第十話:転生先で貴族令嬢としてこれからも生活を満喫する
――後日・ルカンティナ宮殿
「救国の英雄、勇者ナオド!! 勇者のおかげでルカンティナ公国は救われたのです!! 公国で勇者ナオドの偉業を讃えようではありまえせんか!!」
宮殿のテラスで偉業をたたえる教皇、そして集まった割れんばかりの観衆の大歓声、その歓声に讃えられながら手を振る形で応えるナオド。
あの後、光が落ち着き視界が回復した時、龍の姿はなかった。
討伐完了、私は勝ち名乗りを上げた後、バレないうちにチートを使って即座に自室へ帰還。
そして段取りどおりにナオドが鎧と兜と剣を携えて宮殿に行き、勝利を報告。
もちろん報告して終わりではない、その後編成された周囲探索隊にもナオドは参加、周囲の徹底した検索の上で未発見、龍族の討伐がなしえたことを確認すると4大貴族は勝利を発表、ナオドは英雄として称えられることになり、公国の歴史に名を残すことになった。
という訳で始まった勇者への歓待、公国を挙げて行われており、一ヶ月はナオドは各所へ引っ張りだこだった。
毎日夜通しで疲れ果てており本人は嫌がっていたが、戦わないで終わったんだから、その代わり後の面倒事をやれとばかりに押し付けた。
とはいうものの意外と勇者としての面目を保つ形で上手くやっている、人当たりがいいから、それだけで「謙虚」だと持ち上げられる、なるほど戦いでは使えないけど、彼は今後も使えそうね。
そんなわけで、さて、私達はというと。
「ふんふんふーん♪」
ベッドで寝そべりながら漫画を読み。
「えへへ」
リズエルは、ニヤニヤしながらBL本を読み漁り。
「…………」
ラニは黙々と王道ラブコメを読みふける。
「なるほど、ここで金を打たせる訳か」
トオシアは、ひょっとして好きかも思って取り寄せた将棋セットを定石本を見ながら研究している。
よきよき、仕事が自分が組んだ段取りどおりに進むと凄く気持ちがよいものだ。
はぁ、平和な日々よ、さて、この後は恒例となった乗馬がてらのピクニック、そういえばキャンプはいつにしようかなぁ。
と思った時、来往者を告げるベルが鳴った。
ベルを聞いた侍女達3人はいつものとおり支度して「失礼します」と部屋を後にした。
そして自室へ扉を開けて応接室に入ってきたのは。
「おお侍女達よ!! 元気にしていたか!!」
当主タダクスだった。
来訪者を知り侍女達3人は優雅に頭を下げる。
「ようこそ当主様、ご用件を伺います」
「用件も何も娘に会いに来たのだ! 後始末に追われていたがやっと一息ついたのだ! んで恐ろしい龍はもう勇者殿が討伐したから安心だと伝えたくてな! 私に会えなくて寂しくて泣いていたのだろう!? こんな感じで!!」
――「お父様ぁ、こわいよう、会いたいよう、グスッ、ヒック」
「「「…………」」」←侍女3人組
「そうだもんね!?」
とリズエル両肩をガシっと掴むと半端ない目力で見る。
「…………………………………………はい」←目が泳いでいる
「やはりそうだったか! 娘はか弱い乙女、例えるのならそう、触れるだけで折れてしまうような嫋やかな一輪の花! その姿はまさにルカンティナに舞い降りた天使! そうは思わないかい?」
「…………………………………………はい」←目が泳いでいる
「そうだろう、そうだろう、そんな天使を守る騎士はパパある私なのだ! だが私には公爵という立場がある! その時に私に代わって守ってくれたのは、娘が全幅の信頼と信用を置くお前達なのだろう?」
「…………………………………………はい」←目が泳いでいる
「やはり! 父親として礼を言わせてもらおうぞ! さあ! 我が天使にパパが会いに来たと伝えてくれたまえ!!」
