第十七話:転生先で貴族令嬢として日常を遊び倒す・前篇
:::第一話・日常を楽しむ!の巻
――とある日・ベール男爵家・ケルン自室
ガチャ ←扉を開けて入ってくるリズエル
そのままツカツカと歩くとベッド周りやクローゼット周りをチェックする。
「…………」
少し考えると、机の周りをチェックして引き出しを何回か出し入れする。
「ん?」
出し入れした時に違和感を感じると、今度は引き出しの中身を全部出して再び引き出しを何回か出し入れする。
「…………」
少し考えて、引き出しの底をコンコンと爪先で叩き、屈んで机の裏をチェックすると端の方に丁度千枚通しサイズの穴を見つけた。
となればと、更に机を探したところ、別の引き出しの中にあった千枚通しを見つけ、やはりとばかりに、その小さい穴に差し込み。
パカッと二重底が開く。
二重底を机の上に置くと、中に入っていた本を手に取る。
「…………」
「!!!!!!」
――翌日・ユト公爵家・キョウコ自室
(ノД`)シクシク ←リズエル
「ど、どうしたの? リズエル」
「はい、そ、それが、先日、弟の部屋のチェックをしていたんですけど、これ、これが……」
とカバンの中から差し出したのは。
女を縄で縛り上げているいかがわしい本だった。
「リズエル、これ……」
「はい、グスッ、私、ショックで、ケルンは、確かにパッとしないし、顔もそんなに良くないし、女心も全然わからないし、冴えないし、浮いた話全然ないし、それも当然だと思うし、モテないだろうなぁって思うんですけど……でも、でも……」
ここで思い出すケルンの記憶。
――「おねーちゃん、すきー!」←幼少期のケルン
――「我は龍の転生者であり無事に覚醒した、お前は姉としての役割を果たしてくれた、礼に守ってやろうぞ!」←中二病時代のケルン
――「は!? 1人で旅行!? ったくしょうがないなぁ! 俺もついて行ってやるよ! べべ別に心配とかじゃねーし!! 姉さんトロいからだし!!」←最近のケルン
「わあああ!!(号泣)」
「よしよし(ナデナデ)」
「お、女の人を痛めつけて、それで喜ぶなんて!!」
「大丈夫リズエル! 私達には先生が付いているわ! 先生! トオシア先生! お願いします!!」
「はい、ケルンさんは普通ですね」
「普通じゃないですよ!! 以前にトオシアさんは食欲とか言ってましたけど、これはゲテモノじゃないですか!! 女の人を痛めつけたいって願望があるから持っているのでしょう!?」
「うーん、そうですね、となれば論より証拠、これをどうぞ」
そんなトオシアが差し出したのは1枚の写真だった、受け取った写真を3人でのぞき込んでみるとトオシアと美男子が写っていた。
2人並んで仲良く映っている、カップルのよくある構図の写真。
「「「…………」」」
( ゜д゜) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゜д゜) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
_, ._
(;゜ Д゜) …!?
