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シャドラ ~Shadow in the light~  作者: Crom
第1章:Blue Blood Panic
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6.シェリルとの出会い

≪前回までのあらすじ≫

アドルフが持ってきた依頼は2つ。

1つは、噂の連続変死事件に関するものだった。

そして、もう1つの依頼は.....。


 昼食時の食卓では、ミシュラン家の令嬢「シェリル・ミシュラン」がカイル、サクラの兄妹にあれこれ話しかけられながら食事をしていた。


 そんな様子を遠目にリュウガは今朝アドルフの言った「もう1つの依頼」について考えていた。




 「へぇ、この子の護衛、もとい保護をするのが今回のもうひとつの依頼なの?」


 「あぁ、この事件が解決するまで彼女を守って欲しい。」


 「なんだって俺たちがコイツの面倒をみなきゃならないんだ?」


 普通ならば貴族の娘がこんな廃棄区画にあるよくわからない店に来ること自体信じられない事なのである。

 ましてやアドルフの依頼はその令嬢をそんな店でしばらく預かるというありえないものだ。


 「もちろん私だってこんな危険極まりない掃溜めにシェリル様を預けるのは本意ではない。だがシェリル様の母君であられるデイズ様が吸血鬼であるかもしれない以上、シェリル様をそのまま置いておくわけにもいかんだろう。ミシュラン家と我がヴァルト家は遠縁の親類関係にあたるのだ。私自身デイズ様やシェリル様とも少なからず交流がある。今回の事件、可能な限り犠牲者を減らしたいのだよ。」 


 アドルフの表情は相変わらずの仏頂面であったが、その瞳からは純粋なやさしさが感じられた。


 「ここに彼女を連れてきた目的は、勿論事が収まるまで身の安全を確保するためだが他にも考えがあってな。彼女は少々人見知りの激しいところがあるのだ。私個人としては、彼女には今のうちに今自分がいるのとは違う世界もあるということをもっと知ってもらいたいのだよ。貴族という生き様が彼女には重しになっているようであれば尚更のこと。」


 そういうアドルフの口調はまるで昔の自分に言い聞かせているかの様だった。

 淡々と語り続けていたアドルフだったがカイルの視線に気がつき一瞬で元の表情へと切り替える。

 昔からアドルフはそんな全てを見透かすかのようなカイルが苦手なのである。


 「でもさ、被害者を減らしたいって言ってもミシュラン家なんてデカイ家だと娘さん一人保護したところで意味がないんじゃない?他にも貴族の方や使用人もあわせればかなりの数になるし。」


 近年長く続く不況のせいかでは貴族の住まう一等地の辺りでも昔ほど治安が良く無く、余裕のある貴族たちはこれまで以上に警備員や腕の立つ使用人を多く召しかかえる傾向にある様だ。


 「ふむ、その必要はないだろう?貴様らなら当然気づいているものだと思っていたが。今回の吸血事件、被害者はすべて年若い貴族の子供ばかりなのだよ。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「どう?美味しい?」


 「・・・・はい」


 サクラは自分と年の近い女の子が来たことがうれしいのかやけに笑顔だ。

 カイルもそんな二人を微笑ましそうに見守っている。

 

 「うん、やっぱりさ笑顔の女の子がいるとこっちも楽しくなるね。リューガもそう思うでしょう?」


 「あぁ、そうだな」


 ただ一人リュウガだけはいつものペースであったが。


 「しかしシェリルちゃん、というよりも貴族の感覚ってやっぱりすごいね。びっくりしちゃったよ。」


 そう、シェリルの思考・行動は一般庶民(本当は極貧生活)を続けていた「BLITZブリッツ」の面々には少しカルチャーショックが大きかった。


 「確かにウチに入って来た途端に『ここが客間ですか、リビングなどは別館にあるのですか?』ときたからな。相手が庶民なら正気かどうか疑うレベルだ。」

 

 何でも屋「BLITZブリッツ」は見た目とは違いそれなりに広い造りになっている。

 もともと立地が治安の悪い地区なので地価が安いことと、三人が生活する住居スペースと店を兼ねているので多少大きく造られているのである。

 

