婚約破棄を阻止せよ!! ~王家メイド達のシークレットミッション~
私の前には、今まで共に戦ってきた五人の部下が口を堅く結び、緊張の眼差しを向けている。
分からなくもない。メイド長である私、ハウルでさえもこれまでの仕事以上に震えているのだから震えるなというほうが無理だとは重々承知している。
────しかし、私たちは王家のために国王陛下から与えられたミッションを遂行しなければならない。
これは、この国の存続に関わる重要な給仕なのだから。
私は飛び跳ねる心臓の動悸を隠しつつ、部下に向かって口を開く。
「……皆さん。昨日はあまり眠れなかったでしょう。『なぜ数いるメイドの中で私だけがこんな目に……』と私を恨んだ者もいるかもしれません」
私の言葉に、五人は申し訳なくそっと目を伏せる。
おおむね予想通り。動じることではない。
「……当然です。大いに恨んでください。蔑んでください。私はあなたたちに恨まれる覚悟はできています。────それでも、これだけは言わせてください。私は、あなたたちと一緒なら阻止できると信じています。できると確信したから、あなたたちを選んだのです」
「……わ、わたしもですか?」
私の言葉を遮り、おずおずと私の選んだ五人の部下の一人、アルムが小さく手をあげる。
彼女は王家に給仕するメイドのなかで最も新米だ。自分の実力に自信が持てないのだろう。
私はアルムを安心させるため、口角をあげて柔和にほほ笑む。
「ええ、そうですよアルム。私はあなたに期待しているのです」
「わ、わたしはよく食器を落としますしハウル様にもよくしかられます。こんな未熟なわたしよりも先輩方の方がこの給仕にはふさわしかったのでは……」
不安に押しつぶされそうなアルムはスカートの端をぎゅっと握る。
まるで、メイド見習い時代の私を見ているようだ。
だから、選んだ。
「いいえ。それは違いますよ、アルム。────アルム、よく聞きなさい。メイドは確かに技術が問われます。それが、メイドです。……しかし、メイドは技術だけで成り立つ職ではありません。私が思うに、最もメイドに大切なものは諦めない心です。私はあなたがいつも努力して、どれだけくじけそうになっても仕事を放棄せずに頑張ってきたのを知っています。ここにいるみんな、あなたがふさわしくないだなんて思っていません。……あなたは立派な王家に使えるメイドなのですよ」
「ハ、ハウル様ぁあ~」
私の言葉に、アルムは目に涙をためる。
諦めない心、たとえどんな技術力を持ったメイドでもこの心を忘れていたら、私はそれを下の下と判定する。
そんなメイドに、価値はない。
「やったじゃんアルム。ウチなんてほとんどメイド長に褒められたことないんだよ。上等上等、……でも今泣くのはやめな。泣くのは全て終わった後だぜ」
「ナリス先輩……そうですね。泣くのは我慢します!」
メイド達のムードメーカーでアルムの姉的存在、ナリスが優しくも厳しい言葉をかける。
彼女もだいぶメイド姿がさまになってきましたね。城に来たばかりのころは小さかったのに。
二人の成長に心の中でほっこりする。やはりメイド長をしていて一番うれしいときはこういう時だ。
「二人とも、まだ仕事中。それも部屋の中でやって」
「へへ、すみませんフィナン先輩。ちょいと浮かれてしまいました」
「もう、しっかりしてよね……」
「どの口が言っていますの。フィナンも昔はだいぶヤンチャしてましたけどね。例えば……」
「なっ!? プニル! そんなわけは……ちょっと口を開かない!」
部下の中でも特に仲のいいメイド、フィナンとプニルが騒ぐ。
二人は同期のメイドなのだが、見習い時代は相当イタズラ好きでよくしかっていた。
イタズラ癖をやめさせるのには本当に苦労した。今でも二人のヤンチャぶりが鮮明に思い出せる。
……しかし、それはもう昔の話。今では王家メイドの中堅コンビとして私が目の届かないところでもしっかりと見習いたちを束ねてくれる頼れるメイドだ。
「……少し緊張がほぐれ過ぎてるんじゃないかしら。四人とも」
「「「「ッ!」」」」
