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鉄壁のギルガⅠ ~リンゴール戦記Ⅱ~  作者: 金剛マエストロ
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08 それぞれの事情

ギルガとリーリアが冒険者になろうとした動機とは?

 冒険者になろうとする動機は、人それぞれだ。

 ギルガは農家の三男坊で、父から農地を譲り受ける長男、男子のいない親戚の養子になった次男と違い、確実な将来が見えなかった。

 兄たちとの折り合いが悪いわけでもなく、村でもそれなりに認められていたギルガだったから、たとえば長男や次男の家に居候して農家の仕事を手伝いつつ、新たな耕地を開拓するなどすれば、村に居続けることも可能だったろうし、実際、そういう人生を選んだ者も、村には多い。

 独り立ちの年齢に至り、自他共に認める慎重派のギルガが選んだ道は、しかし、冒険者を目指すことだった。

 ギルガは体格に優れてはいたが、特に戦闘力が高いというタイプではない。

 村で行われる鹿狩りでも、上手に弓を打って獲物を仕留めるのは長男や次男の役で、ギルガは倒された鹿を背負って運ぶ役に徹していた。

 それゆえ、ギルガの戦士としての素養は未知数だったが、兄たちは心配げな表情もなく、送り出してくれた。

 前に前にと出ようとしないギルガは、そうそう命を落とすことはないだろう。

 万が一、大怪我でもしたなら、村に戻ってくればいい。

 いつも落ち着いた物腰で、少し頑固で、誰にも優しい弟の居場所は、いつでも用意しているのだから。

 高価な宝石や金銀財宝、異国の特産品などは必要ない。

 冒険者として経験したこと、街の生活の様子など、ちょっとしたエピソードと、無事な姿で戻ってくることが、何よりのお土産なのだから。

 そんな兄たちの想いを、ギルガはまだ知らない。




 リーリアは、孤児だった。

 ある寒い冬の朝、教会の前に捨てられていたのを神父が発見し、孤児院に入れられた。

 孤児院の経営はカツカツで、食べ物さえ充分とは言えなかったけれども、不思議と雰囲気は暗くなく、笑い声が絶えなかった。

 そんな環境が幸いしてか、悪い道に進むことなく独り立ちの日を迎えた時、リーリアが選んだのは戦神官(せんしんかん)への道だった。

 冒険者となり、けが人や病人を癒しつつ、悪を滅す。

 周囲から天然と揶揄(やゆ)されるリーリアだったが、才能と情熱は本物だ。

 神学校の中等科を優秀な成績で卒業したリーリアは、高等科からの熱心な誘いを蹴って、冒険者への道を選んだ。

 早く独り立ちして、教会や孤児院の助けになりたかったからだ。

 高等科を卒業し、教会に所属する神官になって治癒を行ったとしても、基本的に教会での治療は無料なので、お金にはならない。

 一方、戦神官になれたとしても、教会や孤児院の建物を建て替えるような大それた望みは、叶うべくもないだろうけれども、せめて神父に法衣を新調させてやりたかったし、孤児たちには、もっと栄養のあるものを食べさせてやりたかった。

 見た目も行動も、天然の評価を(くつがえ)すことはないリーリアだったけれども、独り立ちの日に抱いた決意は揺るぎない。




 アルフは、いい意味で裏切られていた。

 本当は、二人にこんなに深入りする積もりはなかった。

 たまたま助ける形になった駆け出し冒険者の二人に防御特化の素質を見い出したので、彼らに合わせた盾と杖を(しつら)え、そこそこの物が出来上がったら、それを押し付けて経過観察でもしようと思っていた。

 特に知己(ちき)でもない駆け出し冒険者の行く末など、まったく興味はなかったからだ。

 だが、とりあえず用意した武具を手に、懸命に使いこなそうとする二人の姿を見ているうちに、アルフの心境に変化が起こった。

 武具の重さに振り回され、思ったように扱いきれない自分等の不甲斐なさに(へこ)んでいるかと思うと、それを精神の強さで乗り越える。

 技術と体力と魔力が向上するにつれ、武具との親和も強化され、やがて次の段階へと進んでゆく。

 防御特化の素養があったとしても、行き着く先は、せいぜい中級の上の方という程度。

 単体のコボルトやオークには負けないとしても、集団で襲い掛かられれば、一たまりもないくらいだろうと、アルフは思っていた。

 だが、本人達の固い意志が、想像していた以上に彼等の能力を引き上げている。

 もちろんそれは、知らず心を傾けて鍛錬に注力するアルフの生真面目さや、武具とそれを扱う者に対する真摯(しんし)な心がけが作用した結果ということなのだが、存外に自己評価の低いアルフ自身は、そのことには決して思い当たらないのだった。




 マーバは、不肖の弟子と、その弟子に見い出された二人の若者たちを興味深く眺めていた。

 オーガとして生を受けて久しく、数多(あまた)の人間たちの生き死にを見守ってきた。

 同族のオーガたちは脆弱で、短く太い、その人生を全うしていった。

 一般に、オーガはトロールなどと並び、一個体を相手に、特級冒険者が何とか対抗できる魔物と認識されている。

 だが、オーガ族には稀に、知能が高く、体力に優れ、強い魔力を有する個体が生まれることがある。

 当初、マーバもその(たぐい)と思われていたのだが、成長するにしたがい、その能力はさらに強化され、龍族さえも容易に力でねじ伏せるまでに至っていた。

 そんなアーバの見立てからすると、弟子のアルフは、龍族と、その下位のドラゴン族である準龍との、中間程度の能力があると思われた。

 しかし、二人の駆け出し冒険者と出会い、深く関わり合うにしたがって、アルフはその強さを、更に増しているように、マーバは感じている。

 単体の強さを基準にし、集団はあくまでその強さの積み重ねでしかない魔物たちに対し、人族は、他人との関わりが互いを強くしたり、弱くしたりもする。

 それは(きずな)と言うべきか、(えにし)と言うべきものか、あるいは他の何物なのか、マーバにも分からないことだけれども、人族ではない自分が、人族の和の中に組み込まれていることを知覚するのは、存外に居心地は悪くない。

 それ故に、マーバは人との関わりを持つことを(いと)わない。

ギルガとリーリアの鍛錬の結果・・・

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