「「「…………」」」←侍女一同
どうしよう、実は単身龍に戦いを挑んで勝ったとか知ったら、この人は死んじゃうんじゃないだろうか。
「わわ分かりました、す、すぐにお嬢様に申し向けてまいります」
とササッと私室に戻り、ベッドに寝そべってバリバリ菓子を食べている触れるだけで折れてしまうような嫋やかな一輪の花に報告するのであった。
「あーー、そうだった、すっかり忘れていた、お父様へのフォローをしていなかったわ」
「どうします?」
「どうしますというか、父親に対しての対応は一つじゃない?」
「まあ、そうですね」
とそんなわけで「お父さま、寂しかったわ」とかクネクネしたら「泣きたい気持ちをよくぞ我慢した! 父の胸で泣くがいい! おーいおいおい!」と父親が号泣した。
そしてひとしきり私を抱きしめた後に上目遣いで「パパが一番カッコいいよ」という言葉でトドメを刺す。
結果ありえない程鼻の下を伸ばしながら大満足した様子で帰っていくのであった、ふっチョロいぜと、めでたしめでたし(雑)。
んで、部屋に戻り、時間も丁度いいからテキパキと準備を終わらせると乗馬がてらピクニックに向かった。
今回の行き先は……。
●
目的地はリズエルのお気に入りの場所、そして今は私たちのお気に入りの場所、ルカンティナ公国が一望できる丘の上。
今回は私がその場所に行きたいと頼んので実現したのだ。
公国を眺めていると感慨深い。
龍族襲来、世界文明レベルを後退させるほどの被害を出したこともある厄災。
まあ近くの山が三分の一無くなってしまったから景観は大分変わってしまったが、人的被害はもちろん物的被害も出していない。
自分が救った国がどういう姿をしているか見たかった、なーんて、ちょっとカッコつけ過ぎかなと思う。
いつものとおり、リズエルが作ってくれたラニがシートを広げて、リズエルとトオシアが準備をしてくれている。
そして始まった4人だけの昼食、戻ってきた日常、私は我が右腕たる侍女達を見る。
ラニ・ストラドス。
運動神経抜群のマイペース少女、私のボディーガード。人に自分を押し付けようとせず、一緒にいて疲れることもなく、のんびりできる存在。
トオシア・パルスコフィン。
最高学府を卒業した才媛、抜群の能力を持つ秘書。タフな精神力で人間関係の荒波である上流の世界を難なく航海することができるキーパーソン。
リズエル・ベール。
人柄がよく裏表がない稀有な才能の持ち主、他の侍女2人が認め従う侍女長。彼女がいるおかげで、雰囲気が柔らかくなり仕事がスムーズに進む。
銀髪の少年。
10歳ぐらいの目が金色の男の子、大きくなればトオシアが好みそうなイケメンに。
「ってちょっと待った、アンタ誰よ」
いつの間にか紛れていた銀髪の少年に皆の視線が集中する、少年は満足気に微笑み、高らかに叫ぶ。
「待っていたぞ!! 愚かなる人間どもよ!!」
「「「「…………」」」」←私達
「さあ、おしゃべりを続けましょうか」
「はい、あ、そうそう、キョウコお嬢様」
「はっはっは!! 我を無視するとは面白いぞ人間よ!!」
( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` ) ←私達
「なんなんですかね、急に」←ラニ
「あ、私分かりますよ、弟が丁度あの年頃の時にあんな感じでした」←リズエル
「顔立ちは整っているけどまだ少年過ぎ、10年後ならいただきます」←トオシア
「ちなみにニホン文明ではああいうの「中二病」って言うのよ」←自分
「「「へぇ~」」」
まあいい、相手にすると面倒だと無視を決め込むかと思ったが。
(´;ω;`)ブワッ ←少年
「ってちょっとボク! 泣かないの! 分かった! 無視してごめんね!!」