「ハウルさんの手を煩わせないで。王家メイドたるもの、自己管理はしっかりしなさい」
「「「「は、はいぃ! 申し訳ありませんカラリスさん!!」」」」
部下の中では私の次に長く王家に仕えているメイド、カラリスが鋭い眼光を四人に向ける。
私の右腕の立ち位置にいる彼女はしっかり者だ。陛下にミッションを依頼されたあと真っ先に協力を頼むほど、私はカラリスに絶対の信頼を置いている。
後輩たちの教育もしっかりできている。私がこの城を去ることになったら次のメイド長はカラリスだろう。
少し他のメイド達に怖がられている気がしなくもないが、彼女ならきっと立派に務めてくれるだろう。
「……コホン」
私は咳払いをして五人の注目を集める。
もしかしたら明日私は彼女達の前に立てていないかもしれない。
だからこそ、部下達にはメイド長である私の姿を焼き付けてほしい。
テンプレーノ王家メイド長としての私を。
「全員緊張がほどけてきたようですね。私としてもそのほうがやりやすくて助かります」
私は真剣な眼差しをむける彼女たちに今日のミッションを説明する
「では皆さん。昨日話した通り、私たちがすべきことはクラウス殿下がお考えになられているエミール公爵家令嬢ミノス様との婚約破棄の阻止です。これは非常に由々しき事態、陛下は殿下の行動による公爵家との関係のこじれを危惧しておられます。その婚約破棄を殿下がご公言なされようとしている場所がこの城にて行われる祝賀パーティーです。このパーティーには各国の要人や我が国の重鎮が出席なされます。もし殿下が公言なされれば発言の撤回はほぼ不可能。王家の信頼の失墜につながりかねません。そこで、私たちがあらゆる手を使い『殿下が発言する機会』自体を無くします。これが今回のパーティーでの最優先事項です」
私が目的の概要を説明すると、アルムが手をあげる
「は、ハウル様。その……今回の目的には必要ないかもしれませんが一応。クラウス殿下が婚約破棄を画策なされているのは昨日お聞きしましたが、そのあとクラウス殿下は誰と婚約なされようとされておられるのでしょうか?」
……ふむ、それも一理ある。説明しておいたほうが殿下の思惑の阻止に役立つかもしれない。
「ありがとうアルム。それも説明しておくべきでしたね。そのクラウス殿下が懸想されておられるお方というのは同じエミール公爵家の次女シルキー様です」
「え……それでは別にエミール公爵家様に実害はないのでは?」
「確かに、アルムの言う通り殿下とシルキー様がご婚約されてもエミール公爵家にデメリットはありません。しかし、シルキー様は実を言うとエミール公爵と平民の子。クラウス殿下とシルキー様が結婚なさるということは王族の血に平民の血が混ざってしまうということになります。これは王家の品格を落とすというだけでなく今まで王家が継いできた血統を汚すという意味です。それだけで今後の王家の縁談の懸念点になりかねません。今回のミッションにおいてシルキー様の動向も重要要素となります。各自注意してください」
私がそう締めくくると、五人がこくりとうなずく。
その表情は硬いが決意に満ちており、瞳の中には燃える炎が見えた。
……これなら、なんとかなるかもしれませんね。
「それでは皆さん。準備に取り掛かってください。くれぐれも私たちが裏で動いていることを周囲に気取られてはいけませんよ。……いいですねッ!?」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
「ハウル、この姿をどう思う」
「大変麗しゅうございます。クラウス殿下」
「フフフ、シルキーも喜ぶといいな」
顔に笑顔を張り付けてクラウス殿下をお褒めした。
私たちがその懸想を諦めさせようと思っているとはつゆ知らず、私の言葉で満足気なクラウス殿下は恥じらうことなくシルキー様への恋をそのまま語る。
事情を知っている者からみれば滑稽な様子に見えるだろう。
ちなみに、殿下のお側にいるのは私だけだ。
アルムとナリスはミノス様の監視、フィナンとプニルはシルキー様の警戒、カラリスは緊急時にそれぞれのサポートができるよう待機している。
