今すべきこと
あの後、雪は今日中に落ち着くことはできないと判断して、一旦解散した。俺は自分の魔力はこれくらいだと元から知っているから大して驚いてはいないが、この魔力はあの方から授かった魔力だと自己暗示を再びかけた。
誰にも言ってないことがまだあると思うと、胸が苦しくなった。
俺は家に帰った後、すぐに風呂に入った。
シャワーを浴びながら、今自分に何ができるか考えた。
雪との時間は減らしたくないという考えがある中、この街も守らなければならない。自動で敵を倒せる能力があればいいがあいにく自分はそのような便利な能力は持っていない。
さらに、この力が覚醒したということは、いずれ、大きな恐怖と対面することになる。
俺はシャワーを止め、風呂を出た。すると、
「お兄ちゃん、ご飯できたよー。」
と、義妹の声がした。
彼女の名前は木葉。同じ高校の一年である。茶色い髪の毛に小さな背の少女らしい少女である。
「おう、今行く。」
なんともない返事で返し、軽くドライヤーで髪を乾かしてリビングへと向かおうとしたとき、バサッバサッと尋常じゃないほど大きな羽音が聞こえた。さらに音だけでなく、魔力を感じることもできた。俺は急いで音が聞こえる二階へ上がりベランダへ向かう途中に、
「キャアアアアアアアアアアアアアっ!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
「アームド」
俺は小声で言うと、昼間と同様の鎧をまとった。
羽を広げ、ベランダから飛び出ると、大きなカラスが木葉を咥えていた。
俺は急いで攻撃をしようとした。だが、魔力放出せず止めた。そこには魔力が高まっていく雪がいたからだ。
彼女は、あの服の長い裾から手をしっかりと出し、天に両手を掲げていた。そして彼女の体の周りから魔力の流れがさらに大きくなるのを感じた。
大きな鳥は俺の魔力を先に感じとり、警戒心を俺の方に向けていた。こちらを向いていることで、木葉の様子がよくわかる。気を失っているのか、全身は脱力していて、宙ぶらりんとしていた。
奥で雪が天に魔力を集中しその鳥と同じくらいの大きさの氷塊を完成させていた。それに気づき、鳥は上空へ向き、雪の方を見て威嚇をしていた。すぐに逃げようとしたが、俺は強めに手を振り、逃げ道を遮った。そして、上空にできていた氷の塊がぴしぴしと音を立てながらひびを作り、何個にも割れ、一瞬止まり、そしてー
「氷槍の雨!」
そう彼女は叫び、手を下にした瞬間、幾つもの氷がまるで石を全力で投げ落としたような勢いで降り注いだ。怪鳥は逃げようとしたが、雪はそれを見逃さず、鳥の羽を凍らせ、その鳥は身動きが取れず、落ちていった。
(まずい!)
俺は木葉が潰される前に、大きな鳥の嘴を殴り、木葉を抱えて庭にそっとおいた。
ずずんと大きな振動音がし、俺は鳥を一瞬見た。そしてすぐに空を見上げた。すると、氷の雨が鳥やその周りに降ってきそうだった。それは、この庭はおろか、周りの家にも落ちかねなかった。
「守りの立体」
手を前にし薬指と小指を折り曲げそう叫ぶと、周辺の家を囲う大きな立方体がいくつも現れ、庭に落ちそうだった氷は空中で割れた。
俺は再度鳥の方を見てみた。その鳥は無残な姿で氷が大量に刺さっていた。さらに、体の一部がすでに消えかかっていた。
1分ほど経った後、鳥と氷は跡形もなく消えていた。魔素に変換されたのだろう。
すると、
「あ、あの...助けていただき、ありがとうございました。」
母がこちらに頭を下げていた。俺は実の母に頭を下げられ少し言葉に詰まったが、
「やるべきことをしただけです。」
俺はそう言い、家の屋根の上へ飛んで行った。
鎧を消して屋根の上に座り込み、一度息を吐き夜空を見上げた。その隣に雪がそっと座った。
「どうだった?」
その雪の問いかけに、
「怪鳥を倒すには正しい攻撃だったけど周りへの被害のことをもう少し考えなきゃな。」
「そっか...」
雪は少ししょんぼりした顔を見せた。
「なぁ雪」
俺はこれだけは言っておこうと思い、口が勝手に動いた。だがこれは彼女にとっては相当な衝撃だろう。
「俺、在すべきこと...わかったよ」
青い瞳がこちらを見つめている。俺はそのまま言った。
「この力を...呪いを消すために...死ぬよ」
いくつもの星の輝きが包む中、静かに風が吹き、髪だけは靡き、雪は固まった。昼とは違う、かつてない衝撃を受けた顔をして。




