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ニュクスの星にて  作者: 御御
《双子》編
16/39

《双子》の子供たち④

「前回のあらすじ」

 《子供たち》を前に、亜人たちが次々と倒れてゆく。

 かつての人類の兵器は、彼らの尊大な生命の前では何の意味もなさず、死と混乱はみるみるうちに広がった。

 しかし、そこに一人のレギオンが介入する。

 呪われた黄金の輝きを纏い、再び夜に立つその存在は、図らずも《竜》とあまりに近しいものであった。

 夜風の中に、何かが焦げる匂いがした。

 目の前で起こった出来事を前に、その老人は静かに歯噛みする。

 《星の竜》が、これほど簡単に殺されたのは初めてだ。「餌」にかかった二十四匹は、あれから間もなく全滅の憂き目となった。


 「はは、なかなかやるじゃないか」


 戦車の足元で、ジャン・ジャルジャックが言った。


 「初めて見るだろう。あれが、好例ロットの力だよ」


 その声には、どこか暗い響きがあった。

 彼は、星々の失せた丘の向こうを眺めながら、再び「赤」の笛を吹き鳴らす。

 亜人サバイバーたちの左方の集団が、再び後方の「壁」とともに歩き出し、それから少し遅れて、今度は鹿の鳴き声ような甲高い音色が響き渡った。

 今、三つの集団は大きな凹の字を描こうとしている。その光景を眺めながら、中央で瞬いていた黄金色の火の粉がゆっくりと鎮まってゆくのを、彼はその細めた両目で見据えていた。


 もっと、命の数を減らさなくては――。


 その言葉を聞き取った者はいない。

 しかし、彼は胸の奥から湧き上がる恐ろしい予感に、ふと周囲を見渡さずにはいられなかった。


 「《旧種四号オールド・フォー》に命ずる。速やかに《懲罰大隊》を編成し、ジャン・ジャルジャックの外征任務に追従せよ」


 《ダーガー》の命令が、頭の中を駆け抜ける。

 初めは、何のこともない話だと思っていた。いつものように、亜人なかまを引っ立て、引きずり回し、()という名の()()()を行う。

 それは、《大隊長》を命じられた自分にとって当然の使命であり、そこに疑問を差し挟む余地などどこにも無い――無いはずだった。


 「間引きにしては、()()()()()()人選よな」


 彼は、あえて皮肉げに返す。


 「ジャン・ジャルジャック。貴様、《王国》に何を命じられた?」


 その問いに、返る言葉はない。

 地平線を見据える真っ赤な両目は、いつにも増して煌々と輝き、ぎしりと音を立てる空っぽの右腕は、にわかに波打つ生暖かい風に密かに震えていた。

 時間がない。意を決して、老人は自らの背中へと右手を伸ばす。そうして引き出された肩がけの取っ手の後ろには、彼の背丈ほどもある巨大な大砲ランチャーがあった。


 「――まあ、何でもよい。だがな《人類ヒト》よ、覚えておくがいい」


 ハッチを這い上がり、戦車の頂に立った彼は、ゆっくりと姿勢を固める。

 毛むくじゃらの両足から覗く亜人サバイバーの曲がった足爪が、さながら鈎のようにその縁を引っ掛け、しんとした虚空のただ中に、じりりとヤスリの擦れる音を立てた。


 「《亜人サバイバー》は、それでも()()()のだ!」


 その叫びが、大空に向けて引き金を引いた。

 火薬の爆ぜる音、噴煙のような真っ白な煙。大気を突き抜け、影もなく舞い上がるその弾は、なぜだか、彼の目にはヒトの「首」のように見えた。

 そうして蘇る、「過去」の記憶。気まぐれに凍った彼の時間は、その一瞬に、ほんの少しだけ「誰か」の影を映し出すのだった。


 「《まほろば》――」


 かすれた声が、風のように駆け抜ける。

 淡い木漏れ日の下、彼はその青々とした瞬きの中に、小さな人影が、誘うように両手を差し出しているのを見た。

 しかし、彼は静かに首を振る。すると、それはふと悲しげにその手を下ろすと、再び帰ってきた闇によって、ずるずると忘却の向こう側へと引きずられていった。


 ギャアアアアアアアアンッ!


 そうして、それは鳴り響く。

 耳をつんざく、ガラスが砕け散るような音。それは、キーンとした耳鳴りとともに辺り一帯のすべての音を塗りつぶし、黒ずんだ水たまりに、無数のさざ波を立てる。

 一瞬の出来事に、その場の誰もが動きを止めた。亜人サバイバーたちの集団も、丘の中腹で凹の字を保ったまま静止し、それに合わせて、後方のVivian(ヴィヴィアン)たちもぴたりとその歩みを止めた。

 

 「《子供たち(ガキども)》! 餌はここだ! 亜人われらは今、ここにいるぞ!」


 余韻さえ覚めぬ中、一つの叫びが響き渡った。

 その直後、前方のあちこちから「キリキリ」と奇怪な鳴き声が上がる。それは、まるで蛙の輪唱のように次々と重なり、さっきまで静かだったはずの丘陵に、無数の恐怖が木霊を始める。

 ジャン・ジャルジャックの仮面かおが、老人の笑みと重なった。

 そして同時に、十両の戦車が一斉に唸りを上げ、混沌にむせび泣く亜人サバイバーたちに向けて猛スピードで前進を開始した。

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