転生自販機はじめました。
私は、失恋した
この春志望した高校へ入学した花の16才
中学1年から3年間同じクラスだった大好きな彼を
追いかけてきのに。初恋相手だったのに
初恋は叶わない。もしもそんな格言があったなら
私は、一票投じるだろう
私は、どこかできっとOKしてもらえると根拠の無い
自信を持っていた。だからなのかもしれない、断られた
ショックが大き過ぎて頭がクラクラしている
帰路について大分経つが、断られた時の光景が頭の中で
リピートされては泣き出しそうな気持ちを必死に抑えてる
彼氏のいる高校生活。思い描いてはモジモジしていた
自分が恥ずかしい。そしてぼんやりと想像する。きっと
私も彼も他の誰かと結婚しそれぞれ家庭をもうけてるんだ
ろうと
通いなれた通学路。午後五時を知らせる鐘が鳴った頃に
その自販機に差し掛かった。おかしい。確か普通に
缶ジュース類が販売されてた自販機だった筈なのに
真っ白い販売機に、白い缶が並び客を待っていた
取り出し口上部に張り出された営業文句に目が止まった
「転生自販機はじめました。」
まるで「冷やし中華はじめました」みたいなノリだが
拭い切れない違和感。私は、目を点にしながらもその
文句から目が離せない。何かの冗談か、悪戯か、はたまた
ドッキリか・・・
目を凝らしてみると更に何か書かれていた
「130円で130分の転生体験を、アナタに」・・ますます
怪しい。のに私の好奇心を刺激し心を鷲掴みにした
急いで小銭入れから130円取り出し食い気味に料金を
投入する。一斉に光る商品ボタン、どれも同じだろうと
適当に押すと、ガチャンゴロゴロゴロンゴロンと
缶ジュースを買った時のお決まりの音をたて商品を
はきだした。取り出したソレは何も印刷されてない
真っ白い缶だったが確かに何か入っている
もしも単なるジュースだったとしても130円なら
ちっとも悔しくない。そう自分に言い聞かせ一気に
飲み干した。飲み干した。味は特にしなく飲み込んだ
液体が胃に流れてくのを感じた
何よ!やっぱり悪戯だったのかい!?と自販機の隣に
備えられた空き缶入れに缶を叩き込んだ
「いい飲みっぷりだな」
聞き覚えある声が私を正気に戻し、声の主の方へ
振り返る。やっぱり!さっき私の告白をあっさりと
断った彼その人だった。はしたない姿を見られた
恥ずかしさと悪戯っぽく笑うやんちゃな彼の顔に
カーと自分の顔が赤くなってくのが分かった
「何よ、何か用?」照れと緊張からそそくさと歩き
はじめる私に、自転車を引いた彼も後から付いて来る
沈黙、同じ足取りで同じ早さで歩く
道に伸びた二人の影、いつか少女漫画で見てずっと
憧れていた光景の中で私はキュンとし、心臓もいつに
なく早く脈を打っている。彼に聞こえてないか心配に
なる程に
「なぁ、何か食っていこうぜ。俺腹減っちゃったよ」
彼のエスコートでもとよりのファストフード店へ
立ち寄った。目の前でガツガツとハンバーガーにかぶり
つき続けてフライドポテトも口に放り込む。彼の食べ方
はまるで子供て見ていて飽きなかった
「休みの日とか何してんの?」彼の不意つく質問にシェ
イクを胃に流し込んでいた私は、むせ慌ててハンカチで
口元を拭った
「え、あ〜何も無ければ映画とか見に行くよ」目を合わせ
たり外したり、向き合って食事なんて恋人同士みたい
ソワソワしてる事を感づかれ無いように私もハンバーガー
にかぶりつく。それから自然と会話は弾みずっと私が
知りたかった彼の情報をまるで記者の様に引き出していた
どこで生まれたの?何人家族?兄弟は?何が好き?何が
嫌い?今、付き合ってる人、いる?・・・は流石にきけず
口から出かかった処で飲み込んだ
周りが暗くなってきた頃に店を後にし、彼は私がいつも利用
する地下鉄まで送ってくれた
「なぁ、次の休み、映画行かね?」
彼の唐突な誘いに戸惑いを隠せなかった。でも行きたい
「うん、いいよ。じゃあ連絡先交換し・・」言い切る前に
私のスマホが鳴った。何よこんな時に!?と急いで鞄から
取り出し画面を見ると母からだった。もう何なのよ、何で
今なのよと半ばイライラ気味に応答する
「もしもし、お母さん?今忙しいからあとに・・・」
え、何?。電話は着信さえしてなかった。気付くと捨てた
筈の空き缶を握り締め、スマホに視線を落とす自分に
問いていた。スマホの時計は19時10分を表示していた
130円で130分。私は、あの怪しい宣伝文句を思い出し
愕然とした。うそ、本当に転生してたの私!?
私は、訳も分からずアノ自販機目指して走っていた
130円であんな体験できるなんて奇跡じゃん、ミラクル
じゃん。もう1回買おうと意気込み自販機へ到着するも
それは普段見慣れた普通に缶ジュースを販売する自販機
に戻っていた。何なの、夢?でもこの缶は?と握り締めた
筈の空き缶もいつの間にか手の平から消えていた
私は、すっかり混乱してたが不思議と経験した出来事は
よく覚えていた。何よりも増してアノ伸びた二人の並んだ
影が忘れられ無かった。もう一度、もう一回だけあんな
出来事を、私に。そう祈り普通の自販機に同じく130円
投入し、ボタンを押した
あの同じみの音をたて吐き出された商品へ手を伸ばした
え、うそ・・・