第二十七話:転生先で貴族令嬢としてラブロマンスに挑戦する・十の段
※ もうしばらくお付き合いください
魔女教徒の格好をした役立たずの5人組、この意味不明な会合の意味は果たして何なのだろうか。
それはさておき、やっと発作が落ち着き一段落したタダクス何某、それを見た議長役を務めるレザ何某が発言する。
「さて、改めて今回の議題、シンとか抜かすイケメンゴミ野郎についてだ」
「我が愛しの娘、ゴホンゴホン!! 公爵家令嬢を毒牙にかけようとしている、これはルカンティナ公国にとっても由々しき問題だ、さてレザ何某」
「はっ」
「君の仕入れた情報の開示を」
「これはと我が家から極秘に、げふんげふん! ある筋から手に入れたアファド王国のシンの資料だ」
と所謂経歴の資料を広げて各自がそれに目を通す中、タダクス何某が発言する。
「なるほど、まさに完璧だな、ふむ、女の経歴についてだが、把握しているだけで付き合った女は38人、数自体はそんなものか……っと見たまえ諸君、二股等の不誠実の情報は無しとあるぞ┐(´д`)┌ヤレヤレ」
と呆れたようなタダクス何某に全員が苦笑して、タダクス何某が続ける。
「この件については、もみ消し、よろしいな?」
「「「異議なし」」」
とここでレザ何某が発言する。
「司教様、無論同時並行の女がたくさんいることは事実、それだけの能力と容姿を持てば誰だってそうする、俺だってそうする、ただ現在は抑えていると思われます」
「ほう、何故だね?」
「この婚約は国王になる自分のステータスのための婚約であり政略結婚、だから「結婚するまでは誠実」である必要がある、結婚後は、してしまえばこちらのものですから」
レザ何某のこの発言、その圧倒的な説得力に全員が頷き、ナオド何某が発言する。
「とはいえ、女性は騙されてしまいますよね、キョウコ嬢を責めることは出来ません、ですよね、司教様」
「うむ、自分に誠意があると勘違いしてしまう、本当は自分にだけではなく誰にでもしていることなのだがな。とはいえ、女性にそれを見破れとは酷な話、しかも娘、げふんげふん、キョウコ嬢はまだ若いからな、故に罪は無し、それでよろしいか?」
「「「異議なし」」」
「とはいえ、清算した痕跡すら残さないとは、優秀な部下たちに恵まれているようだな、もみ消すのにはもみ消す以上のリスクがいるからな」
「そういうものなのですか? お手軽にできるって感じがしますが」←ロルカム
「お手軽にできるっていうイメージを与えるのは大事なのだよ、それをハッタリに使うのだからな」
一言では語れない上流の世界、それこそ綺麗事で済めば世話はないが、それは世界屈指の力を持つルカンティナとて例外ではない。
そしてこの問題については、実は解答はあっても回答がないのだ。
「同志様、全員の意思は固くても、難題が」
レザ何某の言葉に全員が黙る。
そう、いくら会議を重ねても、この度、属国から同盟国となるアファド王国へと生まれ変わる、色々と敏感な時期でもある。
条約改正について、4大貴族が連なるのもまたメンツがつぶれると、行政担当であるヴァイシュ公爵家が赴くことになっている。
4大貴族の仲を話し始めると長くなるため割愛するが、今回の件について、ユト公爵家が立ち入ることは出来ないのだ。
当然に救国の3騎士が独断で相手の国に乗り込むという「大儀」は通らない。
「条約がまだ締結されていないから、現時点我がルカンティナが保護国ではありますが、今は敏感な時期、下手な動きは内政干渉にあたりますし、公国内でも他の分野の干渉にあたる、問題は山積みです」
重苦しい雰囲気、ここでこうやっているだけなのか、そんな無力感が支配された時だった。
「ついに出すか、秘中の秘」←タダクス
ざわ……
ざわざわ……
とタダクス何某は懐から取り出す一枚の封書……。
「「「!!!」」」
その封書を見た瞬間、正確には「封蝋」を見た瞬間に全員が凍り付く。
「そ、それは! まさか!!」
「ああ、ルイネが妻へあてた手紙だ」
上流には男と女の世界がある。
その世界はお互いに不可侵であり不干渉の原則があり、それは信用によって成り立っている。
つまり、タダクスのこの行動、これが、何を意味するのか……。
――妻の不義密通を疑う行為である!!!
