07 魔法武具の作り方
新しい武具を受け取るギルガとリーリアだが・・・
「マーバさんて、何歳なんですか?」
朝食の猪汁に舌鼓を打ちつつ、リーリアが尋ねた。
一晩一緒に過ごしただけなのに、すっかりマーバに打ち解けている。
「さてね。
百から先は数えちゃいないが、お前さんたちのばあ様のばあ様のばあ様よりは、ずっと年上さ。」
「へぇーっ!」
「そんなあなたが、どうしてアルフさんとお知り合いに?」
ギルガが尋ねる。
「龍族の子供が迷子になっていてな。
辺境の騎士団と遭遇したところに、たまたま居合わせたのさ。
アルフはまだ、見習い騎士だった。」
「龍族?」
「ドラゴンって、本当にいるんですか?」
びっくり眼のリーリアだが、マーバは事も無げに、
「いるもいないも、お前さん方の使っている武具の芯材は、準龍の鱗なんだが?」
「えっ?これが?」
傍らに無造作に転がせている杖を慌てて拾い上げると、リーリアはそれをまじまじと眺めている。
「なるほど、魔法への親和性は、そんな方法で高めているんですか。」
「ん?
てことは、この杖も、その盾も、買ったらすごい値段じゃ・・・」
「アルフの道具造りは、妥協がないからねぇ。」
諦め半分という口調で、マーバがぼやく。
「元々は自分の剣技を高めるための武具だったはずなのに、いつの間にか手段が目的に変わっちまった。
まぁ、本人が納得づくっていうんなら、構わないんだがね。」
マーバの言いようは、ごく近しい身内を語るのと変わらないように、ギルガには思えた。
「あの・・・これって結局、おいくらなんでしょう?」
泣きそうな顔のリーリアの背後から、
「杖も盾も、小金貨三百枚って、親方は言ってましたよ。」
応えたのはアルフだった。
見ると、真新しい剣二本と盾、そして杖を背負っている。
「ちなみに、こちらの新しい方は、値段が付かないと言ってました。
まぁ、お二人の魔力特性に特化してますから、判断する人によっては、数打ちと変わらない値段になるかもしれませんが。」
そう言いつつ、盾と剣をギルガに、杖をリーリアに手渡す。
「値段が付かないって・・・」
震えながら杖を受け取るリーリアに、
「道具なんて、使ってなんぼです。
帯びた傷は歴戦の証、破損は強敵と対峙した結果なんですから、むしろ早く手に馴染むように、ガンガン使い倒してください。」
「とは言え、これほどの業物を、無償と言うのは・・・」
「大丈夫です。
この盾と杖を見せたお陰で、工房の資材は使い放題って、親方の言質も取れました。
ついでに打ってみた、俺の剣の試し切りもしたいですしね。
あ、それから、魔力付加の剣も一振り渡しておきます。
慣れる意味もあるので、数打ちの長剣に、魔法付加を付けただけですがね。」
「これも、ドラゴンの鱗入りということなんですか?」
「あぁ、師匠が話したんですね。
まぁ、単純にドラゴンと言っても、数の多い準龍なんで、そんなに貴重なものでもありません。
そういう意味では・・・」
アルフは自分の剣を目前にかざすと、スラリと鞘から抜きつつ、
「まだ、試行錯誤の最中ですが、これは亜竜の鱗を打ち込んだ剣です。
ただ、加減を間違えると一瞬で魔力が枯渇するので、使う人を選びます。
無尽蔵の魔力を持つ剣士とか、誰か近所にいませんかねぇ。」
荒唐無稽とも言える程の内容なのに、アルフが語ると世間話みたいだった。
「あたしが使ってもいいんだが、それじゃ、意味がないよなぁ。」
「まぁ、当面は自分で使ってみて、様子をみますよ。」
無造作に剣を収めるアルフに、
「亜竜って・・・」
「遥か、北の山脈に住まうと言う?」
「ドラゴンの中でも、一竜一種族と言われているのが、上位のドラゴンさ。
つまり、個体ごとに特性が異なり、それぞれ固有の名前を持つ。
共通しているのは、恐ろしく強いということだけだな。
アルフの剣に打ち込まれているのは、山脈の最高峰、バーバールから生まれたと言われている、火龍リグザールの鱗だな。」
「そんなものを、どうやって?」
「どうやってって・・・
ドラゴンは、鱗が傷つくと、自分で抜くんですよ。
個体によって差はありますが、早ければ一瞬で、遅くてもほんの数分で鱗は再生します。
ドラゴンの寝床には、自分で抜いた鱗が、たくさん転がっているらしいですね。」
「なるほど。」
「でもそれって、ドラゴンの巣に入らなくちゃいけないってことですよね?」
「もちろん。
だから、王都の方には龍鱗回収専門の業者がいるそうですよ。」
「へぇ~っ。」
「準龍なら数も多いですし、比較的人里に近い場所を縄張りにするので、潤沢とは言わないまでも、ある程度は市場に出回っています。
長剣の素材にする程度の量なら、小金貨十枚も払えば、お釣りが出ますよ。」
「金貨十枚!
やっぱり高級品じゃないですか~。」
ため息と感嘆がない交ぜになったリーリアの嘆きに、みんなが笑った。
どうして冒険者を目指すことになったのか、ギルガとリーリアの事情とは?