これが万全の体制と言えるわけではないが、現状でできる最善策だと私は思っている。
「行くぞ、ハウル」
「かしこまりました」
大扉を開けてパーティー会場へと足を踏み入れる。
彼女たちは……ちゃんと仕事を行っていますね。決して悟られないようにお願いしますよ。
私がきちんと給仕を行っていることに安堵していると
「クラウス様!」
「おおシルキー! 元気にしていたか!?」
「はい! クラウス様のおかげですこぶる元気でございます!」
ふわふわとしたドレスに身を包んだ少女が猛スピードでクラウス様と接触する。
このお方がシルキー様。クラウス様が恋慕なされている公爵令嬢だ。
その出で立ちは一言で表すなら「派手」。
少々申し上げにくいが、私は好きに慣れないタイプである。
シルキー様がにこやかに笑うのを見て、殿下の目尻が下がる。
「……クラウス殿下、お久しぶりです」
「……ああ、ミノスか」
しかし、ある一人の少女が話しかけたことにより殿下の機嫌は露骨に悪くなった。
名前はミノス様。クラウス殿下の婚約者だ。
腹違いの妹は違い、控えめなドレスを着ておられる。
私はどちらかと言えば彼女のほうが性格的に好ましく思う。ミノス様の謙虚な姿勢は評価するべきだ。
まぁ、それは私の個人的な主観なので口に出すことはない。出しても意味がない。
「このパーティーを楽しんでくれ」
「ええ、そうさせていただきます」
そんな心のこもっていない、言葉だけの社交辞令を交わして二人はその場を離れた。
お互いがお互いを毛嫌いしているのか……いや、あれは無関心と表現したほうがいい。
昔はあれだけ仲が良かったのに。狂わせたのは誰なのか。
若かりしお二方を思い出し悲しくなる。
「ハウル、もう付き添いはしなくてよい」
「……はっ」
殿下にそう言われ、私は一礼した後に給仕に専念するカラリスに接触する。
「カラリス、四人の仕事はどうなっていますか?」
「ああ、ハウルさん。四人はおおむね順調です。特にアルムとナリスはミノス様と知己を得ることに成功しており、お側にいること自体が自然という状況を作ることができています。この結果は非常に有利に働くでしょう」
「成程、やはり年齢の近い二人をミノス様につけさせたのは正しかったようですね。よろしい。このまま静観を続けましょう」
「了解しました」
私はほっと胸をなでおろして給仕へと加勢する。
この場には王族や貴族など上流階級がいる。問題なんて起きないはずがない。
周囲の警戒を怠らずに配膳やドリンクの提供を行う。
アルムとナリスが時々ミノス様と立場を忘れておしゃべりしているのはカチンときたが、場所が場所で目的が目的だ。多めに見てやろう。
「「……ハウル様。ちょっとよろしいでしょうか」」
「フィナン、プニル。どうしたのですか?」
と、ここでシルキー様を監視していたフィナンとプニルが私に声をかける。
プニルの手には鮮やかな桃色のハンカチーフ。
「シルキー様の落とし物なのですが……」
「私共では近づけず……」
「……はぁ。つまり私に届けて欲しいというわけですね」
「「は、はい……」」
二人が申し訳なさそうにうつむく。
……わからなくもない。シルキー様は高飛車な性格だ。ただの一メイドでは声をかけても相手にしないだろう。
私はため息をついて
「わかりました。私が届けておきましょう。二人はこのまま監視を続けてください」
「「も、申し訳ありません……」」
プニルの手からシルキー様のハンカチーフを受け取り四角にたたむ。
まぁ、むしろちょうどいい機会だ。シルキー様と接触できる理由ができた。
私は公爵家の権威に集まる取り巻きに笑顔を振りまくシルキー様のところに歩く。
「……シルキー様」
「ん? 誰?」
私が声をかけると、シルキー様はうっとおしそうに首をかしげる。
やはり、私のことは眼中にありませんでしたか。当然のことではありますが。
静かに頭を下げて名前を言う。
「私はこの城でメイド長をしているハウルと申します」
私が自己紹介をすると、シルキー様の表情が露骨に変わった。
周りの貴族に振りまくような笑顔に。
