〈4〉
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「あたしはその子犬をゴミ箱から拾い上げて腕に抱いたわ。コンビニの店員は困った顔をしてるし、この子はあたしが引き取るしかないわねって考えてたの。でもそこへ突然、品の良い老婦人が声を掛けてきたのよ。あたしたちのやりとりを近くで見ていたのね。それで老婦人はこう言ったの。『よければその犬、私が引き取ってもいいかしら?』って。悪い人じゃなさそうだったしあたしも困ってたから、その子犬を彼女に手渡したわ。すると彼女はバッグから一枚の名刺を取り出してあたしに渡したの。そこには『赤坂典子』っていう名前と、電話番号が書いてあった。『困ったら電話してちょうだい』って彼女は言って、そのまま犬を抱いてどこかへ行ってしまったの。夜空には雪が降り始めていたわ…。あたしはコンビニから部屋に帰り着くとひどく寒気を感じて、そのままベッドへ潜り込んだの。そのあと熱を出して三日も寝込んだのよ。あたしは熱にうかされながらずっと夢を見てた…。夢の中であたしは、エデンの園みたいな楽園にいたの。花を摘んだりなんかしながらね。するとそこへ裸の男が現れてあたしに声を掛けてきたんだけど、男の喋
っている言葉がさっぱりわからないのよ。でもそのとき、あたしはふと自分が裸だということに気が付いたの。あたしは急に恥ずかしくなって森へ逃げ込んだわ。すると森の暗い陰から蛇が現れて、あたしの足にするりと巻きついたの。びっくりしたあたしは蛇を振りほどこうとするんだけど、そうしてるうちに森のいたるところから無数の蛇が集まってきて、あたしの体に次々と絡みついてきたのよ。あたしは死ぬ思いで叫び声を上げたわ。すると突然、暗い森が光に包まれ、あたしの体からするすると蛇がほどけていったの…。次の瞬間、あたしは草原に横たわっていて、傍らにはさっきの男が立ってた。今度はお互い裸じゃなく、ちゃんと服を着てたわ。あたしが体を起こすと、男はその場を立ち去ろうとしたの。あたしは『待ってよ!』って声を掛けたんだけど、男は立ち止まってくれなかった。『あなたが助けてくれたんでしょう! ありがとう! ありがとう…』ってあたしは広い草原の真ん中でいつまでも叫び続けた…。そこで夢は終わったの。枕が、涙でびっしょり濡れてたわ…。
あたしは次第に、子犬や老婦人のことを忘れていった。名刺に書かれていた電話番号に電話することもなかった。でも半年くらい経ったある日、あの老婦人の赤坂典子と街でばったり会ったの。