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第十四話:転生先で貴族令嬢として侍女の里帰りを一緒に楽しむ・前篇


 休日。


 私は、休日というものについて、社会人として最大限取るものだと考えている。


休まない長時間労働を自慢げに語る人間は「自分で仕事の遅い人間」だと言っているようなものだと考えているし、実際に仕事ができるようになればなるほど、必要な残業をする以外は定時で上がれる。


とはいえ、それをしてしまうと「仕事が早い」という評価ではなく「仕事をしていない」という評価になってしまうのが歯がゆいけど。


 ただいざ部下たちを休ませるとなると難しいものだ。


 転生前にも、部下たちに休日を取らせようにも、自分のチーム全員を休ませるなんてことは当然に出来ないし、抱えている案件が佳境を迎えてしまうとどうしても、休みにも出てきてもらうこともあったし、その場合だと代休まで考えなければならない。


 まあそれでも大体はそれでうまくいくが、忌引きといった突発的な休み等、色々重なってしまうこともあり、私1人で部下を含めた4人の案件を4日間同時に回すことになったことがあったが、会社に泊まり込んでの数時間睡眠は流石に死ぬかと思った。


 さて、私は貴族令嬢として活動していく上で、休日という者について転生前の社会人としての経験と方法がそのまま使えると思った。


 だが侍女の仕事は年中無休、何故なら侍女の仕事は貴族令嬢としての私の生活を支えることも含まれるから、つまり究極のブラックと言っていい。


 実際性格ブスなんかは自分に如何に尽くせるかで序列の決める要素にしている。


 自分の周りを手下で固め尽くさせる、ああ、そんな上司にいたなぁと思いだす。


 んで、実際に休みを与える方法、これには二つ考えた。


 一つは侍女たちをたくさん雇うこと。公爵家の経済状況を考えれば、難しい話ではない、ローテーションで休めるのだが、私自身侍女をこれ以上増やすことは考えていない。


 何故なら私は、組織を軍隊で例えるのなら「伍長」のポジションが自分に合っていると思うからだ。


 となれば二つ目、自分のスケジュール管理だ。


 これが冒頭につながってくる、私の貴族令嬢としての予定をクリアにすることだ。


 私が暇なら、侍女たちも暇、トオシアに頼んでスケジュールを調整、その結果。


「1週間の休みが実現!!」


 と満足してうんうんと頷く。


「休日は3日後から1週間ね、思えばチーム結成以来、大人になってからの世界も色々と変わったので休暇も突発的だった、ごめんね、とりあえず連絡だけとれるようにしてもらえれば、どのように過ごしても構わないわ、ゆっくり休んでね!」


 ちなみに私は1週間ごろごろする予定、自分の身の回りの世話は大丈夫だし、この休みに合わせてロルカムに色々と漫画とラノベを買ってこさせようと企んでいる。


 ちなみにロイは、休みの間はダメンズ共に預ける予定、元々私達女よりも男同士で遊ばせてはどうかと思っていたのもあるから丁度よかった。


 とのことだったが、ラニがこんなことを言い出した。


「お嬢様は確か旅行が好きでしたよね?」


「ええ、行きたいところは山ほどあるわ、色々と旅行にも行きたいよね!」


「お嬢様も含めてリズエルさんとトオシアさんも1週間の予定は、詰まっていたりしますか?」


「私は特に、実家に帰って彼氏とデートぐらいですよ」


「私も久々に実家に帰りますよ、リズエルと一緒で後は彼氏達とデートします」


「一緒じゃない!! 私は彼氏は1人しかいません!!」


「…………」


 私たちの予定を聞いて黙って考えているラニだったが。


「んー、日程を合わせられるのなら、皆さん私の故郷に来ませんか?」


 とこんなことを言い出した。


「ラニさんの故郷!? えっと狩猟民族なんだよね!? 是非是非!」


 と思わぬ提案に、リズエルが手を叩いて喜んだ。


「はい、ルカンティナ公国の領地ではありますが、山奥の国境付近にある辺鄙な集落に住む民族、名をノアロス族と言います」


「ただ観光名所も何もなく、あるのは温泉ぐらい、後は狩猟ツアーですか、丁度大狩の季節ですから見ごたえはあるかと」


「大狩?」


「半年に一度、山の主を狩るノアロス族の狩りの事です、第5等級魔物を狩り、ルカンティナ公国に卸している最高級肉ですね」


「ああー! 知ってる! 殿方が大好きよね! 私も何回か食べたけど、アレは美味しいわ!」


 貴族の社交に供される料理としてはメインを張るものであり、世界に誇れる食材、そうか、ラニの故郷の民族が狩っているのか。


「他にも毎月第7等級魔物を狩って肉を卸しているのですけど、その中で大狩は狩猟民族としての誇りの為でもあり、ノアロス族の生活の支えになっているのですよ、んで、先日実家より手紙が届きまして、たまには戻って来いとのことだったのですが……」


