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第二十六話:転生先で貴族令嬢としてラブロマンスに挑戦する・九の段



 属国、つまり植民地。


 さて、その言葉を聞いて野蛮だと感じた人はちょっと待ってほしい、植民地という概念が前時代的になったのは、人類の歴史上100年に満たない、いや、現在だって決して無関係ではない。


 むしろ人類の歴史を紐解けば他国を植民地とする帝国主義が「常識」であったし、それは日本だって例外じゃない、弱った国は奪われ殺されるのが常識なのだ。


 当時、国として崩壊直前だったアファド王国であったが、魔石に使える貴重な鉱物資源があり、それを狙うため強国の産業スパイが入り込み、母国へと報告を重ねていた。


そして鉱物資源を奪おうと周辺列強国は虎視眈々と王国崩壊の時を待っていた。


 それを知るからこそ、クーデターを起こす前、当時のランツは極秘にルカンティナ公国の4大貴族に根回しを行い、保護を求めていたのだ。


 その求めに対し当時の4大貴族の当主達はクーデターを自力で成功させることを条件に認めると結論を出す。


 結果、軍事クーデターは成功、その成功をもって、4大貴族はアファド王国を保護し属国として認定、ランツは「初代国王」として名乗りを上げ、彼とルカンティナ公国は正式な条約を結ぶことになった。


 属国との条約、当然に平等な条約などではないことは分かるだろう。


 ルカンティナ公国に保護される代わりに結んだ不平等条約内容は多岐にわたるので細かな記載は省くが、それでもアファド王国の軍事クーデターはこの条約締結をもって一応の成功をみる。


 そして新生アファド王国の最初にして最大の目標は次は如何にこの条約を撤廃させるかだ。


解決策はただ一つ、国力をつけるしかない、属国ではなく対等な関係が良しであるとルカンティナ公国に認められるしかない。


 新生アファド王国はランツ国王執政で必死に国力の立て直しを図った。


 国民一丸となっての努力、それは10年、20年の月日を費やしてもなしえなかったが……。


 先日、ついにルカンティナの4大貴族が保護条約を改正することについて同意、不平等の項目を全て削除し、アファド王国にとってルカンティナはビジネスパートナーとなったのだ。


 かかった年数は30年。


 そのアファド王国にとっての新しい第一歩を始める為に建設したのが、古き悪しき前国王の城ではなく、新しき良き新しき王の城なのだ。


 そして条約の締結は、その城で行われる。



 調印を結ぶのは、ランツ国王から王位継承を受けた「シン国王」が結ぶのだ。



 つまりアファド王国は歴史的瞬間を迎えようとしている。


 その中でのシン王子からの私へのアプローチ、当然にこう考える。



――4大貴族の当主の娘を妃にして新生アファド王国をより強固にする政略結婚であると



 お母様の「色々な思惑が絡んでいる」という言葉は、そういう意味を指す。


 今回の相手、シン王子。


 男してはまさに完璧、だけど話したことは一回だけ、それだけで私に惚れたとのアプローチである。


 だからこそ、その「陰謀」を感じ取った今回の4大貴族の一門である私の生家であるユト公爵家である母は私の婚約という最高機密を軍に渡す決断をしたのだ。


 どうして軍を頼るのかというと、アファド王国が同盟国となるのならば、ルカンティナの公権力は制限されることになる、故に外交特権を持っている大使館及びいざという時の武力としての駐在武官をこちら側に引き入れる必要があったのだ。


