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狼少年は何を望むか?  作者: chicken
第1章 メリル村人狼襲撃事件
3/7

第3話 勇敢な銃声

メリル村人狼襲撃編です。次話でこの編は終わらせるつもりです。

どうぞお楽しみください。


“ゴーン!ゴーン!ゴーン!“


 静寂の中、鐘は轟音を鳴らしていた。

ウルにはとても歪んだ音に聞こえ、まるで絶望の始まりを知らせているように感じた。


「とにかく、ここから早く逃げるぞ!人狼は北の方角から侵入してきたらしいから、南の方角へ向けて走るしかない!」


エルドが静寂を破り、ウルとアリサに逃げ道を提案する。


「そうだね。このままうかうかしてたら人狼がここまでやってきちゃう。急いでここから出ないと」


「もし人狼に遭遇した時は俺がこれをぶっ放すから安心してくれ。絶対お前たちは死なせないからな。」


肩に掛けていた猟銃を掴み、エルドは意気込む。


「ありがとう、エルドおじさん。ウル、早く逃げるよ。ほら立って」


 アリサがウルに逃げるよう知らせるが、ウルは膝と両手を地面に付け、俯いたまま動かない。


「ウル?どうしたの?もしかして立てない?」


「…ごめん、アリサ姉ちゃん、あの時のことを…思い出して…怖くて…体が上手く動かないんだ…」


 よく見ると、ウルの目には涙が浮かんでおり、足はガクガクと震えていた。

ウルが動けずにいると、両頬に肌白く綺麗な手が優しく触れてきた。


「ウル、大丈夫よ。もう5年前とは違う。私とエルドおじさんがいる。絶対にあなたを守ってみせるし、私たちも絶対に死なない。今日生き延びて、また平和な日々を送ろう。」


 アリサは優しくも強気な表情と言葉でウルを励ます。

ウルがふとアリサの首元を見ると、アリサのネックレスが眩しく光ってるように見えた。アリサの言葉と頬に伝わる掌の暖かみを感じ、ウルの涙見る見るうちに引いていった。

 体の震えもいつのまにか治り、さっきまでの恐怖などまるでなかったように、心が落ち着いていた。


「ありがと、アリサ姉ちゃん。元気出てきた。」


「ったくもう、いつも生意気なくせにこういう時には、昔みたいな泣き虫になっちゃうんだから困っちゃうよほんと。」


「生意気ですいませんでしたー。あと泣き虫じゃないし。」


「ふーん?」


 まるで人狼の存在を忘れたかのように2人が、いつものような会話をしていると、エルドが少し困ったように口を挟む。


「ウルが元気になったのはいいが、もう少し危機感を持てよ2人とも。俺たちが話してる間にも人狼はすぐ近くまで迫ってきっ」


「きゃあああああああ!!!」


「っ!?」


 若い女性の叫び声が聞こえてきた。3人は驚き、思わず家を出て叫び声が聞こえてきた方向に目を向ける。


「いやあああああ!!誰か!誰か助けて!!」


 そこには顔が恐怖で染まり、地面に座り込んでいる女性と、満月に照らされ、赤黒い鈍い光を放った人狼が立っていた。


「人狼…!」


 ウルが天敵の名を呟くと、人狼は女性を大きな両腕で持ち上げ、鋭い牙を剥き出しにし、大きく口を開けると、


“ガブッ!“


女性の頭に噛み付いた。


「っ…!」


 3人は思わず、声にならない叫びを漏らす。

人狼が人を喰らう姿を初めて目撃し、底知れない不安と恐怖が込み上げてくる。

ウルは5年前のトラウマが蘇り、今にも吐きそうに、口を両手で押さえている。

 人狼は、女性の頭を食べて満足したのか、持ち上げていた体を地面に投げ捨てた。

地面が紅に染まる。荒い呼吸をしながら、人狼はゆっくりと首を後ろに向ける。


「まずいっ!」


 エルドがそう言い放ったところでもう遅かった。人狼と目があってしまった。

人狼が1人ずつ、じっくりと観察するように見てくる。最後にウルを見ると、顔を緩ませ、

ニタリと笑い、


「ガァアアアアア!!!」


獣の雄叫びを上げ、全速力で3人に向かってきた。


「いや!来ないで!」


「2人とも下がれ!」


エルドがウルとアリサの前に立ち、猟銃を構え銃口を人狼に向ける。


「くたばれ!クソ狼が!」


“バン!“


エルドが叫ぶと同時に引き金を引かれる。金色の弾丸が人狼のこめかみに命中する。


「ウガァアアアア!!!」


人狼から赤い液体が吹きでる。苦しそうに頭を押さえながら、人狼はもがいている。


“バン!バン!バン!“


 追い討ちをかけるべく、エルドは人狼の体に3発の弾丸を打ち込む。

人狼は倒れ、動かなくなってしまった。


「すごい…エルドおじさん…」


「か、かっけえ…」


「はあっ…はあっ…これでも昔は村1番の猟師だったからな。これぐらいは朝飯前よ」


 エルドは余裕そうに少し自慢げで言ったが、呼吸は乱れ、疲れているように見えた。

ウルはエルドが倒した人狼を見下ろす。銃弾が撃ち込まれた痕が残っており、血液のような赤い液体が流れ出ている。


「…………」


 ウルは少年とは思えないほど、殺気に満ちた冷たい目で人狼を見ている。人狼が無残な姿で倒れているからだろうか。ウルの表情は少し歓喜に満ちたようだった。


