からメルルは少しずつセンシティブな表現をし始めたわね……まさか!?アレは社長の入れ知恵だったの?…日が経つに連れエッチぃ言葉を口から出すのに抵抗が無くなって行ったメルル……もしかしてそれって……嘘でしょ?」
最悪な答えに行きついたオリビアは、愛車のアクアのエンジンを掛けたまま電話をする
「……はい。メルルです…オリビア先輩!?あの…僕は…」
「色々聞きたいことは有るのだけど、今は1つだけ質問させてちょうだい……貴女のお腹の子の父親は……社長なのね?」
「……えっ!?…………あ…その…」
「…もういいわ。分かったから、それじゃね」
メルル本人から直接答えは聞いていないが、オリビアは彼女を孕ませた犯人が社長だと理解した
「そういう事だったのね!奥手で男性経験も無かったメルルが、少しずつセンシティブな言葉を言い出したのも全部社長の入れ知恵だったのね。許せないわ、絶対にっ!!」
「そうだわ!あの日、病院で初めてメルルが妊娠してるって知った日にも、2人は1度も父親の話をしなかった。お互いが既に理解していたからだわっ!」
この10日間、コンプリの誰にも彼女の妊娠を報せずにいたのは、この茶番を貫き通すためだったのだろう
「とてもじゃないけど、メルルの弱みを握り性的な要求を正当化させて彼女を孕ませた行為は、絶対に許せないわっ!…でも、社長の悪事をバラせばメルルの妊娠も世に知れ渡ってしまう……どうすれば良いの?……あっ!」
社長にどんな報復をするか悩んだオリビアが辿り着いた答えは……
「……ガチャ。もしもーし、こちら【スナック希望の華】来店予約というヤツかのぅ?」
オリビアが掛けた電話の相手先から、10歳以下の生意気なメスガキのような声が聞こえていた
続く
最終回まで後1話(の予定)




