第十九話:転生先で貴族令嬢としてラブロマンスに挑戦する・壱の段
――ルカンティナ公国。
世界で五指に入る国力を持ち、4大貴族が統治する国家。
4大貴族はお互いに担当する部門があり、完全に独立し不干渉を貫いている。
そしてその完全独立を敬意を払い、連携をして効率的に国家運営をしている。。
その4大貴族の一つ、公国の司法担当、ユト公爵家。
現当主タダクス公爵、大審院院長、日本で例えると最高裁判所長官。
彼は今、娘であるキョウコの侍女長リズエルより報告書の提出を受けていた。
「当主様、こちらが昨日の社交界のキョウコお嬢様の報告書です」
「拝見しよう」
社交界での報告書。
これは社交において自分の家族が誰とどういう会話をしていたのかをまとめたものだ。
社交は煌びやかな、庶民からすれば憧れの舞台であることは事実だが、上流階級の人間にとっては「私生活の仕事」という位置になる。
故に社交で仮に相手に粗相をしたのなら、早急に対処しなければならないし、友好関係を結んだのなら挨拶をしなければならないのだ。
今タダクスが読んでいる社交報告書の作成者は、それぞれの側近の使用人が作る。
ユト公爵家で例えるのなら、当主タダクスの報告書は男性使用人の最高位である執事、妻については女性使用人の最高位である家政婦、男の場合は近侍長、女の場合は侍女長が作成し、当主が一元管理している。
タダクスは報告書を読み終えると、机の上に置く。
「ふむ、順調だな、私からは特にないよ、ありがとうリズエル」
「はい、当主様」
「ルイネも大人になって、やっと慣れてきたというところか、色々心配していたが杞憂だったな」
「元よりお嬢様は大人びている方ですから、問題ないと思います」
「いや、ルイネよりも際立つのはお前達侍女3人だ。実に機能的に動いてくれている、適材適所だ、素晴らしい」
「もったいないお言葉です」
「特にリズエル、この功績はお前がちゃんと中核を果たしているからだろうな」
「え、い、いえ! トオシア侍女とラニ侍女の高い能力とキョウコお嬢様の指揮能力があってこそです、私は、その、ぶら下がっているだけで……」
「リズエル、お前は一つ勘違いをしている」
「え?」
「それは人は能力に従うのではないということだ」
「…………」
その言葉、そういえば……。
「どうした?」
「その、お嬢様にも似たようなことを言われたと、思い出しました」
「そうか、娘は何と言っていた?」
「はい、そういえば、あの時は色々あって、はっきりとは」
「そうか、ならば言おう、リズエルよ、人は人に「立場」と「人柄」に従うのだよ」
「立場と人柄……」
「リズエル、お前は、どうして私の命令を聞くのだ?」
「そ、それは、私の雇い主であるキョウコお嬢様のお父様でありユト公爵家当主。そして私の実家であるベール男爵家の上位にあたるためで、それにキョウコお嬢様は、私を見出してくれて、とても良くしてくれて」
「そう、立場と人柄に従うのだよ、人が従うこの二つだ。前者は仕事をしていく上で得られて、後者は仲間として得られる。どちらが得難い人材が分かるか?」
「…………」
「断然後者だ、だからこそルイネはリズエルのみ公募ではなくスカウトしたのだよ」
「で、ですが……」
「いいかい、私の言うことに皆が従うのは「公爵という立場」があるからだ、それが無ければ私の言うことをに従う人間なんて誰も居ない、そう戒めている」
「そ、そんな! タダクス公爵は、私の父も弟も尊敬する裁判官として!」
「リズエル、私は卑屈になっているのではないよ。立場で従う、十分じゃないか。後はそのことをちゃんと理解すればいいのだよ。そしてもし、私の人柄についてきてくれる人物がいるのなら、その人物に対して感謝を忘れない様にしなければならない」
ここで言葉を切るとタダクスはクスリと笑う。
