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鉄壁のギルガⅠ ~リンゴール戦記Ⅱ~  作者: 金剛マエストロ
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01 駆け出し冒険者たち

駆け出し冒険者としてのスタートをきったギルガは、初めての依頼を受けますが・・・

 冒険者組合は、喧騒(けんそう)に包まれていた。

 不慣れな場所での、予期せぬ状況に、ギルガは途方に暮れて周囲を見回す。

 何とか、手近の職員らしき人物に聞いてみると、どうやらこの街の魔闘学園の生徒たちが、大挙して登録にやってきたらしい。

 確かに、見たところ十代後半の者が多く、十代前半と(おぼ)しき者すら、ちらほらと見えている。

(こりゃ、出直した方が良かったかな。)

 一瞬、そう思いかけたが、これから長く続く(と思いたい)冒険者生活の開始地点にも至っていないというのに、ケチがつくのもどうかと思い直し、改めて列に並ぶことにした。

 すると・・・

「はいはい、こちらに注目~!」

 呼びかける声の方向に目をやると、女性職員らしき人物が、壁に立てかけられた大きな板の前で、列に並ぶ若者たちに声をかけている。

「新規登録の方は、これから木簡(もっかん)と木炭を配りますので、こちらのお手本の通りに記入して、提出してくださいね~」

 手のひら二つ分くらいの大きさの薄い木の板と、筆記用の木炭棒を頭上にかざしながら、良く通る声で説明する。

 すると、冒険者の卵たちが、一斉に彼女に向かって集まっていく。

「どうぞ、どうぞ、はいどうぞ・・・」

 手際よく木簡と木炭を配ってゆく彼女の姿をしばし眺めた後、ギルガもようやく動き出す。

「こちら、どうぞ。」

「あ、はい。」

 差し出された木簡と木炭を受け取り、お手本を眺めつつ記入してゆく。

「分からないことがあったら、遠慮せずにきいてくださいね~」

 木簡の配布は一段落したらしい。

 書き終わった者から、受付が開始されている。

「こんなものかな・・・と。」

 一通り記入が終わり、お手本と木簡を見比べながら、誤記や抜けがないか確認する。

「大丈夫そう・・・だな。」

 読み書きは人並みくらいにはできるとは思っているが、それはあくまで村の人たちを基準にしたものだ。

 魔闘学園の生徒であれば、座学も十分に時間が取られているだろう。

 正直、羨ましいと思う気持ちもなくはないが、今さらないものねだりをしても仕方がない。

 先ほどの女性職員のところに向かい、木簡と木炭棒を手渡した。

「お名前はギルガさん、剣士志望と。

 魔法は生活魔法を少々・・・ですね。」

 木簡の記入内容を羊皮紙に書き写し、認識票を手渡される。

 打ち抜きの薄い金属板に、数字と文字のみが刻印されている、素っ気ないものだ。

「こちらの認識票は、仮のものになります。

 最初の依頼を完遂すると、正式な認識票が発注されて、早ければ翌日、遅くても数日で引渡しが可能になります。

 認識票の詳細については、正式なものを引き渡す時に改めて説明しますが、よろしいですね?」

「あ、はい。」

「依頼は、あちらの壁にかかっている木簡を、それぞれご覧になってください。

 ただし、仮認識票で受けられる依頼は危険の少ないものに限られていますので、まずは簡単な依頼を確実に終わらせて、早めに正式な認識票を入手するようにしてくださいね。」

「はい、分かりました。」

「それでは、次の方・・・」

 ギルガは認識票を握り締めつつ、女性職員が指し示した壁を眺めてみる。

 壁一面に等間隔で釘が打ち付けており、それぞれ依頼の記載された木簡がかけてある。

 最初の行には依頼の概要、次の行に冒険者の等級、その次の行に依頼の種別、最後の行には報酬額が記載されている。

 ギルガより先に認識票を受け取った者たちは、しばし依頼を見比べるように眺めた後、各自思い思いの木簡を手に取ると、受付の列に並んでいく。

 改めて木簡の列を眺めてみると、等級の記載されていない依頼が壁の右端に並んでいて、それが駆け出し冒険者向けの依頼のようだ。

 新規登録者が多いので、依頼はすべて受け付け済みになっているのではという考えが一瞬浮かんだけれども、木簡は常に補充されていることに加え、冒険者の新規登録をしたものの、すぐに依頼を受けるつもりのない者が多かったようだ。

「これがいいかな。」

 程なくギルガが手に取ったのは、『イアンバルド王都行き商隊の護衛補佐』と書かれた木簡だった。

 受付に向かい、

「この依頼を受けたいんですが・・・」

「あ、はい。

 護衛補佐の案件ですね。

 認識票を確認させてください。」

「あ、はい。」

「護衛補佐の依頼ですから、基本的に、直接戦闘は行いません。」

「えっ?」

「護衛任務というのは、原則、中級以上でないと受けられないんですよ。」

「でも、これは・・・」

「だから、護衛補佐なんです。」

「・・・」

「通常、護衛任務は中級パーティが主体で受けて、商隊の編成や経路に合わせて、護衛隊の規模や構成が変わります。

 今回は王都行きの商隊で、大所帯(おおじょたい)ではありませんので、中級の六人パーティを主力に、初級、または仮登録の方を二名追加ということで、商隊の方にも了承を得ています。

 まぁ、言ってしまうと雑用係ですね。」

「雑用・・・ですか?」

「仮登録で受けられる依頼なんて、こんなものですよ。

 実際のところ、補佐なんて必要ないから、報酬はその分安くしろなんて言う依頼主もいるんですが、組合ではなるべく補佐役を数人付けていただくようにお願いしています。」

「それは・・・」

「仮登録の方にこんなことを言うのはどうかと思うんですけど、初級冒険者の生存率ってどのくらいか、ご存知ですか?」

「生存率、ですか?」

「新規に冒険者登録をされた方の半分が、最初の年に亡くなるか、行方不明になっているんですよ。」

「半分!そんなに?」

「王都の方だと、もっと生存率は高いようですけど、何しろリンゴールの周辺は、魔物の(たぐい)が豊富ですからね。

 だから、魔闘学園みたいなところで勉強したり、訓練所で鍛錬したりするんです。

 でも・・・」

 そこで彼女は一拍の間を置き、片目をつぶって人差し指を立てつつ、

「やっぱり、一番の(きも)は経験ですからね。」

「だから、初級以下の冒険者を・・・」

「そういうことです。

 誰も死にたくはないし、ほんの少しでも(えにし)を得た方には、死んで欲しくはありませんから。」

「そうですね、分かります。」

 冒険者の死亡率五割という数字は衝撃的ではあるものの、さりとて村に残ったとしても、緩慢(かんまん)な死が待ち受けているだけだ。

 総領(そうりょう)でない農家の(せがれ)として、ありふれた末路を辿るよりも、多少は自身のある体力を頼りに、冒険者に挑戦する方が、まだしも目があるというものだ。

 どのみち、ここまで来た以上、もはや帰ることはできない。

 自ら退路を断った以上、進む道しかのこされていないのだ。

リンゴールは砂漠の中のオアシスのような街です。

したがって、羊皮紙やパピルスは貴重品ですが、幸い、魔物の森が近くにあるので、木材はそこそこ入手しやすいということで、木簡に木炭で記入という描写が出てきます。

木炭を洗い流せば、再利用もできますしね。

さて、依頼を受けたギルガは、主力のパーティと一緒に王都に向かいますが・・・

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