「はぁ!? 我がこの程度で泣くというのか! 侮辱が過ぎるぞ人間よ!」
「はいはい、んで、どうしたの? 1人でここに来たの?」
「当たり前だ! 我を誰だと心得る!」
「そうだね、偉いね、といっても10歳ぐらい? ならそろそろ1人前の男にならないとね」
「何が10歳であるか! お前よりも悠久の年を生きているのだぞ!」
「お前って、あのね、貴方位の年だったらそろそろ「礼儀」を覚えなさい。反抗することがカッコいいって思う年なのは分かるけどね、そういうのはちゃんと卒業しないと、それこそカッコ悪いんだからね」
「お前の尺度で物事を図るな人間よ! まだわからないのか!?」
と少年はバンと両手を広げる。
「我は龍族! お前と戦った龍である!!」
「はいはい、確かに龍は大きくて強いよね、男の子が憧れるのは分かるわ」
(´;ω;`)ブワッ ←少年
「分かった! 分かった! 信じるから! ね? ね?」
「うぞだもん! じんじてくれない! なんがいもなんがいも! じんじてくれない!!」
「だだ大丈夫よ! 信じてるからね!? よし! お姉さんと龍ゴッコしようね! さあ行くわよ! 閃光! はー!!」
そんな私の返事に少年はピクッと震えて袖で涙を拭うと、何かを思い付いたのか、そのまま上空に手をかざす。
そして少し手が光ったなと思った時だった。
パッと同時に、フラッシュのように一瞬だけ辺りが光に包まれ視界が染まり、そのまますぐに元に戻る。
「…………え?」
今の光、まさかと思って急いで上を見ると、光の柱が遠くに見えて、雲が円形に割れていた。
これって、あの、龍の閃光よね、え、え、まさか。
「本当に龍族なの!?」
「だから最初からそう言っているだろう! 我は龍族が一つ、ロイである!」
「…………」
相当に手加減していたが閃光は間違いなく本物、間近で見たから間違いない、ということはこの子は本物の龍ということになる。
そうか、姿が見えなくなったのは討伐したわけではなく、今の姿になって隠れていたのか、確かに人の姿をしている、なんて思わなかった。
さて、となれば次に考えればわざわざ自分の前に姿を現した理由を考えなければならない、話した感じプライドが高そうだ、つまり。
「ひょっとしてリベンジ? だったら受けて立つけど」
私は侍女達を庇う形でロイを睨みつけながら立ち上がる。
(´;ω;`)ブワッ ←ロイ
「だから泣かないの! 分かった! リベンジじゃないのね! んで、どうしたの? というかどうしてこの人間の姿なの?」
「ぐすっ、よかろう、愚かな人間にもわかりやすいように話してやろう」
「…………」
まあいいや、中二病を相手にしていると思えば。
「我は至高なる龍族、その身を世に落とすは、人のとしての交わりが必須として認め、その一時でも超えた存在と共に歩む、そう掟にあるのだ」
「…………」
なるほど、かみ砕いてい言うと「ここにいたいから仲間に入れて」という意味か、まあそういう言い方をすると泣くから言わんけど。
「んで、ここにいたいは分かったけど、アンタ何が出来んのよ?」
「龍族というだけで、至高なる存在、その意義を問うなど、人の身には過ぎたるものであるぞ」
「つまり何もできないのね。いらないからとっとと帰って」
「はっはっは、これは面白い、神とまで崇められる我が存在を無下にするとは、益々気に入ったぞ!!」
「だから帰れよ!」
まったく、龍なんてとんでもないものを抱えるなんて面倒事はまっぴら御免之介、しかも中二病とくれば色々とやらかしそうだ。
「用件は終わりね、じゃあ私たちはそろそろ帰るから」
(´;ω;`)ブワッ ←ロイ
「だから泣かないの!」