「そうだな、リズエルの欠点を唯一が上げるのならば、自己評価が低すぎることだ。いいかい、自己評価が高すぎることも低すぎることも、同じぐらい愚かなことだよ」
「は、はい!」
押し付けがましくなく、諭されるような言葉にリズエルは自然と背筋が伸びる。
タダクス公爵は性格は温厚、今の発言のとおり公国最高位の地位にいながら謙虚な姿勢を持っているから人望も厚い。
そしてタダクスは、歴代ユト公爵家の当主で歴代最多となる死刑判決を下し及び執行を指揮している。
――「お前が大審官でなければ俺は死ななかった! 人を殺して楽しいか!」
と大審院で死刑判決を受けた2人殺して金品を奪った犯人が叫んだのは有名な話。
そう、犯罪者からの恨みを多く買っている「アイツが大審官でなければ、死刑判決などでなかったと」いう声も多いし、更に著名人もそれに倣い、残酷だと評する人物も多い。
だが、それは任務に非情というだけ。
――「被害者に報いることができるのは、裁判官だけだ」
これは本来の中立という立場を超えた発言であると、批判も多い。
だがユト公爵家歴代当主で間違いなく名君として名を連ねるであろうタダクス公爵のこの発言は、同業者からはとても勇気がいる判断だといわれている。
父も弟も尊敬する裁判官がタダクス公爵。
そして先ほどの自分の主であるキョウコ嬢様とは違う重みのある声……。
でも……。
(大丈夫かな、お嬢様、救国の3騎士に守られているとか書いたけど)
もちろん当然異性関係は大事だ。
誰が誰に粉をかけるとかも大事、当然公爵令嬢の異性関係は普通に政治的に影響も出てくる、んで3騎士達は社交で遠巻きに守られており、一応全員美男子であり、アイドルグループのように扱われており、3人全員に想われているという噂だ。
(もし何かあれば、それこそ子供みたいにヤダヤダとダダこねるんじゃないかなぁ)
うん、凄い想像できる、娘のことになると、屈指の名君であり名裁判官であるこの公爵閣下は途端に幼児化するのだ。
裁判官としてはリズエルも尊敬しているのは事実だが、家庭では滅茶苦茶恐妻家で完全に尻に敷かれていて、それと同じぐらい反動なのかというぐらい娘命の人だとは思わなかったのだが。
まあでも、お嬢様はしっかりしているから変な男には引っかからないと思うし、自分自身実際に自分の慕う主が変な男に引っかかって欲しくない。
そんなことを考えているとタダクスは、ふとため息をつく。
「しかし、しっかりしているのはいいが、中々娘にもいい人が出来ないものだな」
「え!?」
と思わず大きな声を出してしまって慌てて口をふさぐ。
「はっはっは、どうした、子供みたいにヤダヤダと駄々をこねると思ったかい?」
「(思ったけども)い、いえ! それは、その! そんなことは!」
「はっはっは、いいんだよ、まあ確かに、溺愛しているのは認めるがな、可愛い可愛い娘、どこの馬の骨ともわからない男にやれんのだ、それはリズエル、お前の父親だってそうだぞ?」
「そ、そうなんですか」
「そりゃそうだ、無論君の相手の評判は上々で安心しているし、私も実際に何回か仕事をしており、精錬実直な人柄を認めているが、まあ父親というのは、娘を取る相手については気に食わないモノなのだよ」
というタダクスの言葉に笑みがこぼれてしまう。
「ならば、お嬢様の相手は余程の方ではないと務まりそうにありませんね」
「そんなことはないぞ、そんな大したことは望まないさ、まあ、そうだな」
とここで言葉を切ると……。
「顔は誰もが認める美男子で身長が高くて体型はすらりとしてモデル体型はもちろんのこと学歴は公国若しくは他国での最高学府をトップ若しくはそれに準ずる順位で卒業してもちろん頭脳だけじゃなくて運動神経抜群で種目を問わず全国大会レベルでの実力を持ち文武両道で人柄も良く人望もあってそれに加えて実務能力も飛びぬけており芸術的センスもありそうそう最後に」
「国の王子なら文句はないよ(爽)」
(全然嫁にやる気がない!!(ビシッ!))