 ここまで説明して、私は改めて侍女達を見る。



「まさに「完璧な流れ」よね、問題なのはこれらの出来事が繋がるかどうかなのよ」



 この言葉にトオシアが首をかしげる。


「お嬢様、繋がるとは?」


「もちろん、私へのアプローチと、皆が感じている不穏な流れが関係があるのか」


「?? それは、その言いづらいですが、私は入っていると、いえ入っていないわけがないと思いますが……」


「ふむ、ラニはどう?」


「私もトオシア寄りです。当然に全ては信じられません、あのイレタ宰相に向けられた亡霊って言葉、スラムだけならともかく、城の中にも聞こえましたから」


「聞こえてたの?」


「はい、それは、それがスラムでのことなら戯言とも解釈できますが、城の中から聞こえたこと、更に軍資料から提供された例の情報、というか噂ですが……」



「ランツ王は既に長くない、王位継承の儀が最後の仕事であると、そしてその王位継承の儀を覆す、反王権波がクーデターを起こすと」



「……そうね、だけど、その流れ、私たちの置かれている状況と一見して繋がっているようだけど「ツギハギ」で繋がっているわ」


「ツ、ツギハギ?」


 混乱するラニにトオシアが発言する。


「お嬢様、ツギハギでも何でもこの国、思った以上に不穏で、なれば、ここで優先すべきはお嬢様の身の安全かと、失礼を承知で申し上げれば、この婚約話自体が自体が何かに仕組まれた可能性も」



「落ち着いて皆」



私の言葉に3人が我に返る。


「今の現状、確かに分からないことの方が多い、だからこそ不安になる、リズエル」


「え?」


 このタイミングで話題を振られるとは思わなかったのか、キョトンとするリズエル。


「貴方の意見を聞かせて、今回の縁談について」


「…………」


「リズエル、正誤を聞いているんじゃないの、貴方の感じるままに」


 私の言葉にリズエルは逡巡の後に口を開いた。



「お嬢様、私は、その、シン王子の縁談は、私たちが感じる不安と不穏とは関係がないと思います」



 びっくりしてトオシアとラニがリズエルを見る。


「理由は?」


「…………すみません、理由なんてないです、本当にシン王子は、お嬢さまを気に入っていると思うんです、それだけです」


「そう、ありがとう、そして」



「私はね、貴方と同じ意見なの」



「え?」



「これが唯一、確実に言えること、シン王子と私との縁談は、皆が感じている不穏な動きに関係がないということ」



「「ええ!!??」」


「ど、どうしてですか!?」


「勘よ」


「勘って」


「あら、勘は経験と演繹に裏付けられた立派な理論、あてずっぽうとは全然違うの」


「…………」


「話を続けるわ。私はね、今回の縁談が政略結婚ではなく、アファド王国の不穏な動きがあり、それにシン王子に関わっているのなら、私は、そこに食い込みたいと考えている、今後のことも含めてね」


「「「え?」」」


「その為に、滞在の延長が受理されると同時に私たちの身分を公にして、アファド王国の国賓として招いてもらうことになるわ」


「「「ええ!!??」」」


「お、お嬢様! ちょ、ちょっとお待ちください!」


 とトオシアが声を上げる。


「お嬢様、仮に今回の縁談がその不穏と関係ないとして、そもそもどうして私たちが積極的に絡むのなら、この縁談を受けるからですか?」


「うーーーーーん、どうかなぁ、考え中」


「か、考え中って、なら積極的に絡む必要があるのですか?」


「うーーーーん、その理由についても、まだ勘ってところね」


「…………」


「ごめんね、話せないことがたくさんあって、でもね、これだけは変わらない」



「楽しむためよ、私の人生を、だけど1人で遊ぶのはつまらないの、貴方達と一緒に遊ぶ、楽しい人生を」



「…………」


 全員が呆然としていた、ううむ、やっぱり駄目だよな、これじゃあ納得してくれないよな、でも言えないことが多いんだよなと思ったが。


 リズエルはラニとトオシアを見てお互いに頷くと。


「わかりました」


 とまあっさり納得してくれた。


「…………」


 びっくりする私にクスリと笑うリズエル。


「言ったじゃないですか、私、いえ、私たちはお嬢様についていくと」


 リズエルの言葉にトオシアとラニの顔を見るが、同じように頷く。


「ウルウル、うわーん! みんな、だいすきよー!!」


 と3人を一度に抱きしめて、スリスリ、クンカクンカする。


「そ、それで、お嬢様、私はどうすれば」


「してもらいたいことは一つよ、国賓として招くための手続きにかかる日数は7日かかるそうなのよ、それでね、この期間を使ってこちらもカードを切らせてもらうから、その手伝いね」


「カード?」


「救国の3騎士ダメンズプラス、ロイもね、彼らを国賓に招くことを依頼したの、そしてそれは許可されたわ、だから私はお母様に手紙を書く、皆は大使館を通じて受け入れのための折衝をお願いね」