だから、私はこのお方を好きになれないのだ。相手の立場によってコロコロと態度が変わるその性格が。
……もちろん、そのことを顔に出す私ではない。淡々と目的を達成するために行動する。
「実はメイドの一人から落とし物が届きまして。こちらのハンカチーフはもしかしたらシルキー様のものではございませんか?」
「ああ! それは私のものでございます! ご親切にどうもありがとうございます! さすが王家のメイド長ですね!」
シルキー様は仰々しく感激しながらハンカチーフを受け取る。
演技らしい演技をされなさる。愛嬌を振りまいているのがバレバレだ。
ここにいる理由がなくなった私はシルキー様にもう一度頭を下げる、
さて、目的も済みました。さっさとこの場を離れてしまいましょう────
「ハウル、お待ちくださいまし。少しの間私とお話しませんか?」
「……はい?」
と、シルキー様が私を呼び止めた。
シルキー様は細く長い両指をあわせて
「私、少し知りたいことがございますの。殿下について」
「……ほう」
私はシルキー様の言葉で警戒を最高レベルまで上げる。
私の立場を聞いて、ついに正体を現しましたか。
……いいでしょう。受けて立ちます。
「まぁ、少しなら大丈夫です」
「いやいや、ハウルが心配をするほどでもありませんよ。ほんのちょっぴり殿下の好みについてお聞かせ願えればと」
「ええ、いいですよ。シルキー様のお願いとあらばお話ししましょう」
「まぁ! ありがとうございます! では殿下のご趣味とか────」
「そうですね。殿下は────」
殿下の好みについての情報をシルキー様に流す。
ここで嘘をつく理由もない。むしろ嘘をついたほうがシルキー様を敵に回すことになる。
私たちは殿下が婚約破棄することを阻止したいだけであってシルキー様を敵に回したいわけではないのだ。
私がシルキー様に情報を与え、逆にシルキー様の情報を得ている時
────事件は起こった。
「おや、そういえば殿下は何をなされているのでしょうか?」
「ッ!?」
シルキー様が私の後ろを指差す。
私が振り向くと、殿下が周囲の目を集めていた。
殿下の前でミノス様が青ざめて驚愕した顔をしている。
────しまった! シルキー様との会話で殿下のことを完全に忘れていた。
「面白いことになっていそうですね」
シルキー様がほくそ笑む。
まずい。本当にまずい。
最悪の状況に頭が真っ白になる。
私が信条としてきた諦めない心がポキリと折れそうになる。
もう私がで斬ることが何もない。どうあがいても。
私は殿下に手を伸ばして心の中で叫ぶことしかできない。
クラウス様!どうかお止めに────!
殿下はミノス様に指を突き付け口を開く。
「ミノス! 俺はおまえに婚約は────」
と、その時
「キャッ!?」
ミノス様が甲高い声をあげた。
ポタリと雫が落ちる音と共に、ガラスが床に落ちて割れた。
そして「うげっ」というカエルのつぶれたような声が聞こえる。
それは、私たちがよく聞いている声だ。
「すすすすみません! 私のせいでミノス様が────!」
そう群衆のなかで、わざと注目を集めるように声を張り上げるのはアルム。
ドリンクに濡れ、顔から水を滴らせるミノス様に何度も頭を下げる。
会場の空気が変わった。
「おいアルム! なんてことをしてるんだ!」
「はわわわ、すみませんナリス先輩!」
「バカ野郎! 私に謝るんじゃなくてミノス様に謝れ! ミノス様、本当にうちの下っ端が申し訳ございません!」
アルムとナリスが大声をあげて注目を集めながらも、私に意味深なまなざしを向ける。
……そうですね。私が諦めてどうするんですか。
あなたたちにその心を教えたのは私じゃないですか。
二人の姿を見て、私は覚悟を決める。
「シルキー様、失礼!」
シルキー様に断わりをいれ、人混みをかき分け中心にたどり着く。
「ミノス様! 本当に申し訳ございません! アルムが粗相を働いてしまいました!」
「い、いえ……これくらい何でも……」
