06 オーガ参戦
ギルガの前に現れたオーガが牙を剥く・・・
「久しぶりだな、アルフ。」
と、マーバは言った。
紅い髪に、強大な体躯。
そして種族名(大牙)を体現する、見事な牙。
「護衛って・・・」
傍らのアルフを見やるギルガは、何とか言葉を発したものの、リーリアはギルガの背中に必死にすがり付いている。
「あわ、あわわわわ・・・」
そんなリーリアを覗き込むようにして、
「盾使いに神官か・・・守り主体の組み合わせとは、なかなか面白いな。」
「魔法付加の盾士と、治癒と防御に特化した神官です。
やりようによっては、上級も目指せるかなと。」
「ほう、お前さんがそこまで言うとはな。」
「上級って・・・」
思わず、口を挟んだギルガに、
「もちろん、今の時点では、何とか中級を狙えるかどうかというところですが、魔力の親和性を高めた武具を使いこなせれば、あわよくば上級に至る壁も突破できるのではないかなと。」
「ふむふむ。
お前さんのやり口を眺めつつ、傍観の態を決め込むつもりだったが、気が変わった。
せっかくだから、少しテコ入れしてやろう。」
そう言うと、彼女はむんずとリーリアの体を片手で掴みあげると、無造作に外套を捲り上げた。
形の良い足が根元近くまで露出するのを、アルフとギルガは背中を向けて視界から外す。
「な、なにを・・・」
真っ赤になって両腕で抵抗するリーリアだが、マーバはついでリーリアの両腕を広げさせて、むにむにと二の腕を揉んでいる。
「あ、あの・・・そこは・・・ひゃん。」
背後で悩ましげな声をあげるリーリアに、二人の少年たちは動揺を隠せない。
「ふむふむ。
こりゃ、根本的に地力が足りんなぁ。」
ようやく開放されたリーリアは頬を赤らめつつ、はぁはぁと息が荒い。
立ったままでいられず、ぺたんと地面に尻餅をついてしまう。
いつの間にか平静に戻ったアルフが、
「そのための防御魔法です。
まぁ、体力強化はおいおい何とかするとして、とりあえずは現状の持ち札を最大限に活かして、複数魔法の同時展開の限界を見極めましょう。」
「ふむふむ。
と、言うことは・・・」
「何だか、イヤな予感がムンムンなんですけど~。」
リーリアの予感は的中した。
「オーラ!オラオラオラオラオラオラオラ~ッ!」
まるで数十張りの弓から放っているかのように、リーリアの視界一面を大量の矢が覆っていた。
その中の一本でも貫かれれば致命傷となるであろう猛攻を、リーリアは必死の集中力による防御魔法で何とか耐える。
「ほう、これを耐え切るかよ。
それじゃ・・・」
長弓を捨てたマーバの肉体が、弾丸の如く弾けて迫る。
上級以上の魔物さえ容易に屠る、鋼鉄の拳。
反応し切れないリーリアの目前で、それはギルガの盾で阻止された。
「ほほう、これは面白い。」
マーバの顔に、喜悦が満ちる。
「あんまり、無茶はしないでくださいよ。」
マーバの背中にかけるアルフの声音には、切迫感はない。
種族的に、粗暴さをまといがちなマーバの言動だが、存外に神経は細やかだ。
恐らく、リーリアとギルガのコンビがぎりぎり耐え切る威力の攻撃を見切っているのだろう。
もっとも、受ける側にしてみれば、油断すれば命を失う可能性もある。
鍛錬の態を成していても、危険性は実戦と変わりない。
実際のところ、力加減に集中するマーバにしても、真剣そのものだ。
「ふぅーむ。
こりゃあ、実践で揉んだ方がいいかもな。」
「思ってた以上に、盾の効果が高いようですね。
新たな改善点も、いろいろ見えてきましたし。」
「ふむ。
街に戻って武具の打ち直しをするか、もう少し、様子を見るかね?」
「勢いのあるうちは、鍛錬継続でいいでしょう。
ひとっ走り行って、すぐに戻ってきますよ。」
そう言うなり、アルフの姿が掻き消えた。
「えっ?」
思わず声を漏らすリーリアに、
「明日には戻ってくるさ。
それまでは三人で、縁を深めていよう。」
「あの・・・
わたし、食べられちゃったりはしませんよね?」
あからさまに怯えるリーリアだが、
「大丈夫。
あたしの好みは、もっとふくよかで若い娘さ。」
マーバは、牙を剥きつつ、真顔で答えた。
武具の材料を知り、リーリアは驚愕するが・・・