「よっしゃ乗った!!」


 と私も手を上げ、トオシアも同調する。


「私も是非お願いします、日程はどうしますか?」


「四日間を予定していますが」


「帰った後にのんびりできる時間もあるってことね、よし!」


 とささっと、ラニに近寄ると。


 ぎゅっと抱きしめる。


「……なんですか?」


「いえいえ~、おかまいなく~」


 私に続いてリズエルとトオシアもギュッと抱きしめる。


「…………」


 ラニはちょっとむすっとしているけど、くすぐったそうにしているラニが可愛い。


 マイペースで感情をあまり表さない彼女ではあるけれど、故郷に招待してくれる、このチームを自分だけじゃなくて、彼女も大事にしてくれることが分かって、それが私達もうれしくて、思わず笑みがこぼれたのだった。


 そんなわけで、4人でラニと一緒に里帰りすることになったのだ。





 そんなわけで迎えた出発日、馬車を一台用意してリズエルが御者台に乗り出発する。


 山奥にあるとはいえ普通に道は整備されているとかで、小型の馬車なら普通にたどり着けるとのこと、山奥となると領地内とはいえ人がいなくなるから、道中で魔物に出くわすこともなく、山道をのんびり進む。


「はあ、いいわね、のんびりしていて」


 馬の蹄の音と馬車の車輪の音が何とも言えない郷愁を感じて、山奥の景色が心にもいい。


 途中で何度かの休憩を挟みながら、のんびり揺られている。


 旅行、転生前からも大好きで長期休みを取っては色々な所へ旅行に行き、知らない土地を歩くのが大好きだった。


 メジャーな観光スポットもいいが、地元の人も立ち寄らないような寂れた神社なんかもまた趣があって大好きなのだ。


 ここは元の世界より交通は発達していないけど、それでも色々な交通手段があるが、まあそれは追々語っていくとしてと。


 そんな折、ラニが声をかけてきた。


「皆さん見えてきました、横に見える集落が、我がノアロス族の拠点です」


 ここで馬車から身を乗り出してみる私達。


 ラニにが指し示す先には山脈の中腹に集落が見える。


「わあ、楽しみですね!」


とウキウキ顔のリズエル。


うんうん、なんかよさげな雰囲気だ。


「皆様、出迎えは私の一番上の兄貴、テラというのですが、兄に頼んであります。正面から入った広場が憩いの場になっていて、そこにいるとのことです」


「ラニさんのお兄さんですか! ラニさん可愛いからお兄さんも妹思いなんでしょうね~」


「まあ妹思いというかなんというか、馬鹿でガキでデリカシーも何もないですよ?」


「うんうん、ケルンもそんな感じで憎まれ口叩くんですけど、可愛いんですよね~」


 とのこと、まあ兄弟としてみると色々と言いたくなるのは分かるけどね。


(そう、ラニには3人の兄がいる)


 さて復習しようか。


 ノアロス族。


ルカンティナ公国の国境付近に集落をつくり、生活をしている民族。


 主な収入は狩猟と武器精製、狩猟は付近の第7等級魔物を狩猟したり、主である第5等級魔物を狩りその肉を公国の最高級レストランに卸したりして、社交でもメインを張る食材である。


 んでその狩猟方法なのだが、特徴的なのが男女協力して行うそうだ、前衛が男で、後衛が女。


 後衛は安全という意味ではない、むしろ前衛が戦いやすいように的確にサポートする必要があるから、危険であることに代わりはない。故にノアロス族は強いことが良い女の条件であることだそうだ。


 強さ、ラニは私たちの中では一番の小柄で細身、だがその細さとは思えないほどのパワーとスタミナを持っている。


 つまり狩猟民族の男達は、ラニのように引き締まった体を持つ男達という事。


 更に私の戦闘能力についてだが、ロルカムに聞いたところ任意にオンオフだけはなく、加減まで出来るとのことなので、訓練してできるようになったのだ。


 そしてラニの容姿は、くりくりっとした可愛い系。


(むふふ、そう、以上の条件から、こう、展開される物語はこんな感じ……)


 獲物に襲われる私、そこで助けに入るノアロス民族(細身の痩せマッチョイケメン)、だが部族外の女であるにも関わらず、私は怯むことなく、その突然助けに入った狩猟民族と連携して後衛の任務を果たし、獲物を狩る。


 そんな私に驚いた狩猟民族のイケメンはこう言い放つ。


――「貴族のお嬢様って聞いていたけど……」



――「お前、変わった女だな」



キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!



