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シャーロッテ・スブリーニエ②

お義父様の書斎で、お母様のアルバムを何度もめくった。懐かしさからではなく、それは私の教本だと思っていた。

髪型。

ドレス。

帽子にアクセサリー。

かつてお義父様から折に触れて与えられたものたちは、アルバムでお母様が身につけているものにそっくりだった。

全部お母様に似せるための装いだった。「シャーロッテ」へのプレゼントではなかった。


確認してしまえば、そうかと納得できた。

ずっと見えないものが突然しっかりと形となって目の前に現れたことに驚きはした。

けれど、そうでなければ自分の娘でもない昔の恋人の子供など誰が引き取るものか。


あの日、私の元へ訪れたのはきっと選ばせるためだったのだ。

お義父様の手を取り、生き延びるか。

お母様と同様に拒絶し、野垂れ死ぬか。

私は生きたかった。

死にたくなかった。

今にも死んでしまいそうな状況で、それでも私の人生はまだ始まってすらいないと思いたかった。

年中日の当たらない路地で、ゴミを漁って生きる人生など無かったことにしたかった。

あの時まで、私に差し伸べられたのはお義父様の手だけだった。他に私を生かす道はなかった。


そしてこれからもお義父様に捨てられてしまえば私が生きていけないこともわかっていた。

捨てられれば、逆戻りどころかたちまちお母様と同じ末路を辿ると。

だから、拾われた犬が尻尾を振るように、私はお義父様の望む姿になれるよう努力した。

筆跡、喋り方、微笑みまで。

お義父様の愛したお母様の真似をした。

お義父様の表情から、正解か不正解かを探って、私は必死に「ディアナ」を作り上げていった。


お義兄様は何も知らない。

あの人は、何も見えてない。ずっとそう。

私はあの人が嫌いだった。

生まれた時から恵まれていて、それを当たり前だと思っている。

そんな傲慢さが大嫌いだった。

私が引き取られた理由にすら気付いていない。

きっとディアナという名前すら、知らない。

お義父様の病気にも、少しも気付かなかった。

会うことも話をすることもない薄情な男。


その傲慢さから、きっと私を哀れむとわかっていた。

これ以上、惨めな気持ちになりたくなかった。

だから、いつも笑うだけだった。

何も教えてあげなかった。

きっと私の婚約者探しを手伝ってるつもりで、友人を連れてくる兄にずっと微笑みかけた。

優しくして、話を聞いてあげることもあった。

そんな顔の裏側で、本当はずっと憎んでいたと知ったら、あの人はどんな顔をするだろうか。


本当は羨ましかった。私の持っていないもの全部持っていることが、妬ましかった。

どうして世界はこんなに不公平なのだろうと、そう思ってしまうことが悔しかった。

だから憎んで苦しみを和らげたかった。


ただ生きたいと願った。皆と同じになりたい、陽のあたる道を歩きたいと。

私は哀れなんかじゃない。自分に出来る範囲で自分の人生を選択した。

あの時、きっと本当は死ぬはずだった。

でも私は今も生きてる。生きてるのよ。

だから、それが正解だとずっと信じていたかった。


本当は、お義父様を憎むことができたなら、きっともっと単純で楽だったけれど。


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