 「しかもお腹が減ってるみたいだから急いでサクラに料理を作ってもらったのはいいけど『メインディッシュは何ですか?』ってねぇ。あの子俺たちが普段食ってるものみたらおそらく食べ物だと認識してくれないんじゃないかなぁ。」

 

 ちなみに今シェリルの前に並んでいる料理はカットした鶏の照り焼きとサラダ、旬の野菜を煮込んだスープとちょっとしたお店のランチで出てきてもおかしくないようなものである。

 シェリルの保護を依頼するにあたりアドルフが少なくない額の前金を支払ってくれたのだ。


 「失礼なことを言ってしまってすいません。そのなんというか、ここのこと・・まだあまりよくわかっていなくて・・・・。」


 非常に申し訳なさそうにシェリルは小さい声で謝罪を述べた。


 「ううん、気にしないで。別にシェリルさんが悪いわけじゃなくて、ウチの問題は全て甲斐性無しな誰かさんたちのせいだから。」


 笑顔で毒を吐くサクラに返す言葉がない。

 

 「・・耳が痛いな。」


 「ではもう少しがんばってください。これからはシェリルちゃんも増えるわけですから。お二人ともやればできるんですから。」


 「い、いえ。そんな、気を遣ってくださらなくても。」


 「いいんです。むしろ今回のことはお二人にしっかりしてもらういい機会だと思ってるんです。それにシェリルちゃんこそ気を遣わないで。敬語じゃなくてもっと自然な言葉遣いでいいから。」


 「で、でも・・・・・。」


 「いいのいいの。何にも気をつかわず好きにしてくれれば。」


 それでも申し訳なさそうにしているシェリルにカイルが声をかけた。


 「いや、本当に好きにしてくれていいんだよ。サクラも喜んでるみたいだし。それにね、この家ではアイツの決定が絶対なんだよ。だから本当に気にしないで。」

 

 カイルの言葉に何でも屋「BLITZブリッツ」の最高権力者は「どうだ!」と胸を張った。

 もっとも張るほどのボリュームどころかほぼゼロに近い胸なのだが。


 「そ、そうなんですか・・・?」


 「こんなちっこいのでも少しでも君に楽しんでもらおうと考えてるんだよ。無駄に元気なのだけが取り柄なんだけどね。」


 「失礼な!元気以外にも取り柄ぐらいあります!」


 そんな兄妹のやり取りを見てシェリルはようやく少し微笑んだ。

 まだまだ遠慮がちだが徐々に緊張がほぐれてきたようだ。


 「さて、じゃあ俺らはサクラに怒られる前に仕事でもしようかな。」


 「『ストランド』か?」


 一連のやりとりを興味なさげに眺めていたリュウガがようやく興味を示した。


 「そ、何事もまずは情報を得ることからだよねぇ。サクラはシェリルちゃんにこの店のこととか色々教えてあげておいてね。じゃ、行こうか、リューガ。」


 「そんなこといってまた「ストランド」でサボるつもりじゃないでしょうね!?」


 「サ~クラ~~、大人になると時には美味しいものを食べたりお酒を飲んだりするのも立派な仕事になるんだよ?」


 「アドルフからもらった前金もあるしな。」


 「ちょっ、ちょっと待って下さい!」


 サクラが慌てて制止の言葉をかけたときには、カイルとリュウガは既に店の外へ駆け出していた。


 「もー!二人とも無駄遣いしたら許しませんからねっ!」


 あっという間に通りの向こうに姿を消す二人。

 サクラの声だけが店の外の通りに響き渡っていた。



~登場人物紹介~

・シェリル・ミシュラン(new):ミシュラン家ご令嬢。気が弱そう。

・アドルフ・ヴァルト:今回の依頼人。実はシェリルとは遠縁の親類関係。

・カイル・ブルーフォード:なんでも屋 BLITZ」を営む。仕事といいつつ遊びに行っていることが多い。

・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):「なんでも屋 BLITZ」のメンバー。カイルほどはサボらない。

・サクラ・ブルーフォード:カイルの妹。主に兄の言動に頭を悩ませている。

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