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尊敬できる人

作者: 雨音ころん

『先輩、尊敬できる人っていますか?』


その質問にすぐに答えが出せなかった事を思い出す。


「え。。。と、たくさんいすぎてなぁ、ははは。」


最終的に笑って誤魔化した事もついでに思い出す。




急に変な質問しやがって。


会社の後輩とたまたま一緒に昼飯食ってる時だった。


よくわからないが、なぜかそんな話に突入していた。


その後輩にはたくさんの『尊敬できる人』がいた。


だからかもしれない、俺にもいると思ったのだろう。


その時の俺の出した答えは嘘ではなかった。


その後輩の質問から答えを口に出すまでに


色々なヒトの顔と情報が脳裏に浮かんで来たからだ。


俺の脳は『尊敬できる人』をピックアップしてくれていた。


ただ俺の心は、その中から『尊敬できる人』を

選び抜くことができなかった。


理由はたぶん、「たくさんいすぎて」って

答えた事も、もちろんそうだったと思う。


過去の偉人や身近な人まで、すごいなーって思う人が

たくさん浮かんだわけだし。


だけど、その人たちのことを深く知らなかった。


すごい人と思うだけで、知ろうとしていなかった。


ぼやっと宙に浮かぶ選択肢を適当に選んで口に出した後、


数分後に行き詰まる自分が、未来視のように脳裏に広がって


口に出せなかったんだなって今になると思う。


その時くらいから、俺の『尊敬できる人』探しが始まった。


世界的に有名な偉人や歴史上の人物はもちろん。

身近な上司、先輩、先生。


とりあえずなんとなく、自分より目上の人にポイントを絞って探していった。


そして探している間にわかったことがあった。


俺の場合だが、実際に接したことがある人の方が

心から『尊敬できる人』って思えるのだと。


そこから脳をフル回転させて身近な人の情報を掻き集めた。


浮かび上がる顔、


その顔に少しずつ情報をくっつけていく。


まるで顔写真にその人のことが書かれたポストイットをペタペタ貼っていくみたいに。


結局、「すごい人」の要素が増えただけに過ぎなかった。


「案外いないもんなんだな。。。」


誰に言ったわけでもなくただそう独り言を呟いて今日も帰路につく。


今日もやっと終わったなー。


そもそも尊敬って何だ?


すごいと思うことか?


敬い、尊ぶ?なんだそれ。


明日もめんどくせーなー。


頭の中で自問自答、ほぼ自問と悪態を繰り返しながら歩いていた。


結局今日も答えは出ないまま、見慣れた玄関先につく。


「ただいまー」


おかえりーという聞き慣れた母の声と共に腹の虫がなる匂い。


すでに飯を食い終わり、テレビを見て酒を嗜む父。


平凡だ。


平凡だけど、それがいい。


さっきまでの自問自答なんてどーでもよくなっていた。


とりあえず飯食って風呂だ。


箸を持ちかけた時、母から親父が来週で今の会社を定年退職することを聞いた。


転職もせず、ただひたすらに同じ会社で働いてきた親父。


もう定年なのか。年とったんだな。


振り返ると色んなことがあった。


毎日朝早くに出ては夜遅くに帰ってくる親父。


釣り道具のメンテナンスをしては見せびらかしてくる親父。


全自動リールを買おうとして母に怒られる親父。


休みの日に鳴り響くガラケー持っていなくなる親父。


キレると鉄パイプで殴ってくる親父。


二回同じことを言ってくる親父。


子供に迷惑かけないようにって頑張る親父。


俺のことをすげぇなって言ってくれる親父。


そんなことを思い出してると自然と笑えてきた。


ん?


そうか。そんなもんか。


人がどう。尊敬の意味がどう。


別に考える必要なかったのか。


俺の尊敬って、目標だったのか。




子供の俺に平凡な毎日を与えてくれたこと。


どんな辛いことがあったって、

耐えて頑張ってくれていたこと。


常に子供を中心に考えていてくれたこと。


時々自分の釣り中心だったこともあっただろうが。


それでこそ親父。


それだけあれば十分だった。


そうありたいと。


その背中にはまだ届かないけどいつか、いつか追いついてやるんだと。


親父が言ってくれたすげぇなに胸を張れるように。


ありがとう。




「そーいえば俺の尊敬できる人の話なんだけどさ」


「え、もーいいですよー」


これだ。


こんなもんだ。


でもいいさ。待ってろよ。


その場所まで追いついてやる。


いつか肩を並べられるその日を目標に。


平凡な答えに誇りを持って。


日々に挑む。

ある一人の男性の想いを、ほんの少し分けてもらいました。私もそう思えるような人にありたいなと思わせてくれました。ありがとうございました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう考え方好きです。 社会人になって初めて気付く事ですが、平凡に生きる事がどれだけ大変か、凄い実感します。
[良い点] 普通が大変だってことですかね。成長と呼ぶか妥協と呼ぶか。
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