最初は、そう、あれだ、チョーカーだと思った。
そのチョーカーを男がしている。
男でチョーカーって、と思った、これ、違う。
「く、く、く……」
「「「首輪!?」」」
「はい、ここからでは見えませんけど、鎖もついていて、私が手に持っています」
「「「…………」」」
絶句する私たちにトオシアが話してくれた。
この男は彼氏のうちの1人であるそうなのだが、見てのとおり美男子。
当然に顔だけじゃなくて、女性に優しく爽やかで遊び慣れたその雰囲気は当然に周りの女が放っておく訳もなく、不自由したことはなかったのだそうだ。
だが彼は苦しんでいた、自分が女性に虐められてることで興奮する性癖を持っていることに。
だが周りの女達にはもちろん、今まで付き合った彼女にも打ち明けたことはなかった。
何故ならモテる男はモテる男であることを女から要求される。
爽やか系のイケメンは、こんな趣味を持ってはいけないのだ。
もし、こんな趣味を持っていることを知られたらと考えた時、その情報は爆発的に拡散して、もう取り返しはつかなくなる。
だけど、トオシアと付き合った時、彼は彼女の噂を知っているからこそ付き合い、そして一大決心をして打ち明けたのだという。
「こうして彼は殻を破り、とても充実していると嬉しそうに語ってくれます。メデタシメデタシ」
「「「…………」」」
チラッ。
タイトル:縛られると気持ちいいの♪
「「「…………」」」
「男の人って可愛いですね、こんなので興奮するなんて(素)」←リズエル
「ええ、そうよね、可愛いよね(素)」←私
「なるほど、確かにケルンさんは普通ですね(素)」←ラニ
「トオシアさん、ありがとうございました、その彼氏さんもトオシアさんに出会えてよかったと思います」
「いえいえ」
――後日
(ノД`)シクシク ←リズエル
「あらあら、今度はどうしたの?」
「はい、そ、それが、先日、弟の部屋のチェックをしていたんですけど、これ……」
と再び差し出したのは。
タイトル:お兄ちゃん、私とお医者さんごっこに夢中だね♪
「こ、こんなのを! こんなのを!!!」
ここで甦るケルンの思い出。
――「おねーちゃんは女だから、守ってあげるねー!」←幼少期のケルン
――「姉よ! お前が作る供物が一番おいしいのだ! 龍の糧に相応しい味なのだ! だから早く供せ!」←中二病時代のケルン
――「夜に買い物!? 一緒に行ってやるよ! まったく本当に手間がかかるよな! べ、別に心配なんかしてねーし! 何かあったら俺の目覚めが悪いだけだし!!」←最近のケルン
「わあああ!!(号泣)」
「任せてリズエル! 先生! トオシア先生!」
「はい、ケルンさんは普通ですね」
「普通って! こ、こんな、子供を慈しむのではなくて、こ、こんなことに!!」
「これは、以前に私が付き合った男の話なんですが……」
●
「なるほど、そういうことなんですね(素)」←リズエル
「デザートとは言い得て妙ね(素)」←私
「ケルンさんは普通ですね(素)」←ラニ
――また後日
(ノД`)シクシク ←リズエル
「先生! トオシア先生!」
「あ、あの、リズエル、毎回号泣しているところ申し訳ないのですが、別にケルンさんは普通だと思いますよ」
:おしまい:
:おまけ:
――ユト公爵家・ケルン
「全くもう、姉さんは、どうしてそういうこと周りに話すのかなぁ」
と頼まれた資料を渡しにキョウコの自室へと歩くケルンは欝々とした表情だ。
はぁ、恥ずかしいなぁ、別にいいじゃないか、男は強いものに憧れるんだよ、水着の日焼け痕とかもいいじゃないか、そういう趣味というか趣向があるのは俺だけじゃないっての。
まあ気にしてもしょうがない、いつかは忘れてくれるだろう。
と扉をノックするケルン。
だが彼は知らない。
本の内容を忘れてくれるどころか、姉を通じてキョウコ達に自分が持っている全ての本の内訳まで把握されていることに。
今のマイブームが侍女物(身も心も尽くします的な本)であることをも把握されていることに。
そして扉の向こうで「ラニさんとトオシアさんをそんな目て見ていたなんて!」と説教態勢を整えた姉が待っていることに。
彼が「どうして俺だけ母親が2人もいるんだよぉぉぉ!!」と三度絶叫したのは言うまでもない。