「すぐにぞうやっていじわるいう!!」
(こっちが悪いんかい!)←言わない
はぁーーー、もう手間がかかる。
うーん、でも確かにこのまま野放しにすると、そっちの方が面倒になるかもなんだよなぁ、それこそ気まぐれで攻撃されたらたまらないし、だけどどう方便を使えばいいのやら、チラッ。
「…………」←体育座りで木と向き合っている
あらぁ、いじけちゃった、でもなぁ、どうしようかなぁ。
とうんうん唸っている時だった。
「ん? 何かしらあれ」
遠目ではあるが、明らかに急ぐ感じで砂煙を上げながら向かってくる馬車集団が見える。
「あれはルカンティナ教の一団ですね、紋章が見えます」
抜群の視力を持つラニが早速とばかりに答えてくれた。
ルカンティナ教、主神ルカンティナを信奉する公国の国教だ。私の命名式も聖公会で執り行われた。
とはいえなんだろう、何か急な用事でもあったのだろうかと思ったが、どうやら私達に用事でもあるのか、こっち方向に向かってきて勢い良く来て、私たちを中心に半円状にとまる。
その一団の中で一番豪華な馬車の中から降りてきたのは……。
「教皇猊下?」
そう、ルカンティナ教教皇だ。
教皇は私達に目もくれず、ロイを見ると雷に打たれたように膝から崩れ落ち、わなわなと震えると。
「お、おおう、おーいおいおい! おーいおいおい!!」
と訳が分からず泣き出した、な、なに、なんなのよ。
「天に向かって意思ある時、その元に龍の奇蹟が降りたつ!!」
「は?」
なんか教皇も中二病みたいなことを言い出した。
「天への閃光が、その規模、まさにそれは意志、それを見てもしやと思って来てみれば、銀髪、金色の目、間違いなく龍人、私が生きているうちにまさか会うことができることはおおーいおいおい!!」
「…………」
さっぱり意味が分からないから、付き人に聞いてみたところ、龍の神話には実は公になっていない神話があるのだという。
その神話とは龍は人の姿としてこの世に顕現するというもの。
文明レベルを後退をさせるほどの厄災をもたらした存在であり、更に数例しか存在しない。しかも龍が人の身として生きることは、滅びではなく永遠の繁栄をもたらすと言われるのだそうだ。だから神話というよりもお伽噺としての扱いで、その神話を知る者の中でも信じていない人も多いのだそうだ。
なるほど、龍人は永遠の繁栄をもたらすのか……。
(なんか過大評価されてない?)
まあ言えないけど、タダの泣き虫な子供にしか見えないけど、チラッ。
「…………」←首だけこっちを向けている。
ん、ちょっと興味を示しているぞ、とおいおいと泣いていた教皇猊下はようやく落ち着くと、両膝を付き跪く。
「私はルカンティナ神に仕えし教皇サラーケンドと申します。も、もし、人の身である私に、よろしければ、お、お名前を伺うという名誉を、頂けないでしょうか、龍人様」
教皇の言葉を合図に枢機卿団を始めとした全員が恭しく頭を垂れ、跪く教皇猊下の一団。
「…………」←跪く全員を眺めるロイ。
(`・ω・´)シャキーン!! ←復活
「はっはっは! 我が名はロイである! 龍族が1つ! 我を讃えよ! なればこの公国を守ろうぞ!!」
「お、おお! 聞いたか!! 龍人様が!! 公国への幸福を導きたもうた!! 伝説のとおり!! おーいおいおいおい!!」
「「「「…………」」」」←おいていかれている私達
まあいいや、これでこっちにいる大儀は出来たから、ロイの世話は教皇に任せるか、てなわけで私たちはそろそろ。
「そういえばロイ様、伝説では龍族は勇者の下に人として現れると聞きましたが、どうしてキョウコ嬢と会っておられるですか?」
(げっ!! そうだ!! この流れになるんだった!!)
