第肆話:転生先で貴族令嬢として美男子に絡らまれる
社交。
女性は華やかなドレスを着て精一杯めかしこみ、男性だって例外ではなく、清潔感のあるパリッとした服装で参加して、使用人たちが優雅に歩き豪華な食事が供され、品のある音楽が演奏されている。
社交を開催したり参加することは上流の義務、公国に有益な人物を選定し招いての関係構築、そして招かれる側も招かれることは名誉であり、その為に努力をする。
その為の政治的な場ではあり本一冊になるほどの細かいルールがある。それが守れないと「無礼」とみなされ、下手をすると追放される。
何故そんなにも細かいルールがあるのは「何も知らない無礼者を追い出そう」なんて意地悪な意図もあったりするのだ。
前にも述べたがその中で一番重要視されているのは家柄と顔と序列、その対人関係という悩みどころを丸暗記をしているのが。
「トオシア」
「はい、キョウコお嬢様、次は……」
秘書官であるトオシア、相変わらず流石としか言いようがない、私は自分を中心に力場を発揮したいタイプなので、こういうタイプは本当に助かる。
その横では……。
「先日は贈り物をありがとうございました」
侍女長として笑顔で雑談するのはリズエル、人柄の良さを発揮して誰とでも話せる愛嬌を持つ、その人柄が伝わるため彼女だと多少の無礼があってもまず相手に不快感を抱かせない。
「…………」
ラニは変わらず私の傍にいて周囲の警戒にあたっている、とはいえ暴漢なんてこんなところではまず襲ってこないから邪魔にならない様に気配を消して立っているだけ、本人は楽だと満足気だがそこは流石現役軍人、立ち姿も訓練されており美しい。
適材適所、言葉にすれば簡単だがなかなか難しいが、実現できたことに満足する。
まあいろいろ言ったけど、綺麗なドレスを着てパーティーに出て、貴族令嬢としての振る舞いを崩ず、マナーを守っていれば十分に楽しめるのだ。
まあダンスには誘われないがな、例の「武勲」がすっかり広まっているそうな、ちっ。
「あ、あの、私は仕事中ですから」
だがリズエルは変わらず誘われているけどな、そういえば「男を捕まえるのは胃袋を捕まえるものだよ、私も爺さんをそうやって捕まえたんだよ」ってばあちゃんが言っていたっけ。
うーん、プライベート強化に料理も加えるべきか、そういえばあの第7等級だかの魔物の肉は後でリズエルに料理を頼んで食べたが絶品だった、今度はもっと憧れの漫画肉にしてモンスターハンターの如くグルグル回して「とっても上手に焼けました♪」なーんて、これを思いっきりガブリと、っていやいや、いつの間にか男を捕まえる女の手料理じゃなくて豪快な男の自炊になっとるやんけ。
とうんうん唸っている時だった、目の前を純白の詰襟を着た男と身なりのいい男の2人組が目の前を通りかかった。
「フォス先輩、聞きました? なんか女たらしのイケメンが社交界に来ているんですって!」
「まじかカグラ後輩よ! まあでもあれだろ、どうせ三股四股かけてバレて痛い目に、ザマァwww」
「それが上手くやっているようなんですよ! まったく! 男は顔じゃないってのにねー!」
「だよね! 誠意に勝るものはないのにねー!」
「「ねー!!」」
「あ、そうだ、この後の「打ち上げ」についてなんですが、ウヒヒ」
「詳しく、ウヒヒ」
((((うわぁ))))←キョウコ組一同
なにあの冴えない男2人、そりゃお前らじゃモテないっての、だから社交で相手されないんだよ、わかれよ。
まあいいや、それにしても、ほほう、女たらしとはいえイケメンが来ているわけか。
「トオシア」
「はい、ルギル男爵家の当主の次男レザ息が呼ばれています、ルギル男爵家は、ラニンキア伯爵家の流れを汲んでいますね」
「ああ、あの性格ブスの系列か、でも今回はどうして呼ばれたの?」
「その性格ブスの計らいで呼んだのです、レザ息の取り巻きの筆頭ですから」
「ふーん、社交界での評判は?」
「顔だけではなく、女性に優しい伊達男だそうですよ」
「ふむ……」
と言葉を切った時だった。
さっと自分の周囲の雰囲気が変わる。
それが自然と視線を集める振る舞いであることに数瞬遅れて理解する、そんな雰囲気を変える美男子。