「はい」


「ありがとう、私は仲間に恵まれたわ、そう、これはまさに……」


「え?」



「そうしろと囁くのよ、私のゴーストが(ドヤァ)」



「「「…………」」」


 シーン。


「……お嬢様、このタイミングで」


「いいじゃないのよう! 憧れてたの! かっこいいじゃない!!」


 と最後はそんなグダグダな感じにお互いに笑いあうのであった。




――同時刻・某所




「あの女が、あ奴が妃候補として選んだキョウコ嬢か」


 一堂に会する男達の中心人物が発言し、それに周りも続く。


「ルカンティナ公国、4大貴族が一門、司法の頂点であるユト公爵家、司法神とまで称えられるタダクス公爵、その御令嬢だ」


「ただそのタダクス公爵、司法神とまで讃えられてはいるが、娘にはめっぽう甘く、溺愛しているから箱入りかと聞いていたが、あれでなかなかのタマだな」


「側近の侍女共も侮れんという話だが」


「とはいえ、あくまで自国内の権力だ、こちらには及ばん」


「新興国とはいえ、舐められては終わり」


「そのための30年、長きにわたる戦いであった」


「あの忌々しい、平民上がりの宰相風情が、裏切り者めが」


「あ奴がもたらした不平等条約が偉大な王国に傷をつけた」


「王位を乗っ取り、そのツケを国民に支払わせた」


「許し難し」


「忌々しい」


「憎々しい」


 呪いの言葉を吐き続け、時は満ちたりと、扉が開き、若い男が入ってくる。


 その男達が全員跪く。


「おお、時はいよいよ迫っております、決行の日は、いつほどに」




「イレタ様」




 跪く男達に立つように促す宰相イレタ・キソティア。


「もう間もなくだ、お前たちの支持、頼もしく思う」


「貴方様が本来の王位継承者であられます。王国はあの様な愚物が建てたものにはありません、今、我々がここにいる、この城こそが、聖地なのです」


「イレタ様を亡霊などと揶揄する輩がおりますが、いかにも衆愚が好みそうな言葉ですな」


 と言葉に下品に笑う男達。


「イレタ様、ランツの方はいかがですか?」


「条約締結の前、王位継承の儀直前で丁度死ぬように調整していると聞いている」


「おお、流石ですな、それにしても、愚かなのはあ奴、シンは完全にイレタ様を信じ込んでおります」


「シン、まあ、能力は認めてやっても良いですが、王の器ではありませんな、そうは思いませんか?」


 男の言葉にイレタはやれやれとばかりに頷く。


「そうだな、確かにあいつは」



「王の器ではない」



 イレタの言葉に満足気に笑う男達に続ける。


「それとお前らに、朗報が一つある」


「朗報?」


「本日、キョウコ嬢が滞在の延長を申し出た」


 その報告を聞いて、笑顔で顔を歪ませる男達。


「はっはっは、確かに朗報ですな、4大貴族の令嬢と言えど、美男には弱いと見える、色仕掛けは何も男に限った話ではありませんな」


「更に滞在延長に伴い、キョウコ嬢の身分を公にして、国賓として招くそうだ」


「なるほど! 条約締結に合わせるわけですな! あのうつけ、女を誑し込む術だけは一流ですからな!」


「だがキョウコ嬢は救国の3騎士を招くとも報告を受けている、警護がラニだけでは不安になったのだろうな、だから油断だけはするなよ」


「無論です、いよいよですな、ランツが死ねば、邪魔者はシンだけです、イレタ様、いえ」


「イレタ王」


「しかし、それにしても、その救国の3騎士もまた全員が美男とのことですな、貴族令嬢と言えど、スキ者ですな、ひひっ」


「いや、私は嫌いではありませんよ、そういう本能の赴くままの女性」


「ははっ、それは貴殿の事だろう?」


 と下品に笑いあう男達であったが……。


(救国の三騎士か……)


 窓の外を見ながら考えるイレタ。


 キョウコ嬢、実際に会って分かった、アレはただの貴族令嬢ではない、侮ると痛い目を見る。


(怪しまれているのはもちろん、問題なのは見抜かれているかどうかだ)


 いや、彼女は「確証はないが確信はある」といった状況だろう。


 となれば、見抜かれているということを前提で動かなければならない。


 だからこそ彼女は帰国の延長を申し出た、自身を国賓として招くこと、そして


 救国の三騎士達はを国賓として招くこと。



 彼女は仲間を呼んだのだ。



 確証を得る為に。


(救国の3騎士は全員がただ者ではないという噂、そのバックには司法神タダクス公爵がついている、確かに公爵は娘を溺愛しているのは真実だろう)



