《双子》の子供たち②
「前回のあらすじ」
バベルを奪われたロット・ワンは、意思を奪われ、死地へと向かっていた。
しかし、そんな中、ジャン・ジャルジャックは一つの決断をする。
「二度目」の反逆を行った彼は、ロット・ワンにかせられた枷を解き、開戦を告げるのだった。
頭の群れが、寄り添うように集まっていた。
蒼白い光のたなびく、湿ついた荒野。そのむっとするヨード臭のただ中を、真っ白な星が、津波のように押し寄せてくる。
対する頭は、およそ九百。恐怖に震えるばかりの毛むくじゃらのそれは、文字通り丸腰の集団であり、さながら盾の如く並べられたその背中には、銃口という名の見えない壁が立ちはだかっていた。
《懲罰大隊》
いつかの昔、一人のレギオンが懐かしそうにそう言って以来、それは彼にとっての日常であり続けている。
「三つ、四つ、五つ――。ふん、もう数えるのも面倒だわい」
大隊長は、にわかにたわんだ口元の毛を撫でるように弄びながら、押し寄せてくる光の群れに、にやりと悪意ある笑みを浮かべる。
「第一射、撃て!」
その掛け声とともに、無数の轟音が大地を揺るがす。
火花を纏い、煤を撒き散らしながら宙へと飛んだその砲弾は、夜の帳の下に鮮やかな軌道を描きつつ、目標の脳天に真っ黒な穴を形成する。大地が弾け、落雷の如き衝撃が、その傍にいる存在を巻き込んで、赤々と暴力的な炎を上げる。
「全弾命中!」
足元で、甲高い声がそう告げた。
遠く向こうでは、黒煙に絡まれた白光の群れがたじろくように揺らめき、その合間から、焼き潰れた触腕の先端が、ぴくぴくと震えながら覗いている。
打ち出された砲弾は、計十発。そのすべてが、非人間的とも言える正確さで《子供たち》を打ち抜き、なだらかな斜面の中腹に、鮮やかな黒煙を立ち上らせていた。
「よろしい! では仕事にかかるぞ、《赤隊》前進!」
戦車のハッチをばしりと叩くと、彼はその口元に、小さな赤いホイッスルを噛ませる。
キイィィィィィィィッ!
直後、甲高いタカの鳴き声が、夜の大地に響き渡る。
亜人は馬鹿だ。知能が低く、覚えも悪い彼らに、複雑な行動は一切期待できない。
ゆえに、大隊長は次の二つのみを命令のすべてとしていた。すなわち「前進」か、「後退」かだ。
彼の胸にぶら下がる赤白黄の三色の笛は、それを伝えるための手段であり、同時に亜人たちにとっては、恐ろしい死の行進の始まりの合図であった。
亜人たちの集団の左方が、一斉に色めき立つ。彼らは、自らの首にはめられた「首輪」が赤く点滅するのを見て、一様に恐怖の声を上げていた。
《抑制機》。元来、失敗作のレギオンに使用されるはずのその首輪は、時の流れとともに、いつしかまったく別の道具へと進化を遂げていた。
「ぎゃっ!」
左方集団の外れで、虫が潰れるような鈍い声が上がった。
見れば、その集団から数メートルほど離れた位置に一匹の亜人が倒れており、その全身からは、真っ白な浸出液とともに、無数の血しぶきが小さな噴水のように吹き上がっていた。
その首輪に、いまや光は無い。集団から外れることは、彼らにとって最もわかりやすい反逆の一つであった。
ほどなく、後方から、銃口を向けたVivianたちの「壁」が、無言のまま前進を始める。
それを見て、左方集団の亜人たちが、まるで逃げるように慌てて前方へと行進を開始した。
「どうだね、我らの景色は?」
亜人の老人は、視線の脇に立ちすくむ一人の影に、いやらしげな笑みを注ぐ。
その視線の先には、亜人たちの中にぽつんと浮かぶ、一人のレギオンの姿があった。
「だが、容赦はせんよ。《白隊》――前進!」
毛むくじゃらの口に、白い笛が被さる。
そうして発せられたイルカの鳴き声ような音色は、中央の亜人たちの集団に白い点滅光を浮かび上がらせるのだった。