と心の中でツッコミを入れるリズエルだったが。
「貴方」
と執務室の扉が開くとタダクスの妻、レラーセが入ってきて、その姿を見て両手を広げて歓迎するタダクス。
「おお! 愛する妻よ! 今はリズエルから報告を受けるついでに、娘の友人として親交を深めていたのだよ」
「それはいいことね、んで、さっきの話についてなんだけど」
「? さっきの話って?」
「ルイネを嫁にやる時の男の条件よ」
「むむむ!! 言っておくが譲らんぞ!! 私は父親!! だから当然!!」
「まさか、私だってルイネは可愛い娘、そうよね、それぐらいの男じゃないとね」
「へ!?」
「…………」
「…………」
「お、おお!! 流石我が愛する妻よ! そのとおりだ!」
「もちろんよ、それでどんな男でしたっけ?」
「顔は誰もが認める美男子で身長が高くて体型はすらりとしてモデル体型はもちろんのこと学歴は公国若しくは他国での最高学府をトップ若しくはそれに準ずる順位で卒業してもちろん学歴だけ運動神経抜群で、種目を問わず全国大会レベルでの実力を持ち文武両道で、人柄も良く人望もあってこれもそうそう、学歴とか運動とかも加えて実務能力も飛びぬけており、芸術的センスもある国の王子様だ(エッヘン)」
「まあ本当に素敵な殿方ね、貴方の言うとおり、私も母親として、それぐらいの男じゃないと娘を嫁にやれないわ、リズエル」
「ひゃ、ひゃい!」
「あなたはどう思う? そういう殿方」
「え!? そ、そうですね、す、すす、素敵ですね」
「そうよね、私だって文句はないもの。それにしてもよかったわ、夫婦の見解が一致して」
「ふっ、もちろんだ、流石愛する我が妻だ、分かっている」
「もしそんな素敵な殿方がいたら喜んで嫁にやらないと、そう思うわよね?」
「はっはっは! もちろんそのとーりだ! そんな男がルイネを気にいってくれるのなら、親としてはその男を射止める娘が如何に魅力的に育ったかと誇りに思うわないとな!!」
「流石貴方、そうね、娘を気にいってくれて感謝しないとね」
「うむっ!! むしろノシをつけてくれてやろーぞ!! はっはっはっは!!」
「そんなわけで、はい」
と二つ折りの厚みがある豪華な装丁の写真を渡される。
「なにこれ( ,,`・ω・´)ん?」
「是非にとのことよ」
「だから何が?( ,,`・ω・´)んんん?」
「ルイネの嫁入り相手の事」
「は?(;゜Д゜)」
すっとレラーセが開く形で視線を落とすタダクス。
「幼少のころからその端麗な容姿に魅せられた淑女は数知れず、容姿だけではなく音楽の才能も突出して認められるも、数多の一流音楽大学の推薦を蹴り、我がルカンティナ公国最高学府ヴォファルア大学政治経済学部に留学、アファド王国剣術では王国大会ベスト8までの剣術を持つスポーツ万能、更に実業家としての才能も認められて、学生時代に立ち上げた会社での社長に就任し業績を上げるも、今後の試金石とばかりに、経営を後輩に譲り、最終的に大学を第3席で卒業、在学時代は我が国との社交を通じて能力を認められ傑物とまで評された、アファド王国抱かれたい男5年連続第一位であり、帰国後は自分の本業である」
「王国第一王子として次期国王として研鑽を重ねている」
「シン・シルラ・マイア・ヴィラル第一王子よ」
(゜-゜) ←タダクス
「確かに、これほどの殿方じゃないとね、貴方もいいこと言うわ」
(ヾノ・ω・`)ナイナイ、セッテイ、モリスギダッテバヨ ←タダクス
「良かったわ、貴方が賛成するのなら問題ないわね」
(ヾノ・∀・`)ムリムリ、ソンナオトコガイルワケナイ ←タダクス
「さて、早速話を進めましょう」
ヾ(゜д゜)ノ ハイハイ! ハイハイ! ←タダクス
「というわけでリズエル」
「ひゃ、ひゃい!」
「聞いていたわね、今日のルイネの予定は?」
「きょ、今日は一日部屋で過ごされる予定ですが」
