忍び寄る凶影
【文化祭の日】
「申し訳ありません。ご好評のお陰で材料が無くなりましたので、当店は閉店させて頂きます。沢山のご来店ありがとうございました♪」
亜沙美やロミータ、他の生徒のコスプレが強い客引きとなり、多数の生徒が押し寄せた結果…やや多めに用意した食材は、僅かな飲料を残してソールドアウトになった
「ふぅ、終わったわね。それじゃ亜沙美、着替えてくるから待っててよ!」
「うん。服部さんと待ってるねぇ♪」
「1時間ほど掛けても構わんでござるよ」
「そんな掛かるかー!!亜沙美を口説くんじゃないわよ!良いわね!?」
ロミータのボーカロイド・コスプレはかなり気合いが入っていてウィッグやら化粧に、かなり力を入れていたので着替えに時間は掛かりそうなのだが…亜沙美(浅宮アミ)のことが最推しの服部からすれば、少しでも彼女と2人の時間を楽しみたいので、ロミータに遅いならどれだけ遅くなってもらっても構わないようだ
「先程の亜沙美殿のコスプレ姿最高だったでござるよ。永遠に網膜に焼き付けたでござる❤︎」
「は、恥ずかしいからぁ…早く忘れてもらっても良いんだよぉ…」
人見知りで引き籠もりギミの亜沙美からすれば、人前でブルマ体操服にエプロン姿を晒したのは、かなり恥ずかしかったようだ。着替えてから30分近く経過しているが、まだ少し顔が紅い
そんな照れている亜沙美をジッと見ている服部。その視線に気が付いた亜沙美は、さらに照れた
「ね、ねぇ服部さん。今日は凄く見てくるけど…そんな見られたら恥ずかしいよぉ…」
そう言って亜沙美は恥ずかしさを誤魔化そうと、クラスの女子から「お疲れ様」と手渡されていたジュースを流し込んだ
「わはは♪すまぬでござる。なにしろ、明日からまた東京に行かねばならなくなってしまいまして…3-4日は帰れそうにないので、亜沙美殿の身体を目に焼き付けておきたいのでござるよ(笑)」
「そうなのぉ?…大変だねぇ…」
どうやら、裏家業である情報収集の仕事で再び上京するようだ。名残惜しそうに亜沙美の身体を見詰めていた
「まぁ、大した仕事ではなさそうでござるが…日頃の付き合いから断りにくい相手なのでござるよ。なので、亜沙美殿の柔らかそうな姿体を記憶しておくでござる♪」
「ε٩(๑> ₃ <)۶зもぉ!さっきから目付きがいやらしいってばぁ…」
「そう言えば服部先輩ってさ…それだけ身体能力が高いんだからさ、ガードの甘い亜沙美の身体を触ろうと思えば触り放題なのに、そういう事はしないわよね?」
「あ、ロミータちゃん。お疲れ様♪」
亜沙美と服部の話が華を咲かせている間に、急いで着替えを終えたロミータが、2人の背後から声を掛けてきた
「お待たせ、亜沙美♪」
「ふっ、推しに対して強引なセクハラ行為を行うなどは推しメンの風上に居る者として、あるまじき行為であるからな!」
確かに、身体能力が一般人よりもズバ抜けている忍者ならば。ましてや、その軍団の頭領である服部がその気になれば…持ち前の身体能力を活かして亜沙美に対してセクハラ行為など、やりたい放題だろう
しかし、亜沙美(浅宮アミ)を最推しとして崇めている服部は【アミー水】を強く熱望する事はあっても、実力行使はしないようだ
「トゥルルルる♪」
「ロミータちゃん、スマホ鳴ってるよぉ」
「あら本当だわ…少し失礼するわね」
ロミータはスマホの着信音をかなり下げていたのだが、椅子に座っている亜沙美の真横に位置どったので、スカートのポケットで鳴った小さな呼出音が亜沙美に聞こえたようだ。人の少ない教室の隅へ移動して電話に出るロミータ
「そうだ。茜ちゃんも東京行くのぉ?」
「茜でござるか?…今回は難しい内容ではないので、コチラの仮宿に待機させるでござるよ」
「そうなんだぁ…だったら明日の晩御飯でも誘っちゃおうかなぁ…」
服部には色々とお世話になっているので、彼が留守にしている間に妹の茜に食事でもご馳走しようかと考えた亜沙美だが…
「ウソ!?ママが車に轢かれたぁ!?」
教室の隅で父親からの電話に出て話をしていたロミータが、クラス内の全員が振り返るほどの大きな声をあげた!