「ウル!ボーッとしてないで早く行くよ!」


「…‥…うん」


 アリサに呼ばれ、倒れた人狼に背を向けた。

ドス黒い何かがウルの中に芽生え始めているのをウルはまだ気づかなかった。

アリサたちの方へ向かおうと、一歩踏み出したその時だった。


「ウル!後ろ!」


「っ!」


「ワォォォォォンンン!!!!」


 ウルがアリサの警告に驚き、バッと後ろを振り向くと、倒れていた人狼は、いつの間にか立っており空へ向け雄叫びを上げた。

 とてつもなく大きな叫びに思わず3人は耳を塞ぐ。

雄叫びが鳴り止むと、人狼は空を仰ぎバタリと倒れる。


「なに?なんだったの?」


「なんで雄叫びなんかあげたんだ?」


 アリサとエルドは人狼の行動を不審に思い、疑問を溢す。

すると、北の方角から何かの足音が大量に聞こえてくる。

 10人はいそうな複数の大きな足音がどんどんと迫ってくる。

獲物を求め、彷徨っているような獣の叫びとともに、


「ウガァアアアア!!!」


数十人の人狼が群れを成して3人に向かってきていた。


「なんで!?あんなに大量の人狼がどうしてここへ来るの!?」


「まさか、さっきの雄叫びのせいなんじゃ…」


「あれは…仲間を呼ぶための最後の悪あがきだったのか!」


 3人はさっきの人狼の雄叫びの意味を知り、全身の血の気が引いた。

大量の人狼がだらしなくよだれを垂らしながら、猛スピードで迫ってくる。


「このままじゃ私達…!」


 アリサが弱々しく呟く。ウルもアリサの言葉を聞き、自分たちの悲惨な未来を想像してしまった。そんな中、1人の男が猟銃を力強く握り、人狼たちの方へ歩んでいく。


「エルドおじさん!」


「お前たちは南の方角へ早く逃げろ!このままだと全滅だ!」


「そんな…!エルドおじさんは!?」


エルドの言動に驚きを隠せぬ、ウルはエルドに疑問を投げかける。


「俺はあいつらと戦う!!こんなところでお前たちを死なせてたまるか!」


「無理よ!いくらエルドおじさんでも数十人の人狼を相手にするなんて…!」


「アリサ!俺を信じろ!なんたって俺は元村1番の猟師だった男だぞ。あんな奴らこの銃で蹴散らしてやる!」


「でも…!」


「いいからさっさと行け!お前たちを絶対に守ると誓ったんだ!ここでお前たちを死なせたら、お前たちの父ちゃん母ちゃんに顔向け出来ねえよ!」


 エルドは意気揚々と自分の想いをウルたちに叫ぶ。

それでも体は少し震えていて、表情も強気だったが弱々しさを隠しきれずにいた。


「…わかったわ」


「そんな…!アリサ姉ちゃん!」


「お前ならわかってくれると思ったぜ、アリサ」


アリサはウルの手を無理やり引っ張り、南の方角へ足を運ぶ。


「いやだ!離せよアリサ姉ちゃん!このままだとエルドおじさんが!」


「ダメよ!エルドおじさんのためにも早くここから逃げるよ!」


「絶対やだ!もうこれ以上、大切な人を失いたくない!エルドおじさんも一緒にっ!」


「ウル!」


 なかなかアリサの言うことを聞かず、逃げようとしないウルの言葉を遮り、エルドがウルの名前を叫ぶ。


「生きろ。」


 優しい目で、勇ましく強い目で、ウルの目を真っ直ぐに見つめ、エルドは一言そう言った。ウルの全身に鳥肌が立つ。ここで自分が早く逃げないとエルドおじさんの覚悟が無駄になると気づいた。


「走って!!」


アリサにそう言われ、ウルは涙を堪えながら南の方角へ体を向き、アリサとともに走る。


「エルドおじさん!絶対死なないでよ!」


後ろを振り返らず、ウルは悲願を叫ぶ。


「ああ…」


エルドは無茶な願いだなと思いつつも、ウルの想いに応えた。


「やってやろうじゃねえか…!」


 エルドは勝気な表情で人狼たちの方を向き、仁王立ちをする。

気づけば人狼たちとの距離は100メートルにも満たないほど縮まっていた。


「残り4発か…」


 腰に付けてある小さなホルスターバッグを開け、残弾数を確認する。

少し物足りないがこれで充分だろうと、エルドは銃を構える。


「全員ぶっ殺してやる!」


“バン!“


エルドが引き金を引く。銃弾が発射され1匹の人狼の右目を貫く。


“バン!バン!バン!“


 残りすべての弾丸が、3匹の人狼の頭部に命中した。

しかし、1発撃ち込んだところで人狼は死ななかった。

1度は倒れたり、怯んだりしたものの、すぐに体勢を立て直し、突進してくる。


「ちっ…やっぱり1発じゃ死ななかったか…」


予想通りの展開にエルドは少し落ち込んだが、仕方ないなと思い空を見上げる。


「アン…今そっちに行くからな」


 数年前に亡くした最愛の娘の名を呟き、猟銃を地面に投げ捨て、エルドは前を向く。

人狼たちとの距離はもう10メートルほどしかなかった。


「ウルとアリサには一歩も近づかせねえぞ!クソ狼どもが!!」


村中に響きわたるほどの大きな声で叫び、エルドは決死の覚悟で突進した。


大量の血が飛び散る。鮮血の雨が降り注ぎ、1人の勇敢な男の首が宙を舞った。


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