当然質問の意図が理解できないロイは首をかしげる。
「ん? 何を言っている、勇者は「教皇猊下!! これには訳があるのです!」」
「ど、どうされましたかな、キョウコ嬢」
「勇者ナオドとの密約による結果、ですわ」
「おお、おお! そうか、そういうことでしたか! 勇者殿はキョウコ嬢の「召使」ということでしたな、分かりました! 深くは聞きません、ということは当然」
「ええ、龍人の存在は秘匿としますわ、元より教皇猊下もご協力をお願いしたいと考えていました。そして龍人であるロイは先ほどのとおりルカンティナ公国へ繁栄を約束してくれました。この結果をもって私はお父様に報告します、ロイの身柄について一旦こちらで預かり、処遇はナオドと交えて改めて協議しましょう」
「分かりました、なればそれまではこちらも大人しくしておきましょうキョウコ嬢、このサラーケンド、この件については尽力いたします。龍人様、再びの拝謁の名誉を賜りたく存じます、その時はどうか」
「うむ! 殊勝な心掛けを忘れるな! さればその名誉を与えよう!!」
「ありがたき幸せ!!」
と再び感涙する教皇、よし、美味い具合にハッタリが利いて助かった。
「教皇猊下、今はロイと私たちの交流を深める場であるが故」
「委細承知、動転していたが故の非礼お詫びします、すぐに退散いたしますのでまた」
とテキパキと撤退する準備を整えると、その場を後にしたのだった。
「ふいー」
危なかった、ちょっと冷や汗出た、その横でロイは頷く。
「ふむ、確かに、思えば讃えられていた勇者は男だったな、お前は、勇者であることを隠しているのか?」
「まあね、色々あんのよ、言っておくけど、このことは」
「わかっている、というよりも、秘密の勇者か、英雄は注目されうっとおしいからどうしようかと思ったが、面白いぞ!」
そうか、中二病的には英雄よりもそっちの方が琴線に触れるわけか。
「という訳で、よろしくね、ロイ、貴方の存在は確かに勇者と同じぐらいの大事な事よね」
「はっはっは! やっと我の偉大さに気が付いたか! 人の世に身を落とすのは、悠久を生きる我にとっても経験の無いこと! お前も我に尽力せよ!!」
「あーーそれと」
ガシッとアイアンクローをかます。
「はぐっ!」
「年は上かもしれないけど、精神年齢は姿と相応ね、つまり貴方は子供。いい? 敬語を使えなんて言わないわ、だけど外では普通に話しなさい、もし治らないなら、お仕置きするからね?」
「わ、わ、わかった、普通に、話す」
パッと放す。
「はい、よくできました、まあ遊びなら付き合ってあげるわ、私はキョウコ、んで侍女であるリズエルとトオシアとラニね、後は色々と段取りを組まないとね~」
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←ロイ
「さて皆の衆! 公国に帰還しようぞ!!」
とパパッと帰り支度をするのであった。
●
さて、思わぬ後始末が待っていた今回の龍族襲来。
まずロイの処遇についてだが、あの後、ナオドに龍人を報告した、どういう反応をするかなと思ったが「ああ、この子が龍人ですか、本当に現れるんですね」と知っていた。
何で知っていたのかと聞いたら普通に担当天使に教えられたのだという。だからこそ探索隊が組まれていたのだそうで、裏にはその目的があったのだという。
うん、まあロルカムに言っても「聞かれなかったから」で終わるだろうから、まあいい。
その次に父親に龍人であるロイを紹介した。
父もこの龍人の伝説は知っていたらしく、あの閃光の報告を既に聞いており「もしや」とは思っていたそう、ロイを見て教皇と一緒で「奇蹟の体現なり!」と感涙していた。
自分の部屋に居候させると言ったら「奇蹟の体現ガ、龍が我が家ニ、良かろうゾ」と目のハイライトが消えた状態で了承してくれた。
んで肝心要な「国に繁栄をもたらす」という点についてだが、ロイ自身も「?」と首をかしげていた、そんな能力は持っていないらしい。
つまり元よりお伽噺レベルの存在であったため、どう国に繁栄をもたらすのか具体的な内容は全くなく「いるだけでご利益がある」というお守り的な存在であることも分かった。
