〈3〉
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「あたし、ゴミと一緒にすててある毛布を見ると憂鬱になるの。だって毛布って人間を優しく包むものでしょう? どんなに辛くて悲しい夜だって、暖かい毛布にくるまればほっと救われた気分になれるでしょう? そんな優しくて暖かい記憶と結び付いた毛布が、無造作に雨ざらしの状態で捨てられているのよ…。やるせないわ…」
マリリンは思いつくままに語った。僕たちはいつの間にか赤ワインを飲んでいた。犬のグロリアはマリリンの足元で、古ぼけたクッションのように丸まって寝息をたてていた。
「グロリアは捨て犬だったの。コンビニのゴミ箱に捨てられていたのよ、信じられる? あれは寒い冬の夜だったわ…。あたしはコンビニにおでんを買いに行ったの。どうしても食べたくなったのよ。あたしが白い息を吐きながらコンビニの自動ドアの前に立つと、なにか子犬の鳴き声が聞こえたような気がしたの。でも自動ドアが開くと店内から流れてくるBGMに遮られて、さっきの音がなんだったのかよく分からなくなったの。BGMは、曲名も歌手名も知らないけどやけに歌のうまい、まるで子守歌みたいなJポップのバラードで、アルバイトの店員はもう三日も眠ってないような疲れた顔をしながら、レジの前で曲に合わせるように無意識に体を揺らせていたわね。あたしはその睡眠不足の店員に声をかけておでんをよそってもらったの。大根と牛筋とコンニャクと卵、つゆは少なめでお願いしたわ。それから飲むヨーグルトとメンソールのタバコも一つ。あたしはお金を払って、また寒空の下、早く自分の部屋へ帰ろうと自動ドアを出たの。そしたらやっぱり聞こえたの。クンクンいってる鳴き声や、ゴミ箱にボコボコぶつかる音が…。あたしはゴ
ミ箱の丸い穴から中を覗いたわ。でも真っ暗で何も見えやしない。それで睡眠不足の店員を呼んで外に引っ張り出したら、その店員はありえねぇとかブツブツ言いながらゴミ箱を開けたの。するとそこにはペットボトルに埋もれながらぶるぶる震える、薄汚れた子犬がいたわ…。
これがグロリアとの最初の出会いよ。