04 鍛冶工房にて
鍛冶工房にて、アルフは依頼の内容を説明するが・・・
食堂を出て程なく、三人の姿は鍛冶工房の中にあった。
魔闘学園に程近く、学園生たちも日ごろからお世話になっている工房だ。
「ども、お邪魔しまーす。」
声をかけつつ、アルフはずかずかと無遠慮に奥に入っていく。
状況が分からぬまま、ギルガとリーリアも後に続く。
建物の外にまで聞こえていた鎚の音が、奥に進むにつれて、キンキンと耳に痛い程に聞こえてくる。
灼熱の金属光が見えた瞬間、輻射熱が、ギルガとリーリアの肌を焼く。
ムンと、金属と炭と、添加物の焼ける匂いが、鼻を突いた。
しかし、それ以上に二人の心を貫いたのは、工房内に満ち満ちている、職人特有の緊張感だ。
「馬鹿野郎!
もっと腰入れて打ちやがれ!」
親方らしいドワーフが怒鳴ると、
「へい!
親方!」
人族の、弟子らしき人物が、怒鳴り返す。
二人が向き合って打っている物を一瞥したアルフが、
「朝打ったものを、取りに来ました。」
「おう、分かった。
素人さんが、あちこち触らねぇように気をつけな!」
視線は手元に集中したまま、どうやってギルガたちの存在に気がついたものか。
アルフは親方に向かって頷くような仕草をすると、さらに奥に向かっていく。
「おお・・・」
「すご~い!」
長剣、短剣、戦斧、長弓、石弓、長方盾、丸盾、鉄鎧、兜、長槍・・・などなど。
まだ木枠しか組まれていない盾から、見事に研ぎ上げられた長剣まで、様々な武具が棚に並べられている。
その一角で足を止めたアルフが、無造作に盾を取り上げると、ギルガに差し出した。
「これを、使ってみてください。」
「えっ?」
「リーリアさんには、こちらを。」
リーリアに引き渡されたのは、ズシリとした重みのある杖だった。
「これを、僕らに?」
「ええ。
とりあえず、長さや重さは、お二人に合わせて調整してます。
まぁ、最初は重さに振り回されてしまうかもしれませんが、早く慣れてください。
ある程度扱いに習熟したら、お二人の好みに合わせて、再調整します。
報酬についてですが、調整の終わった盾と杖は、お二人にお渡しします。
お渡しした後は、そのまま使い続けても、売り払ってもかまいません。
それから、日当としては、大銀貨五枚になります。
前金としていくらかお渡しすることもできますが、どうしますか?」
「どうしますって・・・」
「日当が少ないというのであれば、増額しても構いませんが・・・
あ、そうそう。
盾と杖が仕上がるまでの宿は、こちらで用意しています。
朝晩食事付きで、費用はこちら持ちです。」
「あの・・・」
黙って聞いていたリーリアが、口を開く。
「こんなにしていただいて、本当にありがたいことなんですが、アルフさんは、わたしたちに、何をお望みなんでしょうか?」
「何を?って、今説明した通りですが。」
「でも、それじゃ、アルフさんが得るものは?」
「そうです。
せっかく作った武具まで引き渡したんでは、君が損するばかりじゃないのかい?」
「ああ、なるほど。
本当に、欲のない人たちだ。」
アルフは、心からの笑みを浮かべて、
「職人にとって、一番大事なことって、何だと思いますか?」
「えっ?」
「お金・・・ではないんですよね?」
ギルガの言いように、アルフは軽く頷くと、
「まぁ、そういう類の職人もいるので、あながち見当違いということもないんですが、少なくとも俺は、技術が一番だと思ってます。」
「技術?」
「使い手に信頼される武具、極限の状況でも本当に頼りになる武具を、俺は鍛えたい。」
「しかし、何もそれは、僕たちでなくても・・・」
同じことを思ったリーリアとギルガが、顔を見合わせる。
するとアルフは、軽く肩をすくめて見せて、
「剣や弓、槍や鎧の使い手は多いんですけど、盾と杖は、あまり需要がなくて、困ってたんですよ。
それに・・・」
目前の二人の顔を見比べるようにして、
「正直、お二人の腕前は未知数ですが、面白くないですか?
未知の高みを目指すということは。」
愉快で仕方ないという表情をするアルフに、それを拒否することなどできないギルガとリーリアだった。
厳しい鍛錬の中で、ギルガとリーリアは能力を高めてゆくが・・・