第九話:転生先で貴族令嬢として国家の危機に立ち向かう:後篇
――決戦・3日前
――「待っていたよロルカム」
レザを何とかした後に、突然響いてきたロルカムの声にこたえる。
――「あのさ、色々と聞きたいことがあるんだけど」
【言ってきますが、私は介在できませんよ】
――「分かっている、アンタさ、私に無敵の戦闘能力があるって言っていたよね?」
【はい】
――「その無敵ってのは、どのレベル?」
【地上最強と表現して差し支えありません、あの勇者と同等です】
――「まず確認一つ目、その地上最強の定義は、その竜族も入っているのね?」
【入っています】
――「となると、あの龍を相手にした場合、最強の私の差はどの程度のものなの?」
【そうですね、例えるなら鮮血浴す蛇令嬢に対しての初代魔王といった程に差があります】
――「おいぃぃ! その例えで「最強じゃん!」って反応する女子がいたら怖いわ! ネタの種類を考えろよ! 確かに元ネタは有名だし傑作であるとは思うけどもジャンルが思いっきり男性向けな上にニッチなんだよ!?」
【すみません】
――「あのね、パロティっていうのはね、どうしても自己満足が入ってくるから、その部分で嫌悪感を示す人がどうしてもいるの。だからパロディで相手を楽しませようとすると、安易に考えている嫌われるだけだから勇気がいるし、使い勝手がものすごく難しいのよ」
【なんか実感こもってますね】
――「転生前に創作活動を少々、ってそれは置いといて、もっとわかりやすく例えて」
【ならば宇宙の地上げ屋に対しての側近の果物たち】
――「しゃあ! わかった! まあなんだかんだで気に入った世界だし、いっちょやったるか! んで、アンタはいつごろ戻ってこれるの?」
【龍族の件が終わったらと言われています】
――「ん、じゃあ、帰ってきたらまた買い出しよろしく」
【はい、頑張ってください】
とここで通信が途切れる。
さて、最後の段取りだ、私は自室に向かった。
●
侍女、私の直属の部下、いや、仲間って表現した方がいいのか、友達と表現した方がいいのか。
それぞれに性格がまるで違うから、上手くいくかなと不安な部分もあったが、それぞれの持ち味を活かして全員仲良くやれている。
私は思う、人間関係において重要なのは長所を認めることじゃない、短所を許せるかどうかだ。
この3人の侍女たちは各々の「欠点」を自覚して、それを自分の性格の一部だと解釈している、故にお互いに認めているから友好関係が築けるのだ。
「リズエル達、いい?」
私の緊張感をはらんだ言葉でわかるのだろう、全員の顔が引き締まり、バンと片手をリズエル達に突き出す。
「決めたわ! もし龍族が攻めて来たらどうするかについて! 皆の衆! 覚悟は決まったわ! 私のやることは一つよ!!」
「はいお嬢様! 付いていきます!!」
「戦うわよ!!」
「分かりました!! ってええええええぇぇぇ!!??」
「ナイスノリツッコミ( ´∀`)bグッ!」
「むむむむりですよぉぉ!! りゅうとなんてたたかえませんよぉぉ!!!」
「大丈夫、戦うのは私1人だけだから」
「ななな、なにをおっしゃっているのかわかりませんよぉぉ!!」
半泣き状態のリズエルだけではなく、流石にラニとトオシアも顔が引きつっていて、ラニが進言する。
「お嬢様、失礼ながら現実的な提案ではありません、そもそも勇者がここに」
「言いたいことは分かる、あのね、私ね」
さて、ここからが方便の使いどころだ。
私は心の中で部下であり仲間であり友人である侍女たちに嘘をつかなければならないこと詫びながら、言葉を放つ。
「勇者の力を借りたのよ」
あっさりとした告白、全員がキョトンとしたが……。
「……お嬢様、グスッ、それでも、お嬢様が戦う必要はないと思いますよぉ」
と泣くリズエルの頭を撫でながらトオシアが問いかけてくる。
「どうして勇者から力を借りたんですか? 私たちに相談もなく」
咎めるようなトオシアの言葉、それが心配してくれるからこその言葉だというのが嬉しい。
「というよりも、正確には押し付けられた、といった方が適切ね、突然神の力が勇者ナオドから私に移ったのよ」
「と、突然?」
「貴方ならそれが何時なのか分かるでしょ?」
私の言葉でトオシアはハッとする。
「召使として雇った時!」
「(ごめんトオシア!)そのとおりよ、私が卓越した戦闘能力を持っているのは知っていたでしょ? 実はあれって、ラニが指摘した通り才能じゃなくて、神から強制的に与えられたものなの」
「もちろん今回の能力移行もね、ナオドはもちろん私の許可なくね。だから今勇者ナオドは、一般人よりも少し強い程度にまで力が落ちているの、これがどれだけ重大なことか、だからこちらで保護する必要があったのよ」
私の説明に全員絶句しているが、トオシアが口を開く。
「つまり、勇者とキョウコお嬢様は神に関わるものであると?」
「うーん、きっかけは向こうから強制的に接触してきた、って感じだから、関わる者というのが適切かどうかわからないけどね」
「勇者のイメージは神が遣わし者、もっと神聖なものだと思っていましたが、今の話を聞く限り……」
「まあ実際どうなんだろうね、でも悪意ではないと信じたいわ、実際に勇者がいなければ、龍族に目をつけられた瞬間に終わってしまうからね」
「…………」
――現在
そんな感じのやり取りがあり、私は今ここに立っている。
ちなみにナオドに担当天使と相談して頼んだことは、私サイズの鎧と聖剣の即日即納が可能であるかだ。