 もしくは、後衛ではなく前衛の任務を果たし、獲物を狩る、そして一言。



――「規格外の女だな」



キタ━━━(Д゜(○=(゜∀゜)=○)Д゜)━━━!!



 もしくは助けられたものの、顔色一つ変えていない私、そして一言。



――「面白い女だな」



キタ━━━(゜∀゜)━( ゜∀)━( ゜)━( )━( )━(。 )━(A。 )━(。A。)━━━!!!!



 変わった! 規格外!! 面白い!!! このパワーワード!! 乙女ゲーにおけるイケメンフラグとの三種の神器!!


 まあ兄貴だけじゃなくても、色々なイケメンはいると考えるのだ。


「トオシアさんや(小声)」


「分かっております、そこらへんの空気は読む主義ですし、お嬢様と好みは被らないと存じます、痩せマッチョはレアですので楽しみです(小声)」



「「おーっほっほっほっほ!!(小声)」」


「はは……」←リズエル





 そんなこんなで辿り着いた先、ノアロス族の集落。


 高さ10メートルはある木製の壁に囲まれた、城塞のような雰囲気、流石狩猟民族。


 ラニは、手慣れた様子で持ってきた木片をくぼみにはめ込み、グッと回すと、閂が外れる音がして、そのまま両手を押す形で開く。


 ワクワクドキドキ、そして私たちの目の前に広がった光景は……。




――ノアロス族・中央広場




「ぐっ!! テラさん、テラさぁん! 俺、俺っ、もう! もう!!」


「たった三発でヘタれちまうなんてな、俺はまだまだ全然満足してねえぞ」


「だって、テラさんは、強すぎる、から」


 とテラは、すぐ横で別の尻を突き出している男の方を向く。


「テラさん、言われた体位を維持するの、き、きついよ」


「なんだ、お前も、へばったのか、ほら、もっと、尻を出せよ」


 テラは更に別の男に視線を向ける。


「下半身がくだけちゃって、俺、もう立てないよ、激しすぎるよ、テラさん」


 そんなぐったりした男達3人を見て、まだまだと言わんばかりに、ラテと呼ばれた青年は、最初の青年の顎に手を伸ばして、顎をクイっと上げて……。。



「ベンチプレスはただ寝るな! のけぞるようにするんだ!! さあ! 昨日の一発を超えることが今日の筋肉を作る!! やれ!! 三発のお前を超えてみろよ!!」



「はい! く、う」


「ぐおおおお!!! うおおあぁえええあぁぁ!!! よんぱあああつ!!! しゃああああ!!!! だらあああ!!!」←石の重りをつけた140キロのダンベルをベンチプレスで持ち上げている青年A


「よし!! 次はお前だ!! 尻を出せ!! もっと出せ!!」


 ぐっと強引に尻を出させられる。


「き、きつい!!」


「きつい体制こそが一番負荷を持ち上げられるんだ!! デッドリフトは腹圧をかけられる体制でやらないと重さに負けて骨が砕けるぞ!!」


「はい! ふーー!!」


「はあああ!!!」←石の重りをつけた180キロのダンベルをデッドリフトで持ち上げている


「しゃあああ!! だらああ!! ふううう!!!」←ドスンと落として息を吐く


 テラは最後の青年に向く。


「スクワットは下半身を鍛えるもの! 故に正しいフォームでやろうとすると腰回りの筋肉が求められる! お前のフォームでは腰の筋肉には余裕があるはずだ! 正しいフォームでやってみろ!!」


「はい! ふ、ふ」


「ふううううっ!!」←石の重りをつけた120キロのダンベルをスクワットで持ち上げている


「よし!!」


 そんな3人の歩きながら見て満足げに頷くラテ。


「筋トレの基本はベンチプレス! デッドリフト! スクワットのビック3!! 何をおいてもこれをしておけば問題ないと言える程の王道!! これを毎日欠かさずやるんだ!! 他の筋トレは補助的に行うだけで十分な効果が期待できる!!」