:おしまい:
:::第二話・日常を楽しむ!!の巻
――ユト公爵家・キョウコ自室
いつもの麗らかな昼下がり、ダラダラ過ごす日々であったが。
「お嬢様、兄たちから手紙が届きました」
それはラニのそんな一言から始まった。
「あらあら、手紙……」
と言いながらラニが持ってきたのは封筒ではなく小包だったのだ。
「ん? 手紙?」
「はい、それがですね、この中に手紙が入っていたのですが」
と3人で小包の中を覗き込んでみると。
「魔石?」
魔石。
さて、この世界には魔法文化がある。ウチのメンバーでは、トオシアが大学の魔法学部を卒業しているため使える魔法使いなのだが詳しい解説は置いといて、魔法と魔石は一対と称される程、魔石は様々な用途で使える超便利石なのだ。
これは映像保存に特化されて精製された映像石だ。
何が保存されているんだろうと思い手紙を読むと、そこには先日のお礼が丁寧に記されていた、ていうか普通に字が上手い、しかも文面もしっかりしている、これをあのごつい体からと思うと凄い。
「母が厳しくて、あれで教育ママなんですよ、私も厳しく教えられました」
なるほど、そんな環境もあってラニは士官学校に合格するほどの学力を身に着けたという訳か、文脈もしっかりとしていてなるほど、凄いなと思う。
――追伸
――例のビジネスの件についての動画を収録しましたので、キョウコお嬢様、是非感想と評価をお願いします
「ん? ビジネス? なにこれ?」
「私にも皆目、お嬢様なら知っていると思ったのですが……」
「新しい商売、新しい商売……、うーん、なんだっけ、でも確かに言われてみれば、そんな話をしたような……」
「あ! 思い出した! そういえば!!」
そう、確かに新しいビジネスの話をテラとしていた。
それは、大狩の収穫祭の時のことだった。
――大狩祭
その時のテラは、少しだけ遠巻きに収穫祭を見ていた。
「無事に終わって良かったですね収穫祭」
「ええ、充実した戦いでした、けが人だけで終わりましたし、大成功ですね」
とここで言葉とは裏腹に真剣な表情で考え込むテラ。
「どうしたんですか?」
「我がノアロス族は、狩猟で生計を立てていることはご存知ですよね、ですが裕福という訳ではありません。我々はどうにも商売が苦手ですから、正直あの山の主は、相場よりかなり安く買い叩かれている事情があるんです」
「…………」
「食べるには困っていませんが、もう少し裕福にならないものかと考えているんですよ」
「え? でもコウさんは、世界の7名匠と言われていて」
「そんな風に評価されてますけど親父の武器制作は、ぶっちゃけ趣味です」
「趣味!?」
まずコウさんの作る武器は、一振りで日本円に換算するとなんと億の値がつくそうだ。
それだけを聞くと十分に潤うと考えるのだろうがさにあらず。
まず狩猟民族であるコウさんは若いころ、ノアロス族以外の世界を知らないといけないと突然思い立ち、武者修行の旅に出たらしい。
んで、その道中で今は亡き先代の7名匠の1人に出会う。
武器精製と鍛冶に出会いすぐにその魅力のとりこになり夢中になって寝食忘れて修行したそうだ。
それで秘められた才能が開花、メキメキと頭角を現して、その先代名匠が亡くなった時、遺言として名前を受け継いだのだそうだ。
無論その名に恥じない程の腕を持つことは間違いない。
だけど元々修行の一環として始めたから商売にすることは考えておらず、しかも気に入った相手にしか送らないそうで、んで更に義理ということで、持ち主も売ったりもしないから、市場にも出回らないのだそうだ。
出回ることがあっても、大体が持ち主が死んだ後で遺族が美術館に寄付をしたり、大事にしてくれる人を探したいという結果で、高額で取引されるものの、博物館へ寄贈だったりするので当事者間での取引だから当然一銭もコウさんの懐に入らない。
コウさん自身も贈った武器はその人の魂のものであると考えているみたいで、死後、取引されることも「場所移動」ぐらいにしか考えていないそうだ。
「もちろん武器の制作依頼もひっきりなしに入っているんですが、全部断っているのです、それこそ4大貴族からも依頼があったんですけどね」