「うん、うん…分かった。じゃあ、タクシーでその病院に向かうから…うん、うん。それじゃ待っててよね…」
「ロミータちゃん!どうしたの?」
あまりにショッキングな内容が聞こえたので、亜沙美はロミータに駆け寄って声を掛けた
「あ、亜沙美…仕事中にママが車に轢かれたらしいんだけど、幸い轢いた運転手がママを病院に送ってくれたらしくて、足の骨を1本折ったくらいらしいんだけど…万が一もあるから入院するらしいの…」
「そうなんだぁ…でも大した事にならなくて良かったねぇ…」
「うん…でも心配だから一応病院行くね…あっ!?亜沙美…」
何かに気が付いたロミータが、亜沙美にグッと近付き彼女の耳に口を寄せて、人に聞かれないように小さな声で何かを伝えた
「うん。大丈夫だよぉ、1人で行ってくるからロミータちゃんはお母さんの所に行ってあげてねぇ」
「ありがとう亜沙美…ねぇ、梨香ぁ!」
亜沙美に伝えたロミータは、クラス委員長をしている梨香に今から病院に行くことを伝えた
【21:05】
ロミータが気にしたのは、毎週土曜日に2人でボイトレの練習に行くのを、今日は亜沙美1人に行かせてしまう事であった
「今日は良く声が出ていたね、良かったよ。何か良い事でもあったのかな?」
「えぇ、昨日今日と文化祭だったんです。今日はクラスの出し物で、コスプレ喫茶店をしたんですけど、凄く恥ずかしかったけど私のコスプレを、みんなが喜んでくれたのが嬉しくて…」
「そうなんだね。1つ成し遂げた事で気合いが乗って良い声が出せたみたいだね。若い内に色々な事に挑戦するのは良い事だ。失敗しても成功しても、必ず後々の糧になるからね」
亜沙美の所属している【コンサート・プリンセス】は、毎年恒例のカウントダウン・ライブが行われる
今まで人の交流を避けていた亜沙美は、友達同士でカラオケに行ったことは、ロミータと同棲し出すまで1度も無かった。それ故に、今年それに参加しなくてはならない亜沙美は、例え1人でもボイトレを休む訳にはイカないのだ
「それでは失礼します。今日もトレーニング有難うございました!」
「帰りはタクシーかい?」
「いえ、歩いて数分でバス乗り場ありますので、バスで帰るつもりです」
「そうか、田舎とは言え夜に女子高生の1人歩きは危険だから気を付けるんだよ?」
「はい。それでは…」
都会や大きな街に比べて人口も少ないので、大きな犯罪も滅多に起きないのだが…それでも万が一は無いとは言えない
しかし、歩いて数分でバス乗り場があるので1人で帰ることにした亜沙美
【夜の町中】
「うぅ…1人で大丈夫と言って出てきたけどぉ………暗いし静か過ぎるのが余計に不気味だよぉ…」
数百メートル歩くだけの事なのだが…ロミータと同棲を始めてから久しぶりの1人の行動。しかも、街灯も少なめな人通りも少ない夜の中を歩くのは緊張感を与えてきた
「ロミータちゃんのお母さん。本当に無事かなぁ?大した事じゃなかったら良いんだけどぉ…」
「したしたしたした」
「したしたしたしたした」
「( „❛ ֊ ❛„)んっ?あれ?今なんか足音が1つ余分に聞こえた気が…もしかして誰か居る?…」
もう少しでバス乗り場に着くのだが、視界に自分以外誰も見当たらないのだが…歩く足を止めた時、遅れて余分に足音が聞こえた。亜沙美に恐怖が走った!
(ま、まさか…誰かに付けられてる?偶然、私以外の歩行者が居るのかな?…でも、見渡す限り私以外誰も見当たらないんだけど…もしかしてストーカーさんとか?)
薄暗い町外れを歩く亜沙美は、背後から他人の気配を感じていた。偶然、見知らぬ誰かがたまたま同じ方向に歩いているだけなのか?
亜沙美は声にならない恐怖に包まれた!
続く