それをもってもう一つ私はハッタリをうった。
ロイがいることナオドが召使であることは全く関連性はない、だが父や教皇に「全てはシナリオ通りです」と何処ぞの特務機関の司令のようなことを言ったのだ。
結果、こんな感じになった。
ロイが今回、他の国を襲わなかったのは勇者がいるルカンティナ公国に向かい勇者と一騎打ちをするためだった。
理由は、自分を超える存在である勇者を確かめるためだった、その結果自分を超えた勇者に対して敬意を表する形で龍人として降臨。
ナオドは私の召使であることは、今回の事態が発生するかもしれないということを想定した上だった。つまり私は自分の勇者としての活動をする上での協力者として存在していることになり、ロイが私の元に現れたのはそのためだった。
故に、ロイは私が協力者として自室に居候させることになり、引き続きナオドも召使として駐留することになったのだ。
んでロイは公国で生活を営む上での障害である、銀髪と金色の瞳は人の特徴ではなく、知る人が知ればバレてしまう恐れがある。
その件については姿は変装程度なら自分の力で変えられると言っていたので、金髪碧眼に変化するように指示し、外に出る時はそれで通すように躾けた。
ちなみに住むところを私室にしたのは、中二病の言動は相変わらずで何かやらかしても困るので、余っていた個室を一つ与えた。狭いとか何とか文句を言ってくるかと思ったが、悪くないと満足気だ。
よきよき、さて、これで本当に終わりの終わり……。
ではなかった。
●
仕事において大事なのは段取りである、段取りが早い人間が仕事が早いのである。
だからこそ段取りどおりに事が進むと気持ちがいいのである。
とはいえ仕事にはトラブルはつきものなのである。
もちろん発生するであろうトラブルを予測し即座に対処、予測しないトラブルについては経験で対処するのもまた醍醐味ではある。
だが、自分と全く関係ない訳ではないが、予想外に意味不明な方向に飛んでいく状況が発生した時、どうしようか途方に暮れた経験は社会人を経験していれば一度はあるのではないだろうか。
今回の龍族襲来の件について、チャラ男のレザに頼んだことを覚えているだろうか。
それは「忖度」をしろといったもの。
直接指示をするのではなく「私がそうしろと言っていた」と偶然を装って聞いたということを父親に報告しろといったものだ。
何故ならレザの父親は一流の政治屋であり政治家、つまり1流の忖度人だからだ。
チャラ男のレザはそれだけはちゃんとしてくれたらしく、何気に今回の龍族襲来からロイの件に至るまでスムーズに片付いた件についてのレザの父親の忖度の活躍は大きかったらしく、父も礼を言っていた。
それでだ、本題はこの次だ。
まあ、変だとは思っていた、社交界に参加した時、イケメン達を含めた紳士たちが全員遠巻きに私を見ていいるだけだということに。
最初は、色々なハッタリのせいかと思って特に気にはしていなかったが、こう「私を見る目」というか、なんか変だと思って調べたところ、衝撃の事実が付随する形で判明したのである。
まず今回の龍族襲来の折、キョウコ嬢は一見して龍を怖がって部屋に隠れているだけだったが実は違った。
それは演技でキョウコ嬢は龍族襲来を予見して、命を懸けて対策に取り組んでいた。
その気高く美しい覚悟と誇りに感銘を受けたからこそ勇者ナオドは召使として彼女の騎士となり、ルカンティナ公国に駐留すると決めた。
ナオドの龍族討伐の結果を見て日ごろの冴えないのは全て演技、つまり仲の良いロルカムが冴えないのも全て演技、その証拠にロルカムも私の密命を帯びているとの言から、彼もまた騎士であるということが判明した。
そして伊達男の異名を持つレザも彼女に忠義を尽くすことでより名声は高まり、結果、傍に控えるただものではないオーラを持つ謎の金髪碧眼の少年もまた「シナリオ通り」ということになった。
つまり……。
彼ら4人が、公爵令嬢キョウコ・タチバナを全員で愛し支えると決めたキョウコ騎士団なのである!!