震えていた、救国の3騎士は震えていた。
さて、信じられないかもしれないが、ユト公爵家は4大貴族の中で一番「亭主関白」として知られている。
タダクスが恐妻家であることは、極秘事項である、権威に関わるからだ。
無論それはただ守られているからではない、公の場では妻であるレラーセは常に三歩下がってタダクスを立て、余計なことは言わず笑顔で尽くしてくれる良妻であるのだ。
4大貴族の会食では、常にタダクスを気遣い、顎で使われるが、嫌な顔を一つせず、男の言うことに逆らわないとばかりの従順さ。
そのレラーセは、かつて社交界で天女と呼ばれた美貌を持つ女性、今でも想いを続ける紳士も多数いるほど、理想の女性とまで讃える人も多い。
だが救国の3騎士は見た。
簀巻きにされて吊るされている姿を。
理由は怖くて聞けなかった。
翌日何事も無かったかのように職務に励むタダクス、三歩下がって夫に従順なレラーセの姿を見て余計に聞けなかった。
そして救国の3騎士だけではない、ロイも震えていた。
ロイにとってもルイネの母親レラーセは、怒るとめっちゃ怖い人なのである。
「「「「…………」」」」
全員の悲壮感を感じる目。
タダクスは微笑む、死期を悟った男の顔、何も言うなと目が語る。
なれば何も言うまいとその決意と共に手紙を開く。
「見て見たまえ、この手紙には、こう書かれてる」
――「お母様の名前でを通じて、ロイも含めた救国の3騎士の招きたいと存じます。シン王子にも国賓待遇で招待状を出すようにお願いしてあります、近日中に届くと存じます、よしなに」
この一文、すぐに意図を理解する救国の3騎士。
「こ、こ、これは、まさか!!」
「司教様!!」
「本当に……」
「ああ、命を懸けた甲斐があったよ」
この文面が指す意味、そう、これはもう一目瞭然だ。
つまり、こういうことだ。
――「完璧なイケメン様、素敵(ぽわわ~ん)」
――「愛しているよハニー、君だけさ(白い歯キラッ!)」
――だがしかし、他に多数の女がいることが判明、
――「そ、そんな、ひどい、ひどいわ! どういうことなの!」
――「はっ! 別に女はお前だけじゃねえし!!(下衆) 俺のステータスだし!!(屑)」
――「最低! 帰りますわ!」
――「はー!? 帰すとか思ってんの!? であえであえ!! この女を監禁だ!!(カス)」
――「た、たすけて! お父様! みんなああぁぁ!!(エコー)」
(´;ω;`)ブワッ ←タダクス
「おーいおいおいおい!! おーいおいおいおい!!(号泣)」
「何て奴だ! 許せねえ!!」
「ですね、これは明確な、助けて、のメッセ―ジです、くっ!」
「我らがキョウコ嬢を取り戻す時が来たのだ!」
3人の力強い言葉にタダクス何某が立ち上がる。
「このイケメンゴミ野郎は我がユト公爵家の侮辱する行為である!!! ルカンティナ公国4大貴族令嬢の肩書欲しさの愚劣!!! 許せぬ!! 許せぬぞおお!!!」
燃えるタダクスに3人もまた覚悟を決める。
「これでもルカンティナの上流の末席、力になるぜ」
「武力だったら、私でも貢献できます」
「とはいえ、そのイケメンゴミ野郎も油断しましたね、我々を自国内に招き入れるとは」
「ロイ何某、いや、ロイも来るよな?」
「うむ! 向こうには能力が高いからこその驕りか、はっ! つまらんな!」
それぞれの力強い言葉に安心した様子のタダクス何某、いやタダクスは黒頭巾を外す。