「ほら、レザ様よ」
「素敵、カッコいいわ」
「美男子よね」
「顔だけじゃなくて、女性に優しくて紳士的」
淑女はうっとりとした目で見つめて。
「あれあれ! あれですよ! 先輩! あれが例のイケメン太郎ですよ! けっ!」
「ふん! 運がいいな! 我が国に来たらとっちめてやるのに! けっ!」
紳士達は厳しい視線を送る。
そのレザから少し離れた場所に、優越感に浸っている例の性格ブスと取り巻きの侍女達がいた。
レザは、自然に私の目の前に降り立つと、大仰に手を振り上げ、ナイトのようにすっと跪く、その気障な振る舞いが様になる天性の魅力と、安心させる笑顔で見上げる。
「声をかけてよろしいですか? キョウコ嬢」
「ええ、初めましてレザ息」
私の許可が得ると、スッと立ち上がると自然に壁ドンをして、そのままポンポンと頭をナデナデされる。
壁ドンに頭ナデナデ、イケメンにか許されない胸キュン行動、自分がモテると分かっているからこその自信にあふれた振る舞い、余計な言葉は発しない、ただじっと澄んだ青い瞳で私の目を見つめる。
そんなことをされたら、私は……。
「か、か……」
「かめはめ波ーー!!!!」
とイケメンの腹部に直撃すると「く」の字に折れ曲がったまま吹っ飛ばされて壁に衝突した。
「」←ぐったりしている
「「「「「ギャアアア!! レザさまあぁぁ!!!」」」」」」
と悲鳴を上げて近づく性格ブス他5名。
「ああああんた!! なんで急に魔法ぶっぱなしてんのよ!!」
「なんでって、壁ドンと頭ナデナデって、普通にセクハラだからね、それにしても無敵の戦闘能力をセクハラ撃退に使うとは思わなかったわ」
「せせせせくはら!? レザ様はそんなことをする男じゃないわ!! 立ち振る舞いからして違うのは分からないの!?」
「確かにアンタの言うとおり外見は文句ないし立ち振る舞いもカッコよかった……」
「ということを自分で分かっているドヤ顔についカッとなってやった、今は反省している」
「反省してないよね!? 謝りなさいよ!!」
「確かにそうね、謝らないとね」
「え!? ず、随分素直ね」
「あのさ、中学生の時にクラスの男子達がさ、かめはめ波を打つ真似していてさ「ガキだなぁ」って思って「ばっかじゃないの~」なんて言っていたんだけどさ」
「は?」
「いや、これは気持ちいいわ、当時とりわけ真剣にかめはめ波を練習していて「何かが出た! 間違いない!」って頑なに主張していた御子柴君、ごめんなさい」
「誰に謝ってんの!?」
「あーはいはい、えーっと、だれ様って言ってたっけ?」
「レザ様!! ルギル男爵家の次男!!!」
「ああそうなんだ、レザ様サーセンwww」
「軽い!」
「いいえ十分ですよ、気遣いありがとうございます、ユリス嬢」
と取り巻きの女たちに礼を言いながらレザ某は復活すると、自然に距離を詰めてきて、気が付いたら私の手を取り、逆の手で顎クイをされる。
「気にしていないよ、ほら、俺ってかっこいいからさ」
俺ってかっこいい、それはイケメンにしか許せない胸キュンワード。
そんな言葉を投げかけられたら私は。
レザの首元にすっと手を添えて……。
胸ぐらを思いっきり掴み、ガチンと額を合わせる。
「知ってんだからね、あの性格ブスの侍女達全員に手を出していること」
「ひっ!」
「男ってそうだよねぇ? 男の勲章ってやつ? 全然理解できないけどさ、あのさぁ、一つ教えてあげる」
「女は物じゃねえんだよ」
パッと半分突き飛ばす形で胸ぐらを放すとレザは後ずさる。
「もう、レザ息、お戯れが過ぎますわ」
と淑やかにコロコロ笑い。
レザは、やっと自分の置かれている状況を理解すると。
「じゃあ私はこれで!!」
ササッと身を翻して立ち去った。
「「「「「レザ様!! お待ちになって!!」」」」」
と取り巻きを引き連れてついでに性格ブスは私にメンチ切りながら帰っていった。
「ふん、ついでに魔貫光殺砲も撃ってやりゃあよかった」
パンパンと手を払う。
「あ、あの、キョウコお嬢様って、ま、魔法まで使えたのですか?」←リズエル
「ああうんうん、魔法魔法、使えるのよね、内緒にしててごめんね」
