《双子》の子供たち④
「前回のあらすじ」
《子供たち》を前に、亜人たちが次々と倒れてゆく。
かつての人類の兵器は、彼らの尊大な生命の前では何の意味もなさず、死と混乱はみるみるうちに広がった。
しかし、そこに一人のレギオンが介入する。
呪われた黄金の輝きを纏い、再び夜に立つその存在は、図らずも《竜》とあまりに近しいものであった。
夜風の中に、何かが焦げる匂いがした。
目の前で起こった出来事を前に、その老人は静かに歯噛みする。
《星の竜》が、これほど簡単に殺されたのは初めてだ。「餌」にかかった二十四匹は、あれから間もなく全滅の憂き目となった。
「はは、なかなかやるじゃないか」
戦車の足元で、ジャン・ジャルジャックが言った。
「初めて見るだろう。あれが、好例の力だよ」
その声には、どこか暗い響きがあった。
彼は、星々の失せた丘の向こうを眺めながら、再び「赤」の笛を吹き鳴らす。
亜人たちの左方の集団が、再び後方の「壁」とともに歩き出し、それから少し遅れて、今度は鹿の鳴き声ような甲高い音色が響き渡った。
今、三つの集団は大きな凹の字を描こうとしている。その光景を眺めながら、中央で瞬いていた黄金色の火の粉がゆっくりと鎮まってゆくのを、彼はその細めた両目で見据えていた。
もっと、命の数を減らさなくては――。
その言葉を聞き取った者はいない。
しかし、彼は胸の奥から湧き上がる恐ろしい予感に、ふと周囲を見渡さずにはいられなかった。
「《旧種四号》に命ずる。速やかに《懲罰大隊》を編成し、ジャン・ジャルジャックの外征任務に追従せよ」
《ダーガー》の命令が、頭の中を駆け抜ける。
初めは、何のこともない話だと思っていた。いつものように、亜人を引っ立て、引きずり回し、囮という名の間引きを行う。
それは、《大隊長》を命じられた自分にとって当然の使命であり、そこに疑問を差し挟む余地などどこにも無い――無いはずだった。
「間引きにしては、相応しくない人選よな」
彼は、あえて皮肉げに返す。
「ジャン・ジャルジャック。貴様、《王国》に何を命じられた?」
その問いに、返る言葉はない。
地平線を見据える真っ赤な両目は、いつにも増して煌々と輝き、ぎしりと音を立てる空っぽの右腕は、にわかに波打つ生暖かい風に密かに震えていた。
時間がない。意を決して、老人は自らの背中へと右手を伸ばす。そうして引き出された肩がけの取っ手の後ろには、彼の背丈ほどもある巨大な大砲があった。
「――まあ、何でもよい。だがな《人類》よ、覚えておくがいい」
ハッチを這い上がり、戦車の頂に立った彼は、ゆっくりと姿勢を固める。
毛むくじゃらの両足から覗く亜人の曲がった足爪が、さながら鈎のようにその縁を引っ掛け、しんとした虚空のただ中に、じりりとヤスリの擦れる音を立てた。
「《亜人》は、それでも生きるのだ!」
その叫びが、大空に向けて引き金を引いた。
火薬の爆ぜる音、噴煙のような真っ白な煙。大気を突き抜け、影もなく舞い上がるその弾は、なぜだか、彼の目にはヒトの「首」のように見えた。
そうして蘇る、「過去」の記憶。気まぐれに凍った彼の時間は、その一瞬に、ほんの少しだけ「誰か」の影を映し出すのだった。
「《まほろば》――」
かすれた声が、風のように駆け抜ける。
淡い木漏れ日の下、彼はその青々とした瞬きの中に、小さな人影が、誘うように両手を差し出しているのを見た。
しかし、彼は静かに首を振る。すると、それはふと悲しげにその手を下ろすと、再び帰ってきた闇によって、ずるずると忘却の向こう側へと引きずられていった。
ギャアアアアアアアアンッ!
そうして、それは鳴り響く。
耳をつんざく、ガラスが砕け散るような音。それは、キーンとした耳鳴りとともに辺り一帯のすべての音を塗りつぶし、黒ずんだ水たまりに、無数のさざ波を立てる。
一瞬の出来事に、その場の誰もが動きを止めた。亜人たちの集団も、丘の中腹で凹の字を保ったまま静止し、それに合わせて、後方のVivianたちもぴたりとその歩みを止めた。
「《子供たち》! 餌はここだ! 亜人は今、ここにいるぞ!」
余韻さえ覚めぬ中、一つの叫びが響き渡った。
その直後、前方のあちこちから「キリキリ」と奇怪な鳴き声が上がる。それは、まるで蛙の輪唱のように次々と重なり、さっきまで静かだったはずの丘陵に、無数の恐怖が木霊を始める。
ジャン・ジャルジャックの仮面が、老人の笑みと重なった。
そして同時に、十両の戦車が一斉に唸りを上げ、混沌にむせび泣く亜人たちに向けて猛スピードで前進を開始した。




