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それはある側面においては正しかった。
現にこれまでわたしは大過なく過ごしてこられた。
しかし、私はもっと用心深くあるべきだったし、身を守る手段をもっとさがしておくべきだったのだ。
わたしの義父は准男爵といったが、この称号は世襲のものではなく義父の一代限りの称号だった。
この学園の中ではわたしは成り上がりものの娘、平民という認識をされていた。
「なんで平民が魔力をもてる人間しか入学できない、この学園にいるの?しかも妙な時期に編入してくるなんてどういう事情なの?」
と編入時には好奇の視線にさらされていたが、じきに彼らは私に慣れた。というよりどうでもよくなったようだった。
正直にいうと、この学園にくるのは嫌だった。
魔力を持つ生徒しかいないこの学園にくることは私にとってはリスクの高いことだったのだ。
義父も同じ意見のようだったが、わたしが義父に引き取られたばかりのころは、自分の魔力を完全に隠す方法を知らなかった。健康診断を受けた際に、魔力持ちだと気づかれてしまい仕方なく編入する運びとなってしまったのだった。魔力を持つ人間がこの学園に入学するのは、この国の義務だった。
私と私の義父は、神話の時代から忌み嫌われる民族の末裔だった。
私たちの祖先は代々、様々な国で迫害を受けてきていた。
そのせいか、その血に「選ばれし民」だという誇りを持つことで自分を保つ仲間たちもいる。彼らは一族間のつながりが強いが、きわめて排他的だ。
私たちが嫌われるのは理由があり、それはその血に闇魔力を持っているということだった。
その力で権力をにぎり、暗黒時代をもたらした祖先がいた。
その力で人々を惑わし、好んで争いをもたらした祖先がいた。
歴史上、戦争や独裁政治をしてきたのは、私たちの民族に限ったことではないはずだが、我々がその血に宿す闇魔力の存在は常に排斥の理由だった。
私たちは、国をもたない常に少数派のよそものであり、なにかあると矢面に立たされる傾向にあった。
だから、義父は巧妙に自分の経歴をごまかしていたし、家族にもしられないようにしていた。
私をひきとったのは私の保護者に脅されて仕方なくのようだった。
義父は私が闇魔力の持ち主だと知らなかった。
それは知られると間違いなく引き取りを拒否されるから、私が隠していたせいだった。
だから健康診断で「魔力もち」と判断されたとき、義父はそれが「闇」のつくものだとすぐにわかったのだろう。
「隠してたのか。なぜ黙ってた」
と後でものすごく責められた。しかし義父にも私が黙っていた理由は分かっていたはずだ。
ただ、これからいつ爆発するかわからない不安要素を抱えて生活していかなければならないことに、絶望したような顔をしていた。
申し訳ないと心から思ったが、わたしも義父に頼るしかなかったのだ。
そういう経緯もあり、私は目立たないようにしてきた。
前世と同様、スタート地点から不安要素があったのだが、きっと前世の夢は今生でうまく生きるための警告だったのだ。と思うようにした。