「でも、でもテラさん!!」


「なんだ!?」


 テラの言葉に3人の青年が涙を流す。


「つらい、つらいよう!!」

「筋肉が、筋肉が憎い!!」

「ここまでやっているのに!! 筋肉が付かない!!」


「馬鹿野郎!! 考えている暇があれば筋肉を使え!! いいか!! 人の世には裏切りがある!!」



「だが筋肉は裏切らない!! 絶対にだ!! さあ上腕三頭筋が破壊されるまで腕立て伏せだ!!」



「「「「「おう!!」」」」」



( ^ω^)………… ←キョウコ・トオシア


 正門から入った先の村の中央部、つまり憩いの場は筋トレジムと化していた。


(女にモテるというよりもダンベル何キロモテる? 同じモテるでも一緒じゃないんだなぁ、ねえトオシア)←キョウコ


(はいお嬢様、筋肉のついた引き締まった体のイケメンとかにキュンとくますが、これは違うんですよね、男どもは分からないみたいだけど)←トオシア


「すみません、お二人が何を期待しているのかは知っていたんですが……」


「いいのよ、うん、ま、まあでも、確かに皆さん引き締まっていて、鍛え上げられた筋肉は素晴らしいと思うわ」


 と放った言葉の直後だった。



「「「「「ギン!!!」」」」」



 と一斉にこっちを見るとドドドドと効果音付きで寄ってくる。


「筋肉を褒める声が!!」

「おお!! これはこれは麗しいお嬢様達!!」

「おお!! ラニじゃないか!! よくぞ戻ったぞ!」!」


「うるさい、この筋肉馬鹿ども、女の前だから筋肉話は控えなよ、テラ兄、久しぶり」


「うむ! よくぞ戻った! 後ろのお嬢様方が、例の?」


「そうだよ、えーっと皆さん、こちらが」


 というラニを押しのけて、テラが名乗りを上げる。



「ベンチプレス180! デッドリフト220! スクワット160!! 民族最強筋肉最強!!」



「テラ・ストラドスです」


 と季節外れに、黒々の皮膚と隆々の筋肉に白い歯を見せるテラ。


「(その日サロで焼いたのかというぐらい綺麗な黒色は何なんだ?)は、始めまして、キョウコと申します、こちらは侍女のリズエルとトオシアです」


 というかスクワットはまあ聞いたことがあるから分かるけど、デッドリフトってなんやねん、しかも数字言われてもどれぐらい凄いのか全然わからんのだが。


「よろしくお願いします、これより族長、私の親父の下へ案内します、そこで皆さんには寝泊りをしてもらいますので、まずは荷物整理をどうぞ、それとラニ、母さんとレルとヘダも実家にいるぞ、もてなしの準備をして待っている」


「はいはい、さあ皆さん、参りましょう、テラ兄、荷物ぐらい持ってよ」


「もちろん」


 と荷物を持ち、背中の筋肉を強調しながら歩くテラの後をついていく。


「…………」


 うん、想像以上だった。


 だがまだ慌てる時間じゃない。


 繰り返す、ラニはくりくりっとした可愛い系、2人いる別の兄は細マッチョイケメンである可能性は十分にある。


 んで娘は父親に似るという話だから、親父さんとやらはダンディオジサマの可能性がまだ残っている。


 もちろん不倫はアカン、でも、ダンディオジサマはフヒヒ。


 とそんなことを考えていると、集落の中で一番の高台にある大きな家まで案内されるとテラが指し示す。


「さて、ここが族長の家であり、我々の家であり、ラニの実家です」


 と案内されるままに実家に入った時だった。


「ベンチプレス150! デッドリフト200! スクワット140!! 民族最強筋肉最強!!」


「次男、レル・ストラドスです」


「ベンチプレス150! デッドリフト180! スクワット180!! 民族最強筋肉最強!!」


「三男、ヘダ・ストラドスです」


「「ラニの兄貴です、よろしくお願います、キョウコ嬢」」


 と2人が出迎えてくれた。


「(日サロがあるの!? この世界には日サロがあるの!?)初めまして、キョウコと申しますわ(コロコロ)」


「一周まわってありかも(小声)」


 と怖いことを言うトオシア。


「…………」


 無言ですっかり怯えているリズエルにストラドス三兄弟は参上したのだった。



次回は、29日か30日です。

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