(だが、裁判官としては冷酷非情、その取り組み姿勢はルカンティナの司法界だけじゃない、他国へも一石を投じる結果となっている)



(つまり今の状況、一歩間違えれば、逆に転ぶということ、つまり正念場)



(大願成就を果たすため)



 と心に誓うイレタは空を見上げる。



 漆黒の月が、イレタの顔を照らしていた。




――同時刻・ルカンティナ公国・ユト公爵家




 イレタが眺めた漆黒の月は等しくルカンティナ公国にも照らす。


 ルカンティナ公国4大貴族が一門、司法担当、ユト公爵家。


 当主、司法神タダクスの執務室。


 蝋燭の灯火のみが部屋を彩るその中で。




 三角黒頭巾を着用し魔女教徒の服装に身を包んだ男たち4人がいた。




「「「「…………」」」」


 ここで1人、社交界では伊達男と噂されるレザに非常によく似た声の男が放つ。


「さて今回も議長役は俺が務めさせていただこうか、それでは第4回、円卓会議を始める、今回の議題も無論、イケメンゴミ野郎の話だ、まずはロルカム何某、発言を」


 ロルカムに非常によく似た声の男が発言する。


「このままでは、野郎の物になり、私もクビ、これだけは避けなければいけませんからね、ねえナオド何某?」


 続いてナオドに非常によく似た声を持つ男が頷く。


「敵は強大ではある、だが我々に死角なし、なあロイ何某?」


「もぐもぐ、うん! うまいぞ! この菓子はリズエルが作ってくれた中で、上位に入るぞ!!」


 その時だった、執務室のドアが開き、とある人物が魔女教徒の格好で現れた。


「お待ちしておりました、司教様」


 レザ何某を含めて全員が首を垂れる。


「…………」


 司教と呼ばれたタダクスに非常によく似た背格好の男は、そのまま小刻みに震える。


「司教様?」


「……し、け、い」


「ん?」


「死刑!! 死刑!! 死刑ーーーー!!!!」


「い、いかん! 発作が!! ロルカム何某!!」


「任せてください!!」


 カチッ!! ←魔法石のスイッチを押した音


【ぱぱー、わたし、おおきくなったら、ぱぱのおよめさんになる~】by幼少期のルイネ


「ハッ!!」


「大丈夫ですか? 公爵、いえ、司教様」


「すまない、取り乱した、続け給え、レザ何某」


「もぐもぐ、なあ、このお菓子がもっと欲しいのだが」


「めっ! 今は我慢しなさい!」


「むう……」


「さて、今回の議題も」



「シンとかぬかす、イケメンゴミ野郎についてです」



 全員が頷く。


「さて、今宵はいよいよ、このイケメンゴミ野郎の素顔を暴く時が来たのです、司教様、お言葉を」


「…………」


「司教様?」


「あの、あの、顔も中身も能力も、ならば女も思いのままの癖に、わ、わ、わたしの、わわわ、わたしの、だいじな、む、すめ、し、け、い」


「死刑!! 死刑!! 死刑ーーーー!!!!」


「い、いかん! また発作が!! ナオド何某!!」


「お任せを!!」


 カチッ!! ←魔法石のスイッチを押した音


【ぱぱー、わたし、おおきくなったら、ぱぱのおよめさんになる~】by幼少期のルイネ


「ハッ!!」


「大丈夫ですか? 公爵、いえ、司教様」


「すまない、取り乱した、続け給え、ナオド何某」


「なあ、お菓子がなくなったのだが」


「めっ! だから今は我慢しなさい!」


「ぬう、まあいい、リズエルが帰ってきたらたくさん作ってもらう」


「さて、話を進めようか、そのシンとか抜かす、イケメンゴミ野郎について」


「死刑!! 死刑!! 死刑ーーーー!!!!」


「い、いかん! また発作が!! ロイ何某!!」


「わかった! これを押せばいいのだな!」


 カチッ! ←魔法石のスイッチを押した音


 と、そんな感じで夜が更けていく、ユト公爵家。


 案の定役立たずな5人組であった。



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