結果は、可ということだったので、プラスして顔を隠すために兜も追加注文して全身を覆うようにして正体を隠した。
そしてナオド個人には、4大貴族の当主たちに龍族襲来したときに龍と戦うとだけ宣言させ、軍をあくまで国内の警備に限定させるように願い出たのだ。
ちなみにナオドは身長180センチ近くあり私と20センチの差があるけど、遠目では20センチの差なんてまずわからない。
んでナオドはさっき使った方便を元に保護という名目で現在ヲタク部屋にいる。私が龍が震えて閉じこもったという事を利用して「リズエル達以外には会わない、誰も入れないで」とだけ他の家族や召使達に伝えて待機させてある。
まあもし、公国に被害に及びそうになったときは、せめてリズエル達3人ぐらいは守れと伝えてあるから大丈夫だと思う、腹をくくればやる時はやると思う、多分。
(ごめんね皆、嘘ばっかりついて、貴方達だったらひょっとしたら本当のことを話す時が来るかもしれない、もしその時が来たら、精いっぱい謝るから許してね)
と決意を固め龍と対峙する。
「初めまして、龍族、私の言語は理解できるかしら?」
『理解だと? 愚かな人間よ、それは我に聞いているのか?』
「そうよ、会話は大事よ、お互いのことを知るためには会話が不必要だもの、えーっと、私の名前はキョウコよ、一応勇者よ、私」
『ほう、汝が勇者か、我が龍族と同等の力を持つもの、しかも声からすると女か、これは面白い』
「そう? だけどね、出来れば私は、穏便に事を済ませたいと考えている。だからさ、見逃して欲しいのよ、このまま何もせずに、自分の本拠地でじっとしていてほしいの」
『…………』
一瞬黙ったと思ったら、歪に笑う。
『決めたぞ、本当であれば、このまま帰ろうかと思ったが、気が変わった』
首をもたげると声高らかに叫ぶ。
『お前の態度だ! 民よ! この者は我に不敬を犯した!! 万死に値する!! よってこの者を滅ぼした後!! その責任として国を滅ぼす!!』
凄まじく、国中に響き渡る声、その声を付近で聞けば普通だったら死ぬだろうが、流石チート、ちょっとうるさいぐらいにしか感じない。
「はん、どの道何を言っても襲うつもりだったんでしょ、その論理展開、チンピラとクレーマーの常とう句よねぇ、ぬるいぬるい、その程度に動じる橘さんではありませんよ」
と私の軽口に答えるように龍が大口をゆっくりとあける。
その喉の奥が光ったなと思ったら。
次の瞬間、私の周りは光に包まれ、辺りから音が消失した。
――閃光
それは歴史上に記されている龍の攻撃。
体内のエネルギーを口より放つ、原理は不明。人類からすれば未知のエネルギー波といった認識しかできない。
その破壊力は、その人類文明レベル全て火力をつぎ込んでも到達することができない領域。
その威力は、伝承で語り継がれるのみだが。
光に包まれた世界が回復した時、数キロ先の山が三分の一消し飛んでいる惨状を見て、ルカンティナ公国民はその伝承が真実であったと歴史に生き証人となった。
龍は、自分の攻撃の成果を認めて頭を上げると
『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』
咆哮、それは生きとし生けるもの全ての力を根こそぎ奪いとる、絶望の音。
「お、終わりだ、我が国は、終わりだ」
と崩れ落ちて嘆く国民たち。
――軍本部
「…………」
軍の最高幹部たちは、初めて目の当たりにした閃光の力にただ茫然とするだけで。
――ラニンキア伯爵邸
「…………」
レザとユリスたちもまた、恐怖という感覚もなく立ち尽くすだけ。
――ルカンティナ宮殿
「……神よ」
神に祈る教皇に無言のまま覚悟を決める4大貴族。
そして……。
――キョウコ・私室
「お、おじょうさまぁ! うわぁ~!! やっぱり無理だったんですよぉ~!!」
とリズエルが泣き崩れる。
「しっかしなさい! これは本格的に逃げる算段をしないと!」
珍しくあせるトオシア、ここでスッと横に立つのは勇者ナオドだった。
「た、橘さん! い、いかないと!」
「駄目です、貴方は今は普通の人なのでしょう! 行って何になるのです!?」
「そ、それは!」
トオシアの諫めに、バツが悪そうな顔をするナオド、そして何かを決意したように口を開こうとした時だった。
「ん?」
とラニはピクッと反応すると、双眼鏡を構える。
「……マジすか、お嬢様」
ラニの視線の先……。
「はー、びっくりした、凄いドキドキしている」
と無傷でいた私がいた。
『』
と絶句する龍。
「鎧や兜、体に傷一つ無し、その代わり……」
ポンと鎧越しに自分の体を叩く。
「お気に入りの部屋着が燃え尽きている、つまり鎧の下は全裸かよ。これじゃあ、中学時代に初めて遭遇して、何度ぶっ飛ばしてやろうかと思った露出変態野郎と一緒じゃないか、おいおい、いくら30代の元乙女つったって舐めんなよ」
『お、お、お前は』
明らかに怯えた様子で後ずさる龍。
「さてと、フィニッシュブローをどうしようか、考えていたんだけど」
と突然万歳をする。
『? な、何の真似だ?』
「まあ、流れ的にこれかなぁと思って、でも時間がかかる必要もないし、他の人のエネルギーもいらない、本当にチートだと私も思うわ、という間に準備完了、さて上をご覧ください」
龍は私の言うがままに上を向くと巨大なエネルギー玉が出来ていた。
『……え゛?』
それが何なのか向こうが問いかける前に、その万歳した手を思いっきり振り下ろし。
再び世界から音が消失した。
次回は1週間以内に投稿します。




