前世の
「とりあえず、怪物は倒したぜ。」
あえて怪物を倒してから、遠回りをして戻ってきた。
「うん。お疲れ様。」
(いつも通りの)可愛らしい笑顔で迎えてくれた。しかし、その笑顔はすぐに真面目な顔に変わった。俺が机を挟んで雪の前に座ると、
「どうだった?何か聞き出せた?」
「ダメだったな。聞く耳はあったっぽいがまったく言葉を発しなかった。」
少し残念そうな顔をしていった。雪も小さくそっか...と言った。
「ねえ龍くん、さっき私が言った景色が変わるっていうやつの話だけどね。」
さっきのやつ...あぁ。すごい勢いで周りの景色が変わってるって言ってたやつね。
「実はさっき思い出したんだけど、前世の私たちは、前世のことを覚えてなかったの。」
前世のことを覚えていない?当たり前だろ。前世って一個しかないだろ?
「雪?お前まだ頭働いてないんじゃないか?言ってることが全然わからないんだが。」
そう言われた雪は少し考えて、
「龍くんが覚えてる記憶の中で一番古いのって何があったか覚えてる?」
一番古い記憶?
そう聞かれた龍は頭の中をフル活用して思い出したその時、彼の目は一段と暗くなった。
「でかい鳥の大群が街に襲いかかってきたことが大きいな。古いことだったら平原で寝転んでたことかな。」
雪ははっとして下を向いた。覚醒した時から出ている彼女の目の氷晶が少し揺れた気がした。下を向いたまま、「そっか」と返事をして、少し気まずい雰囲気になってしまった。
少し経った後、雪がゆっくりとこっちを見て、
「あのね龍くん。これは私の考えなんだけどね。」
俺は黙って聞いた。
「龍くんはまだ今までの記憶を思い出しきれてないの。」
俺はその言葉が頭の中で何回も回た。俺は雪が何か言っているが、全く聞こえなかった。そして突然、
「ぐうっ!?」
あの時と同じようなひどい頭痛が襲い掛かった。
「記憶を...思い出しきれてない?」
頭を押さえながら言った。少しずつ痛みは消えていった。それと同時に雪の言っていたことが少しずつわかってきた。
「つまり...雪は俺の知らないことを知ってるってことか...?」
手を頭から離していった。雪は小さく頷き、こう言った。
「私はサラマンダーが街を襲ったのは一番新しい記憶なの。それより前に起こったこちはね...」
「言うなっ!!!」
咄嗟にそう叫んだ。雪は突然の大きな声に驚いて目を見開いていた。
「俺の頭の中にあるはずの記憶は自分で取り戻さないと。他人から教えてもらったら俺の魂が混乱を引き起こして一生その記憶を思い出せなくなるかもしれない。だからなるべく言わないでおいてくれ。」
俺はなぜ急にこんなことが言ったかわからなかった。普段の俺だったら聞いていたはずだ。
一度深呼吸をして話そうとする。すると、
「ゲホッ!エホッ!」
突然咳きこんでしまった。雪の風邪がうつったのだろうか。
「龍くん大丈夫!?」
彼女は俺のことを心配をし、背中をさすってくれた。
咳がおさまり落ち着きを取り戻したとき、手のひらに違和感を感じた。見ると、赤黒い液体がべっとりとついていた。二人は同時に、
「へ?」
と声を出し、俺は意識を失った。




