第陸話:転生先で貴族令嬢として美男子に絡らまれる(二度目)後篇
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そんなわけで社交の途中ではあったが、勇者と侍女達と共に社交を抜け出し、自室に戻る。
「さて、リズエル達はここで待っていてね、少ししたら呼ぶからね」
「分かりました、キョウコお嬢様」
とリズエル達には自室の隣にある侍女部屋で待ってもらうことにする。
一応断っておくが別にそんな意図はない、まあ父親というのは何処でも一緒だし、そんなことをしないっての、少しは信用しろってのは思うが、まあそれは一旦置いておこう、大事な用事があるのは事実だったから2人きりになりたかったのだ。
そしてバタンとナオドと共に自室に入れた直後のことだった。
シオシオのパ~。←ナオド
とへなへなと崩れ落ちる。
(まあ女子力スカウターが機能しない時点で分かっていたけど……)
「もうヤダ! ヤダヤダヤダ!! 勇者やるのヤァァダァァ!!!」
(うわぁ……)
今度はダメンズかー、レザ某も駄天使もそうだが、どうしてこう顔は良いのに、あれか、残念系美男子というやつかって言ったら怒られるか。
「えーっと、ナオドって言ったっけ、あのさ、アンタも日本人なの?」
「はい、転生したはいいものの心細くて心細くて、そんな折、担当者からこの世界には僕以外に橘さんという人がルカンティナ公国で貴族令嬢に転生したって聞いてきたんです」
「ふむ、ナオド・カイって名前は?」
「僕の本名は貝塚直人というのですけど、一番最初に村人から「ナオド」って呼ばれてそれが定着した感じで、カイは名字からそれっぽく聞こえて取りました」
「なるほどね、えっとね、私も担当者から貴方のことをちょっと聞いたんだけど、転生前は引きこもりのニートだったの?」
「はい、いやぁそう考えれば異世界転生ものとしてはベタですよね、僕」
「何でニートになったとか聞いていい?」
「それは、その、引きこもりになる前では、普通に高校に通っていて、その時に僕には好きな子がいたんです。クラスが一緒で仲良くて、良い感じになっていたんですけど……」
「振られたの?」
(´;ω;`)ブワッ ←ナオド
「あ、ああ、それで」
「でもひどい話なんですよ!!」
「ああー、こっぴどく振られてトラウマになったとか?」
「そうなんですよぉ、だって、だって、その子……」
「背も高くて顔も良くて勉強も出来てスポーツ万能でサッカー部のキャプテンでエースで、女の子にも優しくて爽やかで扱い方に慣れた友人も多い実家は金持ちのクソイケメン野郎が好きだというんですよ!!」
「ふーん」
「軽い!!」
「特段ひどい話でもなかったね」
「もう! これだから女は! やはり俺の嫁は二次元嫁、彼女たちは俺を裏切らない」
「ベッタベタだなぁ」
んな訳で見事に引きこもった後は、元々好きだったヲタク趣味に没頭したそうな。
オンラインゲームをやりまくり、アニメやらラノベを読み漁っていた中で、チートを得て異世界転生したり、俺TUEEのハーレム作品が好きだったそうな。
そんな折、突然天使が訪れて勇者に選ばれたから異世界転生するかと言われた、転生すれば無敵の戦闘能力とハーレムを得られて、しかも剣と魔法もある中世ファンタジー世界ということで二つ返事で了承。
結果、憧れたファンタジー世界で天使の言葉のとおりチートを得て敵を無双、美少女達に囲まれてモテモテ、周りからは勇者としてもてはやされて、英雄になった。
まさにヲタクの夢、見事に異世界に実現したのだのだが……。
「でも魔物めっちゃ怖い!! 何ですかアレ!? 第六等級の魔物を討伐したんですけど! 暗闇の中から突然襲い掛かってきて一飲みで飲まれたんです!! 無我夢中で腹を蹴り破ってチートのおかげで無傷で勝ちましたけども!! 怖い怖い、魔物怖いよう!!」
「いやいやいや、普通強さを得て無双したら自信になるんじゃないの?」
「思いっきり巨大な生物に食われた恐怖は変わりません、肉体的には無敵でも、精神は全然強くならないんですよぉ~」
「英雄として祭り上げられたんだからよかったじゃない」
「でも英雄って凄いプレッシャーなんです! そんなプレッシャーに苦しんでいることを誰もわかってくれないし!!」
「でもハーレムになったんでしょ? スキルとはいえ美少女に囲まれるのは、男の夢とか聞いたけど?」
「でもあれ実際やると! いきなりモテるんですよ! 怖い! 本当に怖い! さっき俺を取り合ってたあの子達ってまだ出会って2日目ですよ!? なんで普通に前からいました、一途にあなたのことを思っています的な取り巻きになっているの!?」
「…………」