「あとでアルムにはきつく言っておきますのでどうかお慈悲を……! ああ、その前にお召し物が濡れてしまいました! こちらで代わりのものを見繕いますのでどうか別室に」
その場の主導権を握り「フィナン! プニル! ミノス様を化粧室に案内してあげなさい! カラリスは先に服飾室に行って服を持ってきて! 全責任は私が取ります!」と声を張り上げる。
私の命令にうなずいた三人は急ぎ自分の仕事に取り掛かった。
ミノス様がいなくなった広間に沈黙が流れる。
婚約破棄を宣言する機会を失った殿下は顔を赤くして震え、ミノス様に突き付けた指をずらしてアルムに向けた。
「ハウル! お前の教育はどうなっているのだ!」
「はっ。まことに申し訳ございません。これは私の監督不行き届きでございます。私とアルム、甘んじて処罰を受ける所存でございます」
「ハ、ハウル様……」
「黙りなさいアルム! 起こってしまったものは仕方ありません!」
「ひっ」
アルム、あなたはよくやってくれました。
あなたの勇気ある行動がなければ、ここまで事態を改善することはできませんでした。
最善ではありませんが、これでいいのです。
私は震えるアルムに柔らかな目を向ける。
あなたは何も悪くありません。我が身に変えてでも私があなたの処罰を軽くしますから安心してください。
頭を下げながら、私がこれからのことを考えていると
「……殿下、ここは私の顔に免じてハウル達を許していただけないでしょうか」
私がとっさに顔をあげると
「シルキー様……」
「シルキー! なぜ!?」
「人を助けるのに理由なんて必要でして?」
人だかりを割ってシルキー様が私の前に立ちふさがる。
その顔は依然と笑顔を張り付けたままだ。
非常に優しいお心の持ち主だ……と、周囲は思うだろうが、私にはわかる。
シルキー様は状況を利用しただけだ。自分の株をあげるために。
殿下への好感度も必然的に上がってしまうだろう。
……しかし、私はその行動に助けられた。
悔しい気持ちもあるが、私はその言葉にすがるしかない。
己の大好きなシルキー様に言われ、殿下は渋々アルムに向けていた指を下げる。
「……フン。シルキーが言うのなら仕方ない。許してやる」
「殿下のお慈悲に感謝いたします」
「か、感謝いたします!」
殿下は「興がさめた」と安堵する私たちに背を向けた。
……。
「クラウス様」
「なんだ? 今の俺は機嫌が悪い」
「ええ、ですので手短にしておきます」
私はすぅっと息を吸い、殿下をにらみつける。
「王家のためにも、あまり過ぎたご発言をされませんよう。殿下ならお分かりですね?」
「ッ!?」
「では私はミノス様のご様子を見てまいります。では……行きますよ。アルム、ナリス」
「「は、はいっ!」」
体をびくりと震わせて呆然とする殿下にすこし溜飲が下がった私は、二人を連れて広間をあとにする。
「二人は先にフィナンとプニルの手伝いをしてきてください。私はカラリスの手伝いをしてきます」
「「わかりました!」」
「あと二人とも……よくやりました」」
「「ッ! ……ありがとうございますハウル様!」」
私の言葉に感激し頭を下げたあと、「やりましたね先輩!」「ああ! やっぱり私たち天才だぜ!」と廊下を軽い足取りで先輩二人の元へ向かう。
その姿を見て、私は顔がほころんだ。
「ハウルさん」
「カラリス、ちゃんとお召し物はとってきたようですね」
私の背後で、着替え用ドレスを持ったカラリスが立ち止まる。
「さっさと行きなさい。ミノス様を待たせてはいけません」
「……ハウルさん」
カラリスは私の後ろで立ち止まったまま、静かに言った。
「ミノス様が自分の姪っ子であることぐらい、四人に話してもいいんじゃないんですか? 殿下に婚約破棄をさせたくないのは、誰よりもハウルさんなんですから」
「……」
「では私はこれで。ハウルさんもすぐに来てください」
カラリスが早い足取りで私を追い越す。
私は額に手を当てて思わず笑ってしまった。
……いやはや、やはりミノスを見ていると姉が思い浮かんで、つい顔にでてしまいますね。
あの子には、城に嫁いで幸せになってもらいたいんですよ。
私はあの子に仕えるのが夢なんですから。