一番馬鹿な人
男はそれほど頭が良くなかった。学生時代の成績や仕事の業績は褒められる物ではなく、順位も下から数えた方が見つかるような、そんな人であった。
悪く言えば馬鹿な男は、それでも比較的まともな暮らしをしていた。とある長期休暇の最中、男は自分より頭の悪い人を探す旅に出た。「下を見て安心しようとしているのか」、周りの人々はこぞってその男を馬鹿にしたが男には聞き慣れた物だった。
男が最初に見つけたのは小さな村の老人だった。腰は曲がり、白く長い髭が特徴で、男が旅に出て初めての馬鹿な人だった。
「もう自身の名前も忘れてしまったんじゃ、これを馬鹿と言わずとして何と言う」
長いこと生きすぎて昔の事を忘れてしまった老人は、男に同じ様な内容の話を何回もした。老人は軽度の認知症も持ち合わせていたが、男も男で基本的に話の内容を理解できていなかったので、結局何の収穫も得ずに時間を過ごしたのだった。男は老人が頭の悪い人だと思えず、また旅を続けようとしたが、もう外はは夜となっていた。居酒屋に入り夕飯を済ませていると、学生時代の友人が姿を表した。
「おっ、久し振りじゃん」
類は友を呼ぶというように、男の友人もそれなりに頭が悪かった。学生時代では男よりも成績が悪く、男はそれを思いだし友人にその話をした。すると友人は笑ってこう答えた。
「いつまでも馬鹿な事してんなあ、いいか?頭の悪い人ってのはな…」
その話を聞き、男は少し自信がついた気がした。そして男は休暇明け、会社の上司にこう話した。
「あの、僕が考えた結果あなたたちも十分頭が悪いと言うことに気付いたのですが…」
それを聞き、勿論上司は怒りの頂点に達したが、男はしっかりその理由まで話すのだ。
「いえ、僕の友人が『夢を諦めて、何も行動せずに会社員をしている方がよっぽど頭が悪い』と言っていたので」
そんな理由で納得がいくわけなく、男はあっという間に無職となった。それでも男はこういうのだった。
「良かった、じゃあもっと旅が出来るじゃないですか…」