「確かに異世界転生チートハーレムは大好物です! でも安易な展開というかもう! 色々と話が違いますよね!? 異世界に限らずハーレム物に慣れ親しんだ自分としては、このジャンルには一家言ありましてですね! まずですねハーレムというものは現実世界では実現不可能な部分にこそ浪漫がありましてですね! つまりハーレムというのは剣と魔法と並ぶファンタジーとしての要素が求められるんです! そのハーレムヒロインは冴えない男に夢中になるという話の展開上、どうしてもちょっと優しくされれば頬を赤らめて主人公に好意を寄せるチョロインが主流となりますが私はそれは安易だと思うのです! 近松門左衛門の虚実皮膜論のとおり現実過ぎてもダメですが現実離れし過ぎてもダメであり、その調整こそが妙になるのです! だからちょっと優しくされて顔を赤らめるとかアレもう本当に辞めてほしい! 美少女達に囲まれるのは現実性を持たせるのならもっとハードに囲まれているのかとかそういうのが欲しいわけですよ! あ、もちろん他のイケメンなんかには一切に心揺れずもちろん主人公に一途に戻って全員を嫁にしてみんなで幸せなるエンドなのは言うまでもないですけどね!!!」
とナオドが顔を上げた先。
そこには誰もいなかった。
●
「まったく無駄な時間を過ごしたわ、さて、社交に戻らないと」
と「終わったら帰ってね」という書き置きを残して部屋を出た時だった。
「橘さぁん!」
とバタンと扉を開けるとガシっと腰にしがみついてきた。
「行かないでくださいよぉ~!」
「名字で呼ぶな! だー!! うっとおしい!! 抱き着くな!!」
と貝塚をゲシゲシと蹴る。
「橘さんしか頼れる人いないんです!!」
「はぁ? ハーレムなんだから、その取り巻きの女のヒモにでもなれば(*´Д`)?」
「だから怖いの!!」
(こいつ……)
「しかもまだ用件が終わってません!!」
「用件? 何なの用件って」
「き、聞いた話では、橘さんは担当者を所従として雇っていると聞きまして! 是非僕も雇って欲しいなと!」
「望んで雇っているという訳じゃないけどな、ていうか勇者を所従で雇えるか!」
「いいんですそれで!」
「アンタ……」
だから女に振られるんだよ、その子の判断が正しいわ、というと泣き出すかもしれないのでそこは黙っておいた。
「なるほど、よーくわかった! 雇うというのなら当然こっちにメリットが無ければ駄目よね? あの駄天使もパシリとしては有能よ、アンタは何ができるの?」
「む、無敵の戦闘能力!」
「その魔物にビビってちゃ話にならない、つーか私も持ってるし」
「は、ハーレム」
「いらん!」
「シクシク、だった何も……」
【橘さん】
と突然ロルカムの声が聞こえてくる。
――「なに? どうしたの?」
【この世界において勇者というものは各国が競って勇者を自分の国に置こうとする存在なんです】
このいきなりであり、お馴染みとなったこのロルカムの説明口調は……。
――「珍しく仕事が早いじゃない」
【早く伝えろと言われたもので】
――「続けて」
【理由については、国家の危機に瀕した時に勇者が自国にいれば被害が最小限度で済むからです】
――「つまりその「危機」ってのが、勇者が派遣される「基準」になっているんでしょ?」
【そ、そのとおりです、えーっと、派遣される基準については、例えば「このスイッチを押すと世界が滅びる」というものがあったとしますよね?】
――「そのスイッチを気まぐれで押せる存在の有無、でしょ?」
【は、はい、ど、どうしてそれを?】
――「見当はついていたからね。私の世界でも人類を滅ぼせる兵器が存在するのよ。だけどそれは存在はするけど、その発射スイッチは「押さない」し「押せない」ものなのよ。当たり前だけどね、伝家の宝刀は抜かないからこそ強いのだから」
【そ、そうなんですか】
――「そうなの、そう考えると世界の不安定さは私の世界とは比較にならないってことになるからね」
となると、勇者を雇うってのは国益につながるわけか……。
となれば方針転換、私はナオドに告げる。
「ナオド、分かった、アンタを、そうね、召使として雇うわ」
「え!? 本当ですか!? で、でも僕」
「何もしなくていいよ、適当に過ごしてて、ただアンタのハーレムのスキルは厄介よね、抑えることは出来るの?」
「へ? 抑える?」
「貴方が持つ戦闘能力は任意でオンオフができるでしょ? ならば他のスキルもそれができるのか疑問に思うのは当たり前だと思うのだけど」
「そ、そうか、スキルを抑える、考えたことも無かった」
「だったら貴方の担当者と確認して、抑えられるのなら抑えてね。もし抑えられないのなら男だけの部署にまわすから、それといくつか質問があるの」
「な、なんですか?」
「貴方の祭り上げられている様子から見ると、なんとか勇者としての体裁を守っていたんでしょ?」
「は、はい、ガッカリさせるといけないと思って」