「ああー」
なんかすごい想像できる。
それともう一つ、テラ三兄弟もラニも一つのことに没頭するタイプなのは家系なのか。
それにしても商売か、私も素人だからなぁ、そこら辺は全然わからない。
商社は、確かに人と人とを繋いで金になるビジネスを見つけるものであるが、商売とは似て非なるものだ。
自営業をしている友人もいるが、自分の食い扶持を自分で稼ぐというのは自由であるがその代わり何の保障もないので観点がまるで違う、余計にそう思う。
ん、ちょっと待てよ、思い出した、そういえば、転生前の筋トレ好きの同僚の話で……。
「筋トレを動画にして残して、有料で配るというのは、どうですか?」
「え?」
「えっーと、筋肉をどうやって鍛えるとか、ということについて完全な自己流になっていることが多くて? 効率的で効果的なやり方が知りたいという殿方は、結構いるんじゃないですか?」
そう、確か、筋トレ好きの同僚が、そんな話をしていた、筋肉は人によって全然違うと、その中で所謂「筋トレユーチューバー」なる存在の話をしており、筋トレに迷うとその動画を見て参考にしているそうだ。
んでトップの筋トレの動画配信者は年収は軽く数千万を超えるとかで盛り上がっていた。
そんなに見ている人物がいるのかと驚いたし、筋トレでそんなに儲かるのかという記憶がある。
「とはいえ単純に筋トレを撮影するだけじゃなくて、見てもらう工夫や、興味を惹ける内容にしなければならないそうで簡単なことではないようですけど、それとトレーニング機材を売ったり、後は有料個人授業? というのもお金になるとか」
「…………」
「ポロッ」←目から鱗が落ちる
「筋トレそのものを商売にする、考えたことも無かった! 確かに、筋肉は人によって違う故に、それぞれの「正しい」がある! ですけど全員正しいもある! 確かに商売になるかもしれません! いやいや、面白いことを思い付きますね! 流石貴族ともなると発想が違うのですな!」
「え? いえいえ、私の発案ではなく、そ、その、ニホン文明では、まさに筋トレで動画で金を稼ぐ人もいて、トップになると、平均の10倍ぐらい稼ぐ人もいると文献に残っていて、その方法を言ったまでですわ」
「ほほう、ニホン文明ですか、ラニから聞いていますが、本当に凄い文明なんですね、しかもその超古代文明にも筋トレ文化があるとは、まさに筋トレは時空を超える、ですな」
「(本当に超えているだけに質が悪い)はい、娯楽に時間と金を使う余裕があった豊かな文明だったみたいですわ」
「ふむ、確かに今は魔石は安くなっている、元手はその程度、流通は肉を卸すときに便乗すれば経費も節約できるな」
とブツブツ呟いていたが。
「はっ! まさか、キョウコ嬢!」
「な、なんですか?」
「ひょっとして、筋肉に興味があるんですか?」
「いいえ」
――
「こんな感じで話したわ」
ああ~と納得する私達。
「「「「…………」」」」
感想か。
なんだろう、魔石が急に禍々しく見えてきたけど……。
「お嬢様、あの筋肉馬鹿たちの事なので内容は推して知るべき、もちろん無理して見る必要は」
「いいえ、折角だから見ましょう」
「お嬢様……」
「ラニ、貴方を前にしての言葉だけど、貴方の家族、裏表が無くて本当に好感が持てるのよ、つまりこの映像に映っているのは、テラさんの悪意だけはない、それだけは信じられるから」
「あ、ありがとうございます、あの筋肉馬鹿兄貴共にそこまで、えっと、2人は」
「ラニ、お嬢様に倣う形ですが、私もテラ三兄弟には好感を持っているのですよ」
「ありがとうトオシア、あの、リズエルは辛いだろうから」
「いいえ!! ラニさんの家族のため!! 頑張りますよ!!」
「皆さん……」
相変わらず表情は出ないけど、感動してくれているのが分かるラニ。
私はここでラニの肩に手を置く。
「さあ、いきましょう」
とそんな最終決戦に赴くような悲壮感の中、私たちは動画を見ようと決意をする。
そして動画の再生ボタンをポチッ押して。
それは、一瞬のノイズの後に暗転されて再生された。
――パッ ←スポットライトがつく
――「「「…………」」」 ←ブーメランパンツを履いてそれぞれのボディビルポーズをとったテラ三兄弟