「分かったわ、なら今から私が行き、直接話を持っていきます、このまま私と一緒に」
「すとーーーーーっぷ!!!!」←我に返ったタダクス
「なに?」
「条件! ルイネを嫁にやる男の条件!! 一つ付け加えるのを忘れていた!!」
「貴方」
「ビクッ! いや! これはお前も絶対に納得するはずだ!! お前だけじゃないリズエルも納得するだろう!!」
「え!?」←リズエル
「何よ、そこまで言う条件って」
「誠意だ!!」
「は?」
「女性に対して誠意を持つことだ! 分かるか!? つまりルイネと結婚したとしても、妾を持ち、他の女に現を抜かすなんてもっての他だって言ってるの!! リズエル!!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
「二股、三股かける男をどう思うかね?」
「へ!?」
「だから! 二股、三股をかける男をどう思うかね!?」
「え、その、それは、ささ、最低、です、ね」
「ほらぁ!! ね!? 愛する妻よ、私の言っていることは正しいだろう!!(ドヤァ)」
「……二股三股って、女性に不誠実をしない方だと評判よ」
「はーーーん!? んなわけないだろーーーが! もみ消しているにきまっているだろーーーじゃろがい!! そりゃそうだもんね!! 男のやることなんて世界各国共通だもんね!!」
(あ……)←リズエル
と先の展開を察して顔が青くなるリズエル。
「しかもそんなイケメンだったら、二桁の女がいるに違いない! だいたい貴族とか王族とかは全員妻以外に妾がいるのが当たり前!! 誰だってそーーする!! 俺だってそーーーする!!」
と言い終わった瞬間にガシッと万力に近い形で両肩を握られた。
「いるの? 妾?」(ゴゴゴゴゴゴ!!!!)
人生オワタ\(^o^)/ ←タダクス
「いいいいいいないようううう!! 女はお前だけだよう!!」
「俺だってそうするんでしょ?(凍りの目)」
「ああ、なつかしいなぁ! 思えばユト公爵家次期当主として、命名式を終えての初めての社交、そこでお前をみた時、こんなにも美しく可憐な花がいるのかと思ったものだ!」
「…………」←殺気80%
「(よし!)あの時は私なんて相手にしてくれないと悩んだものだ、だけど勇気を出して誘って、それにこたえてくれた時、どれだけ嬉しかったか、お前にはわかるまい」
「…………」←殺気60%
「(もうちょい!)そしてお前と結ばれ、子供も授かり、息子たちは法曹界で活躍してくれている、そして唯一の娘でもあるルイネはまさに若かりしき時のお前をみているようで美しい娘だよな」
「…………」←殺気40%
(よし、とどめだ!!)
「だから、そんな愛の結晶たる娘だからな、だから感情的になってあんなことを言ったが、俺はお前一筋だよ」
「そうね、ごめんなさい、貴方」←殺気17%
「いいのだよ、じゃあ先方には断りの連絡をしておこうか」
「だから、話を受けるっつってんでしょ」
「…………」
「…………」
シーン。
「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!! ヤアアアァァァダアアアァァァ!!!」
「まだ早いもん! ルイネにはまだ早いもん! ルイネはお父さん子だもん!! そんな男気にいらないもん!! パパはそんな男気に入らないもん!!」
とひたすら駄々こねるタダクス。
既に周りに誰もいないことに気が付いたのは、それからしばらく経った後だった。
Q「本当に妾はいないのですか?」
タダクス「いるわけないだろう。確かにルカンティナ公国の上流では妾を持っている奴が多い。繰り返すが私が愛するのは妻レラーセ1人のみ、男なら当たり前だ。そこの君! ひょっとして妻が怖いから妾が持てないとか思っているかもしれないが、そんなことはない! いや、本当だから! 怖いからじゃないから! そもそも私が妻に惚れたのは(以下略)」