「ハーレムのスキルで女は……まあ女は囲ってはいないだろうけど、厄介事はない?」
「もちろんです、これもガッカリさせるといけないと思って」
「わかった、だったら召使は「体裁」ということを徹底して」
「体裁?」
「具体的にはいうと私は周りには召使として雇ったとだけ告げて他は一切話さない、貴方も「色々あった」とだけしか言わないでね」
「ど、どうしてそんなことを?」
「救国の英雄を召使で雇うという事実をより「劇的」に見せるためよ。人は絶対に事実そのものではなく、劇的に脚色をするものなのだからね」
「は、はあ」
「まあやってみればわかるわ。それと私の担当天使は所従のロルカムという男だからね、まあ話し相手にはなると思う」
「は、はい!」
「よし、まずはリズエル達を呼んで話をしないとね、っと、あーもしもし、私、極秘の伝達事項があるから私室まで来て」
〈分かりました、キョウコお嬢様〉
「さて、今から来る侍女達3人は私の腹心よ、貴方と私が異世界転生者であることを除き全てを話すわ」
「全てって、スキルのことも?」
「ええ、私が無敵の戦闘能力を持っていることは知っているもの」
「え!? 大丈夫なんですかそれ!?」
「大丈夫、頼りになる子達よ」
「は、はあ」
とここでノックがあるので、侍女達3人を中に招き入れて、事情を話す。
「わかりました、勇者様、何かあればお申し付けください」
と何の変化もなく受け入れたリズエル達を見て呆然とするナオド。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします! あ、あの! 橘さん!」
「ん? どうしたの?」
「た、橘さんって、た、頼りになるんですね」
「へ? それが?」
「僕、男らしくて頼りになる女の人って初めてで、でも、カッコ良くて素敵だと思います!」
「おいいぃぃ!! 女への褒め言葉じゃない!! しかもお前それ女の台詞だからな!!」
「はい! それでは早速、召使としての心得を勉強してきます! まずはお義父さんにも挨拶しないと!」
「今明らかに「お父さん」じゃなくて「お義父さん」って呼び方したね」
とウキウキ気分で自室を後にしたのだった。
「…………」
「それにしてもいいんですかお嬢様」←ラニ
「何が?」
「レザ息といいあの勇者といい、お嬢様の周りには顔がいいだけのキワモノが集まってきている感があるんですが」
「…………」
「…………」
「あのさ、ラニ」
「なんでしょう?」
「イケメン紹介して」
「はははは(真顔)」
「うん、ごめん、あの、トオシアさんや」
「イケメンですか、何人かいますけど」
「いや、やっぱりいいや、あのーリズエルは」
「お任せください!!」
「おおーー!!(パチパチ)」
「実はですねキョウコお嬢様に興味がある殿方は多いんですよ! その中で美男子達を選んで彼氏と私主催で食事会を開きましょう!」
「マジで!? いやこりゃ参ったね、まさかのモテ事情! イケメンだらけの合コンキタコレ!!」
「はい! ってゴウコン?」
「異性と交流を深めるための食事会のことよ!! しゃああ!! やっと来た!! モテ期キタ!! リズエル!! 早速段取りを組んで頂戴!!」
「はい! 分かりましたお嬢様!」
という訳でリズエルと彼氏主催の合コンに参加した。
リズエルの彼氏は、私のイメージのとおり凄くいい人で、イケメンを紹介しろという難題を私とリズエルの為にもなると思って必死で集めてくれた。
そして参加した男たちはトオシアが喜びそうなイケメンだらけ、女が私1人で全員が自分に興味があるという夢の逆ハーレムが実現したのだ。
よきよき、次回からタイトルは「30代女子、異世界転生して美男子に囲まれてもう大変♪」になるだろう、体がいくつあってもたらないなぁ、やれやれ。
さて、参加したイケメンたちなのだが……。
「キョウコお嬢様は、その、お母さんみたいで!」
「頼りになって甘えられるというか!」
「ママ、げふんげふん! キョウコお嬢様! お近づきになりたいと思っていました!」
はい、全員マザコンでしたー、お疲れさまでしたー。
リズエル、リズエルの彼氏さん、ありがとう、一瞬だけもテンションを上げてくれてありがとう、でもねあんなのにモテてもしょうがないの、後で絶対に苦労するのよ。
とそんなわけで、干物女子の生活はもうちょっとだけ続くんじゃ。
いや、思わず出ちゃったけど! フラグじゃない、フラグじゃないよ!
――同時刻・某所
ここは大陸の外れにある広大な渓谷、乾いた風だけが吹きすさぶこの場所は、魔物すら住まず、各国も利用価値無しと判断した、生き物の気配もない不毛の大地と呼ばれる場所。
そこから空を見上げている存在。
それはキョウコ達が住む国で神話でしか語り継がれない存在。
その存在は、少しだけ息を吐き、その身を起こした。
次回は1週間以内に投稿します。