「は、はあ、あの、キョウコお嬢様は、レザ息はタイプじゃないんですか?」
「女軽く見る男は大っ嫌いなの! アンタは違うの?」
「声をかけられたことはあります、まあカッコいいとは思いますけど、正直……」
リズエルは不愉快な表情を見せる。
「それが理由よ、んでそれは事実みたい、アンタの言うとおりモテるのも分かるけどね」
「……女性を何だと思っているんでしょうね」
私ん言葉を聞いてこの子にしては珍しく軽蔑を込めてため息をつくリズエル。
「トオシアも大人しかったわね、粉はかけないの?」
「んー、女性の扱いにも慣れていて、家柄も金持ちの男爵家、正直文句ないですし、何より顔は凄い好みですね」
「へえ、アンタだったら付き合えるんじゃないの?」
「でも虫けら程度にしか思えません(曇りない笑顔)」
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←私
さらっと凄いわぁこの子、マジやでえ、女ってホンマ怖いわぁ。
といい話で終わると思ったが。
「でもいいんですか、キョウコお嬢様」←ラニ
「なにが?」
「あのイラッとくるイケメン太郎を成敗したのは気分爽快でしたが、これでもう色々と言い訳できない状態になったかと。お嬢様の好みである「ダンディ独身オジサマとラブラブ」はさらに遠のいたと存じますが」
「…………」
周りを見れば、完全に紳士たちは私にビビっていた、そうか、そっちは完全に頭になかった、チクショウ、折角美少女に生まれ変わったのに。
そんなわけで後日。
レザからいきなり恋文を渡された。
――お前に惚れた、女はお前だけだ
「…………」
だからいらない、そういえば同僚の三股チャラ男がやたら口説いてきたっけ、アイツを思い出させるから腹立つんだよな。
「あ! フォス先輩! あの子ですよ! イケメン成敗してましたよ!」
「ほほう、男は顔じゃない、分かっているな」
「しかも可愛い、外見だけじゃない、中身もいい女ですね」
「ふっ、良いものを見せてもらったぜ」
うるせえよ、何処から湧いて出たんだよ、お前らにもモテてもしょうがないんだよ。
「全く、とりあえずいらないから捨ててね」
とリズエルに渡すが彼女のは深刻な表情をしている。
「キョウコお嬢様、これとは別件でお耳に入れたいことがあります」
「どうしたの?」
ここでリズエルは、緊張感をはらんだ口調でこう告げた。
「勇者が現れたとのことです」
――他国の地方都市
そこで1人の鎧を着て背中に剣を携えた人物がおり、その若者に対して都市長が何度も頭を下げている。
「ありがとうございます、ありがとうございます、勇者様のおかげで魔物が退治されて都市に平和が戻りました」
「いいえ、大したことはしていません、皆さんの協力のおかげです、それに私は勇者だなんて呼ばれるほどの器ではありませんよ」
と答えるのはミステリアスな雰囲気を持った美男子だった。
「なんと謙虚な、第6等級の魔物を1人で一撃で仕留め、しかも本気を出していない、その人の理を超えた強さ、まごうことなき伝説の勇者様ではありませんか」
「私はただの普通の男ですよ、それよりも被害が最小限で済んでよかった、都市長、路銀と食糧、ありがとうございました、名残は尽きませんが、またいずれ」
と踵を返し歩き出した時だった。
すっと控えめにその袖を掴まれた、少しだけ振り返った先、掴んだのは都市一番の美女だった。
「ナオド様、行って、しまわれるのですか?」
「はい」
踵を返す間もなくすっと、美女は背中に抱きつく。
「その、あの、私も、一緒に」
「お気持ちは嬉しく思います、ですが私には使命がありますから」
「っ!」
拒絶の意思にびくっと震えるが、それでも気丈の微笑む。
「使命、そう、ですよね、勇者様は世界を救う、使命を背負っているのですものね、その、なら、これ、その私だと思って使ってください!」
健気に差し出されたのは、ちょっとした手作りのお守りだった。
「ありがとう、早速身に付けさせてもらうよ」
と自分の服に取り付ける。
「ナオド様は、どちらに行かれるのですか?」
美女の問いに一言だけ答えた。
「ルカンティナ公国」
次回は1週間以内に投稿します。