※ 橘京子の深層心理 ←レベルEのアレ
●
他の異世界転生者たちは、自分が転生したことと転生した先の世界をどう思っていたのだろうか。
過酷な運命を背負った主人公もいるし、私のように楽しく過ごしていたりする。
転生先の世界で生きていこうとする人物もいれば、元の世界に戻ろうとしている人物もいる。
そんな私の異世界転生は他人と間違えられて転生した。転生前もそれはそれで楽しかったけど、仲間である侍女3人に好き勝手過ごす日々はもっと楽しい。
今日はたまには貴族令嬢らしく深窓の令嬢でもしてみるかと思い立ち屋敷の庭で侍女達と共にお茶と茶請けを嗜みおしゃべりに興じる。
ああ、幸せな日々よ。
「あの、お嬢様」←リズエル
「いいの、私には何も見えないわ」
「そ、そうですか」
と居心地悪そうなリズエル達の周りには。
「たた、橘さんは! ボクと結婚するんだよう!!」
そうのたまうのは救国の英雄である勇者で無敵で女にモテモテ。だけど性根が変わっていないからどうしようもない引きこもり気質、ダメンズイケメン。
「笑わせるぜ、そいつは俺の女だ、来いよ、抱いてやる」
そうのたまうのは伊達男の異名を持つ淑女の憧れの的、だけど女を落とすことだけ長けており、それ以外は何もできない、ホスト系イケメン。
「慢心せずして何が王か!! 雑種!!」
そうのたまうのは永遠の繁栄を約束する奇蹟である龍族、だけど泣き虫な中二病キャラである合法ショタ。
「いやぁ、またここに来れて良かったですよ、言われたことだけやれば後はノンビリしていいなんて中々ないですから、向こうはもう窮屈でしょうがなくて」
そうのたまうのは龍を超える神族の中性的美男子、だけど中身はナオドとは別の意味でのダメンズウォーカー。
「あの、お嬢様」←ラニ
「いいの、だから私には何も見えないの」
「橘さん! 橘さんは男らしいと思います! キャ! 言っちゃった!」←ナオド
「(無視)このお茶菓子美味しい、流石リズエルね」
「ど、どうも」
「キョウコ、そんな男相手してないで俺とフゴォ!」←レザ
「さて、そろそろキャンプの準備でもしましょうか」
ポン ←ロイに肩を叩かれる
「痴れ者が……。天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるかッ(訳:一緒にキャンプ行きたい)」
「(無視)あ、そうそう、キャンプと言えば」
(´;ω;`)ブワッ ←ロイ
「だーー!! 別に意地悪じゃないの! 女だけで行かせろや!!」
「そういえば橘さん、良かったですね」←ロルカム
「お前絶対に余計なこと言うだろうから、はっ倒すぞ」
「ええ!? 怖い!!」
「どうせ逆ハーレムが異世界で実現したとか言うんでしょ、いいから黙ってろ」
「相変わらず僕に厳しい……」
とまあこの私を愛し支えると決めたらしい騎士団、うん、自分で言うと寒気がするが、こいつらの運用方法をちゃんと考えないと日常生活に支障をきたす。
それにしても変だ、私が転生前に、いや転生後も読んでいる貴族令嬢ものは、必ず自分のことを無条件で理解してくれる「飾らない君が一番魅力的だよ」とかのたまうイケメン達に囲まれて、想いを寄せられたりするはずなのに、この体たらくは何なのか。
待てよ、全員が積極的とは限らないじゃないか、中には奥手もいるだろう、まあ男にリードして欲しいけど、奥手をリードをするのもやぶさかではない、いいんだよ、一途なイケメン達、恥ずかしがらずに出ておいで、うん、だから異論を聞く気はない。
まあマイナスに考えてもしょうがない、前向きに考えるのが人生を楽しむコツだ、さあ楽しくなってきたぞ、今の私の状況、それは。
「肌荒れが気になる30代女子が異世界転生したらイケメン達に囲まれてさあ大変♪ 私これからゴフウ!!」←ロルカムをはっ倒す
「さーて侍女達! キャンプの準備に取り掛かるよ!!」
と細かいことは置いといて楽しむことを第一にすると決めたのであった。
続きます。
その際はよろしくお願いします<(_ _)>。