「さて、決まったな、後を頼む」
と踵を返して立ち去ろうとするタダクス。
「え? どちらへ?」
同じく頭巾を脱いだロルカムが問いかける。
「妻の下へ行ってくる、そして正直に自首するさ、無断でお前の手紙を読んだとな」
「そ、そんな! なんとか誤魔化せませんか!?」
「ルイネから妻への手紙は、妻が持つ封蝋だけじゃない、直属の家政婦のサインで封をしてある、誤魔化すことは不可能だ」
「い、いえ、こうなれば、私達も同罪! 一緒に」
ここで言葉を紡げなくなってしまう。
何故ならタダクスはまさに漢の顔をしていた。
「土下座」
「え?」
「我が娘が傾倒しているニホン文明の究極の謝罪方法だそうだ、違うかい、ナオド?」
「え、ええ、古来より、日本に伝わる謝罪方法です、で、でも! レ、レザ!」
「そうです、何も自ら死に行くことは! ロルカム!
「ええ、そもそも娘を助けるための行動、ロイ!」
「うむ! バレた時にお仕置きを受ければいいのではないか!(もぐもぐ)」
「俺の死を、悲しむ暇があるなら、1歩でも前へ行け、決して振り向くな、若者たちよ…」
「俺の屍を超えてゆけッ」
人が人を裁く。
それが裁判官。
当然に抱える自己矛盾。
その重責を常に担い続けたタダクスの背中。
その漢気に涙を流しながら見送る漢達。
キョウコが泣いている。
愛する娘が泣いている。
父親にとって、命を懸ける理由は、それで十分。
その背中を敬礼で見送る漢達。
「男の中の男、だよな……」
「レラーセ奥様もその漢気にうたれて許してくれるんじゃない?」
「ああ、そうだ、男が誇りを捨てての土下座だからね」
「もぐもぐ」
「よし! 我々は出立の準備だ! 敵はアファド王国にあり!!」
「「「「おおーーー!!!」」」」
と男達の勝鬨が木霊するのであった。
※ なお皆さん分かっていると思いますが、土下座と言われても、レラーセは理解できないのでタダクスは簀巻きにされて鞭打ちの刑に処されました、だけどそれで許してもらえた様子、よかったね。
だが親の勘は奇しくも当たっていた。
その暗雲立ち込めるアファド王国の滞在。
まさにキョウコはあふれる涙を止めることができなかった。
――翌日・アファド王国・キョウコ一行
その親の憂いのとおり、キョウコは涙を流していた。
「お嬢様」
その横でのため息をつくリズエル。
私は大きく息を吸い込んだ。
「素晴らしい! なんて雄大な景色なの!!」
そう、アファド王国の巨大渓谷を見て感激して涙を流していたのだ。
巨大渓谷、例えるのなら、アメリカのグランドキャニオンやブライスキャニオンみたいな感じ。
もちろん日本の幽玄の美も大好きだ、日本人に生まれてよかったと思う。
だが、日本では決してない光景、雄大な美も大好きだ。
「お嬢様~、アイス買ってきました!」
とトオシアとラニがアイスを持ってきてくれた。
「「「「いただきまーす! うまうま! うまうま!!」」」」
「うん! まさに雄大な美!! いや、雄大な美味!!」
「それにしても、シン王子様々ですね、延長の滞在費も全部持ってくれるとは」
「紳士的な人で良かったですね」
「妻の自由を許す、意外といないですからね」
「ふっふっふ、ふが3つ」←ゴソゴソと懐に手を入れる
「とくべつきょかしょー(ダミ声)、これで自己責任を条件に、色々な場所に入れるのだ!」
「さあ! まだまだよ!!」
と、満喫しているのでありましたとさ。