※BGM もの悲しい曲
――「人の世には、裏切りがある(イケボ)」←テラ
――「そしてその裏切りが、無くなることは、永遠にない(イケボ)」←レル
――「だが、唯一、裏切りが無い世界がある(イケボ)」←ヘダ
――「それは……」
――「筋肉の世界!!」←テラ
――「今日も筋肉! 明日も筋肉!」
――「筋肉はぁーーーーー」
――「「「裏切らない!!」」」
※ コメディ風のBGM
――「さあ! 今日は、皆の大好きな筋肉を見せてやろう! ふん!」←力コブを作る
――「わあ! 凄い上腕二頭筋だね!!」
――「わあ! 男らしいよね!!」
――「はっはっは! そう、今回はそんな全男子の憧れの筋肉! 逞しい力コブ! 上腕二頭筋!! 今日はこれを鍛えていこう!!」
――「あ! テラ兄さん、こんなところにダンベルが!!」
――「凄い大きさだね、こんな重たそうなダンベルが持ち上がるなんて、筋肉がある証拠だね!!」
――「その筋肉をつける為に、このダンベルがあるのさ! さあダンベルを持とう!! さあ皆さんここからは、私のやったとおりに動いてね!!」
――「これをこう持つんだ、だが激しい動きはいらないよ! ケガするからね! 正しいフォームが! こうだね! こうすると! グッとするんだ! そうするとブッってなるから! こうやるとバッバッってなるんだ! そうそう! こう! あれ! キテる! これはキテる感じがある! ああぁあーー!! いいね! 本当にいいね! 使っている感じがあるね! これが正しいやり方だ!!」
――「凄いやテラ兄さん! 何か一回り大きくなった感じだね! よっと!」←腕にぶら下がる
――「見てごらん、この巨体がぶら下がってもビクともしない! つまりこれを繰り返せば! 逞しい力コブが手に入るんだ!!」
――「筋肉はただ強くなるだけじゃないぞ! これで女も、いや女達もイチコロさ!!」
――「今年の渚の君を落とすのは君だ!!」
――「「「…………」」」←再びボディビルポーズをとるテラ三兄弟
※BGM もの悲しい曲
――「人の世には、裏切りがある(イケボ)」←テラ
――「そしてその裏切りが、無くなることは、永遠にない(イケボ)」←レル
――「だが、唯一、裏切りが無い世界がある(イケボ)」←ヘダ
――「それは……筋肉の世界!!」←テラ
――「今日も筋肉! 明日も筋肉!」
――「筋肉はぁーーーーー」
――「「「裏切らない!!」」」
※再びコメディBGM
――「それじゃあ皆! 筋肉の鼓動が震える時! また相まみえよう!!」←3人並んで手を振る
ここでブツッと映像が途切れた。
「「「」」」←3人
ふう、確かにパンチあるわ、看板に偽りなし、映像内での台詞のとおり、私達をイチコロ(物理)される破壊力だった。
「ふむ、肝心要の、筋トレそのものの方法が、擬音とか代名詞が多くて、分かりづらいですね、ですからそこをもっと理論的に説明できればいいと思いますよ」
トオシアが適格な批評をしている。
「……その、兄弟仲がいい、すごく良いことだと思います」
リズエルは、死にそうな顔をしながら、ピントがずれた批評をしている。
「ま、まあ、いいんじゃないの、殿方は筋肉好きだし、リズエルの言ったことを伝えてもらえれば」
これでまあ義理を果たしたことにはなるのか、はあ、疲れた。
「お嬢様、他に入っている9個なんですけど、えっと、全部別バージョンで収録しているから、それぞれに順位と点数をつけて感想が欲しいと……」
「「「…………」」」
パタッと後ろで倒れた音がする、多分リズエルだろう。
「…………」
天を仰ぐ。
繰り返す、テラ三兄弟も両親も、いい人だ、気持ちのいい人たちだった。
「分かったわ! 毒を食らわば皿まで!! どんと来いよ!! ねえ皆!?」
「はっはっは! もちろん! 筋肉如き、私の敵ではありませんよ!(自棄)」
ロイみたいなことを言い出したトオシア。
「皆さん、これが終わったら、温かいお茶を飲みましょう、心まで癒されるとっておきのがあるんです(遠い目)」
そしてリズエルが律儀に死亡フラグを立てる。
となれば、最後に私のやることは一つ。
「さあ行こう! 私たちの戦いはこれからだ!!」
ポチッとな!!
