過去と疑問と怪物と
雪が熱を出して一週間と少しが経った。ちょうど部活もなかったのでお見舞いに行ってみた。毎日行くべきだとは思っていたが、雪の母が、
「あんたもまだ学生でしょう?この子のことを気にしてくれてるのはうれしいけどそれで成績が落ちたり体壊したりしたら申し訳ないわ。」
と、こちらのことも気にしてくれたらしく、その言葉に甘えさせてもらうことにした。
彼女がすでに熱は引いたらしく、顔もそう赤くはない。まだ派手には動けない、いや、動かさない(俺が)が、普通の生活ができるくらいには回復していた。
俺は出された茶を一口飲み、雪に話しかけた。
「熱はもう引いたみたいだな。けど無理はすんなよ。倒れられたら困るからな。」
雪は俯きながら言ってきた。
「ごめんね...。一週間もの間一人で戦わせちゃって。」
「大丈夫だよ。出てきた奴らは大した事なかったし。」
彼女が倒れてからも、一日に一体怪物が現れていた。時に会話を試みようとしたが、聞く気がないのか、言葉がわからないのか、まったく話せる様子などなく、ただただ襲ってきただけだった。
雪は少し考える動作をした後、俺の方を見て言った。
「龍くんの記憶って、時々景色って変わった?」
言っている意味が分からなかった。
「へ?」
と、つい間抜けな声を発してしまった。
「ご、ごめんね、急にこんなことを聞いて。けど、寝てる時に何回か周りが全く違う景色になったりしてね。なんだろう...建物が発展していってるような気がしたんだ。」
俺はまだ理解をしていなかった。雪は続けて言ってきた。
「発展の速度も尋常じゃなくて、急に和式の部屋だけだったのが洋式の部屋になってたりね。本当によく分からなくて...」
俺は雪が熱を出してまだ完治していないからと思い、その話は深く考えなかったが、何かが頭で引っかかっていた。
「んー...景色は変わった様子はないな...そこまで発展するほど時間も経ってないしな。」
おそらくこれ以上考えてもわからないので、話を変えることにした。
「そういえば話が変わるんだけど、怪物と戦ってる間に気づいたんだけどさ、なんだか俺の周りばっかに現れるんだよな。」
「確かにそうだね。前世でも全部そういう感じだったしね。」
「それで俺が考えた仮説なんだけどさ、まず一つ目。何者かが俺の周りに召喚魔法を放って出現させている。」
雪は黙って聞いていた。
「二つ目は俺にかかってる呪いかなんかで湧いて出てきてる。三つ目は元から地中にいてそこから出てきてる。この三つを考えてるんだ。」
雪は考えるそぶりを見せてから、
「三つ目はないんじゃないかな?この前の鳥とかはどこからきたんだって話になるし、それに最初の怪物のところには穴なんてなかったよ。」
確かにそうだった。あの大きい口の怪物で壊れてしまっていた物は俺の攻撃以外はなかった。壊れた場所は、すぐに修復したけれども、被害があったのには変わりない。
「確かにな...そうしたら湧いて出てきてるのが一番有力か...」
「え?一番もないとはいえないよ。」
やはり雪はまだまだ未熟だな、そう思いその疑問に答えた。
「召喚魔法だったら魔力をしっかり感じるし、そこになんかしらの痕跡が残るはずだろ?」
「確かにね...。じゃあなんで言ったの!?」
目を丸くして言った。...可愛らしい。
「それもないとはいえないじゃないか。もしかしたら凄い勢いで周りの魔素に変換してるかもしれないだろ?」
「結構むりがあるけどね。」
雪は苦笑いをして言った。
(だけど、俺が感じれた魔力は、その「怪物」の魔力しか感じられなかった。そう考えると一番有力なのは...)
そう思ったその時だった。
急に大きな魔力を感じられた。俺は驚いて、急に立ち上がってしまった。驚いてしまうのは当然、おそらく今の雪の全力と同じくらいの火力を安定して、何十発も放てるくらいだった。しかし、その魔力は今まで戦ってきた「怪物」の魔力とは違って、荒々しくない、安定した魔力感だった。
「雪、気付いてるよな。」
小さい返事が聞こえた。
「今回はちょっとばかし話す機会があるかもしれない。とりあえず、俺のことは気にせず、安静にしてろよ。」
そういい、いつも通りの青い鎧を纏って、短く、鮮やかな青色の髪の毛を靡かせながら、窓から飛んだ。