――「「「ハイハイハイ!! ハイハイハイ!! ハイハイハイ!!」」」←手拍子で3人揃ってブーメランパンツを履いた三兄弟
――「やあみんな! こんにちわ~~って思わず力コブ作っちゃった!!」←テラ
――「わあテラ兄さん!! 逞しい力コブだね!!」
――「昨日のドーピングコンソメスープのお陰さ!!」
――「お前の筋肉ドーピングの結果かつーーの!!(ビシッ!)」
――「「「HAHAHAHA!!!」」」
――「もちろん俺の筋肉は純正品さ! 今日はこの力コブ、上腕二頭筋を鍛えてようか! さあダンベルを出せ!」
――「はいテラ兄さん!」←注射器を出す
――「あーそうそう、これこれ、これがあれば簡単に筋肉がー、って俺の筋肉ドーピングの結果じゃねっつーーの!!(ビシッ!)」
そんなこんなで……。
「…………」←言葉が出ない私
「…………」←天を仰いでいるトオシア
「」←ヤムチャ死のリズエル
「(///ω///)」←赤面して震えているラニ
凄かった、色々と凄かった、個人的には筋トレ仲間から筋肉が似ているという理由で、実は生き別れの兄弟で感動の再会するというのが、発想の右斜め上をいっていた。
し、しかし、こ、これに一つ一つ点数と感想ち順位をつけろと、そんな高難易度な異種族レビュアーズをしろと……。
「あの、ふと思ったのですが」
動けない私達にトオシアが提案する。
「あの、この動画って、渚の君を落とせるとか、女もイチコロとか、男に呼びかけているじゃないですか、だったら殿方に感想を貰えばいいのでは?」
「「「それだ!!」」」
そうだよ、最初からそうすればよかった。
とはいえ……。
「うーーん、ぱっと思いつくのは救国の3騎士だけど、呼ぶと面倒よね、違う人となると、こういうことを頼める人というのは心当たりがないし」
うーんと悩んでいる時、リズエルが手を挙げる。
「ケルンに頼みます、あの子も男の子だから大丈夫だと思います」
「あー、そうね、ケルンなら信用できるか、ケルンの予定はどうなっているの?」
「そんな確認は必要ありません、私の命令は絶対服従ですから」
「流石姉、ならば早速お願いするわ!」
「はい!」
そんなこんなでリズエルが実家に魔石を持って帰り、ケルンに感想と評価を書いてもらい何とか一件落着したのであった。
:おしまい:
:おまけ:
――ベール男爵家・ケルン自室
「なるほど! こうやって鍛えるといいのかー! そうだよな! 学院時代の同級生のマッチョが筋肉に女は弱いとか言っていたし! 女の人ってマッチョ好きだもんね! これで俺もやっと!」←ケルン
「モテないから」←リズエル
「だから勝手に部屋に入るなって何度も言っているだろ!! って、引き締まった身体女好きじゃん!! ねーちゃんも良いとか言ってたじゃん!?」
「そうだけどそうじゃないの」
「え? なんだよそれ?」
「だがそれを真似をしてもモテない、それは断言する、お姉ちゃんちょっと距離とる」
「ええーーー!!??」
:後篇に続く:




